銃剣戦線
砲弾に依る戦死者の割合はどのくらいかと、筆者は昔、親友に聞いた事が有る。親友は、第一次大戦なら八割から九割だと返した。その時は意外だとしか思わなかった。何しろ第一次大戦の別名が『Machine gun war』であり、毒ガス等がトピックとして教科書に取り上げられているのだから。だが親友は続けて言った。『今に到るまで第一次大戦を超える砲撃戦は行われた事が無い。第二次大戦では1944年がドイツに於ける最も多く砲弾を生産した年だが、この年産量はは1917年の一ヶ月分の生産にしかならない』と。-----
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関口主税は今雨の中、塹壕にうずくまり、虚ろな眼をしていた。躯は強張り、脳は最早思考を放棄していた。この圧倒的な戦場には文化的生活や論理的思考、宗教的倫理感覚等、一発の重砲弾の爆風に掻き消されて仕舞う。
近くに砲弾が落下し、爆裂した。彼の頭上僅か二、三糎の所を鋭利な弾殻の破片が凄まじい高速で飛んで行き、戦友の頭を打ち砕く。恐らく即死だろう。一瞬遅れて大量の泥土が降り注ぎ、一時的に彼の息を詰まらせる。爆轟は周囲の空気を震わせ、破片を撒き散らし、死を大量生産する。しかもありとあらゆる場所で複数、同時に。
ここは魔王の軍と自分たち『東邦皇国』の『白騎士団』との戦線だ。半年ほど前に日本から恋人の川島美由紀と共にこの世界に召喚されたのは。『ヴェストライヒ』との戦争の解決策として、勇者として召喚された彼女と、どこに行っても従者扱いの自分。悲しいかな、昔から華がないといわれ続けた自分はそういう扱いに慣れてしまった。彼女は今、将軍たちの壕に入るのだろうか。この戦線までのありとあらゆる戦いは非常に楽だった。何分魔法だなんだで一挙に制圧して、彼女が勇者の力をふるえばそれで御終いだった。しかし、この戦線では、敵は全く見えなかった。いきなりの砲撃で、そう、砲撃だった。敵は魔法でも白兵でもなく砲撃をしてきた。これまでとは違う、誰かの入れ知恵に違いなかった。近代戦を理解した何者かの。三日三晩雨も砲撃も止まず、何千何万の砲弾で既に何百が死に、何千が後送された。騎士団(といっても騎士は兵を指揮する立場であるが)は限界であった。もう兵力は枯渇しつつあった。先遣の偵察隊も誰一人返ってこないし、輜重も路盤の悪化と共に先細りになってきた。膝の深さまでの泥に浸かり乍らふと壕から身を乗り出した。その時に声が聞こえたような気がした。同時に泥をかき回すような音が大多数。更に身を乗り出そうとしたが、間近に落ちた砲弾の衝撃波を受けて断念する。その僅か一拍後に砲撃が止んだ。雨が降る音のほかは聞こえない。さっきの物音は幻聴だったのだろうか?
その刹那、笛が空気を震わせた。これは味方ではない!そして友軍陣地から50mの所にいきなり多数の人影が現れた。黒い学ランの様な制服に身を包み、鉄兜を冠って、手にはー自分が現代日本人だからわかるが―、着剣した木銃床のライフルを持ち、こちらにかけてきた。とっさに弓をつがえて打つが、二本目をつがえるよりも早く銃剣が味方に届いた。最初に飛び込んで来たのは脚の疾い、ウェアウルフやコボルトだった。続くのは悪魔や人間だった。そう、人間だったのだ。
そこからはがむしゃらに剣を振るった。右に左に現れる幾多の敵兵。明らかに白兵に馴れて居ない彼らは殺られては次々に躍りがかって来た。幾らでも替えが居る近代軍の悪夢そのものであった。2,3人斃したところであろうか、いきなり足元で起こった爆裂によって塹壕の背土に叩き付けられて、意識を失った。
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意識を取り戻したが、体が思うように動かない。周りを見渡すと、それはまさに地獄だった。右の方では二人掛でウェアウルフの首を絞めているのが見えるし、左では詰襟の人物が金属鎧を着た人物にマウントを取って殴っていた。そのこぶしは何度振り下ろしたかは分からないが、肉が裂けて血を流している。そして殴られている側もすでに息絶えているのか、身じろぎ一つしていなかった。そして真正面では立ち上がろうとしていた敵の頭に大きめの石を叩き付けていた者が居る。腕を失った状態でうろうろしている者も居る。全てが全て雨と泥の中での出来事だった。その時にいきなりに一人の敵兵が前に現れた。角の生えた悪魔の様なやつで、それを除けば吸い寄せられるような美人だった。豊満な肉体を軍装に押し込んだそれは、こっちに気づくと、一発の手榴弾を投げてそのままどこかに行った。そして手榴弾は炸裂して-----------------------------------------------
終わりが半端なのは、理由があってだな。『雇われ(以下略』の本編に絡ませる都合上だな。