バブ味を感じてオギャったら
MD215年 7/23 13:54
この時期の東京は既に梅雨も明け、カラっとした晴れだった。
四季において常に花を咲かせ、枯れることのない常盤木……チリエージョもこの季節に相応しい赤色の花を風に揺らす。
かつてあった高層ビル群は瑞々しい蔦に覆われ、栄華を誇った文明の名残は殆ど残されていない。
そんな東京にあって、過去の文明を象徴するかのような建物が残されていた。
名を東京中央病院、日本の誇る名医が何十人も勤めていたこの建物は千年間の風雨にも負けず東京にそびえ立っていた。
「おーおー、まだあったのかこの病院。 てっきり潰れたか他の建物みたいに蔦に覆われたかと思ってたんだが」
その病院の前に立ち、山坂は病院を見上げると自らの後方に居る永村へと振り返った。
「みたいだねぇ、私としてはこの病院を今も稼働させている魔族がいるってことに驚きだけど」
山坂から少し遅れて、永村も病院を見上げる。
中央病院の外壁は新品同様に磨き上げられており、千年前と変わらぬ風体を二人へ見せつける。
「んで、あの三人は何階だって?」
「しらなーい」
「役立たずめ……まあ中に居るやつに聞けば分かるか」
山坂の問いに永村は右手を振ると、山坂は悪態を吐きながら電気の入っていない自動ドアを手で抉じ開け中へと入っていく。
永村もまた山坂に続いて中へと入っていく。
中に入った二人の目に映ったのは、肌の所々が樹皮で覆われ、髪の毛は枝葉が生い茂るドライアドと呼ばれる魔族たちだった
ドライアドたちは白い樹皮で覆われており、どことなくナース服を二人に思い起こさせた。
「おぉ、ドライアドって奴か?」
「だね、樹木が変異したのがツリーフォーク。 そのツリーフォークを崇め、守る為に変異した人間がドライアド」
「つってもそれは千年前の基準の話だがな、今の連中がそういう規範で動いてるかはわからんが」
だがその樹木──ドライアドを見た二人はたいして驚きもせず、懐かしそうな声色で話し始める。
そんな風に話し合う二人に、一体のドライアドが声をかけてきた。
「あの、どうかしましたか? 治療をご希望ですか? それとも解呪を?」
「いえ、違います。 今日は面会に来まして、その方達のお部屋を教えてもらいたかったのですが」
ドライアドの問いに永村は首を横に振ると、徳川達が入院している病室を問いかける。
「徳川様ですか? それでしたら5階の514室です」
「5階か……ありがとう、お仕事頑張って」
永村はそう言うと、軽く片手を上げドライアドへと礼を言うとドライアドもまた軽く会釈し、再びどこかへと歩き去っていく。
「じゃ、行こうか」
「えらく簡単に病室教えたな……警戒心とか無いのかね」
永村が山坂へと振り返り声をかけるが、山坂は永村とドライアドの一連の話を見てふとそんな言葉を漏らす。
その顔は呆れと困惑が入り混じったような表情をしていた。
「それだけ平和ボケしてるってことなんじゃない? そもそも東京に住んでる魔族は徳川さんが私たちと戦って負けたってことすら知らないしね」
「……そういや同盟に関しては、札幌と僕達としたってことしか周知させてないんだったか」
「教える意味無いしね、私たちの為に働けっていうよりも札幌や沖縄との同盟の為に、国を発展させるために頑張れっていう方がよっぽど働いてくれるだろうし」
「そりゃそうか、まあ施策に関してはお前に全部任せる。 僕がやるよりもお前がやった方が効率的だしな」
「田崎君や山坂君はそういうの面倒くさがるからねぇ」
「そりゃそうだ、何れ根絶する連中のことなんてどうでもいいからな」
「だからこそ色んな社会実験ができて面白いと思うんだけどなぁ……」
山坂は不思議そうな顔をし「わからんわ~」と呟きながら、二人は階段を登って行った。
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「暇やなぁ……」
「暇じゃなぁ……」
チリエージョの花が揺れる様子を、窓際のベッドで半身を起こした状態の二人が眺めていた。
一人はつい最近沖縄の統治権を購入したマン=モン、そしてもう一人は札幌を治める芽衣子。
二人は東京湾にリヴァイアサンが現れた日、水底から現れたリヴァイアサンに屋形船ごと打ち上げられ地表に叩き付けられそのままこの病院へ入院したのだった。
入院した二人の治療は即座に終わったのだが、経過を見るためにドライアドと主治医のツリーフォークに退院を認められず、こうして日々を花を眺める事に費やしていた。
「何か面白い事ないかのー……ナースの下着色予想でもまたするかの? マン=モンよ」
「おっ、ええなぁ! それやったら幾ら賭ける?」
「うーむ……では儂の魂を賭ける!」
「GOOD」
