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人類ガバガバ保護記   作者: にっしー
ハワイ編
77/207

妖精達の仕込みが終わったら

MD215年 7/20日 13:30


 東京は晴天に恵まれていた。

 長く続いた梅雨の時期も明け、この日は長らく東京にて保管されていた屋形船を使い、東京湾にて宴席が設けられていた。

 本来ならば管理者の3人が出る予定だったのだが、山坂は田崎に、永村は山坂に葬られ、結局屋形船には田崎一人だけが乗船する形となった。

 それでも宴席は盛況であり、それと言うのもひとえに山坂が不在だったから……という理由だけでなく、天照によって分断されていた日本が再び一つになった事の喜びを味わっていたからかもしれない。

 日本は長く本州、北海道、沖縄と分離した状態であり、互いに交流は殆ど無かった、今回の宴席はその溝を埋める良い機会となっていたのだ。


「ヴィーサ、エンドリ、準備はいい?」


 だがそんな宴席の影に、小さな箱が置かれ、その中には三人の妖精達の姿があった。 

 3人の妖精達の中で、最も身長の高い妖精──それでも6センチ程で、人間からして見れば大分小さいが──イリオナが残りの妖精へと呼びかける。

 その呼びかけに応じるように、赤い髪に青い羽を持つエンドリが頷いた。


「ああ! いっちょハデにブチカマシテやろーぜ!」


「ヴィーサもがんばるよー!」


 エンドリの次に、青い髪に青い羽を持つヴィーサが続き飛び跳ねる。

 

「いったぁーい! なんかがわたしのあたまぶったぁー!」


 だが狭い箱の中で飛び跳ねたせいでヴィーサは頭をぶつけ、泣き喚く。

 

「ん? 今、何か……」


 ヴィーサの泣き声が聞こえたのか、宴席で飲んでいた一人の魔族が辺りを見回す。

 その声に気づいたイリオナが咄嗟にヴィーサの口を両手で塞ぐ。


「む、むー!? むうーーー!」


「気のせいか」


 ヴィーサは息苦しさに喘ぐが、魔族は先ほど聞いたヴィーサの声が聞き間違いと納得し再び宴席の料理へと手を付け始める。


「ふぅ……何とかなった、ちょっとヴィーサ! あまり騒がないでって言ったでしょ!」


 イリオナはヴィーサの口を塞いでいた手を離すと、ヴィーサへ小声で怒鳴る。


「げほっ、げほっ……ご、ごめーんイリオナちゃん……」


「ヴィーサはバカだからな! ハハハハ!」


「貴方もよエンドリ、半蔵様……いえ、あの人から任された仕事なんだからきっちりやらないと駄目なんだからね?」


 エンドリはヴィーサを小馬鹿にしながら笑うが、イリオナにやれやれと言った顔をされながら額に軽くチョップを受ける。

 

「イテ! んもう……イリオナはキマジメすぎるんだよ、もっとキラクにいこうぜ」


「そうそう、きらくにきらくにー!」


「駄 目 で す ! ……こんな言い合いしてる場合じゃないわね、時間だわ」


 軽口を叩く二人へ、イリオナは再びチョップを噛ますと、箱の隅に置かれていた小型の腕時計で時間を確認する。

 そして二人の方へ手を載せると、残りの二人は頷き、三人は同時に右手を掲げた。


──────────────────────────────


「なるほど、それでこんなに他の連中がはしゃいでるわけか」


 田崎は屋形船の内部に設けられた宴席に座り、酒を注ぎながら芽衣子へと言った。


「うむ、なにぶんサツホロ以外の場所とは途絶していた期間が長いからのう……最初の異邦者はゴーレム沢山連れて襲ってきおったし? 友好的且つ同じ境遇の者を見つけたらそりゃ嬉しくなるってもんじゃよ」


「そりゃひでぇ連中が接触してきたもんだな、災難だったな」


「全くじゃな! ワハハハハハ!」


 田崎と芽衣子は酒を酌み交わしながらそう笑い、二人の酒に付き合っていた徳川は溜息を吐いた。

 彼女の眉間には珍しく皺が寄っており、この二人の酔っ払いの相手は彼女にとって心底ストレスを与えているようだ。

 そんな険しい顔をしている徳川に気づいたのか、田崎は徳川へ声を掛ける。


「何だよ~気難しい顔しやがって、お前も飲んでるかぁ?」


「……不本意ながら」


「おぉそうか! 飲んでるならいいんだゾ~! しっかし……こんな屋形船なんてよく残ってたな? 船のエンジンだって霊力で動くとは言え動かし方は学ばなきゃいけないし、誰に教わったんだ?」


