夢の機械を見つけたら
https://www.youtube.com/watch?v=-ik3aaMr-3w
GARDEN OF CELEN
MD215年 8/5 07:00
潮騒の音が響く。
その音は、かつてアスファルトが地面を覆い、強固な壁に覆われていたであろう廃墟にも響いていた。
この廃墟のかつての名は、ハワイ米海軍基地。
最終戦争前、魔族の国と化していた中国を牽制する為に強力な兵器や戦艦等がこの基地には配備され、中国へ睨みを利かせていた。
だが現在はその残骸と、魔法によるものであろう破壊の跡、そして最近出来た衝撃波によって行われた破壊の爪痕だけが残されていた。
「おい、まだ掘るのかよ?」
そんな場所に、瓦礫の撤去作業を続ける赤毛の男が一人居た。
男は大きな瓦礫を両手で掴むとそれを持ち上げ、横へとずらし、そしてまた別の瓦礫を掴み上げるという労働を一人でこなしながら後ろ手眺める女に声を掛けた。
「入り口が掘り出せるまでやるんです~、それとさっきも言ったけどアマちゃんに対する口の聞き方気をつけなさいよ~赤毛~」
赤毛の男の後ろで作業を眺めていた天照は、口を尖らせながら男へ悪態を吐く。
「だから赤毛じゃねえ! 俺の名前はアデルだっつってんだろ!」
「え~、だって赤毛って呼びやすいんだも~ん、うふふ~」
「うふふじゃねえよ! つーかさっきから俺にばっかり面倒な作業やらせやがって……トウキョウの連中に聞いたけどお前自称神様なんだろ!? お前の力でぱぱっと入り口作れないのかよ!」
赤毛と呼ばれたアデルは瓦礫を脇へ積むと振り返り、天照へ反論する。
アデルの服や肌は土で汚れ、体も汗まみれである。
一方の天照はと言えば涼しそうな顔をしながら、それを中腰で見ているだけなのだ。
アデルが切れるのも無理は無い。
「だからぁ~さっきも説明したけど天ちゃんだとパワーがありすぎて入り口作るどころかその基地丸ごと蒸発させちゃうかもしれないの~」
「力の調節すりゃいいだろうがよ!」
「はぁ……しょうがないなぁもう、ちょっとあっち見なさいよ」
アデルの言葉に天照は溜息を吐くと、海を指差す。
その方向をアデルが向いたのを確認すると、天照は右人差し指を上げ、振り下ろす。
するとそれと同時に海面に大きな穴が一瞬開き、その穴は数秒後海水が入り込み塞がる。
「んな……」
「今のが天ちゃんの最低レベルの調節だけど、それでいいなら天ちゃんも穴掘るの手伝うよん?」
「今のが最低って……嘘だろ」
「本気と書いてマジ、霊力容量があんた達下級のと違って天ちゃん達長老級は特別なの。 だから適材適所で赤毛ちゃんに穴掘らせてるわけ、天ちゃんも本当は一気に穴あけたいんだよぉ?」
「だ、だったら力仕事を……」
してくれよ、とアデルが言い切る前に天照は地面に腕を突き入れる。
そして少し力を入れると地鳴りが起こり始め、アデルは突然の事で立っていられず尻餅をついてしまう。
「どう? これでもまだ天ちゃんに力仕事させる気起きる?」
そう問いかけられ、アデルは勢い良く首を横に振った。
それから一時間後。
「ぜぇ……はぁ……ぜぇ……はぁ……!」
「ちょっと~、まだ~? んもう、これだから霊力容量が低い奴は困るのよん」
アデルは只管に瓦礫を退け続け、天照は座り込みながら頬杖を突きそれを見ながらニヤニヤと悪態を吐いて楽しんでいた。
だがいい加減うんざりしたのか、アデルは瓦礫を後ろへ放り投げると大の字に後ろへ倒れこむ。
「だーーー! もうやめだ! やってらんねぇ!」
「えー」
「えーじゃねえよ! さっきからやれ下級だのなんだの言いやがって! そんなに霊力容量ってのが高い奴が偉いのかよ! っていうか霊力容量ってなんなんだよ!!」
「偉いかって聞かれると微妙よねぇ……強いことは間違いないんだけどさ」
大の字になり喚くアデルの言葉に少し思うところがあったのか、反応する天照。
「んー……そうね、霊力容量について知らないっぽいし少し話してあげよっか、天ちゃんほんと寛大」
「……最後の一言は余計だったが、休憩がてら聞いてやるか」
「まず霊力容量が高ければ偉いのかって言う話だけど、半分当たりで半分外れ。 霊力容量って言うのは要するに霊力をどれだけ体に納められるかを表してるの」
「霊力を体に納める?」
「そこからぁ? あー……まあ簡単に言うとどれだけ大きく息を吸い続けられるかよ、あんただって呼吸するでしょ」
「そりゃまあするが」
「んじゃそれと同じ、天ちゃん達も霊力を吸って生きてるの。 んで霊力は個々によって吸い込める量が違うわけ、吸い込める量が多いほど強い魔法が使えたり肉体が強くなる」
「なるほどなぁ……ってんじゃあ霊力容量が多くても偉くないんじゃねーか!