芽衣子の返答にサムズアップするマン=モンだったが、その隣からため息が響く。
「貴方達……今日はあの男たちが様子を見に来ると話した筈ですよ? それを何ですか、暇だからと不埒な行為をしようなどと……」
「ノリ悪いなぁ徳川様は、なぁ芽衣子ちゃん?」
「せやじゃせやじゃ~、戦ちゃんはノリ悪いのうマンちゃんや」
「その妙に馴れ馴れしい呼び方はやめてください、不愉快です、殺します」
入院生活ですっかり仲良くなった三人は、徳川を下の名前で呼びからかう。
下の名前で呼ばれた徳川は見る見るうちに顔を赤くしていくと、ベッドの隣に置いてあった薙刀を手に取る。
「ヌハハ! 怒った怒った!」
「にっげろ~い! 怒った徳川様は怖いかんなぁ!」
「そこに直りなさい! 今すぐその性根を叩き直します!」
徳川は薙刀を振り回し、芽衣子とマン=モンはきゃっきゃとはしゃぎながら病室を走り回る。
そんな風に三人が広い病室の中で戯れていると、部屋の入り口の扉が開き永村が現れる。
「む、永村殿か」
「アホ! 余所見はあかんて!」
「もぉらったぁーーー!」
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「元気だねぇ……君たち」
そういう永村は苦笑しながら、日本各地を指揮する女性達へ話しかけた。
徳川は顔を赤面させながら正座し、芽衣子とマン=モンは互いににやにやと笑いながらお互いの顔を見合っていた。
「お、お見苦しい所を……」
「いいよいいよ、病院に入院してて暇なのは分かるし統治者の君らが仲がいいのは私にとってもプラスだしね」
徳川の言葉を軽く笑い飛ばすと、永村は病室に備え付けられていた丸椅子へ座り周囲を眺めた。
千年前は正しく最先端医療の現場だったであろう病室も、千年後にはすっかり風化し寂れた雰囲気を醸し出しながらも何処か自然と融和した美しさを見せていた。
永村は一瞬それに見惚れるが、直ぐに本題を思い出し背筋を伸ばす。
「……さて、それで今日来た理由なんだけど君たちにあのリヴァイアサンの事について聞きたくてね」
「あのリヴァイアサン?」
と、芽衣子は不思議そうな顔をして聞き返す。
どうやら芽衣子はあの時完全に酔っ払っていた様で何も覚えていないらしい。
「芽衣子殿は完全に酔っていましたからね……知らないのも無理は無いかと、あの時我々が乗っていた船は海底から大型リヴァイアサンによる襲撃を受けたのです」
「徳川様の元部下の仕込みでな、ウチらまで巻き添え食うとこやったわ」
「あれは別に私が指示したわけでは……! 半蔵の独断です! それに私とて巻き込まれた身、そういった物言いは──」
徳川が芽衣子へ説明をすると、その補足──と嫌味も兼ねた──をマン=モンが行う。
その言い草が気に入らなかったのか、マン=モンへ顔を向ける徳川の前に永村は軽く右手を挙げる。
「はいそこまで、今はリヴァイアサンについての情報を聞いてるの。 君らの仲たがいの時間じゃない」
「……すんまへん」
「申し訳ない……」
永村が諭すと、二人は親に怒られた子供のようにしゅんと身を縮こまらせ反省の態度を示す。
「分かってくれればいいよ、それで実際の所どうなんだい? あれについて何か知ってることはある?」
「いえ、私は特には……」
「儂も知らんのう……というか海にあんな生き物が居た事すら知らんかったぞ」
と、徳川と芽衣子は首を横に振り……三人の視線は自然とマン=モンへと向けられた。
「ウチぃ? 知らん訳やあらへんけど……高いで?」
「またそれか壊れるなぁ……」
自らの指を指すとマン=モンはそのまま指を丸めて銭を示すようなポーズを取る。
それを見て永村は呆れた様子でマン=モンを見る。
「君毎回何するにもお金要求するねぇ」
「そら世の中ゼニやしな! この病院が成り立ってるのもゼニのお陰やし、ウチがオギナワの統治者になれたんもゼニのお陰や。 ゼニは世界を救うで!」
「……あー、そういうことにしておこう。 それにお金だけの関係の方が楽といえば楽だしね」
額に手を当て考え込む素振りを少し見せた永村だったが、顔を縦に振り頷くとマン=モンの提案に頷いた。
「分かった、情報代は後で払うよ。 今はリヴァイアサンについて教えて欲しい」
「ナハハハハ、永村の旦那の気前のええとこウチ好きやで~。 ほなら話そか! あのリヴァイアサンはやな……」
マン=モンは永村の答えに気を良くし、永村の肩を二、三度叩くとリヴァイアサンについての話を始めた。
リヴァイアサンの名前がオケアノスである事、ハワイの首都があのリヴァイアサンの中にある事。
そしてハワイの人魚達はオケアノスが食べた海底の物資をオギナワへと交易に出している事。
