世界を食うモノ
MD215年 8/3 8:00
「それがこちらになります」
山坂は左手でそれを指し示す。
「は?」
「は? じゃねーよ、これがその我等管理者が作り出した最高の道具だ」
「…………これが?」
「そうだよ(便乗)、こいつは圧倒的な地上の踏破性能を備え、更に電磁バリアも装備、矛盾エンジンを内臓した事により概念としての存在にすら昇華可能な万能兵器!」
アデルは山坂のその自信満々と言った顔にありありと不信感を示す。
だが山坂はそんな不信感を物ともせず、更にその兵器についての説明を続ける。
「さぁらに更に! 矛盾エンジンを搭載した事により短時間の水上走行、更には飛行能力までも得た! こいつの! こいつの名は!!」
興が乗ったのか、声高に説明を続けながら山坂はその兵器へと近づいていく。
その兵器は二つの車輪を持ち、その間に人一人が乗れるような板が付き、その板から先端を両手で持てるようになっている棒が取り付けられている──。
「そう! こいつの名は!! 施愚上威! これが本日ご紹介し、そして貴様が乗る兵器だ!!!」
そう、セグウェイだった。
「すっげぇ不安になる名前だなそれ……あと具体的にどこら辺が兵器なんだ?」
「ふっふっふ……世界の屑である魔族にしては良い質問をする、よかろう答えてやろう」
山坂は腕組をして不敵に笑うと、セグウェイの上に乗り操縦桿を握った。
「いいか? こいつはこの棒を前に倒すとだな──」
セグウェイに取り付けられた操縦桿を山坂が前に倒す。
すると山坂の乗るセグウェイの板部分、およそ2センチほどの板の下部から突然黒い筒が二つ表れる。
「こうやって矛盾エンジンが飛び出すわけだ、そこで……無知蒙昧な貴様には難しいかもしれんがちょっと矛盾した事を言ってみろ」
「何でお前は一々俺に喧嘩売るかね……まあいいか、矛盾した事~? あー……『じゃあ、絶対なんて無いぜ、絶対』とか?」
アデルが矛盾した言葉を言い切るや否や、閃光が走る。
続いて爆音が響き、その後に爆炎が続いた。
「な、なんだ!? 敵襲か!?」
突然の閃光に驚くアデルは鞘から剣を抜き、辺りを見回す。
だが彼の周囲には何も無く、あるのはただ揺れるヤシの木と爆炎、そしてばらばらになった山坂が転がっていた。
「よぉし……今こそ、お前は本物の王様のハート……」
遠い目をした、頭部だけになった山坂は弟子に語りかける師匠の様な態度でアデルへ言葉を発する。
「いや何言ってんのかわかんねぇ!? っていうかどうした! 敵襲か!?」
「違う、そうではない……単純にお前の言ったパラドクスワードが強すぎてエンジンが急発進し、その衝撃にこの体が耐えられなかったのだ……つまりお前が悪い」
「俺ぇ!?」
「ああ! とりあえず扱いを間違えたらお前の体がどうなるかは分かったな? ではこれよりリヴァイアサン捕獲作戦の予行練習を行う! 一回しか練習は出来ないので気をつけろよ!」
「えぇー……っていうか、俺……あれ乗るの?」
徐々に発する言葉が弱々しくなっていく山坂を見ながら、アデルは一人爆発跡を眺めていた。
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MD215年 8/4 9:00
その後、山坂の言った通りリヴァイアサン捕獲作戦の予行練習が行われ……翌日。
文明が絶え、今や誰も居ない荒地となったハワイには数台のセグウェイと巨大な釣竿が設置されていた。
「なぁ……ほんとに大丈夫なのか? この作戦」
不安そうな顔で、砂場に座り込みセグウェイの車輪を片手で弄るアデルが山坂へと問いかける。
「あん?」
問いかけられた当の本人は、その問いかけに不思議そうな声を上げた。
何言ってんだこいつ? と言った表情で。
「何言ってんだお前、この人類を保護し導くべき選ばれに選ばれ抜かれたこの山坂様が立案した作戦だぞ?」
「……それがあれか?」
山坂の言葉に、不服そうにアデルは巨大な釣竿を指し示す。
アデルが指差した釣竿は、とても巨大だった。
恐らく全長二キロはあるであろうその釣竿は、メタリックな光沢を放ちつつ圧倒的な存在感をハワイに放っていた。
「そうだよ(肯定)、メタリックウルトラカーボンで出来た竿は絶対に折れず! そして宇宙紐で出来た釣り糸もまた絶対に切れず! そして釣り餌になるのは同じく破壊不能のあの女! 完璧な作戦だろうが!」
「完璧……?」
「ふっ、まあお前には分からんか……この領域の話は」
そう言って勝ち誇った顔をする山坂だったが、ふと真顔になるとアデルを一瞥すると口を開く。
「それで、お前は結局貰ったのか? あれ」
「あー……まあ一応」
「マジか!? え、誰誰!? 誰の毛!?」
「………アレーラとベル」
「死ね!! クソ! 魔族と言えど美人、それも処女の毛を貰うなんて……! 冗談半分で教えた僕が馬鹿だった!!!」
アデルはそっと指を二本立て、胸元から袋を取り出す。
それを見た山坂は悶え、砂浜を転げまわる。
「お前はそんなんだからもてないんじゃねーかな」
