表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゴシップ  作者: 灰崎幽
4/6




美月ちゃんたちとジェットコースターの前で別れて。

暫くの間、トイレで直樹くんと良成くんを探したが姿はなく。

いったい、彼らはどこで暇をつぶしているのだろうと首を傾げる。

一度、報告もかねて合流した方がいいか。

はたまた、捜索範囲を広げた方がいいか。

そう思惟して、後者は適切ではない、と思い至ったのだが。


「来た道と、別の道をとおって戻れば...」


あるいは彼らに会える可能性も、という考えにまで辿り着く。

...なんて、ね。


「バカみたいだ」


最もらしい理由をつけて、更には格好つけたりなんかして。

誰もいないのに、というか美月ちゃんは此処にいないのに。

俺は何をしているのだろうか。

きっと、ここに来る途中で頭のネジを5、6本落としてきたに違いない。

平々凡々のくせに、これ以上頭がすっからかんになったら、救いようがないな。

ハァ、と大きくため息を吐いて、重い足を引きずるようにして歩く。


本当のことを言うと、俺はただ、近道して行きたかっただけなのだ。

だって来た道は、木々に囲まれていて薄暗いし、不気味だし。

ジメジメしていて、夏なのにやけに涼しいっていうか、薄ら寒いというか。

その上あまりにも距離があるものだから、肝試しより肝試しらしくて。

もうあそこは通りたくない。

人間は心臓が20億回くらい脈打つと、寿命だって聞いたことがあるし。

無理をするのはよくない。

自愛精神は大切に。

そう心の中で呟いて、羽虫のたかるそちらから目を逸らし、ジェットコースターのある

方角へまっすぐ進む。

けっこう時間がかかってしまった。

美月ちゃんたちは、彼らを見つけられただろうか。


「いや、見つけられないだろうな。なんてったって、あの2人だし」


ジェットコースターにいたのなら、きっと彼らの声が周囲にまで届いていたことだろう。

彼らは5分も黙っていられないからね。

1人は兎も角、もう片方が。

まあ敢えて名前は出さないけれど、しいて言うなれば、小学生か、または犬のように騒いで

メリーゴーラウンドへ駆けていった奴のことかな。

断じて飼い犬につけたリードを握り、引きずられて行った飼い主のような奴のことを言って

いるのではない。

彼はまだ、それなりに落ち着きがある。

普通の高校生と比べたら、あやしいところだけれど。

彼の周りには幼稚な人間が多いので、どことなく彼が大人びて見えるのだ。

そう思えば、存外、彼も苦労人なのかもしれない。

おそらく今現在もどこかで、飼い犬に引っぱられ、あちこち走り回っていることだろう。

もしかすると、亮太くんたちのグループに合流しているかもしれない。

それはそれで難儀だな。

世話をする相手が、1人から2人に増えるから。


「でも、俺には関係ないし」


彼らと同じクラスでも、学校行事以外ではあまり会話をしないので、特に気にかけてやる

必要はないのだ。

彼らだっていい歳だし、加えてその彼らは今ここにいない。

さらに言えば、彼らは仲が良い。

だからあちらのチームに合流していても、特にこれといった問題はないだろう。

しかしそれは、合流していたらの話だ。

俺には、確認する手段がない。

なので直樹くんたちがジェットコースターにもいなかったら、観覧車へ行くのはやめて、

亮太くんのチームを入場門で待つとしよう。

たぶん彼女たちも賛成してくれる。

それ以外にすべがないのだ。

本当なら携帯電話で連絡をとれればいいのだが、彼らは携帯電話を家に置いてきたらしい。

良成くんは肝試しのことしか考えていなくて、携帯電話という存在を忘れてしまい、直樹くんは

途中で気付いたようだが時間がなくて断念。

そして亮太くんはというと、肝試しのムードがなくなるから携帯電話おいてきた、だそうで。


「ムードってなんだ。肝試しにムードなんていらないだろ」


いや、でも待てよ。

吊り橋効果みたいな感じか。

こわくてドキドキして、それを恋と勘違いして、良いムードになる...みたいな。

