産む機械を見つけたら
https://www.youtube.com/watch?v=PaVgdMIlqTM
Persona 5 OST: Regret
MD215年 8/5 14:15
「ッ……!」
無限に反芻するかのように重低音が響く部屋に、乾いた音が響き渡る。
音の発生源、メハメハは自らの左頬を抑えながらマルフォスを果敢に睨み付けた。
「困りましたね、いつもの貴女ならそんな反抗的な眼差しを向けてくる事など無かった筈ですが」
メハメハの頬を平手打ちした右手を元の位置へと戻すと、マルフォスは溜息を吐きながら失望の眼差しを彼女へ向けた。
そんなマルフォスの視線にも負けず、毅然とした瞳を向けるメハメハ。
「オケアノスの歌姫として命じます、今すぐ──!」
彼女の言葉は、再びの平手打ちで封じられる。
振りぬかれた裏拳は確実に彼女の右頬を捉え、メハメハは裏拳を当てられた勢いそのままに地面に倒れこむ。
倒れたメハメハを見て、周囲の人魚達は動揺を見せるが皆一様にマルフォスの顔を見るとそのまま動きを止める。
「私に命じるとは大きく出ましたねメハメハ、そのふざけた態度もあの男の賜物と言う事でしょうか」
マルフォスはそう言い放つと、まるでゴミでも見るかのような眼差しでメハメハを見据えた。
その冷酷な眼差しは未だ戦闘状態にあるオケアノスの外部、そして内部の喧騒を忘れさせるほどに冷たいものだった。
「タザキは関係ない!」
「そうやって直ぐムキになるところが何よりの証拠ですね、貴女に期待した事はありませんでしたが……それでもこの私を失望させるとは」
「マルフォス……!」
腕を支えにして、弱弱しく上半身を起こすメハメハは自身を物としか見ていない男を睨み付けた。
「ですがホッとしましたよ、貴女が帰ってこなければこの状況を打開するのは難しかったですから」
メハメハの視線を気にも留めず、マルフォスは自らの背後にある緑色の壁へと手を触れ、見上げる。
マルフォスに釣られ、メハメハもまた顔を上げこの室内に聳え立つ物体を見る。
それは巨大な装置だった。
外見は緑色の巨大な骸骨だが、腹部があったと思われる部位には液体で満たされた巨大な水槽の様な物があり、骸骨の腕はそれを守るように手を添えた上体になっている。
そして水槽の中には人間一人分位の大きさの卵子が浮かび、猛烈な速度で細胞分裂を繰り返していく。
「ではまた『いつもの様に』お願いします、我がオケアノスの母にして歌姫様」
「……地獄に落ちると良い」
「連れて行きなさい、丁重に」
唾棄すべき物を見たメハメハに対して、マルフォスは愛しさすら感じさせるような眼差しを向けながらそう言い放つ。
そして指示を受けた人魚達がメハメハの体へと手を伸ばす。
「触らないでよ! ……一人で行くわよ、いつものことだもの」
「賢明な事です」
メハメハは人魚達の腕を振り払うと、階段のようになっている骨へと近づいていく。
その階段からは水槽の中がよく見え、頂上部もまた良く見えた。
頂上部に見えるのは人間一人が丁度納まる分娩台の様な物である。
「タザキ……」
これから自身が行う事を想像し、メハメハはこれから起こる事を想像し、か細い声でその男の名を呼んだ。
その声は、まだ田崎には届かない。
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「ヒューッ! 派手にやるな田崎!」
「任せろ!」
「だがそのお陰で僕の体の電気系統がイカれたわ! 玩具の犬のボディ使って一生懸命やってたのにこの様だよ! 僕を助けろ!」
「えぇ……(困惑)」
犬の体でサムズアップをした山坂は、そのまま前のめりに体から煙を噴出しながら倒れこむ。
田崎はそんな山坂に困惑しながらも、肩に載せる形で山坂を拾い上げる。
「派手にやりすぎなんだよお前は、僕が死んだらどうする」
「本体は無事だし別に良いだろ……」
「確かに。 いや違う! 僕が居ないと精神操作に対抗できないだろ!」
「はいはい、そこら辺は期待し過ぎない程度に期待してますよ」
冷めた表情で山坂を担ぐと田崎は背後の炭には目もくれず、前方へと走り出す。
「おえーっ! よ、酔う!」
「てめぇはさっきから文句しか言えねえのか!」
「文句を言うのが僕の仕事ですので、それよりお前何処向かってんだ? 行く先の目処ついてんのか?」
「いいや、だが連中がメハメハを連れて行ったのはこの通路の奥だ、だから……」
「はぁー……」
そう言う田崎の耳元で、大きな溜息が聞こえる。
人面犬状態の山坂がやれやれと首を振り、呆れる。
「流石に無計画過ぎませんかねぇ」
「だったらどうしろってんだ」
「この僕を頼るのです! さぁ! お願いします山坂様と!」
「お前今ここで捨てるわ」
「待て待て待て! 一人にしないで! 役に立つから!」
山坂を左手で掴み上げようとする田崎に、山坂が泣きを入れる。
「で、賢い山坂君は俺にこれからどう指示を出すんだ?」
「ああ! 実はさっきからスキャンを走らせてるんだがここから一キロほど進んだ先に特異な反応を見つけた、熱反応で行けば結構な人数が集まってる様だ」
「一キロ先? そこは確か……」
「さっきお前から聞いた動力炉って所かもしれんな、にしても珍しい反応だな。 まるで……」
そこまで言いかけて、山坂は首を横に振る。
何でもないと。
「珍しく含みを持たせるな」
「いやぁ……なんつーか言霊って言うんですかね、口に出したくないなぁって……」
「あぁ?」
「気にすんな、それに急ぐんだろ? お前の最大速度なら1分掛からず走り抜けられる、ナビゲート情報を今送ったからその通りに走りながら障害をぶち抜いていけ」