「ど、どどどど童貞ちゃうわ!! えぇい、クソ! 貰えなかった貴様を笑いものにする計画がおじゃんだ!」
「お前ってまじサイテー」
「ま、そんな事は言われなれているのでこの僕には通用しないんだがな! それではそろそろ時間だ、準備はいいな?」
砂浜を転げまわっていた山坂だったが、直ぐに持ち直すと白衣に付いた砂を払い真顔になる。
その顔を見たアデルも、真顔になり立ち上がると二人は地平線を見つめた。
「……あぁ、昨日の練習通りに、だな?」
「そうだ、僕の計算が正しいならあの餌にあの魚が食いつかない筈が無い、それに食いついた奴を釣り上げて無力化を行う」
「この棒っきれでか? 俄かにゃ信じられねえが……やるしかねえか」
アデルは背中に背負った銛へ目を向けながら、セグウェイへと乗り込む。
「唯の棒と侮るなよ? そいつは触れただけで鯨だって脳震盪を起こす代物なんだからな」
「ノウシントウねぇ? よく分からんが、とりあえず頭をこいつで突いたら離脱するだけってのは単純でいいやな!」
「ああ! んじゃあ、作戦開始だ! 釣竿、エレボスの鞭起動! 宇宙紐投擲モード!!」
アデルと同じくセグウェイに乗り込んだ山坂は、白衣を翻し右手を翳す。
その掛け声と同時に、ハワイに備え付けられた巨大な釣竿が唸りを上げる。
その竿はカーボン製の体を軋ませながら唸り、しならせる。
「対リヴァイアサン用破壊不能疑似餌! 天照投擲!!」
しなった竿は、小気味良い音を響かせながら透明な紐の先。
釣り針にくっ付けられた天照──以前の合戦で捕まった、あの日本の神を名乗っていた魔族を──ハワイ沖へと飛ばした。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁああああああああああ!!!!!」
疑似餌となった天照は、音速を付きぬけ、悲鳴と衝撃波だけを残しながら沖合いへと消えていった。
「俺は信仰してなかったが……今の光景を見たらトウキョウの連中切れるだろうなぁ」
「はっはっは、見てないから問題ナッシングだ!」
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ハワイ沖、海底深度2000メートル。
深海の底にそれは存在していた。
数多の戦艦、潜水艦、空母……およそ海で戦う為に生み出された全ての機械を身に宿す王。
オケアノス、ハワイの神話に現れる名を関した海の王。
文明崩壊後、霊力の力によって変異した深海生物達すら寄り付かない……そんな圧倒的な深海にそれはあった。
「──────」
オケアノス、人類の文明が魔族との最終戦争により崩壊した後500百年。
霊力は戦争によって沈んだ船にすら生命を与えた。
最初は魚としてそれは泳ぎ、同種を食らい成長し貪欲に成長した。
生れ落ちた時、数センチほどの大きさしかなかったそれは今や全長8キロを越える巨体を有する。
オケアノスはその後ハワイ沖を中心に猛威を振るい、文明の復興を妨げた。
「────────」
だがその暴威も300年で終わる。
オケアノスが暴れる事によって海中に安住の地を見出せなかった人魚達は一度は地上へ出たが、人魚達が持つ特性によって迫害され再び海へと戻る事になる。
そこで彼らが見出したのが、オケアノス内部への移住だった。
オケアノスは百年に一度休眠をする機会があり、その時に内部へと侵入したのだ。
その後彼らは内部に街を作り……とある少女を連れた男の手を借り、オケアノスを200年の間休眠状態のまま留める事に成功する。
「──────────?」
だが神の長い眠りは終わる。
妖精達が餌として用意した蟲と妖精の輪による限定的なワープによって一度はまどろみから目覚めたオケアノスだが。
此度の目覚めは、完全なる覚醒となる。
それを行うは、同じ神を名乗る者の手によって。
「あーもう!! アマちゃんは従うのは嫌なのに、命令されて喜んじゃうアマちゃんの馬鹿馬鹿ーーーー!」
宇宙紐で括り付けられた天照が、白の霊力で膜を作り海水から身を護った状態でじたばたと暴れながらオケアノスの眼前へ舞い降りる。
舞い降りるというよりは単純に落下しているだけなのだが、ともあれ彼女は神々しい光を纏いながら舞い降りた。
ここは深海2000メートル、太陽光は届かず、だが太陽はここに降臨した。
圧倒的な霊力容量を携えて。
それは、海の王を目覚めさせるには十分すぎた。
「───!!」
かくして、王は目覚める。
眠りの歌をかき消して、再び世界を食う為に。
何だかんだ仕事で忙しくて最近5000文字更新とかしていないことに気づいて悲しいので初投稿です
現在挿絵をオファー中なので完成したら初の挿絵やで!
五万円掛かった
世界を食らうもの、オケアノス/OKEANOTH,WORLD EATER
世界を食らうもの、オケアノスが攻撃するたび戦場に居るクリーチャー二体を追放する。
その後世界を食らうもの、オケアノスに+1/+1カウンターを二つ置く。
7/7
オケアノスが寝返りを打つ
──人魚族の言い回しで、津波が起きる。




