雲耀の速度に到達したら
https://www.youtube.com/watch?v=ZcWWK76Sgss
Life Will Change -Instrumental Version-
MD215年 8/5 14:12
轟音がオケアノス内部に響く。
その轟音と共に痛烈な揺れが内部の者にも伝わる。
「っ……今のは近かったな」
「あぁ、何でもこの間内部に侵入してきた女ともう一人赤毛の剣士が暴れてるらしい」
「よくやるな丘の連中も、このオケアノスに勝てると本気で思ってるのか?」
「さあな、何にせよ俺達は中にそいつ等が侵入してこないか見張るだけだ」
揺れによって、二人の武装した人魚が顔を見合わせる。
そして二人は軽口を叩きながら、自分達が守るべき通路を見た。
通路の中は古めかしい蛍光灯が揺れ、ほの暗い明りを提供する。
「そういやこの間実験室から逃げたって言う奴、どうなったんだっけ」
「逃げた奴……あぁ、あのヨアヒムが動力炉行きになった件か? そいつならまだ逃走中って話しか聞いてないが……何でもそいつを助けたのはメハメハ様だって話があるの知ってたか?」
「おい、お前あんまり滅多な事……」
「別に良いだろ誰も居ないんだしよ、大体監視水晶にも映ってたって話だぜ? あの人も何考えてんだか」
如何にも楽天家、と言った人魚が通路に自分達以外が居ないことを目視で確認するとそんな話を始める。
もう一人の相方、こちらは如何にも心配性と言った顔の人魚は小声で楽天家人魚を諌めるが相方はそんな事は何処吹く風と言った様子で話し続ける。
そんな楽天家に絆されたのか、心配性な兵士も口を開く。
「……まあしょうがないんじゃないか、あの方は動力炉を動かす為に必要らしいしな」
「おまけにマルフォス様の傀儡と来てる、歌は素晴らしいが……可愛そうな人だよ」
「そうだな……俺達にもっと何かできればいいんだが」
「マルフォス様に逆らうってのか? やめとけやめとけ! 動力炉に投げ込まれてコピーが代わりに働く事になっちまうだろ! お前がそうなったら俺の仕事がやりづらくなって困る」
「でもよぉ……」
心配性な兵士がそう言ったところで、楽天家な兵士が立ち止まる。
「? どうした?」
「しっ……奥から何か来る、構えろ」
楽天家な兵士は、背中から弓を外し構えると物陰に隠れ様子を窺う。
心配性な兵士もまたワンテンポ遅れて物陰に隠れ、小さく囁くような呪文を織り始めた。
そんな呪文の言葉をかき消すように、通路の奥……オケアノスの入り口側からは外の振動と共に金属と金属がぶつかり合う様な高い音が規則的に響く。
「金属音……? 外でドンパチやってる時に交易口に搬入なんてこたぁしねえよな……」
「怪しい奴だったら即拘束でいこう、確認頼むよ」
「あいよ、どれどれ?」
相棒にそう言われ、楽天家な兵士はゆっくりと瓦礫の横から顔を出す。
ほの暗い明るさのみが提供される空間に、その二人を兵士は確かに視認した。
いや、二人というのは正確ではないだろう。
正確には、一人と一匹だ。
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「いいか田崎、お前がやられたのは恐らく精神操作の魔術だ」
「精神操作ぁ?」
「そうだ、以前S級超能力者が使ってたのと同じだな。 対象の精神を捻じ曲げて隷属させるんだ」
「久しぶりに聞いたぞ超能力者って単語、人類が魔族に対抗しようとして編み出した秘策の一個だったっけ?」
「あ? あー、まあそうだな。 結果としては普通に魔術を内蔵した兵器使った方がよくね? ってなったから廃れたんだが」
山坂はロボット犬の肉体を器用に扱い、二足歩行で先導しながら田崎へと話しかけた。
田崎はそんな山坂の超能力者という単語に懐かしさを覚える。
「って今はそんな事はどーでもいいんだよ、要するにお前が今後踊らないようにする為に必要な細工をさっきしておいた」
「ほほう? 詳しく」
「ああ! 原理の説明は省くぞ、お前があの歌を聞いた場合僕がお前の体のコントロールを得る」
「つまりどういうことだってばよ」
「要するに僕がお前の体を操作する!」
「は?(威圧)」
嬉々として話す山坂に、田崎が立ち止まる。
「安心しろ、お前がコントロールを移譲すると思わなきゃ起動しない。 そもそも僕だってそれやってる間は自分の体の操作もしなきゃいけなくて忙しくなるからあんまりやりたくねぇよ」
「あっ、そっかぁ……ならいいや」
「そうだよ(便乗) ……そんじゃあ行くぞ、お前のその下らん感傷に付き合ってやるのも一回だけだからな」
「分かってる、助かるよ山坂。 メハメハは俺が助ける」
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「!!」