「なるほどねぇ……確かにかなりの大きさだったしあの中に街があったとしても不思議じゃないかもしれないね」
「本当でしょうか? 俄かには信じられませんね、あのような生物の中に居住しているなどと」
「Zzzz……」
「いや実際あるんやけどな? まあ見てみんと納得でけんのやろけども」
各々が信じる、信じないといった話をするがマン=モンは確固たる自信がある様子で説明する。
芽衣子は完全に寝ていた。
「まあマン=モンさんはオギナワ出身だし交易に来てた人魚達から話を聞いてたとしても不思議じゃないし、きっとあるんだろうね。 けどそれよりも問題は──」
「飲み込まれた田崎の旦那と、オケアノスの居場所やな? 正直それについてはウチは分からん、何せ人魚との交易は相手から出向いてくるんが基本やったからな」
「よくそれで交易が成り立ちましたね……相手が来るのを待つだけとは、自分達で出向こうとは思わなかったのですか?」
交易の話を聞き、徳川は呆れた顔をする。
「そら思うに決まっとるやん、そやけどウチらは沖に出れるほどの船を作れへん。 精々ちょっと遠出出来る程度の小船が限度でそれ以上行くとドレイクどもが襲ってきよる」
「ドレイク?」
「小さい飛んでるトカゲや、猫みたいな鳴き声出すんで地元のはウミニャー言うとる。 まあそいつらが船を襲うんや」
徳川の疑問の声に、マン=モンは身振り手振りを示してドレイクについての説明を行う。
曰く二対の翼があり、口の先端部分は黄色く、体長は2メートル程度で小さな火や圧縮した水を放つらしい。
「へー、それは私も知らない情報だなぁ。 でもそんなのが居るなら人魚側はどうやって交易に来るんだい?」
「あぁ、連中はオオダコを数匹従えて来るんや。 そいつらが交易品と人魚を護りながら来るっちゅうわけやな」
「ふむ……オオダコという物が何なのか今一理解が及びませんが理屈の上では納得しました、要するに技術不足で遠洋に出られないと」
先ほどの嫌味のお返しか、徳川もマン=モンに嫌味を言う。
するとマン=モンの眉がぴくりと少し動くが、にこやかな笑顔を浮かべて徳川にこう返す。
「せやな、徳川様もあない立派なお船もっとったわけやけど粉みじんになってもうたし、海の怖さが少しは分かって貰えたんとちゃうか?」
「えぇ、少なくともあなた方オギナワの民は技術を発展させる気概の無い者達ということは理解しましたよ」
「Zzzz……」
「あのさぁ……」
そういったやり取りを行う二人に、永村は溜息を吐くと席から立ち上がる。
「お、もう帰るん?」
「聞きたい話も聞いたしね、それに迎えに行かなきゃいけない相手もいるし」
「そういえば本日は二人で来るというお話でしたね、もう一人はどうしたのです?」
「色々あってね、途中で別れた。 というよりははぐれた?」
「?」
珍しく気まずそうな顔を永村に、徳川は不思議そうな表情を見せる。
「とりあえず私の用件はここまで、それじゃあ君たちも速めに退院して仕事に戻ってね。 お大事に~」
「ほ~い、ほんなら支払いの請求書後で送るから支払い頼むで~!」
入り口の扉を潜ろうとする永村へ、マン=モンは大声で支払いについて叫ぶと永村は後ろ手を振りながら退出していく。
「Zzzzz…………はっ!? き、きいとる! きいとるぞ儂は!! あれじゃろ!? 徳川の下着の色じゃろ! 赤褌じゃぞ!」
「赤褌!? 徳川はん、嘘やろ!?」
マン=モンの大声で目覚めた芽衣子が、居眠りがばれた学生の様にいきなり正座の姿勢から立ち上がると徳川の下着について叫ぶ。
芽衣子の声は病院内に響くような大声で、徳川は永村と話している間赤かった顔を更に紅潮させると手近のベッドを持ち上げる。
「殺す!!」
結局、永村が帰ってから一日病院内では喧騒が絶えないのであった。
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「あらあらまあまあ、甘えん坊でちゅね~」
「おんぎゃおんぎゃ!」
一方その頃、病院内のとある一室では。
「は~い、ミルクでちゅよ~、一杯飲みまちょうね~」
「まんま~! おんぎゃおんぎゃ!」
山坂が妙齢のドライアドに抱かれ、オギャっていた。
「最高にバブ味を感じる……オギャるの最高!!」
この姿が永村に見つかるまで、後3分。
遅れて申し訳ナス!研修期間中に更新すると言ったな、あれは嘘だ!
すまぬ、すまぬ……
母性を感じさせるドライアド 緑緑
クリーチャー:植物
防衛
戦場に母性を感じさせるドライアドが出た時、対象のクリーチャー一体をタップする。
それは次のターンのアンタップステップにアンタップしない。
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