船上パーティーに参加したら
MD215年 7/20日 13:00
晴れ、世界を照らす6つの太陽は中天を過ぎてはいたが未だ空に輝き、彼らを照らしていた。
永村、ペスは田崎と合流した後、東京湾へと移動していた。
道中、永村は山坂へと連絡を行ったが山坂は「うっせばーか! 死ね!」という怒鳴り声だけを残して連絡が取れなくなってしまう。
「彼にも困ったもんだねぇ」
と永村は困ったような顔をしながらぼやき、笑う。
そんなやり取りをしながら東京湾へ着いた二人は、港湾の状態に驚いていた。
「普通1000年も経ってたら、こういう施設は使い物にならないと思うんだが……」
「だろうね、けどここを整備し続けた存在が居るらしい」
永村は大型倉庫が乱立する部分へ顎をしゃくり、田崎の視線を促す。
それにつられて田崎が視線を向けると、其処には古ぼけたドラム缶のような外見をしたメンテナンスロボット達が何台も居り、倉庫の外壁を清掃、維持していた。
「……なるほど、メンテナンスロボット達がまだ活動してるのか。 ありゃぁ……リープリヒ製か?」
額に右手を当てながら遠方を見る田崎は、ロボット達の側面に描かれた消え掛かっているマークに気づく。
「照合中──確認、リープリヒ兵器産業のロボット部門から発売された形式番号Rp-22です。 正式商品名は『貴方の会社を綺麗にしちゃう、コレで人件費要らずでチュウ!』です」
「リープリヒと言えば兵器や製薬開発で有名だったね、ロボット部門にも手を出してたのか」
「あぁ、それなりの性能ではあったが何分今聞いた様なアホな名前のロボが多かったからな……そんなに業績は良くなかったな」
ロボットの名前を聞き、二人は真顔になりながらロボットの開発元の企業──リープリヒ兵器産業について語り始める。
「はい、リープリヒは主に兵器、製薬で名を馳せた企業です。 その中には山坂様が手掛けた兵器等も無数にあり、その功績を称えられ山坂様は今回の計画に推薦されました」
「だが今やあいつが作った兵器は地中深くに埋もれたか、霊力の影響を受けて変異したかのどっちかか」
「ま、何はともあれ有名な企業だったってわけさ。 あの事件が起きて潰れるまでは」
田崎は地中深くに埋もれたであろう兵器達を考え、少し残念そうに言う。
永村も遠目でロボット達を見ながら眼鏡を押し上げ、語り始める。
「あの事件?」
「あー……色々あったんだよ、山坂君が心に傷を負───」
「熱源を感知! 田崎様!」
田崎が聞き返すと、永村は顔を少し俯けやってしまったという顔をする。
そして顔を上げ、田崎へ少し説明をすると突然田崎の体がペスによって永村から引き剥がすと大きく距離を取る。
「え、おい!? なんだ!?」
ペスによって引き剥がされた田崎は、思わずペスへと顔を向ける。
するとその瞬間に、強烈な熱波が田崎とペスを覆う。
その熱波に振り返ると、田崎達の頭上から強烈な熱線が永村へ向かって降り注いでいた。
熱線が降り注いでいた時間はごく短いものだったが、それはアスファルトを溶かしつくし、永村を焼き尽くすのには十分なものだった。
「な、永村ぁ!!」
「赤の太陽からの砲撃です!」
「なにぃ!? 太陽の操作は俺達管理者しか出来ない、ってことは……山坂か!」
田崎は顔を真上に上げ、上空──その先にある月を見上げた。
「あいつ、正気か!? いきなり何を……!」
「窮極の門、開放を確認! カムサ、起動準備に入っています!」
「あぁ!? 俺に負けて気でも狂ったのか!? 止めさせろペス!」
「……駄目です、こちらからの停止信号一切受け付けません!」
ペスは自身のAIがあるエクィロー本部から、基地機能へロックを掛けるがその指示は全て山坂の手により拒否されてしまう。
「あいつ、本気か……!?」
「ふん、人の過去を勝手に話そうとするからだ馬鹿め」
うろたえる田崎へ、山坂の声がペスの体から響く。
「山坂……! てめぇ、よくも永村を!」
「素体が焼けた程度で切れるんじゃねえ、本体はこっちで生きてるだろうが!」
「そういう問題じゃねえんだよ! 仲間だろうが!」
「仲間だったら人の過去を勝手にばらしてもいいってか? ふざけるなよ……今ならカムサを起動させて地球と一緒に全てをなかった事にしてもいいんだぞ」
