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人類ガバガバ保護記   作者: にっしー
ハワイ編
78/207

人魚と出会ったら

MD215年 7/20日 18:16


「あったたたた……んもう! 何だったのよさっきの揺れは! オケアノスは今は休眠期間なんだけど!?」


 空洞の様な開けた場所に、少女の声が響く。

 頭を抑えながら少女が立ち上がると、その周囲に控えていた群衆が一斉に少女を見つめる。


「それで、誰か今の揺れの原因は知らないわけ?」


「この件はマルフォスの……」


「しかし歌姫様の……」


「……あーもう!」


 少女はイライラからか自身の目の前にあるテーブルの上に置かれたテレビを蹴り飛ばし、テレビは金属で出来た壁面にぶつかり破片を辺りへと散らす。

 その様子を見ていた周りの魔族達は慄き、ひそひそと何事かを再び話し始める。


「ふん! あんた達はいっつもそうなんだから……役立たず! 愚図! バーカ!!」


 少女は群衆を罵るが群衆は何も反応せず、話を中断する事すらしない。

 その様子を見て怒りを通り越して呆れが来たのか、少女は溜息を吐く。


「もういい、オケアノスの中を見てくるから! ついてこないでよ!」


 少女はポニーテールを揺らしながら、警戒に走ると群衆が集まっていた周りに流れる川の中へ飛び込むとそのまま泳いで姿を消してしまう。

 そんな少女を見た群衆は、相変わらずひそひそと何事かを話し合うのだった。

 

