表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人類ガバガバ保護記   作者: にっしー
ハワイ編
91/207

命令を受けたら

https://www.youtube.com/watch?v=C2SS9664aPg

王と王妃と奴隷


MD215年 8/5 10:31


「成る程、しっかり回収してきたみたいだね」


「と~うぜん! 天ちゃんは優秀ですし?」


 ウィンドウに映された天照は、永村に対してドヤ顔をする。


「はいはい、それじゃあその持ってきた資料のデータは貰ったから今すぐそれ燃やしていいよ」


 そんな天照を華麗にスルーし、永村は淡々と指示を続けていく。


「え~、貴重な最終戦争前の資料なのにぃ~?」


「貴重な資料だからだよ、私達以外にそれを読み解ける人間が居ないとも限らないしね」


「でもぉ~」


「でもじゃない、やるんだ」


 永村の指示に対して、実行を渋る天照。

 そんな反応に天照に永村は声色を一段低くして命令する。


「ぶー」


 永村の指示に天照は口を尖らせると、先ほど米軍ハワイ基地の内部から持ち出した紙の束を手から離す。

 紙の束は海風に舞い上げられ、一枚一枚が別々の方向へと飛んでいく。


「勿体無いけど、しょうがないわよねー」


 そして紙の束を握っていた右手を一度軽く握り、両手を勢い良く開く。

 するとその掌から勢い良く広範囲に光が走り、光が収まった時には紙は塵すら残さず蒸発していた。


「……これで満足? 『ご主人ちゃま』」


「うん、満足だ。 お疲れ様」


 天照はそっぽを向きながら永村へ問いかける。

 その問いに永村は苦笑しながら頷く。


「はぁ~あ、勿体無い……」


「文句言わないの、それよりその後そっちで何か変わった事はあった?」


「だってさ~……ん、こっち? いや、特には何も無いけど? 天ちゃんがぶっ飛ばされてる間にあの海蛇どっかいっちゃったし」


「成る程、いやこっちでも変化は観測されてないんだけどさ、いい加減第二次攻撃について考えようかと思っててね」


 第二次攻撃。

 そう聞いた時、天照はそっぽを向いたまま嫌そうな顔をした。


「まだやるの~? 正直天ちゃんもうあそこに行きたくないんですけど? っていうか田崎とかいう管理者が邪魔してくるのも意味不明なんですけど~?」


「そういえば田崎君に会ったんだっけ、どうして連れ帰ってこないかなぁ」


「そういう命令は受けてませんし? 天ちゃんが受けた指令はあくまでも……」


「はいはい分かった分かった、私の命令の仕方が悪かったよ」


 天照の言い訳が鬱陶しかったのか、永村が言葉を遮る。


「でもそういう言い方はよろしくないな、君は私達の道具なんだよ?」


 そう言うと、永村は笑みを浮かべ画面の外で何かしらの操作を始める。


「!? ちょ、ちょっと待っ──!」


 永村の言葉に天照は勢い良く振り返り、画面を見ようとするがその途中で勢い良く自らの両腕が自分の首を絞めてしまう。


「あ、はっ───が──!」


 自らの首を絞める手の力は強く、下手をしなくともこのままいけば自らの首をへし折るか。

 もしくは窒息死させるだろう。

 