ほの暗い通路の奥から現れた二人を見たとき、兵士は即座に番えていた矢を放った。
その矢は時速300キロを超え、文字通り空を切って二人の内の一方である田崎へと向かい飛ぶ。
一秒を数えぬ後、矢は田崎の頭部に直撃する。
軽く仰け反り、後ろに倒れるように見えた田崎だったが……それを右足で踏みとどまる。
「手厚い歓迎嬉しいねぇ……」
「ふははは! では見せてやろうか田崎! 僕等のコンビネーション!」
そして、オケアノス内部に盛大に手を打ち鳴らす音が響く。
それは二人の仲の良さを、そしてこれから起こる殺戮劇の始まるを告げるものだった。
「メハメハまで一直線で行く!」
「雑魚に構いすぎるなよ田崎! あんまり時間を掛けすぎると永村の介入が入らないとも限らん! 三神の端末を此処に飛ばされるまでが勝負だ!」
「分かってる、一気に行くぜ!!」
田崎は踏みとどまっていた体勢で持ちこたえると、左足に力を込め。
踏み出す。
「ば、馬鹿な、生きて──おい、援護ッ……!」
矢が当たった瞬間、兵士は田崎の死を確信していた。
だがその矢は当たった瞬間に砕け散り、兵士は呆然としてしまう。
その間、3秒。
「雲耀……行くぜ」
鹿児島県に安土桃山時代から伝わる、示現流兵法剣術の太刀での打ち込みの速さを現す言葉がある。
「秒」 脈四回半の速さ。
「絲」 秒の十分の一の速さ。
「忽」 絲の十分の一の速さ。
「毫」 忽の十分の一の速さ。
「厘」 毫の十分の一の速さ。
「雲耀」 厘の十分の一の速さであり……空を走る稲妻の速さである。
「弱い奴は死ぬ、それだけだ!」
この日、オケアノス内部に一閃の雷光が走る。
その雷光は物陰に隠れ、田崎に矢を放った兵士。
そしてその援護をしようとした兵士を一瞬で炭化させた。
「行くぞ山坂!」
「派手にぶちかましますかねぇ!」
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「うおおおおお!!! 死ぬ、死ぬ! 死ぬううううう!!!」
「あっはははは! だいじょーぶだって、あんたは天ちゃんの加護で死ななくなってるから!」
「うるせええ! 仮にそうだとしてもこんな至近距離でよくわからん物打ち込まれまくってたら物理的に死ななくても精神的に死ぬっつーの!!」
オケアノスの中で田崎が雷光と化していた時、外では天照とアデルが奮戦していた。
オケアノスは背に張り付いたアデルに向かい容赦なく機銃を向け、それを天照が空から光で出来た槍で潰すといった戦いを続けていた。
「んもう、天ちゃんをご主人ちゃまから助けてくれた時のあの威勢の良さはどこ行っちゃったのかなぁ~? 天ちゃんがっかり」
「くだらねえ話してないで……ぜぇぜぇ……もっと援護しやがれぇ……はぁ、はぁ……!」
「え~、天ちゃんに指図するとか頭が高いんですけどぉ~? でもぉ助けてくれたお礼をしないとか神様的に良くないし?」
「あ?」
肩で息をするアデルを、天照はがっかりした顔をしながら見る。
アデルは自分を見下す天照に、半ば怒りの形相を向け……そして背後からロケットを打ち込まれる。
普通なら粉々の肉片になっている筈の一撃も、天照の加護により黄金の粒がアデルの肉体を柔らかく包み、守る。
だがそれでも落下していく事は止められず、アデルは猛烈な速度で海面へと落下していく。
「ぎゃあああああ!」
「太陽は月を追う。月が疲れてしまうまで。そして今度は背負って運ぶ。月が元気で/前を走り出すまで。」
落下していくアデルを横目に、天照は何事かの歌を歌い始める。
その間にも海面へ近づいていくアデル。
海面が近づくにつれ、アデルの中には二度と山坂の誘いには乗らないという想いが強く芽生えていた。
「ああああああ──ぐえーっ!」
あわや海面、という所でアデルの落下が止まる。
そして水音が響く代わりに、木の板にぶつかる音が響く。
「鳥之石楠船神……太陽の戦車/Chariot of the Sun! さぁ……神器の一つを貸してあげちゃう! 反撃開始よ!」
鳥之石楠船神……別名を天鳥船。
日本神話において神々が乗るとされる船であり、神。
「まだ戦うのかよぉ~!」
「当然! あの海蛇は今この場で消滅させちゃうんだから! 世界平和の為に!」
天照はその神を、無数に呼び出した。
何かを集め、束ねる結束の力。
それはこの様に味方を召還する事にも使えるのだ。
……かくして、第二ラウンドが本格的に始まる。
世界を食うリヴァイアサンの外と、内側で。
そして……それを終わらせる者もまた、目覚める。
何だかんだ書き上げられたので初投稿です
ラストサプライズにするかどうか悩んだけどこっちで行こう
太陽の戦車/Chariot of the Sun ①白白
クリーチャー:スピリット
飛行
2/2
「乗り物としてはこれで十分って感じ?」
──天照




