歌う三匹、踊る二人、泣く一人
https://www.youtube.com/watch?v=S-OFheWJjQE
覚醒
「では、これより一時間後諸君等のハイバネーションを行う。 次に目覚めるのは何事も無ければ千年後というわけだ」
軍服を着た、偉そうな男が俺達に言う。
俺の右隣には眼鏡を掛けた一見爽やかだが心に深い闇を抱えてそうに見える永村。
そして左隣にはこれまた眼鏡を掛けた特にこれといった外見的特長が無い山坂の二人が立っていた。
軍服の男がそんな風に告げると、俺達は一斉に頷き、こう言った。
「「「人類の為に!!!」」」
俺達の返事に満足したのか、男は頷きながらモニターの画面から消える。
やれやれ、どうも上の人間に気を使うってのは面倒だな。
「あーやれやれ、やっと終わったか……あいついっつも話がなげーんだよなー」
と、俺と同じ事を思っていたのか山坂が首を鳴らしながら悪態を吐く。
どうやら俺と同じような事を考えていたらしい。
どうもこの男とは気が合う、管理者に抜擢されてからの付き合いではあるのだが既に人生の7割はこいつと過ごしていた様な気さえする。
「まあまあ、歳取ると説教が好きになるって言うし多少はね?」
悪態を吐く山坂を笑顔で宥める永村。
「ちっ、いい子ちゃんぶりやがって……大体何が人類の為にだ、そりゃ人類は大事だが目的ってもんがあるんだよ僕には」
宥められた山坂が、そんな事をぼやく。
そして俺はふと疑問に思う。
俺以外のこの二人は人類の何の為にこの計画に参加したのだろうか。
確か山坂は……。
「あ? そんなもんお前に話してもしょうがないだろ、恥ずかしいし」
と教えてくれなかったな。
では永村は?
「いやー僕はただ人類が繁栄していくのを眺めてみたいだけなんだよねー、あははは」
とか言っていたな。
人類の繁栄を眺めるなんて良く分からん理由だが、まあ有りなのかもしれん。
と言うよりもこの計画に参加できている以上、有りと認められたって事なんだろうな。
「なぁ田崎、お前にだって自分ひとりだけの目的とかあんだろ?」
成る程、そういう感じで俺に来たか。
まあ来るだろうが。
「俺か? 俺は───」
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MD215年 8/5 12:37
「メハメハ様、無事ですか!?」
交易口へと繋がる通路に、田中の声が響く。
通路の中はいつもは整理整頓されているのだろうが、今は無数に続く振動によって酷く物が散乱していた。
田中はそんな散らばった干物や野菜を踏み潰しながら地面に倒れているメハメハへと走り寄る。
「あいったたた…………んもう、いきなり跳ねたり上下が入れ替わるなんて!」
「ハハハ、メハメハ様は修行が足りませんな。 どうです? これを機会に一つイガ流シノビ術を学んでみるというのは」
「え、いや、興味ないからいい……修行とかそういうのあたしあんまり好きじゃないし」
「むぅ……それは残念」
「ってそんな事はどーでもいいの! タザキは!?」
地面に横たわっていたメハメハは田中が抱き起こすよりも速く一人で起き上がると、天井を睨みつけ地団太を踏んだ。
そんな彼女に田中は忍術を勧めるが、メハメハは普通に嫌そうな顔をしながらそれを拒否する。
一連のやり取りを終えた後、メハメハは田崎の声がしない事に気がつくと田崎を探し始める。
大型機械の残骸や食べ物が散乱する通路をメハメハは探し回る。
潜水艦の残骸の中、自動車のトランク、はてはビルの一画まで、だがそれでも田崎の姿は見えずメハメハは慌てる。
「ど、どうしよう田中! タザキがいなくなっちゃった!」
「あー……メハメハ様?」
「タザキが居ないとお告げの通りに行かないのに……! このままじゃあの方に……」
「メハメハ様!」
「!」
焦燥するメハメハに、田中は声を荒げる。
そして肩に両手を置いてしっかりと掴むと、真っ直ぐに瞳を見つめる。
「落ち着いてください、焦ってもあの男は帰ってきません」
「タナカ……」
「メハメハ様が何故そのお告げとやらに固執しているのか、あの男を重要視しているのかは存じませんが少なくとも貴女がしっかりしていなければいけません」
田中はそう言うとメハメハの両肩から手を離し、左手で天井を指し示した。
「それに、あの男ならこの上に居ります」
「え?」
その言葉に落ち着きを取り戻したメハメハは、田中の指先が示す天井を見上げる。
彼女が見上げた金属で覆われた天井、無数にライトが吊り下げられているその先にそれは突き刺さっていた。
黒い体に金線を纏った男が黒いマフラーをぶらさげながら。
「いやぁ、見事に突き刺さってますなぁ」
「タザキーーーーーーーー!?」
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「悪い助かったわ、突然真上に吹っ飛んだと思ったら突き刺さっちまってよ」
田崎は肩や胸についた金属片、埃を手で払いながら二人に礼を言う。
その顔はとても困惑した笑みであり、失態を晒した自分を笑っている様でもあった。
「両手を上げたまま天井に突き刺さってる人間を助けたのは流石の我も初めて」
「あたしも天井に突き刺さってる人見たの初めて!」
「君らの初めてになれて光栄だよ俺は」
そう言われ、更に微妙そうな顔をする田崎は二人へ皮肉を返す。
「えへへ……あたし、タザキから初めて貰っちゃった」