「いや──たす──け──ごめ──い」


「えー? 何? 聞こえないなー」


「ごべんなさ───ゆるし──」


 自らの意思では解けず、力を緩める事も出来ない行為に天照は目じりに涙を浮かべる。

 太陽の化身、不死身の神を名乗る天照。

 だが彼女──元は男なので彼だが──も当然無敵ではない、物理的な攻撃には無敵であっても生き物である。

 酸欠状態になれば苦しいし、生命活動とて停止するのだ。

 そして彼女がこういった状況を迎えるのは少なくとも永村の手によるだけで4度目である。


「ダメだ、君の反抗的な態度は少々目に余る、一度死んだほうが良いと思うよ?」


 永村は笑顔でそう告げると、再び画面外で何かしら操作をする。

 すると天照の首を絞める力がより強力になり、最早本人の限界を超えた力となっていた。


「大丈夫、死んでも働ける。 それになにより……『死は労働を辞める理由にはならない』」


「い──や──死、にたくな──」


「でええええええええええりゃあああああああああ!」


 徐々に天照の意識が暗くなっていく中、彼女の目に映ったのは本当に楽しそうに笑う永村と。

 雄叫びを上げながら小型の通信機を叩き切るアデルの姿だった。


「ちょっと盗み聞きしてたら何だこの状況は! ともあれ、助けてやる!!」


 アデルは勢い任せに通信機を叩き壊すと剣を放り投げ、未だに自分の首を絞める天照へ振り向き、力任せに両腕を首から引き剥がそうとする。


「!? びくともしねぇ! どういう馬鹿力だこれ!?」


 だがアデルの力では腕はびくともせず、腕はより力を入れる。

 その力の程は天照の首に指が食い込み始めるほどで、それを見たアデルは焦った。


「えぇい、くそ! あの金属ぶっ壊したらどうにかなるかと思ったがダメか! どうすりゃいいんだこれ!」


 アデルに出来るのは首をへし折らんばかりの力を込める腕を、少しだけ緩和する程度であった。

 だがそんな努力も虚しく、突然天照の体が崩れ落ちるように力が抜けアデルへと寄りかかる。


「おい、天照!? おい!?」


 アデルよりも少し大きい身長の天照の体を数度揺さぶるが、彼女の返事は無い。

 それに危機感を覚えたアデルは天照を優しく地面に横たえると、心音を確認する。

 

