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ゴシップ  作者: 灰崎幽
2/6



「直樹、メリーゴーラウンド行こうぜ!俺、立ち乗りしてみたかったんだ!!」


小学生のように浮かれ騒ぐヨシナリに手をひかれ、走り出す。


「ちょっとアンタら、グループ行動でしょ!勝手にいなくならないでよね!!」


耳をつんざくユリの叫声きょうせいが背後から飛んできて、思わず顔をしかめる。

あぁ、なんて耳障りな。

折角の楽しい気分が台無しである。

少しばかり不平不満をぶつけてやろうと、首を回せば、グンと更に腕を引っぱられた。

ヨシナリを見やると、視線で訴えかけられる。

肝試しに来てまでお説教なんて、まっぴらゴメンだ、と。

それには俺も同感で。


「じゃあアイツ、くか」


距離を大分あけさえすれば、おそらく追ってこなくなるだろうと踏んで、スピードを上げる。

途中、ふり返ってみれば、ユリが膝に手をついていて。

作戦成功。

あとは逃げきるだけだと、俺たちは園内を突き進み、いくらか走った所でフゥと息をついた。


「ユリってさ、ヒステリックだよなぁ。一緒にいると疲れてくる」

「どうしてアイツ、あんなに怒ってばっかりなんだろうな。そのうち、眉間にシワ出来るぜ。きっと」

「言えてる」


2人でゲラゲラと笑って取り留めのない話をしていると、いつの間にか目的地であるメリーゴーラウンドまで辿り着いた。


「おぉ、明かりついてる!!」

「けど、廻ってないな」


ウワサだと、勝手に廻っていると聞いたが。

所詮、ウワサか。


「そういえば、あのウワサってどこから来たんだろうな」

「ん~、俺はバスケ部の奴が話しているのを聞いただけ。ほら、猫屋敷ねこやしきっていう双子の」

「あぁ、アオイとリュウか。俺はクラスの女子に教えてもらったな。なんでも青江ウチの高校、今そのウワサで持ちきりなんだろ?」

「確か、どこかに拷問部屋があるとか、バケモノがいるとかで」


俺、ミラーハウスにも行きたかったな、とぼやくヨシナリに苦笑する。

こいつがミラーハウスに入ったら、鏡に衝突して、永遠にそこから出られなさそうだ。

それだとウワサの真偽が確認できない。


「ミラーハウスは亮太たちが行くから、俺たちは行けないけど、その分ジェットコースターは見られるだろ」

「乗れるかな?」

「その前に、こっちな」


メリーゴーラウンドの傍らにある階段を見つけ、そこを上がる。

白馬によじ登り、棒に掴まって馬上に立ったヨシナリは、先程とは打って変わって上機嫌だ。

もしかすると、ミラーハウスの事なんてもう頭にないのかもしれない。

いや、もしかしなくともそうだろう。


「直樹も!!」

「はいはい、分かったって」


急かされて、すぐ隣の栗毛色の馬にまたがると、ヨシノリが大層ご満悦な様子で飛びはねた。


「おい、危ないぞ」

「大丈夫、大丈夫......って、わっ!!」

「ヨシナリ!!」


がこん、という音とともにメリーゴーラウンドが突然動き出して、ヨシナリが体勢を崩す。


「わぁ、危なかった」

「だから言っただろ」

「ごめんごめん」


平謝りするヨシナリを軽く睨んで、周囲に目を向ける。

なぜ急に動き出したのだろうか。


「メリーゴーラウンドって、人が乗れば勝手に動くモノなのか?」

「俺てっきり、スイッチ入れなきゃ動かないと思ってた」

「だよな」


煌びやかなメロディーとは裏腹に、ほんの少しの不安が背筋をなでる。

それは、この輝かしい照明の内側から、全てを呑み込む常闇とこやみを見たせいか。

あるいは脳裏をよぎった、あのウワサたちのせいか。

どちらにせよ一度抱いた恐怖心というのは、なかなか消え去ってはくれなくて。

しかし、自分の胸中にうまれた感情をだれにも悟らせたくはなくて。

わずかに引き攣った顔を、笑みのカタチに歪めた。


「ヨシナリ、もしかして怖いのか」

「こ、こわくないし」

「本当かよ。無理しなくていいんだぜ?」


ヨシナリを冷やかすことで、この恐怖心からのがれようと躍起になる。

その間も、メリーゴーラウンドは、ゆったりと廻って。


2周、3周。

ユリたちは、まだ来ない。


