インターバル
MD215年 8/4 11:08
「えぇい、忌々しい!」
山坂は怒声を発すると、勢い良く右手に持っていたグラスをカウンターに叩きつける。
その勢いにグラスに入っていた酒が飛び散り、机を汚す。
「まあまあ、そんなに荒れないの」
「荒れないの、じゃねーよ! 人が折角思いついた作戦を───」
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「よし、それではこれより停止コードを発信してリヴァイアサンに変化が起きるか試す作戦を決行する!」
「お、おー……」
「ワハハ、任せておけ! この山坂様にできない事は──」
「────ぉぉぉぁぁぁぁぁぁぁああああああああ!」
「ん? おい、何か声聞こえないか?」
「え?」
「いやあああああああああああああ!」
「「ぎゃあああああああああああ!」」
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「って感じだったんだぞ!?」
「うん、全くわかんないね」
酔っ払った状態の山坂は永村に意味不明な説明を行いながら絡むが、全く理解できない永村は山坂をウザがりながら自分のグラスにお茶を注ぐ。
「だぁからぁ! 飛んできたミサイルに解除コードを適当にぶち込んだら止まったから、そのコードを昔使ってた米軍基地に行ってリヴァイアサンに向けて停止コードをぶちこんでやるぜぇ! しようとしたんだよ!」
「うんうん、それで?」
「そしたら突然あのクソ雌が物凄い勢いで飛んできて施設ごと僕達を吹っ飛ばしたんだよ! お陰で施設は完全停止状態でよぉ! 何なんだよあれはよぉ!」
「うんうん、大変だったねぇ」
「だろぉ~!? 分かってくれるのはお前だけだよぉ~」
永村は棒読みで台詞を言いながら頷くが、酔っ払っている山坂はそれに気づかず永村の肩を掴み寄りかかる。
「とりあえず僕の番は終わったから次はお前が作戦立てろよ~、僕はもうやだ! やだやだやだー!」
「うんうん、そうだね」
「ああ! じゃ、僕部屋戻って寝るわ……」
そして一頻り喚いた後、山坂は立ち上がるとふらふらとした足取りのまま部屋へと戻っていった。
バーカウンターが設置された部屋に、一人永村は残される。
彼は布巾を取ると先ほど山坂が汚した部分を拭きながら、ある事を考えていた。
「山坂君がさっき言ってたクソ雌ってのは多分天津零時──天照──の事だとして……それが飛んできた理由か」
汚れを拭き終わった布巾を脇に片付けると、永村はカウンターの隅にあるパネルを触る。
すると空中にウィンドウが浮かび上がり、オケアノスから天照が吹き飛ばされた瞬間が映し出される。
だがその映像には所々不鮮明な部分があり、青い靄の様な物が掛かっていた。
「やっぱり霊力濃度が高すぎて映らないか……少なくとも内部から吹き飛ばされてるってのは分かるけど」
左手で頬杖を付きながら、永村が珍しく愚痴をこぼす。
如何に優れた科学技術や資源、資材を持っていようともそれが魔族相手には不十分な道具でしかない事を彼は知っているからだ。
一見便利に見える管理者達が保有する5つの太陽、そして監視衛星だがそれらは高濃度の霊力に反応し度々不鮮明な映像しか送れない状態になってしまう。
永村はそれを見るたびに不満げな表情を取るのだった。
「とはいえ……あれが吹き飛ばされるような火力を内蔵してる兵器は多くない、そもそもまだ地球を二週半する程度は飛び回るだろうし」
永村は右手でウィンドウをタッチし、現在の天照の状態を映し出した。
映像には若干の靄が掛かっているものの、体をくの字に折り曲げながらマッハ2で吹き飛んでいる映像はとてもシュールだった。
「あのリヴァイアサンが見た目の通り、米海軍第六艦隊の集合体だとするなら霊力容量八の天津を吹き飛ばせる兵器は積まれていない……となると」
そして永村はある一つの答えに辿り着き、ウィンドウを消した。
「田崎君か……何やってんだろうねぇ彼は」
溜息を吐くと、永村も席を立ち……部屋には空のグラスだけが残されるのだった。
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「いや、助かりました田崎さん。 まさかあの化け物を退治してくださるとは」
場所は変わって、オケアノス内部。
オケアノス内部に作られた街、コワーラの中央に聳えるドーム状の建物の中、貴賓室にてマルフォスは田崎へ頭を下げる。
「別にお前達の為にやったわけじゃないけどな、それに殺しきれた訳でもねぇ。 また来るぞあれは」
「だとしても、今回救ってくれたことに対しての礼を欠く訳にはいきません」
「そんなもんかねぇ……、にしてもメハメハの歌と踊りは相変わらずすげえな」
「それを聞けば彼女も喜ぶ事でしょう」
マルフォスの礼を気にも留めず、田崎はガラスの向こうに見えるステージを見つめていた。
先ほどまでメハメハが緊急の儀礼を開催し、オケアノスを鎮めていたのだ。
