君と一緒に過ごした夏
https://www.youtube.com/watch?v=g8tVgHOMtGM
麦わら帽子の君
MD215年 8/1 19:50
「みんなーーー! 今日も来てくれてありがとーー! 明後日の舞台も絶対聴きにきてねー!」
無数のスポットライトがカ=メハメハを照らし、彼女はその中央で彼女の舞台を見に来ていた信者達へと手を振りながら笑顔を振りまいていく。
彼女が舞台のギリギリまで近づき、円形の舞台をぐるりと回っていく。
メハメハが近づくと信者達は歓声をあげ、それは彼女が舞台を回り終わり舞台の中央の昇降機で彼女が消えるまで続いた。
「はー……今日も疲れたなぁ」
昇降機が完全に降り、控え室へと続く通路を一人彼女は歩いていた。
メハメハの額には歌や踊り、そしてスポットライトの熱で汗が浮かんでおり彼女はそれを服の裾で拭おうとする。
だが彼女がそうする前に目の前にタオルが差し出される。
「お疲れさん」
「あ……タザキ! ねえねぇ、今日のあたしの舞台どうだった!?」
突然目の前に差し出されたタオルに一瞬面食らった様子だったが、メハメハはそれを差し出した人物が何者かを直ぐに理解する。
人類の保護者にして管理者、力による世界を望む男、田崎龍次である。
田崎は特段笑みを見せているわけではなかったが、彼女はその田崎の表情が自分を労わっている『つもり』の表情であることを知っていた。
彼女と田崎が出会って既に一週間以上が経過していた、決して長い時間ではないが……それでも彼女には田崎が考えている事が何となく理解できた。
「あー、悪くなかったんじゃないか?」
「ふふっ、ありがとタザキ。 それとタオルもありがと!」
田崎は決して悪い人間ではない、だが何処と無く他人と線を引いている部分がある。
彼を理解するのは、彼がその線の内側に招き入れた者にのみ許される事なのだろう。
それがメハメハには何となく理解でき、だからこそ自分がタザキの線の内側に入っていないにも関わらず何となくではあるが彼のことを理解できるのが彼女は嬉しかった。
そんな些細な幸せに笑うメハメハに、田崎は訝しげな顔をするがその疑問が解消される前に大声が響き渡る。
「貴様! メハメハ様に向かって何という発言を! 実際サイコーであっただろうが!! そしてタオルは我が先に渡すって話だったであろう!?」
「あぁ……そうだったか? っていうか居たのか……癖か何か知らんがその影に溶け込むのやめてくんねーか」
「これは既に生活習慣なのだ! むしろ光に当たるとこう……目が眩む」
「難儀だなおい!」
大声の主はこの田中という鬼である。
この一週間の間に二人の素性についてある程度は聞いていたが、田中は特に自分の事を良く話していた。
彼女はメハメハの歌声に惚れたとかで自ら御付に志願し採用された、その際に勝手に喋っただけではあるが。
田中はかつてはオケアノスの外、トウキョウという国の果てにある地で生まれ、シノビという仕事を生業にしながら出世をし以前に名乗ったとてもメハメハには覚えきれない長い名前を授かったのだとか。
だが今はその名前を捨て、単なる田中としてメハメハの御付に従事している。
とても幸せそうな顔で。
「二人とも、やっぱり仲良いね?」
「いや、よくないぞ?」
「(よくは)ないです」
やっぱり仲いいよね? と内心思い、メハメハは苦笑する。
この二人はいつもこんな調子で彼女はいつもその様子を見て笑っていた。
二人は何となく兄弟──田崎が兄で、田中が弟──のように見え、二人の関係にメハメハは羨ましさと少しの疎外感を感じていた。
「どうかしたか? メハメハ」
そんな彼女の疎外感を感じ取ったのか、田崎がメハメハへ気遣う言葉をかける。
「ううん、ちょっと今日の儀礼で疲れちゃって……ちょっとあたしシャワー浴びてくるね!」
田崎の言葉にメハメハは勢い良く首を振り、そのまま走り去ってしまう。
そんな彼女の後姿に少しの疑問を感じながらも、田崎は彼女を追えずに居た。
────────────────────────────────────────
室内に連続した水温が響く。
浴室でメハメハはシャワーを浴びながら、浮かない顔をしていた。
「儀礼、かぁ……」
彼女がそんな顔をしている理由は、自らの歌について考えている事が原因だった。
メハメハが行う儀礼は通常毎日一度行われる。
この儀礼はオケアノスを休眠状態に保つ為に必要な、正に『儀礼』であるのだが彼女はこれを酷く嫌っていた。
「毎日歌うの嫌だなぁ~、ファンクラブへの握手会とかも面倒だし……それに──」
太陽の下でのびのびと泳ぎたがっている彼女の心とは裏腹に、歌姫としての日々はそれなりに忙しい。
彼女は元来明るく、のびのびと心の赴くままに活動するのを愛する少女なのだ。
だが彼女が儀礼を最も嫌う理由の一つは。
「タザキやタナカが来てからそろそろ二週間位だよね……これ以上近くで歌を聞き続けると、タザキ達も……」
信者になってしまう。
そう考えたとき、浴室の外から扉を叩く音が聞こえてくる。
メハメハが最初その音に気づいた時彼女は無視しようと思ったが、次第にその音は大きくなり彼女はシャワーを止めると声を張り上げざるを得なくなってしまう。
「んもう!! 分かったわよ! 今行くから待っててって!」
浴室から出たメハメハはバスタオルを纏うと、外へと繋がる扉を勢い良く開けた。