アデルは寝転んだまま頷くが、少し間を置いて飛び起きる。
「だから微妙って天ちゃん言った~、でもさぁ強い力をあからさまに持ってる相手に対してあんた強気に出れるわけ?」
「出れる」
「あんたが馬鹿なのは天ちゃんよ~く理解しました、普通は出れませんし出ません~。 ってわけで力が強い奴は基本的に下の連中から崇められるから偉くなっちゃうわけ」
アデルが自信満々にそう言うと、天照は呆れた顔をする。
「そんなもんかねぇ? しかしだからあんたはトウキョウで神って崇められてたのか?」
「あぁ、それは単純に天ちゃんが文明再編したから? 崇めるように強制したっていうか」
「屑かな?」
「命が惜しくないのかな、この赤毛は?」
天照が人差し指を上げる。
するとアデルは左腕の盾を構えながら反論する。
「事実じゃねーか!」
「事実だけどぉ~、そういう風に刺々しく言われると天ちゃん傷ついちゃう~」
「しらねーよ……何にしても霊力容量ってのがでかけりゃでかいほど強いってのは理解した」
「お、赤シングルシンボル程度の脳味噌でよく理解した~、偉い偉い!」
天照は身をくねらせながら泣き真似をし、ちらりとアデルを見る。
そんな天照の様子にアデルは呆れた顔をすると後ろを向き、再び残骸を退ける作業に始めた。
「はいはい……」
とても辟易した様子で。
────────────────────────────────────────
天照のプチ講義が終わってから更に一時間後、アデルは最後の瓦礫を退け終わった。
「お、終わった……!!」
「あ、終わった? 乙ぅ~」
アデルが勢い良く腰を地面に下ろすと、その隣に天照が軽やかに着地する。
穴の先は暗く、全く見通しが利かない状態だった。
そんな地下への穴へと天照は小さな光の球を作成し放り投げると、球が内部を照らし続いて天照が中を覗き込む。
「ん~、ビンゴ! やっぱご主人ちゃまの指示は的確ね~、イラつき通り越して愛情感じちゃう!」
光が照らした先には、古く錆び付いた備え付けの機械やパソコン等が放置されていた。
「あん……? 何だここ」
照らされた穴の中を見たアデルが、不思議そうな声を上げる。
「ここが目的の場所ってこと、赤毛ちゃんは天ちゃんが用事済ませるまでここで休んでなさ~い」
「え? あ、おい!」
天照はそう言うと、真下に空いた穴の中へと飛び降りていく。
アデルはそれを止めようと右腕を伸ばすが、腕は天照を捕まえられず彼女の黒髪の感触だけが腕の中に残る。
彼は腕を戻すと右手を開きその滑らかな感触を少しの間確かめた。
「いや待ってろって言ったって……なぁ?」
そして再び穴を覗き込む。
アデルには良く分からない無数の鉄の塊、そして隅々に見えるぼろぼろの衣服を着た白骨死体……。
彼はそれを見て少し肝を冷やしたが、同時に好奇心も沸いてきた。
一体中には何があるのだろうかと。
アデルは昔からそうだった、やんちゃ盛りにはよく禁忌とされた森へと侵入し両親に拳骨を貰ったものだ。
「へっ、それに……だ、タダ働きさせられて待ってるだけってのも損だしな! いっちょ行ってみるか!」
そう言って立ち上がると、全身の土を両手で払いアデルは剣を抜き地下を見る。
飛び降りるとして高さは……10メートル程だろうか。
着地を失敗したら怪我では済まないだろう事を考え、もう少し白の防護魔術を学んでおくんだったと後悔した。
「えぇい、ママよ!」
そして勢い良く叫ぶと、アデルは地下へと落下する。
落ちる瞬間というのは一瞬のもので、アデルは気がつくと地面に横たわっていた。
着地に失敗したのだ。
「いっっっっっ……てぇ!!」
暫く地面をごろごろとのた打ち回り、そして暫くすると痛みが引いたのか立ち上がると周囲を見渡す。
