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人類ガバガバ保護記   作者: にっしー
ハワイ編
84/207

青い目の人々に驚いたら

https://www.youtube.com/watch?v=uMSRLCjbSh4

旧支配者のキャロル

MD215年 8/1 22:01


 2400年代初頭、人類は禁忌の技術を開発した。

 魔族が扱っていた魔法は、概念を操りそれを相手に押し付ける事を可能にする力だった。

 人類はそれの模倣を行い、ついに一つの禁忌が結実した。

 ある一つの概念を物体から取り外すという禁忌である、それを行われた物体は概念上から壊れる、破壊されるという行為を受け付けなくなった。

 そしてその技術はこう名づけられた、不壊ふかい──あるいは破壊不能と。


「……すまなかった」


 田崎は赤く腫れあがった頬を擦りながら、目の前で頬を膨らませている少女へ声を掛けた。

 声を掛けられると、少女はプイと勢い良く顔を横へ逸らす。

 そんな彼女の顔を見ながら、田崎は再び頬を擦る。

 如何に破壊不能となった肉体を用いていようとも、痛みはある。

 アサルトライフルの弾程度なら弾く機械の体だが……彼女の先ほどの一撃はそれを遥かに凌ぐ一撃だったのだ。


「悪かった、本当にすまん!」


 だが幾ら不死身の肉体であっても痛みはあるし死にもする、破壊不能はそこまで万能ではないのだ。

 ましてや怒る少女に対しては特に。

 田崎は両手を合わせ、メハメハへと謝罪する。

 そんな田崎をメハメハは横目でちらりと見、暫しの沈黙が流れる。


「……ほんとに反省した?」


「勿論だとも!!」


「なら許してあげる、今後は勝手に乙女の部屋に入っちゃ駄目なんだからね?」


 右手の人差し指で田崎の鼻を突きながら、メハメハは明るく怒る。


「あ、あぁ……もう二度としない」


「ならオッケー! で、何であたしの部屋に来たの?」


「シャワー浴びてくるって言って二時間以上戻ってこなかったらそりゃ心配して見に来る、扉も開きっぱなしで放置されてたし……てっきり何かあったのかと思ってよ」


 鼻に優しく突きつけられた指を顔を振って振りほどくと、田崎は改めて目の前に立つメハメハを見た。

 一時間前にビンタされた時と違い、今はスポーティな寝巻きに身を包んでいる。

 それはいつもの歌姫アイドルとしての魅力は無いが、彼女本人が持つ本来の明るさの様な物を田崎は何となく感じていた。

 そしてそんな彼女は田崎の問いかけにばつが悪そうな顔をする。


「あー……あっはははは、その、あたしちょっと熱くなると目先の事以外見えなくなっちゃうんだよね……」


「目先の事……っていうと、そのフィギュアか? 結構良い出来──」


 田崎が指を指した先には、先ほどメハメハがブンドド遊びをしていたフィギュアがあった。

 中国を統べる龍、黄龍。

 その姿を模したと言われるフィギュアは素晴らしい完成度を誇っており、それを見る田崎の目も興味津々と言った感じであった。


「わかる!? あれってね、私が前にメネフネ達に頼んでたフィギュアで! あ、メネフネって言うのはハーイに居る小人のマッチョマン達で──」


「あー……」


「でそれでいっつも彼らにフィギュアを作ってもらってたんだけど今回は中つ国の伝説の存在って言うのを作ってもらって──」


「これは」


「──で! 巨人タイタンシリーズの出来も素晴らしくって、自然の息吹やそれを生かす為の技術や情熱を感じて────!」


「面倒な話題をしてしまった──」


 フィギュアを褒める単語にメハメハは高速で反応し、一気に言葉を捲くし立てる。

 その姿は歌姫というよりも単なる趣味について語る女の子であった。

 田崎はメハメハの話を殆ど聞き流しながら、そんな彼女を眺めて話が終わるのを待っていた。


「つまり最高なの!! 分かった!!?」