「アイツら、遅くね?」

「そう、だな」


4周、5周。

ゴールドの照明が、じくじくと目の奥を犯す。

美しいメロディーがだんだんと音をかえ、濁って、不協和音となり、脳内を蹂躙じゅうりんしていく。

いや、思い過ごしだろうか。

明かりを直視しすぎたので、その所為でそう感じているだけなのかもしれない。


「なあ、なんだか寒くなってないか?」

「うん、鳥肌たってきた」


6周。

暗闇に目を凝らす。

ユリたちはまだか。

はやくこい、はやく来い、早く来い!!




7周目。


『 ボキッ 』


すぐ傍で、ナニカが折れる音がした。



8周目。

隣ヲ見レナイ。

いやだ、コワイ。

四方八方から視線が突き刺さって...。



キュウシュウメ。

恐る恐る、隣を見る。


「え?」


ヨシナリが、イナイ。

どうして、どうしてどうして!!

どこに行った、ふざけているのか、からかうのも大概にしてくれ!!

あたりを見渡す。誰もいない。

今まで感じていた、舐めまわす様な視線は、もう感じない。

馬上から降りて、クルクル廻るメリーゴーラウンドを逆走する。

なんで、どうして居ないんだ!!

もしかして、ユリを探しに行ったのか?

俺に一言も告げずに?

オカシイだろ。

ヨシナリは、そんな奴じゃ...いや、待て。

分かった、脅かすためだな!

メリーゴーラウンド脇の階段が視界にはいって、駆けだす。

ヨシナリの奴、見つけたら一発殴ってやる。

階段を下って、左右を確認する。

......イナイ。


「そうだ、携帯電話」


画面からヨシナリの名前をさがす。

さがして、さがして。

影がふと落ちてきて。

条件反射で、顔をあげる。


...ヨシナリだった。


「お前、急にいなくなったから探したんだぞ!!」


そう叫ぶと、ヨシナリはニコリと笑んで俺の手をひく。

メリーゴーラウンドの中央へ。


「ヨシナリ?」


ニコと深く笑って首を傾げるヨシナリに、ふと違和感。

よくよく観察すると......ズルリ。

生々しい音が、不協和音に混ざる。

いま、なにか、ヨシナリが、あれ。

思考回路が停止して、頭の中が、あれ、あれ、どうして。

意味が分からない、何がどうなって...。


状況を確認したくても、体は動いてくれない。

今起きていることが、見たいのに、見たくなくて。

知らないことはコワイ筈なのに、知って理解してしまうのは、もっとコワくて。

落ちていったモノを目で追う勇気がなくて。

かと言って、ヨシナリの顔を見ることも叶わずに。


あか、あか、あか。


滴るソレをただ眺めて。

ブワリと広がる鉄のニオイに、脳がぐらりと揺れる。

そして俺の足に、コツンと何かが当たって。


コレは、ナニ?


全身から血の気が引いて、ヨシナリの胸元から視線をそらせない。

嘘だ、嘘だ。


俺の身体に、腕が絡む。

ヨシナリの腕。

ヨシナリだったモノの、腕。

俺の身体にしがみついて離れない。

骨が軋む、眼前にある赤、俺を包み込む鉄臭さ。


思考が追い付かない、否、追い付いてくれない。

分からないことが多すぎる。

いま、何が、どうなって。

口元に生温かいナニカが付着する。

唇をつたって、薄く開いた口内へ侵入し、唾液とともに顎から下へ。


「ヨシ、ナリ?」


床に転がっていたヨシナリが、ニタリと笑った。

そのよどんだ瞳の中にハ、俺ト、背後でオノを振り下ろす......______











~・~・~・~・~・~




「まったく。直樹と良成よしなりはどこに行ったのよ」

「あっ、百合ゆり、メリーゴーラウンド」

「あら、本当。でも、あいつ等いないわよ?」

「ん~、先に行っちゃったのかな?それにしても綺麗だね、噂通り」

「そうね。金色と、キレイな『 赤 』ね。でもホラ、美月みつきまことくん、急ぎましょう」

「早く合流しなきゃいけないもんね。行こう、誠くん」




そう言って、3人は、メリーゴーラウンドの前を通り過ぎる。

深紅の馬の上で涙をながし、怪しくワラう、2人の首に気付かないまま...。






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