だがメハメハはそれが分からず、俯きながら胸の前で両手を組み笑う。
「えぇ……」
「我はいい加減慣れてきたぞ、しかしそれにしても先ほどから遠くで爆発音が響いている様だが……もしかしてまた誰かが襲撃してきたでは?」
「またかリヴァイアサンが壊れるなぁ、つーか十中八九お前の言うとおりじゃねーの? 幾らなんでも派手に動きすぎだろこいつ」
と、田崎はつま先で床を叩く。
「であるのなら脱出を急がねばならん、巻き込まれてはたまらん」
「意外だな、てっきり助けに行くべきとか言うかと思ってたが」
「この間襲ってきたのが本当に天照様であるのなら、我程度が助けに行った所で焼却されるのが目に見えている」
田中の返答に意外そうな顔をする田崎に、田中は腕組をしながら元来た通路へ振り返り言う。
「そもそもにして天照様が行う行動は即ち神の考えによるもの、末端の者、しかも抜けシノビである我が口を出すなどおこがましいというものよ」
「神がここの人魚虐殺するのは良くて俺等がするのはだめなのか?」
「駄目に決まってるだろうが! 神の視点によるものであるのならそれは全体を考慮しての行動だろうが、貴様等のやった事は……!」
「何が神の視点だ、あいつは単純に人間が変異して力を持っただけの屑なんだよ! 大体神様視点での考えなら俺達だって──」
「あー……失礼、お取り込み中かな?」
田中の神による虐殺はOK発言で、田崎が突っ込みを入れると田中は口から犬歯をむき出しにしながら田崎の胸倉を掴み上げる。
それを振り払おうとする田崎だったが、その前に突然声が掛かり二人は振り向く。
「あぁ? 誰だてめ……」
「! 皆、耳塞いで!!」
「残念ですが手遅れです」
二人が振り向いた先には、紫色のローブを纏った人物が立っておりその背後には3人ほどの小柄のローブを着た人物が立っていた。
先頭に立つ男が右手を軽く振り下ろすと、背後の三人が同時に息を吸い込むように少し仰け反り……歌った。
「Hey~」
「歌いだしが普通過ぎる……って何だぁ!?」
「か、体が勝手に!?」
フードの三人が女性特有の美しい歌声で歌い始めると、突然田中と田崎の二人が踊り出す。
二人は手と手を取り合い、社交界で踊る熟練の踊り手の様に。
「おい、離れろ!!」
「き、貴様こそ……! 我は何故か手が離れん!」
「えぇい役立たずめ! 離れろ!」
「貴様こそ! あ、ここでターン!」
田崎が田中の右手を掴みながら上に上げると、田中は華麗に口論をしながらターンを決め再び口論を始める。
そんな光景を満足そうに見ている奥の四人に、メハメハは叫んだ。
「マルフォスの指示なの!? 歌を止めなさいよ!」
「おや、そんな所に隠れていらっしゃったのですか? メハメハ様」
「質問に答えて!」
「生憎我々にそういった機能は付加されていません、という答えそのものが答えの様なものですか」
「……何しに来たの」
先頭に立っていた男が、踊り続ける田崎達へ近づきながらフードを下ろす。
その顔は、メハメハが良く知る男の顔であり。
田崎達がこのリヴァイアサンに飲み込まれてから出会った男である、マルフォスだった。
「……最低」
「オリジナルが聞いたら悲しみますよメハメハ様、ではそろそろ帰りましょう彼らとの友達ごっこで遊ぶのもそろそろ終わりにしていただきます」
「嫌よ! あたしは帰らない! それに……それに、友達ごっこなんかじゃない! あたしとそこの二人は──」
「友人だとでも? ではその友人とやらの定義についてお聞かせ願いたいものです、何を持って友人と言うのです?」
「それは! それは、そんなの……」
フードを下ろし、顔を露にしたマルフォスを見てメハメハは心底うんざりした声でそう呟く。
それに対してマルフォスは左手を宙に差し出し、メハメハへと帰還を促す。
だが彼女は首を横に振り、少しずつ後ろへ下がっていく。
「私の知識によると、友人と言うものは同じ考え方を持ったり、行動をともにしたり、いつも親しくつきあっている人を指す様ですが……果たして彼らは貴方と同じ考えを持っているのでしょうか」
後ろに徐々に下がっていくメハメハへ、マルフォスは踊り続ける二人の横を通り過ぎ近づいていく。
「この二人が貴方と行動を共にするのは貴方の歌によるもの、それもあくまでも従えているだけ」
「……何?」
マルフォスの言葉に、田崎が踊りながら反応する。
「おや、知らなかったのですか? 彼女の歌には──」
「やめて!!!」
「──知性体を従わせる力があるのですよ、素晴らしいでしょう? 彼女はこの力で二百年もオケアノスを鎮めてきたのです」
田崎が反応すると、マルフォスは楽しそうに両方の眉を浮かせ踊る二人へと振り返る。
マルフォスが何を言おうとしているのか気づいたメハメハは大声で叫ぶが、マルフォスは聞きとして二人へ答える。
まるで彼女に対する嫌がらせを楽しんでいるかのように。
「二百年!? ってことはつまり……ババァ!?」
「メハメハ様その見た目で200歳だったの!? 我幻滅……」
「……あんた達もさいってい!」
どうした、見ているだけか?
あの行為は間違いだったのか?
ニア 間違いじゃない!
間違いだった
よかろう、ならばお前の願い聞き届けたり! 初投稿だ!
トークン;印を示す意味でありカードのタイプの一つ、霊力容量を持たず所謂代用品、クローンである
七月にはまた無職に戻りそうで戦々恐々なので初投稿です