「お、おぅ……お前がそのフィギュアが好きってのは良く分かったわ」


「うん、もう大好き……ってごめん! 何かあたし……やっちゃった?」


「やっちゃった?」


「あー、その、つまり~……あたし好きなことの話になるとつい早口になって色々説明しちゃうから……」


 メハメハはそう言い、先ほどまでの自分を思い出すと両手の人差し指を突き合わせながら恥ずかしそうに顔を俯ける。

 そんな態度を見せる彼女の頭に田崎は右手を乗せる。


「気にするな、好きなことや愛してる事があるってのは良いことだ。 ……だがお前でも恥ずかしいとか思うことってあるんだな」


「田崎……って最後のそれ酷くない!? またビンタいっとく!?」


 田崎の顔をメハメハは両手で挟み、田崎にひょっとこ顔を作る。


「ふふ、ふふふ……あははは!」


「くっ、ふふ……ははは!」


 そんな田崎のひょっとこ顔が面白かったのか、メハメハは笑い出す。

 そしてそれにつられるかのように田崎もまた笑い始め、ハワイの夜は更けていった。

 未だに部屋の外で待機している田中を除いて。


「────我、忘れられてない?」


 忘れられてます。


────────────────────────────────────────


「で、それで結局二人で一夜を語り明かしたと?」


「まあ、そうなるな」


「で、我はそんなお前達が語り終わって二人仲良く部屋から出てくるまで外で待っていたと?」


「まあ……そうなるな」


「我は馬鹿なの?」


 悲しそうな顔をする田中に、田崎は思わず何と声を掛ければ良いのか分からなくなってしまう。

 メハメハと一晩過ごした田崎は、部屋から出て来た所を外で待機していた田中に捕まり洗いざらいの事情を説明した。

 その結果がこれである。

 田中は地面に四肢をつき、悲嘆にくれる。

 そんな田中の様子に周囲の人魚達の目が徐々に二人へと集まっていく。


「何もそこまで落ち込まなくてもいいだろ」


「う、歌姫の純潔がお前の様な悪鬼外道に散らされたかと思うと我は、我は……!」


「いや散らしてねぇよ!? さっきも言ったが少し話して離れて寝ただけだからな?」


「寝ただとぉ!?」


「うぜぇ! っていうか悪鬼外道ってどういうことだ、この間会った時も似たような事言ってたが」


 改めて田中に対して説明する田崎だったが、寝たという単語が出ると再び田中は悲嘆にくれる。

 悲しみのあまり床を両手で叩き始め、周囲には金属音が響く。


「くっ! しかも我等トウキョウの民に対して行った非道すら知らぬ存ぜぬとは……やはり悪鬼か!」


「悪鬼呼ばわりはひど……くねえなぁ、だが本当にお前にそう呼ばれる理由が分からんのだが? 俺が何かしたか?」


「しただろうが! ムツシや、その南方にある地をお前たちは完全な塵へと変えたのだぞ!」


 悪鬼呼ばわりされた田崎は、そう呼ばれる理由が思いつかず田中に尋ねる。

 すると田中は顔を上げ、田崎の白衣の裾を掴み叫ぶ。


「あー……いやだがあれは山坂が勝手にやった事だしなぁ、俺等としては今の方針には無かった行動で……」


「それでもお前たちの化け物がやった事は確かだろう! まだ年端もいかぬ子供や女すらお前たちは!」


 怒髪天を衝いたのか、田崎の白衣の裾を強く握る田中。

 その様子に田崎も戦闘の準備を行おうとするが、次第に田中は今の自分に疑問を持ったのかこめかみを抑えながらぶつぶつと小声で呟きはじめる。


「そうだ……! 大体、我は元々お前を暗殺しに来たというのに、何故斯様な所で信者活動など……!?」


「……? おい、大丈夫か?」


「えぇい五月蝿い! 誰が貴様のような悪鬼外道の──歌姫の付き人な、ど、に? 付き……人?」


「お前ほんとに大丈夫か?」


「わ、我は……付き人? いや、違う、我は……?」


 よろめきながら田中は立ち上がり、よろよろと後退していく。

 そんな挙動不審な田中が思わず心配になったのか、田崎は声を掛け、肩を掴もうと手を伸ばす。