田崎はよくわからん、といった表情を浮かべたが直ぐに真面目な表情に戻る。
それを見た山坂は暖かい目で田崎を見た。
その視線に気づいた田崎は、クラウチングスタートの体勢を取りつつ山坂へと問いかけた。
「何だよ、気持ち悪い顔して」
「生まれつき気持ち悪い顔で申し訳ない……って酷くねぇか!?」
「ははは悪い、でもどうかしたのか? 何か安心したような顔してたからよ」
「少し昔を思い出してただけだ、世界が変わる前をな」
山坂はそう言うと、顔を少し俯ける。
だが直ぐに顔を上げると通路を見つめ、田崎の肩に捕まる四肢にほんの少し力を入れる。
「それにお前とこういうやり取りするのも久しぶりだからな、永村はサンドバッグにはなるが仕事の話しかしなくてつまらんからな」
「つまり寂しかったってことか」
「そうなる」
「女かお前は」
「女々しくなかったらこんな下らない計画には志願してないだろ、既に負けてる戦いを根底からひっくり返すなんて計画」
そう告げる山坂の言葉は暗く、重く、だが何処か、奥深い所で炎のような……執念を感じさせる言葉だった。
「無駄話をしすぎだ、いい加減行くぞ。 上も戦況が打開してないんだろうし永村がそろそろ痺れを切らせる頃だ」
「……そうだな」
山坂の下らない計画と言う言葉が引っかかったが、田崎はそれを無視する事にした。
そして、クラウチングスタートの状態からゆっくりと腰を上げていき、田崎は再び雷光と化した。
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田崎が走り始める少し前。
マルフォスは分娩台の様な物に固定されたメハメハが設置された装置──巨大な骸骨だが──を眺めていた。
メハメハには様々なケーブルと一際大きな透明なチューブが口に繋がっており、その先にはドロドロとした液体が充満した別の水槽に繋がっていた。
「メハメハ様、子宮位置に到達しました」
「宜しい、では装置を起動。 同時にオケアノス制御システムとリンクさせなさい」
「了承しました」
「んーーーー! むーーー!」
「ドリームマシン起動、メハメハ様を強制出産状態へ移行させます」
骸骨と繋がるケーブル類の大元、壁一面に備え付けられた巨大なコンピューターを人魚達が慣れた指捌きで起動する。
人魚達がキーボードを操作すると骸骨の脊髄に繋がったケーブルが発光し、メハメハを固定している分娩台が展開しメハメハの周囲を囲っていく。
「スフィアモードへ形態変更、以後敵性反応が消滅するまでの間兵力の生産に入ります」
「よろしい、始めなさい」
「……了承しました」
マルフォスの指示に、オペレーターは一瞬の間を置きキーボードを叩く。
彼女が拘束されていた分娩台は次第に彼女を覆うように変形していき、数秒後にはチューブが一本だけ露出する黒い球体と化していた。
メハメハが完全に球体と化すと、次に水槽の中から黒いチューブが液体を掻き分け上昇する。
「接続します」
「母体のバイタル、安定しています」
オペレーター達が淡々と状況を告げ、マルフォスは口角を上げる。
そして先ほど骸骨が抱える水槽の中から現れたチューブが球体の下部、メハメハの下半身の位置へと接続される。
「────!!」
球体の内部から声にならない悲鳴が上がる。
「材料を投入開始、動力炉、起動します」
「母体バイタルに若干の乱れが発生、鎮静剤を投入します」
オペレーター達が別々にキーボードを操作すると、まず球体の上部に繋がっている一際大きい透明なチューブの根元。
ドロドロとした赤い液体が球体に向かって流れ始める。
そしてそれと同時に球体へ小さなケーブルが繋がれていく。
「母体の意識混濁を確認、また体内に卵も確認しました」
「材料と母体の結合を確認、卵をドリームマシンへ搬送開始」
粘つく液体が上部から球体へ流れ込むと、今度は下部に接続されたチューブに卵の様な形をした物が排出されていく。
それは黒いチューブを押し広げながら進み、骸骨が抱える水槽の中へと産み落とされる。
「細胞卵成長開始、兵士誕生まで残り30秒」
「素晴らしい、本当に何時見ても素晴らしい光景ですね……ふふふっ」
水槽の中に産み落とされた人間のこぶし大の細胞卵は、即座に細胞分裂を始めていく。
それは最初は魚に近く、だが徐々に人へと変化していく。
「流石はあの山坂氏が設計したドリームマシンと言った所ですか、これさえあれば私は……」
「私は──なんだって?」
「!?」
生命の神秘に見惚れていたマルフォスの背後から、男の声が響く。
その声に驚き、振り向いたマルフォスの眼に映ったのは一面の銀色だった。
マルフォスは吹き飛んできた扉に激突し、吹き飛んでいく。
「────メハメハ! 助けに来た!!」
扉があった場所に現れたのは、黒のマフラーをたなびかせ、体の縁に金を刻む、戦鬼だった。
「げぇっ! なんでこれがこんなところに!?」
そして、ぼろぼろの人面犬であった。
趣味前回の性癖なので初投稿です。
ラッキーだったりラッキーじゃなかったりしますが私は元気です
人魚の操作師 青青①
クリーチャー:人魚
このクリーチャーが出た時、パーマネント一つを対象としそれをタップ、あるいはアンタップする。
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「人魚は失われた技術に精通している。
良い事に使おうと彼女達は思っているが、失われた技術の殆どが悪意に満ちている。」