「んもう!」


 少女は自身を止めようともしない群衆へ、軽蔑的な感情を覚えていた。

 だがこの感情は今初めて生じたものではなく、彼女はいつもそんな感情を抱えたまま生きていた。

 彼女の名はカ=メハメハ、このリヴァイアサンと管理者達が呼称した生物の内部にある街……コワーラに居住する人魚達を束ねる歌姫である。

 メハメハは人魚特有の魚の尾を華麗に動かしながらコワーラ内部に流れる川を高速で移動していく。


「いっつも皆してマルフォスマルフォス! 誰も、あたしのことなんて……」


 メハメハは暗い顔をしながら、水底を眺める。

 水底には血管のように脈動するケーブルや、そのケーブルの下にところどころが汚れたり欠けたりしている金属が敷き詰められている。

 その重なり具合は瘡蓋の様に多数の金属が重なり合っており、この街が少なくとも何層かの厚い金属が堆積した上に作られている事を示していた。


「あ~あ……もっと楽しい事、見つからないかな──ぁぎゃんっ!」


 そんな光景を見ていると、彼女は勢いよく金属壁へ頭を打ち付けてしまう。


「あいったぁ~……! んもう、今日はほんと最悪ね!」


 メハメハは本日二度目の頭部への痛みに不平をこぼしながら、顔を上げる。

 眼前には巨大な金属隔壁があり、その隔壁には人魚達が使う言葉と共に左右の矢印が描かれていた。

 左方向を示す矢印には食料庫と、そして右側には収穫場と書かれている。

 彼女は顎に指を当てるとそこで考え込み始めた。


「う~ん……コワーラが揺れたってことはオケアノスが動いたってことだから……オケアノスが動くのは食事の為、だよね」


 そしてメハメハは右側、収穫場の方向へと体を向ける。


「ってことは! オケアノスは食事の為に動いたってこと!! やだ、あたしって頭良い!? メハメハちゃんかしこ~い!」


 メハメハは自身を褒めきゃっきゃと喜びながら水面に飛び上がり笑みを作ると、収穫場へ向けて指を指し再び泳ぎ始める。

 その顔は街の中を泳いでいた時と違い、彼女本来の明るい笑顔だった。

 彼女は水の中を高速で泳ぎながらいろいろな物を通り過ぎていく。

 金属板や木で作成された家、メハメハが歌姫アイドルとして歌う舞台、彼女のマネージャーであるマルフォスが居るコワーラで最も大きな屋敷。

 コワーラでは貴重なオギナワという土地との交易で手に入れた地上の野菜や果物を売るお店、恋人や夫婦で溢れる街路。

 そういった街並みを通り過ぎて暫くすると、大きな隔壁を彼女は通り過ぎる。


「ありゃ、速く泳ぎすぎちゃった? もう少し時間が掛かると思ってたんだけど」


 彼女も気がつかないうちに、かなりのスピードを出して泳いでいたようでメハメハ自身も収穫場へ到着した速度に驚く。

 だが彼女は「まあいいか!」と前向きに考え、額に手を当て周囲を見渡す。

 収穫場にはその字面に似合わずあらゆるゴミや機械の残骸が散乱していた。

 一体どれ程の広さなのか、彼女は以前調べてみようと思ったことがあったが結局一日掛かっても調べきれず諦めたのだった。

 この収穫場という名の、オケアノスの胃を通り消化されなかった食料のゴミ捨て場はそれほど広い。


「にしても相変わらず広いな~、それに若干生臭いし……とりあえず回収作業の人に何か流れてこなかったか聞いてみようっと」


 メハメハは水面から飛び上がると、空中で魚の尾が二本の足へと変化する。

 そして華麗に地面代わりのイカダへ着地すると、元気一杯に走りながらまだ使えそうなゴミの回収作業をしている男へと声を掛ける。


「おじさーん! こーんにっちわー!」


 メハメハの掛け声に男が振り返り、帽子を上げる。


「おぉ……こりゃメハメハちゃんじゃないか、一人で来たのかい? マルフォス様とかいつものお付の人はどうしたんだい?」


「んもう、あたしがあいつらの事嫌いなの知ってるくせに白々しいな~」


 メハメハは頬を膨らませると、男が笑う。


「ははは、ごめんごめん。 でもあまり他の人に心配をかけちゃいけないよ? 危ない目にあってメハメハちゃんの歌が聴けなくなると悲しいからね」


「う、うん……気をつける。 でもやっぱりあいつらは嫌いなの!」


 男の言葉にメハメハは少しの間項垂れるが、顔を上げ声を大きくして男へと叫んだ。

 その声量に男は驚き、帽子を落としそうになりながら彼女の口を塞ぐ。


「もごっ!」


「声が大きいって……! オケアノス様を静める歌姫がこんな危険な場所に一人で居るなんて知れたらどうなるか分かったもんじゃないんだから、もう少し落ち着いて……!」


「もご、もごっももごごー!」


「え、何?」


 男は小声でメハメハを諭すが、彼女は苦しそうに暴れると男の手を振り解く。


「ぷはぁっ! んもう、苦しいの!」


「あ、ごめんごめん……ははは」


「ん~……いっつも優しいおじさんだし、今回は許してあげる。 ところでおじさん、さっきオケアノスが動いてたけど何かあったの?」


 メハメハは腰に手を当て、考え込むような素振りを男へ見せると男の鼻先に指を乗せ笑みを作る。

 その笑みに男が見惚れていると、彼女からそんな質問が飛び出した。


「えっ!? あ、あぁオケアノスかい? よく分からないけど食事をしたかったんじゃないかな、幾つか船の残骸みたいなのが流れてきてたよ」


「ほんと!? ねえねえ、それじゃあ何か変わったものとか流れてこなかった!?」


「あ、あぁ……本当だよ。 変わったもの? あー……いや特には流れてこなかったかな」


 男の言葉にメハメハは男の両腕を掴み、顔を鼻先まで顔を近づけ質問する。

 だが男の言葉に彼女はしゅんとした表情をすると項垂れてしまう。


「そっか……うん、そうだよね」


「あー……変わったものは無かったけど、しいて言うなら死体が二つ流れてきたよ」


 そんな彼女の表情に男は罪悪感を覚えたのか、普段なら言わないであろう情報を口にする。


「死体? 何の?」


「いやぁそれが一人は魔族だと思うんだけどもう一人? がよく分からなくてね、そもそもあれは人間なのかな」


「ふ~ん……ねぇねぇ、その死体って今は何処にあるの?」


「3番区画の方だけど……ってメハメハちゃん!?」


 死体、という言葉に彼女は反応した。

 オケアノスは一度の食事で大量の海産物やときには鯨の群れすら食べつくす事もある。

 その残飯、要するに死体がこの収穫場に流れてくる事が頻繁にあると彼女は知っていた。

 だが今回は……そんなありふれた言葉に何となく心が惹かれたのだ。

 気がつくとメハメハは男からその死体の場所を聞くと、走り去っていた。


「3番区画……今居るのが9番だから……あっち!」


 彼女は船の残骸や巨大な魚の死体を素足で飛び越えながら、男が示した3番区画へと走った。

 何故これ程までに自分が必死に走っているのか、彼女には分からなかった。

 マルフォスの言いなりになり、オオダコやリヴァイアサンを従える道具として生きる人生に少しでも刺激が欲しいから?

 それとも単純に知的好奇心から?


