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人類ガバガバ保護記   作者: にっしー
ハワイ編
73/207

日本


 俺の親は教職者だった。

 両親はいつも俺にこう言っていた、世界は美しく、そして素晴らしい。

 木々の揺らめき、風が吹く様、川が流れる様、どんな些細な事にすら感動を覚える。

 生きているということ、そんなことすらこの世界に匹敵するほど素晴らしく、そして美しいものだと。


 原初の生命は海から始まりやがては陸へ上がり、そして人間が生まれた。

 世界は美しく、そして素晴らしい。

 であるならば、世界が産んだ人間や動物もまた一様に美しい。


 では人工物についてはどうだろうか。

 この時代、最早人とアンドロイドの区別は殆ど無くなっている。

 彼らは人工皮膚を纏い、人間と変わらぬ感覚を持ち合わせている。

 だが悲しい事に彼らの感情機能は世界的に決められた枠組みによって封印されている。

 俺は思う。


 世界が美しく、同様に世界から生み出された人間が美しいのならば。

 人間が生み出した彼らアンドロイド、それどころか全ての事物が美しいと。

 ならば俺は、彼らが本来の美しさを取り戻せるように手伝ってやろう。

 それは……世界が俺を蔑もうとも、俺自身に誇れる事なのだから。


──────────────────────────────

MD215年 7/5日 10:30


 江戸城の天守閣、いつもなら御簾の奥に座している筈の徳川は今日は芽衣子と共にその手前に両手を添え、頭を伏したまま座していた。

 天守閣と通路を繋ぐ、唯一の扉の前には芽衣子の秘書であるエンリコと徳川の副官である石元が片膝をつき、控えている。

 そして御簾の奥には……。


「はい、おはよー」


 田崎が胡坐をかいて座っていた、御簾の脇にはペスも控えている。

 肘置きに右肘を置きながら、軽く右手を振り、そして眼前に見える4名の姿を見るとこう言った。


「あー、しなくていいぞそういう堅苦しいの、俺以外の二人はそういう形式に拘るかもしれんが俺はそういうの好きじゃないし」


 と嫌そうな顔をしながら四人へ告げ、顔を上げさせる。

 徳川と芽衣子は不思議そうな顔をしながら頭を上げ、互いの顔を見合う。


「……何だよその顔は」


「いえ、そういった発言をされる方だとは思っていませんでしたので」


「うむ、儂が会った永村という男も優しい顔してそういった礼儀には厳しい男じゃったからのう……てっきりそういうタイプかと思って二人で打ち合わせしとったんじゃが」


「芽衣子様はもう少し礼儀と常識について学んだ方が……」


「うっさいわ!」


 徳川と芽衣子の発言、またエンリコとのやり取りに田崎は笑う。

 その様子を更に不思議そうな顔で見つめる3人。


「お前等面白れえなぁ……っと、まずは自己紹介だな」


 田崎はそう言って立ち上がると、正座をしている徳川の前まで行き、腰を落とすと右手を差し出す。


「俺は田崎、田崎龍次だ、よろしくな」 


「はぁ……あ、いえ、徳川戦です、以後お見知りおきを」


 差し出された田崎の手を、徳川の細く、だが何処か筋肉質な手が握り返す。

 その感触と反応に田崎は笑みを見せ、次に芽衣子へと手を差し出す。


「儂は芽衣子じゃ、よろしくの」


「おう、二人ともよろしくな。 さっきも言ったがあの二人と違って俺はそういうのに拘らないから、ある程度弁える所だけ弁えてくれや」


 握手を終えると、田崎は立ち上がりそう言った。

 田崎の言葉に徳川と芽衣子は不思議そうな顔をしながら頷く。

 そして田崎は先程自らが座っていた席の手前まで歩いていくと、ペスへと指示を出す。


「ペス、世界地図を映し出してくれ」


「了解しました」


 御簾の脇から、ペスは顔の部分から芽衣子達の前にウィンドウを映し出す。


「これは……?」


「お~……タブレットの画面かの? 宙に浮いているというのは少々面妖じゃが」


「遠見の水晶、というわけでは無さそうですが」


 突然浮かび上がった世界地図を写すウィンドウに、それを見ていた石元を除く3人は思い思いの声を上げる。

 