「さて、それで此度のお礼として田崎さんの望む事を我々が出来る範囲で叶えようと私は考えているのですが……いかがでしょうか」
「ん? 今、何でもするって言ったよね?」
頭を下げるマルフォスに対してまだ脅威は去っていないと警告する田崎だが、それでも今回の事への礼を告げるマルフォス。
そして助けてもらったお礼として何か我々に出来ることは無いかと告げると、突然田崎の態度が変わる。
「いや何でもとは……我々の出来る範囲で、です」
「それじゃあメハメハと田中に会いたいんだが? あの戦闘が起こるちょっと前から二人に会えなくてな。 特に田中はフードを被った連中が連れて行ったしな、そこら辺についても聞かせてもらおうか」
「メハメハと田中氏への面会、ですか……それにフードの者達」
フードを被った連中、という単語に反応してマルフォスは少し考え込む素振りを見せる。
「何か思い当たる節はねーのか? 前にあんたにここに連れてこられた時に一緒に居た連中と同じに見えたんだがな」
「申し訳ありません、彼らは信者と呼ばれる者達でして……」
「信者?」
「主に歌姫であるメハメハを自主的に崇める者達です、彼らは独自のグループを作り時に私やメハメハを助けるのですが普段何処で何をしているのかまでは把握しかねます」
「えぇ……(困惑)」
「とはいえ普段祭事を手伝ってくれる信者達に田中さんについては聞いておきましょう、何か分かれば使いを向かわせますので……他に何かありますでしょうか?」
マルフォスの問いに、田崎は首を横に振る。
「ではお部屋をご用意しておきましたので係の者に案内させましょう」
机の上に置かれた小さなベルをマルフォスが二度鳴らすと、一人の小さなウェイトレス姿の人魚が現れる。
「お呼びでしょうか、祭祀長様」
「その方をゲストルームへお連れしなさい」
「はい、祭祀長様」
そのウェイトレス姿の人魚は、スカートの裾を小さく抓むと礼儀正しく田崎とマルフォスへ挨拶をする。
そして指示に頷くと部屋から出て行く。
「では本日はこの街を救っていただきありがとうございました、何か分かれば連絡いたします。 メハメハも後ほど向かわせますので自室にてお待ちください」
「あいよ、そっちもお疲れさん」
田崎は軽く右手を上げ、先に出て行った人魚の先導に従い部屋を出て行く。
それに続いて扉が閉まると、部屋の脇に備え付けられていた黒電話が鳴り響く。
マルフォスはそれに目をやると、扉に鍵を閉め受話器を取る。
「私だ。 ……そうか、では予定通りその個体は破棄、動力室で新しいKを産ませろ。 その後調整を掛けてあの男に会わせろ」
受話器を取ると、その向こうに居る者の発言に頷きながらマルフォスは指示を下す。
「その際にボロが出るような調整はするなよ、監視記録に残っている通りに記憶を植えつけ──何? 脱走だと!?」
だが指示を下していたマルフォスの言葉が、途中で止まる。
何か想定外の事態が発生したのか、彼の額に冷や汗が浮かぶ。
「直ぐに捜索隊を組織しろ、動力室からコワーラまでは距離がある……街に到達する前に仕留めろ、次にマシンの復旧を急げ、私も直ぐに行く」
マルフォスはそう言うと、ゆっくりと受話器を置き額の汗を拭う。
「一難去ってとは日本の言葉だったか? つくづく厄介事を運んでくる男だな、田崎龍次……!」
目線を電話から外し、マルフォスはその隣に置いてあった本棚から一冊の本を取り出す。
その本は随分と色褪せ劣化しているが、かろうじて表紙を読み取る事が可能だった。
日本が産んだ三人の天才! ロボット工学の寵児、田崎龍次! という表紙を。
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波が打ち寄せる。
潮騒が響き、男の燃えるような赤毛に海水が当たっては引いていく。
男は力なくぐったりと四肢を投げ出し、空に浮かぶ6つの太陽を眺めながら一言呟いた。
「か、帰りてぇ……」
そう最後に呟くと、男は首を真横に向け目を閉じる。
天照が吹き飛んできた衝撃波で滅茶苦茶になったハワイ米軍基地に一人、男は横たわる。
「───────ぁぁぁぁあああああああ!」
地球一週を終えた天照が再び通り過ぎるまで、残り30秒の出来事であった。
給料日が二日前だったのですが、早くも今月使えるお金が3万円を切ったので初投稿です
今回挿絵を依頼したMIKE BURN氏はMTGのアーティストとして来月20日に発売するアモンケットブロックにて初参加というお話なので、是非アモンケットのパックを購入して氏のカードをご覧下さい
人魚の兵士 青
クリーチャー:人魚
人魚の兵士というクリーチャーはデッキに何枚でも入れても良い。
人魚の兵士を6体タップする:クリーチャー一体を対象とし、それのコントロールを得る。
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