「エクィロー全体のエネルギー効率低下、全て窮極の門へと流入しています! カムサ起動まで残り10分です!」
田崎の問いに切れる山坂、その答えを発する時の怒気と狂気は本物だ。
今の彼なら、間違いなくカムサを起動してのけるだろうと田崎の直感は告げていた。
「それは……」
山坂の言い分も最もである、永村が不意に口から紡ごうとした言葉は恐らく山坂の過去と関係があったのだろう。
それは恐らく最も山坂が触れて欲しくない部分であり、だからこそ今こうしているのだ。
田崎はそれに対し、どう言うべきか言いよどんでしまう。
「……いや、君の言うとおりだ。 私が悪かったよ」
掠れた、永村の声が響く。
それに田崎は振り向くと、赤の太陽によって焼き尽くされた永村の素体は寸での所で崩壊してはいなかった。
膨大な熱量で四肢や人間に似せていた人工皮膚は蒸発していたが、まだ胸部にあるエンジンは生きていたのである。
「ごめんよ山坂君、以後はもう話題に出さないと誓うよ。 だからカムサの起動は待ってくれないかい」
「…………ふん」
「窮極の門、出力の低下を確認しました。 エクィロー全体の出力上昇、正常値へ。 ……管理者、山坂氏を拘束しました」
永村の謝罪に、山坂は長い時間を掛け、鼻を鳴らす。
するとペスが先ほどから送っていた基地機能へのロックが通り、ペスは全ての機能をロックするとエクィローを警護するロボに山坂を拘束させる。
「次はねーぞ永村、それと──」
「今の仕事を引き継げ、でしょ? 次がない事も踏まえて了解したよ」
「お、おい永村……? 一体何がどうなって──」
展開についていけない田崎は、永村へと声を掛けるが返って来たのは全く予想外の言葉だった。
「ってわけでごめん田崎君、山坂君怒らせた責任取ってくるから今日の会談一人でやっておいて! 資料は後で送るから!」
「は? あ、おい!?」
「そ、れ……じゃ………まか……た」
そして永村の素体は徐々に声が小さくなっていき、最後は胸のエンジンが破裂し、永村の声はそれっきり聞こえなくなってしまう。
「えぇ……(困惑)」
田崎は困惑しながらペスと向き合う。
「どうするよ」
「分かりかねます、ですが何にせよ迎えが来たようです」
「?」
「おーい! 大丈夫かー!?」
ペスの言葉に疑問を浮かべていた田崎だったが、その後聞こえてきたアデルの声を聞いて納得する。
そして右手で尻を掻くと駆け寄ってくるアデルへ顔を向けた。
「うぉぉっ!? な、何だこれ!? 地面が溶けちまってるじゃねーか! て、敵襲か!?」
駆け寄ってきたアデルは、開口一番大声をあげると同時に剣を抜く。
「て、敵はどこだ!?」
そんなアデルを見て、田崎は苦笑する。
その後彼を納得させるのに少し掛かり、田崎は会談の時間に少し遅れる事となった。
尚、熱線が溶かしたアスファルト等は全てメンテナンスロボット達が保全した。
「ナオシマショウ、ナオシマショウ、ゆっくりていねい、かんぜんむけつに、これで人件費要らずでチュウ! 私をお求めのお客様はリープリヒ兵器産業の───」
等と言う、最早管理者の三人以外には理解できないであろう営業文句を謳いながら。
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「えー、それでは長々と話をしたが……今日は日本全土統一の宴だ、皆楽しめよ! 乾杯!」
田崎の音頭で、船の上に集まった芽衣子、徳川、マン=モン、その他彼女達を支える重臣達は杯を打ち鳴らした。
久しぶりの演説で疲れたのか、田崎は重い溜息を吐くと壇上から降りる。
そんな彼をペスは拍手で迎えた。
「お疲れ様です田崎様、素晴らしい演説でした」
「用意された台本を読んだだけだがな、大半は永村の功績だろ」
田崎はそう言いながら手を振り、辺りを見回す。
「しかし……船上パーティーと聞いたときはフェリーか何かに乗るのかと思ったがまさか、屋形船とはな」
「保存状態は良好ですので航行に問題はありませんが防衛の観点から言えば、このパーティーは即刻中止すべきです」
「今更だな……もう始まっちまったんだぞ?」
「はい、ですので私は空からの周囲の哨戒を提案します。 飛行を行える兵士はこの場には居合わせないようですので」
田崎の居る戦場から周囲を見渡すと、他にも幾つかの屋形船が出ており、その船の中でも宴会を行っているようだ。