「……あれ?」
だが扉の先には誰も居らず、彼女は周囲をきょろきょろと見回す。
悪戯かと思い目線を少し下に下げると、そこにはダンボールの小箱が置かれており、ダンボールにはメネフネ急便と書かれていた。
「メネフネ達かぁ……そっか~もう彼らが働き始める時間だもんね」
メハメハはそう言うと扉を開けたまま一旦自室の中へと戻っていく。
そして再度現れた彼女は大きな葉の上に海老を載せて現れ、ダンボールと入れ違いにそれを置く。
「いつもご苦労様、メネフネ達」
そうしてお礼を言うと、彼女は回収したダンボールを持って扉を閉めずそのまま室内へと入っていく。
バスタオルを片手で抑えながら、彼女は器用にダンボールを開封していく。
「さ~て、何が入っているのかな~? GAMAZONで頼んだちんすこうかな~? それともアメーカのベスボルグッズかな~?」
浴室で見せていた暗い顔とは打って変わって、メハメハは明るい顔を見せながらダンボールの蓋を開ける。
すると中には機械機械しい、龍のフィギュアが入っていた。
「あー! これ前に私が欲しいって言った奴! そっかー……メネフネ達、覚えててくれたんだ」
フィギュアを手に取ると、メハメハはそれを片手に部屋の中に置かれているフィギュアコレクションの元へと走っていく。
そして数体の兵士のミニチュアフィギュアが置かれたジオラマの元へ行くと、早速届いた龍のフィギュアを使ってブンドドを始める。
「ぎゅーん! どかーん! どばばー! わはは、脆弱な人間どもー! 支配してやるぞー!」
龍のフィギュアを兵士の前に立たせると、彼女はそれを使って幼稚な台詞を吐く。
そして龍のフィギュアが兵士のフィギュアをなぎ払い、彼女は高笑いする。
「わははは! 世界はこの竜のものだー!」
「そこまでよ、邪悪な龍! あんたの好きにはさせないわ!」
「な、なにぃ!? 誰だ!」
「世界の平和はこのあたし、カ=メハメハとオケアノスが護るわ!」
彼女は一頻り高笑いをすると、フィギュアコレクションが置かれている棚から龍よりも更に大きな機械のフィギュアを持ち出す。
そのフィギュアは鯨と蛇が合体したような姿をしており、その大型のフィギュアの先端に小さな女性のフィギュアも置かれていた。
「なにを小癪な、喰らってくれるわー!」
「いい度胸じゃない! でもオケアノスは無敵なんだから! やっちゃえーオケアノース!」
メハメハはそう言うと、オケアノスのフィギュアの背中のボタンを押す。
するとオケアノスの背中から無数のゴム弾が龍目掛けて放たれる。
「ぐ、ぐああー! このTHE無敵と呼ばれたコウリュウ様がー!」
「わはは! こうして世界の平和はこのメハメハちゃんが護っ──」
「何してんだお前……」
「たんだああああああああ!?」
突然声を掛けられたメハメハは驚きのあまり飛び上がり、その衝撃でバスタオルも離してしまう。
「お、ナイス裸」
田崎はメハメハのスレンダーな肢体に正直な感想を漏らし、その後メハメハの自室には乾いた平手打ちの音が響いた。
────────────────────────────────────────
「その後彼らの様子はどうです?」
「はっ、歌姫様の歌を聞いてからは友人兼付き人としてコワーラでの日々を過ごしている様です」
「あの田崎とかいう男……特に様子は変わりないのですか?」
「他の信者達と同じように従順であるとは報告されていますが……何か心配ごとでも? マルフォス様」
田崎達が先日招かれた特別室にて、マルフォスは一人海中にある街には似つかわしくない牛肉のステーキを食べながら部下の報告を聞いていた。
だが部下からその言葉が出ると、少しの間握っていたフォークとナイフを止めると部下へと顔を向けた。
顔を向けたマルフォスは口を開かなかったが、その顔は少なくともこう語っていた。
「お前の知るべき事ではない」と。
「も、申し訳ありません! 歌姫の祭祀長であるマルフォス様に対して……」
「発言の内容には気をつけなさい、貴方も動力炉送りにはなりたくないでしょう」
マルフォスの顔を見て部下は青ざめ、即座に謝罪を行うがそんな事には興味は無いとでも言うようにマルフォスは再び食事を再開すると口を開く。
彼の口から動力炉送り、という言葉が出ると部下の顔が更に青ざめる。
「お、お許しください! 私は、そんな──」
「……五月蝿いですね、折角の肉が不味くなる。 もしそれ以上口を開くならば本当に──」
慌てふためく部下に対して不愉快そうな声を出すと、以後部下は口を縫われたかのように押し黙り部屋にはマルフォスが食事をする音だけが響いていた。
そしてステーキを堪能し終え、ナイフとフォークを皿の上に置くとマルフォスはその緑色の目でガラス窓の向こう、大型の舞台を見つめた。
「田崎龍次……さて、今後あの男をどう扱うべきでしょうかね」
その瞳は、野心に燃えていた。
BGMを探していたら久しぶりにPiaキャロット熱が盛り上がってきたので初投稿です
二週間連続で更新しなかったのを悔やんでいるので少し早めの投稿です
メハメハの平手打ち 赤緑
ソーサリー
クリーチャー二体を対象とする、前者のクリーチャーに二点のダメージを与え後者のクリーチャーに+1/+1カウンターを一つ置く。
「いやああああああ! エッチーー!!」
──田崎龍次、最後の記憶