亮太くん、そこまで考えていたのか。


「ないな。亮太くんはそんなことまで考えられるほど策士じゃない」


純粋に肝試しを楽しみたくて、携帯電話を置いてきたのだろう。

だが、なんだかなぁ。

その純粋さに感心すべきなのか、あるいは携帯電話をマナーモードにすればいいだけだろ、と

呆れるべきなのか。

迷うところである。


「おっ!着いた、ジェットコースター」


色々と思考を巡らせている内に、いつの間にか此処まで来ていたらしい。

目と鼻の先にあるジェットコースターに駆け寄って、2人の名を叫ぶ。


「美月ちゃん、百合ちゃん、トイレ見てきたけど良成くんたちいなかったよ!!」


目で2人の姿を捜しながら返事を待つが、俺の声が空気に溶けるだけで、彼女たちの声は

聞こえない。

どうしたのだろうか。

もしかして俺が遅いから、トイレまで捜しに行ったのだろうか。

だとしたら、すれ違ったことになる。


「こんな事なら変な理由つけてないで、黙って遠回りしておけば良かった」


ガクリと肩を落として、これからどうするかを考える。


「俺が動いてまたすれ違ったりしたら、面倒だよなぁ」


かといって、彼女たちが戻ってくるのをただ黙って待ち続けているのも気が引ける。


「うわぁ、美月ちゃんに電話番号、聞いておくべきだったか」


今更嘆いてもあとの祭りなのだが、それは仕方がない。

心中を察してほしい。

俺は、片思い中なのだ。

人前で美月ちゃんに電話番号を聞けるほど、肝が据わった人間ではない。

それに良成くんと直樹くんの迷子騒動で、そんな雰囲気ではなかったのだ。

だから決して、ヘタレなどではない。


「あっ、でもジェットコースターの前で別れる時に、サラッと聞けばよかったのか?」


そうすればあまり恥ずかしくないし、案外、軽く了承を得られたのでは、と気付いて撃沈。

もうダメだ、立ち直れない。

これでは俺が馬鹿で、臆病だということを、自分で証明したようなものじゃないか。

自分で自分の心を潰しにかかっている。

心臓のあたりがえぐられたように痛い。

まぁ、抉ったのは俺自身なのだが。


「うぅ、失敗した。俺のバカ~」


すぐ近くにあったベンチに倒れ込んで、ジタバタと暴れる。

きっと誰かがコレを見ていたら、変な人だと思われるのだろうな。

そう苦笑して、脳裏に


「お母さん、あそこに変な人いるよ」

「シッ、見ちゃ駄目」


という親子の姿が浮かび上がる。

普通の遊園地で、夜中ではなく昼間であったならあり得た光景だ。

しかしココは廃園で、しかも今は草木も眠る丑三つ時である。

もし見られるのなら、美月ちゃんと百合ちゃん位だ。

次の可能性としては迷子の2人組。

亮太くんのチームはこちらまで来ない筈だから、大丈夫だろう。


「いや、大丈夫じゃないでしょ」


一番見られたくない人に見られるのだから。

それはいただけない。

ぴょんっと身を起こして、背筋を伸ばす。

周囲を確認すると、誰もいなかった。


「ふぅ、よかった」


一先ず安心して、顔をあげる。


「真っ黒な空だな。けど帰る頃にはしらんで朝になってそうだ」


明日が、というか今日が土曜日だからまだ許せるが、これが平日だったら授業中ずっと

寝ていたことだろう。

そう思えば、だんだんと睡魔が襲ってくる。


「あぁ待って待って。今寝ちゃったら駄目だってば」


目をこすって霞む視界を晴らそうと躍起やっきになる。

まぶたが重い。

布団が恋しい。

体がだるい。


「眠い...あと何時間で帰れるんだろう」


メリーゴーラウンドとトイレに行くだけで、2時間も使ったのだ。

迷子の捜索に手間取っていたとはいえ、流石に2時間もぶっとおしで歩き続けるのは

とても疲れる。


「いまなら、のじゅく、でき、そ...」


ふっと意識がとぎれるその間際、視界の隅に白いナニカが映った。

違う、白じゃない。

水色だ。

透き通った水色が、風になびく。


「えっ、美月、ちゃん?」


さっきまでいなかった筈なのに、大分離れた場所で、一人ぽつんと立ち尽くす彼女がいた。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