「分からない、分からない……けど! あたしは、その『人』と会わなきゃいけない気がする!」


 そう叫び、彼女は走った。

 暫く走り、二つ目の残骸の山を飛び越え……着地に失敗し海草に足を取られゴミの山を転がりながらイカダへと顔を打ち付ける。


「いっっっったぁぁぁ!」


 顔面を強打したメハメハは暫く地面を顔を抑えながらのた打ち回るが、のた打ち回っている最中に何かに体がぶつかる。

 彼女はそこで動きを止め、恐る恐るその物体へと顔を向ける。


「ぎゃあああ!」


「ぎえええ!!」


 メハメハの前には、般若の様な顔をした側頭部から一本ずつ角を生やした魔族が横たわっており彼女は思わず叫ぶ。

 その大声に驚いて息を吹き返したのか、その魔族も思わず大声を上げる。


「いやぁぁぁぁぁ! つ、角の化け物ぉぉぉぉ!」


「ぬおおおぉ!!! ひ、人の化け物ぉぉぉ!」 


「「え?」」


 二人は尻餅を着いた状態で後退りをしながら叫ぶが、同時に疑問の声をあげる。


──────────────────────────────


「いや、それはすまぬことをした……おまけに偶然とはいえ蘇生までしてくれるとは……この恩義、どう返したものか」


「や、やだなぁ。 あたしはただ叫んだだけでそんな大したことしてないって!」


 メハメハは手と顔を大きく横に振ると、頭を下げる鬼──田中へ否定の態度を取る。

 田中が目覚めてからメハメハと田中は互いに言葉を交わし、お互いの境遇を確認したのだった。

 片やリヴァイアサンを制御する為の道具、片やそのリヴァイアサンの一部を無理やり召還した忍者と呼ばれていた魔族。

 お互いに狭い世界しか知らなかった二人は直ぐに意気投合し、笑顔で語り合っていた。

 そんな折にメハメハが少し言いづらそうに切り出す。


「あの、さ……ところでなんだけど、さっきからあっちで転がっている黒い奴は何なの?」


 メハメハが指を指すと、田中の後方に黒いマフラーと黒い体、そして縁に金色の線が入った装飾をしている物体があった。


「あぁ、あれか。 あれが先ほど言ったおけあのす? だったか? このリヴァイアサンを召還して生贄にしようとした男だ」


「男? え、あれって人間なの? それともああいう形の魔族なの?」


「よくは知らん、だが人間ではあるらしい。 あの姿は一種の装備品のようなものなのだろう、圧倒的な強さだった……が、さしものあの男もリヴァイアサンに飲み込まれては生きてはいられなかったらしい」


 そんな風に言うと、田中は勝ち誇ったような顔をし右手を握り締める。


「ふーん……でもさ、オケアノスを呼び出す位あの人? は酷い事したの?」


「何?」


「だってさ、田中ちゃんニンジャなんでしょ? 誰にも見つからずに暗殺~とかする、そういう人が自分の命を犠牲にしてでも倒そうとする人なんてよっぽどの悪人なのかなって」


「うむ……奴は我が命を賭してでも倒さねばならない男だった、あの男は我が国の民へと非道を行っただけでなく──」


「この地球に生きるあらゆる魔族を根絶やしにする」


 男──田崎の声にメハメハは驚き、田中は一気に臨戦態勢を取った。


「あー……やれやれ、新型素体を使ったのが運の尽きか。 よっこら……せっと!」


 田崎はそう言って飛び上がると、体の各部を触りながら首を鳴らした。


「よう、特攻野郎。 元気だったか?」


「貴様、生きて……!」


「るさ、意識がこっちに残ったままになるのは正直想定外だったがな」


「何?」


「お前にゃ関係ない話だ、しかし何処だぁここは? 見た感じ日本じゃあなさそうだが」


 田崎はゆっくりと周囲を見渡し、体を回転させながら田中へと近づいていく。

 田中はそんな田崎が寄る度に、少しずつ後退して行く。


「メハメハ殿! お逃げください! そしてこの地の民に倒すべき者が現れたと──」


 徒手空拳ではあるが、田中は構えを取ると顔を田崎へ向けたままメハメハへと叫んだ。

 だが彼女の次の言葉は田中にとって想定外の言葉だった。


「かっこいい……!」


「「は?」」


「格好いい!! すっごい! すっごい!! すっごーーーーーーーい!!! ねぇねぇ! なにこれ!? どうやって動いてるの!? え、何この金色の線! 目も赤く点滅したりしてるし!! やだやだやだ!! すっごーーーい!」


 メハメハは飛び跳ねながら田崎へと近寄ると、彼の体を物凄い速度で触ったり舐めたり抱きついたりし始める。


「え、お、おい?」


「これこれ! これよ! あたしが惹かれたの!! 今日あなたとあたしは出会う為にここに来たんだわ!!」


「えぇ……(困惑)」


 珍しく田崎が気弱な声で問いかけるが、メハメハは全く怯まず田崎の周りをぐるぐると回っている。

 そして30回転ほどした所で田崎の前に立ち止まると、右手を高く挙げる。


「ようこそハーイへ! ハーイ、ターッチ!」


 そして左手で田崎の右手を無理やり挙げさせると、お互いの右手をハイタッチさせるのだった。


「は、はーい、たーっち……」


「何なのだこの展開は……」


 そんなハイテンションなメハメハを尻目に、田中と田崎は困惑した表情を浮かべるのだった。



格安SIMに契約したら携帯がそもそも対応していなかった上に色んな出費が重なって友人と友人で紛争が起こりそうだったりで俺はもうどうしたらいいのか分からないので初投稿です

それはそれとして霊気紛争プレリリースで優勝しました(自慢


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