「おや、大丈夫ですかな? 異国のお人」


「あらら、これは大変、歌姫様の歌が『切れた』らしい」


「なるほどなるほど、であるならば──」


 だが田崎が田中の肩を掴むよりも速く、二人を先ほどからずっと見ていた群衆が田中を取り囲む。

 群衆は小声でひそひそと話し始めると田中を担ぎ上げる。


「何だお前ら! おい、そいつに何を──」


「心配無用、彼女は少々心労が溜まっているだけ」


「こういった事態に陥った時の手解きはコワーラの住人全て、マルフォス様に教えられております故ご安心を」


「ではでは、彼女は我々が『治療』しますので……」


 田崎が言葉で制止するが、群衆は田崎の言葉を遮り一方的に言葉を告げる。

 そして田中を担ぎ上げた数人がそのまま立ち去っていく。

 そんな彼らに対して言葉では足りぬと思ったのか、田崎は立ち去ろうとしていく男の肩に手を掛ける。


「おい、お前ら──」


 だが振り向いた男の目を見た時、田崎は驚愕し肩を掴む手を離してしまう。

 その目は青目とでも言うような、完全に目が青一色で塗り潰された目をしていたのだ。

 それもその男だけではなく、田中を担ぎ上げている者達や、田崎の周囲に居る者達もだ。

 そしてよく見れば……田崎の周りには紫の外套を纏った者達しか居なかった。


「……失礼」


 暫く、青目を見た田崎は驚きでその場を動けなかった。

 彼が再び正気を取り戻した時には、街には外套を付けた者達は居らずいつもの街並みだけがあった。


「───何か、この街おかしくねえか?」


 そんないつもの街並みを見ながら、先ほどの外套を来た人魚達を思い出し……違和感の様な、嫌悪感の様なものを田崎は感じずには居られなかった。


「少し調べてみるか、何だかんだとここに居つく感じで過ごしたが……いつまでもここに居るわけにはいかねえからな」


 田崎はそう決意すると、紫の外套を着ていた人魚達が立ち去った方向へと走り出す。

 そんな彼の姿を、やはり外套を着た人魚達が物陰から見つめているのだった。


────────────────────────────────────────


「ビンゴ! ようやく居場所を割り出せた!」


 人差し指でキーボードのエンターキーを叩き、小気味良い音を出しながら山坂は部屋で一人はしゃいでいた。

 相変わらずの白一色の隔離部屋ではあるが、そんな事は本人は特段気にせず己の職務に励んでいた。

 即ち、田崎の捜索に。


「ソーレンを使った人海戦術、もとい捨て身特攻深海探査の旅が功を制したな……まあお陰で貴重な資源を浪費した気はするが!」


 モニターの片隅には消費率20%と表示されており、これは現在エクィロー本部に収納されている兵力の20%を無意味に消費した事を意味している。

 おまけに現在のエクィローは山坂が無理に三神最後の一機、カムサを起動させようとした影響で施設の4割が稼動停止状態なのだ。

 恐らくこれを知った永村は山坂へ諫言をするだろうが、今の山坂にはそんなものは知ったことではないのである。


「ふっふっふ……待っていろよクソリヴァイアサン! この僕が引導を渡してやるぜぇ!」


 そう山坂は叫ぶと、両手をわきわきと広げながら隔離室で一人高笑いを始めるのだった。

 そして、そんな笑う彼の前。

 モニターには彼女の名前があった、アレーラ・クシスと。


「人類驚異の科学力をみぃせてやるぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」



太陽の歌のカ=メハメハ/KA=MEHAMEHA,Suns'Song 赤緑


伝説のクリーチャー:人魚


青④:クリーチャー一体を対象とし、そのコントロールを得る。


1/1


彼女は歌う、世界の為に。

だが世界は、彼女を救わない。

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