先ほどは天照が浮かべた光の球で周囲が照らされていたが、いつの間にか消えていたらしく周囲は再び闇に包まれていた。
アデルはやれやれと息を吐くと、指先に赤の霊力を集中した。
すると指先に小さな火が灯り、辺りが再び照らされる。
「お、やったぜ! 久しぶりにやれば出来るもん──」
だが火は直ぐに掻き消えてしまう。
「マジかよ」
アデルは直ぐにまた指先に赤の霊力を集中し火を灯すが、それは再び掻き消える。
そんな行為を5度ほど試した後、アデルは諦めると周囲の瓦礫を蹴り飛ばし八つ当たりする。
そして仕方なく、アデルは腰に下げた道具袋から小型の手提げランプと火打石を取り出すとそれを用いてランプに火を灯し周囲を照らした。
「最初からこうしておきゃよかったぜ……やっぱ不慣れな魔法よりも道具だな!」
ランプを左手にぶら下げ、火打石を道具袋にしまうとアデルは周囲を眺めながら歩き始める。
地下は千年の時を感じさせるように所々の壁が崩落し、備え付けの機械や文字がかすれた紙等が至る所に散乱していた。
だがそれが幸いしたのか、道として無事な通路は一箇所しか見当たらず天照の後を追うのは容易に思えた。
そんな風に歩いているとアデルは一つの扉に突き当たる。
その扉は風化した内部にあって珍しく電気が通っており、アデルが近づくと一人でに扉が開く。
「お、おぉ……!? 勝手に開く扉? すげぇな」
自動ドアに驚いたアデルは、次にその先に居た女の声に驚かされる。
「赤毛? ちょっと、待ってろって言ったでしょ~?」
「おわっ! って何だあんたか……驚かせるなよ」
「いや天ちゃんも驚かされたからね?」
「じゃあお互い様だな、んで何やってんだ?」
天照は驚いた顔をし、手元に持っていた紙の束から数枚の紙を落としてしまう。
その紙は吸い寄せられるようにアデルの足元へと飛んでいき、アデルはそれを拾い上げる。
「なんだこりゃ……女?」
紙には上半身が女、下半身が穴の沢山あいた岩とも魚とも取れる絵が描かれていた。
その絵を見たアデルは、何となく嫌悪感に包まれる。
「気持ち悪いなこれ、なんなんだ?」
「……対人類変異種用装置の一つよ」
「何?」
「対人類変異種用装置、平たく言うと天ちゃんやそれ以外の魔族に対して人類が用いた玩具の一つってわけ」
「人類? ってことは……俺のご先祖様が作ったのかこれ?」
「人類か」
ご先祖様という言葉に、天照は珍しく暗い顔を見せる。
「どうかしたか?」
「なんでもな~い、さっ、目的の物は回収したし脱出脱出! 人間の基地ってのは霊力が霧散するように出来てるから嫌いよもう!」
アデルの問いかけに天照は首を振ると、いつもの明るい顔を見せ基地へ降りた時のように、一人で出口へ向かって進んでいく。
少しの間不思議そうな顔をしたアデルだが、置いていかれては脱出できないと気づき走って天照を追う。
その時、手に持っていた紙をアデルは放り出していた。
その紙の右下に書かれた字を読めなかったのはアデルにとって幸運だったのかもしれない。
紙にはこう書かれていた。
『対人類変異種浄化用装置、ドリームマシン』
『設計者、山坂憲章』
と。
挿絵パート2が届きました、前回張った時よりもちょこっとだけ変わりましたゾ
そしてそのままGOサインを出したので後は色がついたのが届くのを待つだけ!なので初投稿です
ドリームマシン 青青青④
アーティファクト
②(T):貴方は自分のライブラリーの中から好きなインスタントかソーサリーカードを手札に加える。
その後、貴方は手札のカードを一枚そのマナコストを支払う事無く唱えても良い。
どうしてこんな名前にしたのかって?
だって夢のような機械じゃないか、好きな方法で連中を殺せるんだぞ?
──設計者、山坂憲章