 田崎はそう言いながら、酒を飲み干すと空のお猪口をテーブルへ置く。

 そのお猪口へ徳川は心底嫌そうな顔をしながら、再び酒を注いだ。


「そういった過去の技術や、今の我々に必要な技術は天照教が……いえ、天照様がお教えしてくださいます」


「なるほどな、どうして最終戦争から千年も経ってるのに文明を維持できるレベルの技術があるのか不思議だったんだが今ので合点がいった」


「神が色々教えてくれるなんて羨ましいのう……儂なんてあれじゃよ? とても住める土地ではなかったサツホロを儂の魔法や儂を支える3人の精鋭達がじゃな~!」


 徳川の返答に田崎は納得し、再び酒を呷る。

 そしてそんな傍らで芽衣子は酔い始めたのか、聞かれてもいない話をし始め更に徳川の眉間に皺が寄る。


「しかし納得だ、天照教ってのがどうして日本の8割に浸透してたのか疑問だったが守るべき法や規律だけじゃなく生きる為に必要な技術や知恵を与えてた訳だ、そりゃ浸透するわけだ」


「その天照様も貴方達に捕縛されて行方知れずとなりましたが。 ……あのお方をどうするおつもりです? それに貴方達が放った兵士が行った所業についての説明も求めます」

 