「驚きのところ悪いが説明に入るぞ、まずは今浮かび上がっているウィンドウが見えるな? そこに映っているもの、それが今の世界地図だ」


 驚く三人には反応せず、田崎は懐から指示棒を取り出し日本を指し示す。


「今俺達は北海道、それに本州部分を手に入れた訳だ。 んで次に沖縄……こっちだとオギナワだったか? 其処を手に入れ、その次にハワイを手に入れる!」


 田崎は北海道、本州を指示棒で指し示すと次いで沖縄、ハワイを興奮気味に指し示す。

 そんな田崎を芽衣子と徳川の二人はジト目で見つめる。


「あー……盛り上がってるところすまんのじゃが」


「セカイチズ、でしたか? その……それは」


「ん、あぁそうだが?」


「正直……初めて見るんじゃがそのセカイチズっちゅうのは」


「ん?」


 芽衣子の発言に、田崎の頭の上に?マークが浮かぶ。


「いや、だから初めて見たと言ってるんじゃが……徳川殿は知っておるか?」


「私も始めて見ました」


「んん? ちょっと待って、お前等もしかして……自分達が住んでる国の形も把握してないのか?」


「恥ずかしながら……天照教にて地図の作成は禁止されていましたので」


「儂はほらあれじゃよ、サツホロ治めるのに忙しかったからの! 地理把握はサツホロ周辺しかしとらん」


 二人は頷き、田崎は困った顔をすると世界地図に関しての説明を決意する。


「そっかー、世界地図すら知らんのかお前等……なら教えてやるか、しょうがねえなぁ」


 野沢雅子っぽい声で。


──────────────────────────────

MD215年 7/5日 11:00

 