「動いてる……良かった……気絶しただけか」


 動いていた。

 彼女の心臓は確かに、力強く脈打ち、その音は胸に耳を当てたアデルに確かに聞こえていた。

 心臓の鼓動を確認したアデルはほっと息を吐く。

 そして立ち上がると、先ほど叩き壊した機械へと近づき……機械を蹴り飛ばす。


「くそったれが! 人の命を何だと思ってやがる!」


「……別に何とも?」


 アデルが通信機を蹴り飛ばすと、壊れたと思っていた機械から再び永村の顔が映る。


「てめぇ!」


 頭に血が上ったアデルは右手を振り上げると、永村の顔へと振りぬく。

 だがホログラムに過ぎないそれをアデルはすり抜け、驚いた顔をする。


「中々熱い男だね君、田崎君とは仲良くやれそうじゃない」


「てめぇ……何してんだ!」


「仕事だけど、君が聞いてるのはそういう意味じゃないね?」


「おちょくってんのか!?」


「ははは、ごめんごめん、彼……いや彼女か、彼女には少し躾をしただけさ、君達だってサツホロで蟻に乗ってただろ? それの躾みたいなもんだよ」


 躾、という言葉にアデルの顔はその髪同様に赤く染まる。


「躾だとぉ……! てめぇ、仲間の事を何だと思ってやがる!」


「あー……なるほど、色々と直接的に伝えると話がこじれそうだし、ここは私が悪かったってことで、ごめん!」


「あ、あぁ……?」


 怒髪天になったアデルを見て永村は、『あ、これは面倒な奴だ』と思うと即座にウィンドウの向こう側で頭を下げる。

 そしてそんな風に謝罪をされると思っていなかったアデルは予想外の事に気の抜けた返事をする。


「君の仲間を思う気持ちはとても素晴らしいと思う、そんな魔族が私達の仲間に居るのをとても誇りに思うよ」


「え、あ、そ、そうか? いや、そう言われると悪い気はしないが……」


「うん、それじゃあ君の今後の活躍を期待してるよ! じゃ、私は忙しいからこれで! 彼女の看病は任せるよ!」


 そのままなし崩し的にアデルを褒め殺すと、永村は小気味良い笑みを浮かべたままウィンドウを消す。

 ウィンドウが消えた瞬間、通信機も完全に壊れたのか小さな破裂音を立て中身のバッテリー液が表面に溢れ出す。


「いやー、そうか今後の俺の活躍に期待しちゃうか……いや違うだろ! 俺はお前がやった行為に対してだな……っていねぇ」


 褒められて満更でも無さそうなアデルだったが、暫く後に永村に煙に巻かれたことに気づくと両手を震わせながら、点に向かって叫び声を上げるのだった。


────────────────────────────────────────


「……? 今、何か聞こえたか?」



 アデルが天に向かって吼えていた頃、管理者の一人である田崎は昼食を取っていた。

 人魚達の街、コワーラにある大きな食堂の中で。

 そんな時にふと誰かの声が聞こえた気がして、田崎は周囲を見回す。

 だが見えるのは人魚、人魚、紫の外套を纏った奴、人魚、人魚、どっかで見たことがある角の生えた人魚。


「角の生えた人魚?」


 思わずその人魚が居た所を二度見してしまう田崎。

 肌、よく居る人魚らしく所々に鱗の様な物は見えるが基本的には人間。

 四肢、人間と良く似ている部分が多いが指と指の間に水かきのような器官がついている。

 服、コワーラの住民と同じ物……に見えるが良く見ると何処と無く薄汚れている、後ついでに男だ。

 そして頭部、他の部分は大体よく居る人魚達と同じだがやはり目を引くのは頭に生えている小さな角だ。


「珍しいな……アルビノみたいに何万分の一とかで生まれるんだろうか」


 とそんな風にじろじろと田崎が眺めていると、眺めていた相手も田崎の視線に気づいたのか田崎の方へ顔を向ける。

 思わず目が合う二人。

 そして何故か右手を軽く上げる田崎。

 頷く相手。


「え?」


 角の生えた人魚は頷くと席から立ち上がり、食堂から出て行ってしまう。

 その際、田崎の方を見ながら左手を挙げ、先に出ているとでも言わんばかりの仕草を取りながら。


「……ホモか? いや、いやぁ……えぇ……(困惑)」


 田崎は何となく上げた手を暫く下げられないまま食事を続けた。

 その後食事を終え、食堂から出た田崎は左右を見渡す。


「居たよ……」


 居た。

 角の生えた170センチ程度の人魚の男が、田崎の視線の中に確かに居た。

 人魚は先ほど目が合ったときのように片手を上げると笑みを浮かべながら田崎に歩み寄ってくる。


「やぁ、ちょっといいかな?」


「いやほんと、そういうのいいんで……俺ホモじゃないんですみません」


「え?」


 そして声を掛けてきた人魚に対して申し訳無さそうに謝罪をして通り過ぎようとする田崎。

 だが人魚も諦めず、田崎の後をついていく。


「え? いや、私はちょっと君と話がしたいだけ……」


「ほんとすいません、気があるように見えたとかなら謝るんでほんとすいません」


「だから私は……」


「ほんっとすまん!」


 田崎の歩くペースが速くなり、そしてそれについてくる人魚のペースもまた速くなる。

 次第に二人は口論を続けながら走り始め、最終的に田崎は謝罪の言葉を大きく述べると白衣のポケットから試験管を取り出す。

 その試験管のコルクを抜くと、中に入っていた水銀の様な液体が即座に田崎の足を覆いつくす。

 水銀が覆った足は瞬きをする間に黒い甲冑の様になり、田崎はその甲冑の力を使って大きく飛び上がる。

 飛び上がった田崎は住居の屋根まで飛び上がるとそのまま屋根伝いに飛ぶように移動していく。


「……え、我、何かした?」


 そんな風に高速で飛び上がっていく田崎を、人魚は呆然と見送るのだった。


────────────────────────────────────────


「はぁ、はぁ……流石にここまで来れば大丈夫だろ……」


 額の汗を拭うように左腕を動かすと、田崎は周囲を見回した。

 どうやら無我夢中で逃げている間に町から大きく外れ、辺りには切り出された金属や武器が配置されていた。


「……どこだここ? つーか、何でこんな旧式の機械が?」


 田崎はそこら辺に放置されている重火器を手に取り、眺める。

 それらはある程度錆びや腐食が見え、また所々のパーツが欠けていた。

 欠けている部分は例えば銃身だったり、撃鉄や弾倉であったり多種多様な物がなくなっていた。

 

「だが欠け方がえらく的確だな……まるで──」


「まるで誰かが意図的に抜いた?」


「そうそれ! ……誰だ!?」


 思っていたことを的確に言われ、思わず腕を組み頷く田崎だが納得した後で即座に声の方へと振り返る。

 そこには紫色の外套を着た小柄な人物と、その隣に先ほどの角つきの人魚が立っていた。


「げぇっ、さっきのホモ!」


「ホモではない! というかホモって何だ!」


「ホモはホモだろうがよ! くそ、俺を狙ってここまで追ってきたのか!」


「良く分からんが違うわ! 我はこの方がお前を呼び出せと言ったから変装してだな……」


「この方? 変装?」


 人魚を見た瞬間、ぎょっとした表情をし田崎は数歩後退る。

 だが我という単語や変装という単語を聞き、足を止める。

 

「そ、あたしが呼んでって言ったのよ田崎」


 そうして足を止めた田崎に対して、外套を纏った人物がフードを下ろしながら近づいていく。


「久しぶり、田崎!」


 フードを下ろし現れた顔は、田崎にとっては一日ぶりの。

 だが彼女にとっては数日振りの顔だった。




挿絵の完成にGOサインを出したので、後は色付きが届くのを待つだけなので初投稿です


変装  青青①


ソーサリー


クリーチャー一体を対象とする。

そのクリーチャーはこのターンの終了ステップの開始時まで戦場に居る何れかのクリーチャーのコピーになる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