 徳川は酒を注ぐ手を止め、鋭い眼差しを田崎へ向ける。

 その眼差しは国を治める総理として国民に行われた凶行を糾弾しようという、強い意志が確かに感じられた。


「答える必要は無いな、だが山坂がやった事に関しては悪いと思っている。」


 田崎はそう言って立ち上がると、後ろの障子を開く。


「弱者は等しく強者に駆逐される運命だが、何も嬲る必要は無い訳だしな。 あいつも悪い奴じゃないんだが如何せんそういう趣向があるのが……」


 そして振り返り──


「チェストーーーーーーーー!」


「おいのち」


「頂戴します!!」


 と、田崎の正面に配置されていた小箱から3匹の妖精が小さな針のような小剣を持ちながら田崎へ突撃してきていた。


「ホイ!」


 その三匹の妖精を、田崎は体を捻りながら避けると妖精達はそのまま隣の船の障子を突き破り船内へと進入した。


「何だ、今のは……」


 田崎が目を細めながら隣の船を眺めていると、突然隣の船が揺れ始め、中に居た船員達が海へと放り出されていく。

 その光景を田崎と共に見ていた徳川は、驚きの表情をする。


「……ヴェンディリオン三人衆? 半蔵御つきのシノビ妖精が何故こんなところに」


「おー! ええぞええぞー! もっと派手に暴れて儂を楽しませんかー! 酒もってこーい、エンリコー!」


「芽衣子殿、何を……きゃぁっ!」


 ヴィーサ達に驚いた徳川へ、酔っ払った芽衣子が徳川へと飛び掛ると自らの尾を畳へ叩き付けながら歓声を上げる。

 徳川は芽衣子に押し倒され、起き上がろうとするが体重の差によって容易に起き上がることが出来ず芽衣子と格闘を繰り広げる事になってしまう。


「何やってんだこいつら……しかし何だったんだ今の? とりあえずペスに連絡を──」


 そんな二人を冷ややかな目で見ていた田崎だったが、再びヴィーサ達が突撃した屋形船へと視線を戻す。

 そして田崎は右耳に片手を添え、上空を哨戒していたペスを呼び戻そうとすると眼前の屋形船へ轟音と共に何かが落下する。

 その衝撃に屋形船は真ん中から真っ二つに折れ、唸りを上げるように船首が上を向き沈んでいく。


「つめてぇ! ったく、何なんださっきから!」


 落下した際の衝撃で田崎の顔に水しぶきが掛かり、それを腕で拭うと不満を漏らしながら船へと再び視線を向ける。

 田崎の視線の先には見る者を魅了した美しい白金の体ではなく、所々に錆びや苔が生えたペスの姿と。

 ペスの腹部を踏みつけるようにして小刀を構える白装束を纏う、頭部から角を生やした人──鬼が立っていた。


「ペス!! ……てめぇ!」


 ペスを踏みつけるその鬼を視認した時、田崎は畳を蹴り、海上を飛んでいた。

 否、飛んでいるという言い方はおかしいかもしれない。

 彼のそれは飛ぶというよりは空中を真っ直ぐに滑るように移動していた。

 田崎は怒りの形相をしながら空中を滑り、白衣に備え付けられたポケットから取り出した試験管を開け放った。


「流体金属MIA展開、形態モード、マシーンヘッド!」


 試験管を解き放つと、銀色の液体が田崎の全身を覆いつくす。

 その液体は田崎の隅々を装甲のように、しかし赤ん坊の肌の様なしなやかさも残しつつ新たな肉体を形成していく。

 液体が体を覆い、再び田崎の姿が現れた時、それは漫画やアニメに出てくるようなヒーローの姿をしていた。

 風にたなびく黒いマフラー、顔を覆う赤が縁取られたヘルメット、そして全身に金線が走る黒い甲冑を着用し、田崎はペスを踏みつけにしている鬼へと迫る。


「お前が誰かは知らねえが……後悔させてやるぞ!」


 田崎はバイザーの様になっている目元を赤く光らせ、鬼へと叫ぶ。

 鬼はその言葉に口元を吊り上げると、刀を持つ手の人差し指を数度曲げ、掛かって来いとアピールをする。

 田崎はその挑発に乗るように、空中を滑る速度を上げ、右手を振りかざす。


「うぉぉぉぉらぁぁぁ!!」


 振りかぶられたその右手を田崎が解き放つ。

 その腕による衝撃は、鬼を貫きその後ろ数百メートルの海を衝撃で割る。

 

「手ごたえが無い……ちっ、幻影か!」


 だが田崎の声色は不満をありありと示すと、右腕を払う。

 彼の右腕には鬼が纏っていた白装束の一部が付着していただけで、その腕は何も貫いてはいなかった。


「田崎……様」


「ペス! 無事か!?」


 空中に浮かんでいた田崎は、ペスの声に未だ浮かぶ船の残骸へ着地すると彼女を抱き上げる。


「申し訳……ありません、新しく戴いた体を、再び……」


「気にすんな、体なんて幾らでも新しく作り直してやれる」


「……ありがとうござ、いま、す。 そして、気をつけ……くだ……付近一帯……霊力…………が」


「何? おい、ペス? ペス!?」


 抱きかかえられたペスは、田崎へ謝罪の言葉を述べるが田崎は明るい声色で答える。

 だが田崎の声色に反して、ペスの声は徐々に擦れていき最後には田崎に警告を残して機能を停止してしまう。


「……記憶はエクィローに記録されたか、しかし野郎は何処に行った? それにペスの最後の言葉も気になるが……」


 錆びと苔により機能を停止したペスの肉体を船の残骸の上に置くと、田崎は自分が先ほど居た船を見つめる。

 その船の上には鬼が白装束をたなびかせながら立っていた。


「一体全体何なんだてめえはよぉ! 何処の回しもんだ!」


「我は失態を晴らす為に此処に居る、この場に立つ理由は誰かの命令でも何でもなく……単なる私怨だ」


「はぁ!?」


「そして、我は必ずや失態を晴らしてみせる。 それが初代と我が友に捧ぐ我の最後の仕事となるのだ!」


「よくわからねーことを長々と……! ぶっ殺してやる!」


 田崎の呼びかけに、鬼はそう答えるとクナイを両手に構え投擲する。

 クナイの投擲に合わせ田崎の顔を覆うバイザーに緑色の光が灯る。

 するとまるで空中に地面があるかのように、田崎の体が真上に落下するように上昇しクナイを回避していく。

 その機動は正しく変態のそれである。


「おせえんだよ!」


 そして真上に落ち始めたかと思うと、今度は真横に落ちるように移動を始める。

 鬼は田崎の異質な移動方法を見ても動じず、屋形船の上からクナイを投擲し続ける。

 回避されたクナイには爆薬が付けられているのか、海水や屋形船の破片に触れるたびに爆発し、周囲に轟音を響かせる。


「どうした、逃げているだけでは我を殺せんぞ!」 


「だったらお望みどおり……向かってやらぁ!」


 鬼の挑発に、田崎は向かってくるクナイを左手で弾き飛ばす。

 その衝撃でクナイに括りつけられた符が霊力を開放し、田崎は爆炎に包まれる。

 