その屋形船を警護するように数隻の小船は出ているが、ペスはそれでは不満のようだ。
「まあ俺の警護を優先しすぎて船をまるごとひっくり返されてもたまらんからな……頼むわ」
田崎はペスの言葉に頷くと、哨戒の許可を出す。
許可が出るとペスは頭を下げ、白金の翼を広げると上空へと舞い上がっていく。
それを遠巻きから見ていたマン=モンはゴマすりをする様な仕草をしながら、浮遊装置に乗ったまま田崎へと近づいていく。
「いやぁ、相変わらず高そ……じゃなくてええ金属使うとりますなぁ旦那」
「お前か、沖縄の統治は無事に進んでるらしいな?」
「そりゃもう順調です、これも全部旦那がイェンを工面してくれたお陰ですわ。 それでこの間のお話なんやけども……」
「ハワイについて何か調べられたのか?」
マン=モンは微妙に隠しきれていない本音を隠しながら、ペスを褒める。
そんな彼女に田崎は何ともいえない表情を浮かべながら対応する。
そんな時、マン=モンは耳打ちをする形で田崎に小声で言うと田崎の表情が変わり、彼女へ近づく。
「ハワイ……あぁハーイの事? まあオギナワは元からあっちとは交易しとったからな、とりあえず言われてた事は調べておいたで」
「交易? 初耳だな」
「そら聞かれてへんし──い、いや!? あれやで? 交易はしとったけど相手の内情は知らへんし、意図的に黙ってたわけやあらへんで!?」
マン=モンの言葉に田崎の目が鋭くなり、慌てて彼女は距離を取ると補足説明をする。
「なら良いが……そういう情報はちゃんとこっちに伝えろよ」
「いやぁすんまへんな田崎の旦那……んでハーイについてなんやけども、あそこは聖女っちゅう一人の人魚を中心に運営されてるみたいやで?」
「聖女? なんだそりゃ、トウキョウに居た天照みたいなもんか?」
田崎の質問に、マン=モンは再び距離を詰めると耳打ちをした。
「あの神様と同じかは知らんけど、何でも聖女っちゅうんは歌でリヴァイアサンや大蛸を従えとるらしいで」
「リヴァイアサン……?」
その名前に、田崎は何処か聞き覚えがあった。
それは……およそ4ヶ月前にペスが言っていた『機械が霊力によって変異した生命体』の一種である。
ワームは戦車が、ドラゴンは戦闘機が、そしてリヴァイアサンは戦艦が……。
それを思い出した田崎は、にやりと笑みを作る。
「あぁ、思い出した。 そうかそうか……ふふ」
「何や急に笑い出して……笑い茸でも食ったんかいな」
「いやなに、リヴァイアサンなんて実に戦い甲斐がありそうだと思ってな」
「お、おぉ……まだ旦那に会うて2週間程度やからしゃーないけど、時折めっちゃ引くで……リヴァイアサン退治してくれるっちゅうんならええけどな」
田崎の発言にマン=モンは少し引きながら、何処か遠い目をしながら浮遊装置の中にある自らの足を擦った。
「何だ、もしかしてお前の足──」
それを見て田崎は察したのか、マン=モンへ言葉を掛けようとするが。
「さ! とりあえず細かい資料は後で渡したる! ウチの話はこれで終わりやし、他の偉いさんと話してきぃな!」
と言うと、田崎の背中を二度ほど強く叩き前へ押し出す。
そうやって田崎を叩く彼女は、先ほど遠い目をしていた彼女とは違い何時もの朗らかな笑みだった。
「いってぇな! ったく分かったよ、仕事してくりゃいいんだろ」
「せやせや、行ってきぃ!」
田崎は振り返ってマン=モンを見ると溜息を吐き、先ほど言いかけていた言葉を飲み込んだ。
そして徳川や芽衣子が歓談している場所へと、マン=モンへ後ろ手を振りながら歩いていくのだった。
田崎のそんな背中を眺めながら彼女は近場に料理が無いか目を向ける。
「ん?」
そんな時、ふと視界の隅に青い光が見えた。
彼女はその光が見えた場所へもう一度目を向けるが、その時には光は消えていた。
「ん~? まあ見間違いやろ……こないなとこに妖精が居るわけないしな」
彼女はそう言うと、顔を二三度横に振り再び料理の探し始める。
彼女がこの時見た光は、見間違いでなかったとこの後知ることになる。
今日が土曜日だと思っていたら月曜日だったので初投稿です
今年もよろしくお願いします
新年から無料パチンコという遊びを覚えたので初投稿です
人の金をドブに捨てるのきもちい~↑