 30分後、芽衣子と徳川、そしてエンリコへの説明が終わると三人は感心した顔をしていた。


「いやー……世界って広いんじゃなあ」


「えぇ、トウキョウ周囲の地理は把握していましたがこれ程とは」


「正直驚きです……」


「世界地図見せただけでこんなに驚いてくれるんなら幾らでも見せるわ俺……」


 と、見せた田崎本人も感心した顔をしていた。


「そういやさっき何たら教で地図の作成は禁じられて~とか言ってたが、何で禁止されてたんだ?」


「天照教です、何故禁止にされていたのかは存じませんが……少なくともトウキョウ以遠の地図は不要である為作成の必要は無いと」


「ふ~ん……後でその理由については本人に尋ねておくか」


 本人、という言葉に徳川は疑問を持ったが質問の言葉を投げかける前に田崎が言葉を続けた。


「とりあえず世界地図については以上だ、俺達は現状日本の首都だった東京周辺と北海道を手に入れたことになる」


 そして左手に持っていた指示棒を何度か右手の平に打ちつけると、田崎は沖縄とハワイを指し示す。


「そして次は……さっきも説明したが沖縄とハワイへ進軍する」


「勢力拡大という意向については承知しました、しましたが……どうやって進軍するおつもりですか?」


 徳川の言葉に芽衣子は頷く。


「うむ、先日兵力の摺り合わせ等はこちらで行ったがぶっちゃけると大規模進軍等出来る程物資等は無いぞ?」


 そして芽衣子は後ろを振り返り、エンリコへ目線を向ける。

 するとエンリコは頷き、手に持っていた紙を田崎へ渡す。


「こいつは?」


「現状のサツホロとトウキョウの軍事力の数値じゃ」


 渡された数枚の紙を、田崎はぺらぺらと捲っていく。

 中には札幌の現状と使用可能な兵力、そして都市を防衛する為に必要な兵力が。

 そしてその後ろの紙には同じ項目が並べられており、東京についても書かれていた。


「正直トウキョウとの戦いや遠征に人や金を使いすぎでの、これ以上サツホロからは何も出せん。 都市機能を止めろって言うなら話は別じゃが?」


「こちらにはまだ多少の余力はありますが……そちらとの戦いで失った兵やその兵達の家族へ払う費用などがありますので厳しいと言わざるを得ません」


「ふむ、ってことは今すぐ沖縄へは進軍は出来んか。 どの位で動く目処がつきそうだ?」


 田崎はペン回しの要領で指示棒を回しながら、徳川と芽衣子へ目を向ける。


「う~む……こっちは半年位は無理そうじゃの、民間に任せた開拓に関する問題もある事じゃし」


「こちらも三ヶ月程度は掛かるかと、徴兵を今から行うにしても練度が足りません。 教育の期間や資金調達、それに都市の防衛についても考えるとその程度の期間が必要かと」


 二人の言葉を聞き、田崎は渋い顔をする。


「最低でも三ヶ月、その間にマンジェニがアフリカを食い尽くしちまうか……?」


「……マンジェニ?」


 田崎の言葉に、徳川が反応する。

 だが当の田崎はそれに気づいていない様で、今後について思考を巡らせていた


「動かせないものはしょうがねえ、か……おし、分かったわ! 今回の会合はここまでにしておく!」


 そして手に持っていた用紙を丸めると白衣のポケットへ納め、両手を叩く。


「長々と時間取って悪かったな、次の会合する時は連絡するからその時はよろしく頼むわ」


「はぁ……」


「う~む……異質じゃ、何でこんな気のいい男が管理者なんてやっとるんじゃ……」


 田崎の言葉に、徳川と芽衣子は顔を見合わせる。


「あん? 別に俺は気の良い……いや良い奴かもしれんが、少なくとも管理者をやってる理由はちゃんとあるぞ」


 そして田崎は右手に握りこぶしを作り、腕を上げる。


「俺には夢がある! 俺が目指すのは真に強者が生きる世界だ! 力を行使する自由、法の庇護など必要は無い!」


 田崎は右手を上げたまま二人の後ろを向き、左手も少しずつ上げていく。


「勿論誰かが力を行使すれば争いは生じる、だがそれでいい。 それこそが俺の望む国家だ。 真に美しい闘争の世界だぁ!」


 そして両手を挙げ、顔も上へ向ける。


「しかしその世界で争うのは人間だけでなくてはならない……魔族は自然発生した訳ではなく、外部要因で発生したものだからな」


「「……………………」」


 田崎が突然始めた演説に、二人は呆然とする。


「故にお前達を利用した上で滅ぼして、再び人類を繁栄させる! それが俺達──いや、俺の夢だ」


「ん? 今ちょっと聞き捨てなら無い事が聞こえたんじゃが? 利用した上で──」


「私達を、滅ぼす?」


「そうだ! 当然お前達は反発するだろう、だがそれで良い! 最終戦争前のあんな理想も信念も無い戦いよりはな!」


 そして田崎は振り返り、二人へ順番に指を指す。


「……お前達も何れ、俺達の利益の為に戦うのではなく己の理想や信念の為に戦う日が来る」


「つまり、造反について咎めるつもりは無いと?」


「裏でやる分にはな、当面は俺達の指示に従って勢力を拡大するといい。 それが十分に集まって造反する気になったんなら……その時は盛大に闘争ろうじゃねえか」


 徳川は片目を開き、田崎へ問いかける。

 その問いかけに田崎は頷き、両手を組む。


「その意見は、お主達……つまり管理者達の総意でええんじゃな?」


「そうだ、永村や山坂は隠すかもしれんが何れ俺達はお前達を皆殺しにする」


「そうか……それが聞けたのならもう聞きたいことは無い、儂は退出させてもらうぞ? 会合はもう終わったらしいしの」


 芽衣子は問いの答えを聞くと、座布団代わりにしていた自らの蛇の足をずらし起き上がる。

 それを見て、沈黙していた徳川も立ち上がる。


「貴方の理想、確かに聞かせていただきました。 個人的に嫌いではありませんが……私は民を導く者として貴方の意見に頷くわけにはいきません」


 徳川の言葉を聞き、田崎は笑みを浮かべる。

 そして徳川と芽衣子、そして秘書のエンリコと石元達は天守閣を退出し、部屋に残ったのは田崎、ペスの二人だけとなる。


「宜しかったのですか? 我々の計画を彼女達に教えて」


「良いも悪いもねえ、何れは戦うってんなら先に教えておいてやるのが優しさってもんだ」


「私の辞書に登録されている優しさと言う言葉からは随分かけ離れた優しさです」


「言葉ってのは時代と共に変わるものだからな」


 そして田崎は背筋を伸ばし、天守閣から東京を眺めた。

 千年前、日本の首都として機能していた街。

 経済が悪化し上位国から転落し、アメリカの属国と成り果てていた日本。

 主義も主張も無く、金の為に兵器を作り続けた国。

 最後まで己の理想の為に立ち上がろうとしなかった国を。


「そして今やビルの残骸には植物が生え、その姿は見る影も無い……」


 田崎は再び右手を掲げると、ぐっと拳を握り締める。


「だが、必ず俺が取り戻してやる。 命が再び輝ける……真の闘争の世界を!」


 その姿は、太陽を握っているようにペスには見えた。



ペーパーテストを受けることになったがSPIが苦手なので初投稿です。

誰か助けて!

投稿ペースは不定期ですが最近月曜日に毎週更新してるからもう毎週月曜日更新(速くなることもある)でええんとちゃう?


真の闘争の世界  赤緑黒②


エンチャント


全てのクリーチャーは可能なら毎ターン攻撃を行う。

全てのクリーチャーは速攻、トランプルを持つ。

クリーチャーが戦闘でクリーチャーを破壊するたび、そのクリーチャーに+1/+1カウンターを一つ置く。


───「弱者は駆逐される、強いものだけが残る! それが俺の望む、真の闘争の世界だ!!」

破壊する者、田崎

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