「……馬鹿め! その符は呪詛が込められているのだ、耐えられるわけが──」


「だああああああああらあああああああ!」


 クナイの爆発を見届けた鬼は、勝ち誇った顔をするが。

 その顔は直ぐに驚愕の顔に変わる。

 爆炎の中を突っ切る、黒いたなびくマフラー。

 目元のバイザーを輝かせながら突撃してくる、黒い悪魔を鬼は見た。

 田崎は勢いそのままに、鬼の顔面を殴り抜ける。


「な──うぐっほぁ!!」


「ざまぁみろ!」 


 振りぬいた拳は、鬼の顔から鮮血を撒き散らしながら陽光を受け輝く。

 そして拳を振りぬかれた鬼は、水しぶきを飛ばし、海上を水切りするように跳ね、5度ほど跳ねた後着水し仰向けに浮かび上がる。

 田崎はその様子を確認すると、鬼が浮かんでいる場所まで移動し、鬼の側頭部についた角を右手で掴みそのまま顔を上げさせる。


「起きろ」


 だが顔を上げた鬼は気絶しているのか全く反応せず、田崎は二三度左手で頬を打ちつける。

 その衝撃で、鬼は口から血を吐きながらもゆっくりと目を開く。


「呆れたタフさだな、普通の雑魚なら死んでる威力なんだが」


「……」


 鬼はそんな田崎を睨みつけながら、口中に溜まった血を田崎へ向けて吐きかける。


「その強情さは認めてやるが──」


「おごぉっ!」


 鬼の腹部に田崎の拳がめり込み、鬼は再び血を撒き散らす。


「雑魚が調子に乗るなよ? これから痛めつけてお前を派遣した奴を吐かせてやる、その後は豚の餌だ」


「ふ、ふふ……なる、ほど? やはり、お前達は……下劣だな」


「あぁ?」


 田崎の言葉に、鬼は口から血を垂らしながら笑う。

 

「知らんとは言わせんぞ……お前達がムツシに行った非道、そして戦場にて放った外法の数々を……! 我は既に私怨に捕われた身なれど──」


「うるせぇ」


「ごはっ!」


 鬼の言葉に、田崎は呆れた顔をしながら再び拳を振るう。

 今度は腹部ではなく顔面に。

 その一撃で鬼は再び意識を刈り取られ、気絶してしまう。


「ったく、何でこう何かやる度に戦闘になるかね……とりあえずこいつを尋問──」


 田崎は鬼の角を掴んだまま最初に居た屋形船の方を振り返る。

 そこでふと、海の色がいつもの青色から赤色へ変化しているのに気づく。

 遠方では屋形船の中で芽衣子が何事か叫んでいるのが田崎には見て取れた。

 その言葉を聴こうとした瞬間、田崎はそれを見た。 

 鉛色をした、鱗の一枚一枚が戦艦や空母の一部を使った海を統べる暴虐の蛇を。


「こいつは……!」


 その蛇の咆哮が響いた時、田崎と鬼は意識を消失させた。

 そしてその蛇の咆哮が鳴り止んだ時、その二人は東京湾から蛇と共に姿を消していた。


童貞を捨てる旅に友人に連れて行ってもらったら初風俗でとんでもない目にあった上に童貞を捨てれなかったので初投稿です。

月曜日に上げられなかった気もしますがハワイ時間なので実質月曜日投稿です、イイネ?


破壊する者、田崎  緑黒赤


伝説のクリーチャー:人間


破壊不能、到達、接死


破壊する者、田崎が戦場に出た際、あなたから始めて、各プレイヤーは自分の手札にあるパーマネント・カード1枚を戦場に出してもよい。この手順を誰も戦場にカードを出さなくなるまで続ける。


5/5

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