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人類ガバガバ保護記   作者: にっしー
東京侵攻編
67/207

原因

MD215年 6/16日 19:29


「死ねよやーーーーーー!!」


 山坂の声が戦場に響き渡り、引き金を引く。

 その声は、徳川戦の気を引くには十分に大きすぎるものだった。

 引き金を引かれた空間管理鍵はその先端を輝かせ、天照、そしてその前に壁として立ちふさがる石元へと不可視の波を放つ。

 その波は高速で突き進み、石元を中心に空間を円形に完全に削り取ってしまう。

 削り取られた範囲は石元を中心に5メートル程で、地面はすっぽりと半円形を描きながら切り取られていた。 


「ふふ……フハハハハ! やったぞ、ざまぁみろ!!」


 山坂は石元と天照、そして地面の重さを吸った鍵の重さも忘れて一人戦場で諸手を上げて喜んでいた。


「そんな……! 石元、石元っ!!」


 石元消失の瞬間を目の当たりにした徳川は、札幌の兵士達の迎撃を止め石元が居た場所へと走ろうとする。

 しかし駆け寄ろうとする徳川の右足を矢が貫き、地面へ倒れこむ


「仕留めた、仕留めたぞ!! 確保しろ!!」


 札幌の兵士が弓を番えたまま叫ぶと、レオニンの兵士達が得意の投網を用いて徳川の身動きを封じる。

 更にその投網の上からリザードマン数人が圧し掛かると、首筋へ剣を当てる。


「くっ……、おのれ!」


「よぉし、中々やるじゃねえか貴様等! 褒めてやるぜ!!」


 諸手を上げて喜んでいた山坂も徳川の叫び声にここが戦場であった事を思い出したのか。

 駆け寄ろうとする徳川を視認したまでは良かったが、何も止める手立てが無いと思っていたところに札幌の兵士達が彼女を仕留めたのである。

 魔族に対して特段良い感情を持っていない山坂にも、今この時は感謝の念が浮かぶ。

 そして一瞬浮かんだ感謝の念をすぐさま首を横に振って振り払うと、反対側で未だアデルと戦っている伊織の方を向く。


「おいごらぁ! そこのクソ侍!」


 山坂は伊織へ叫ぶと、アデルの腹部へ蹴りを放ちその反動で後退して山坂の方を向く。

 伊織の振り向いた顔はいつものへらへらとした軽薄な顔だったが、その軽薄さは直ぐに消える。


「総理殿……!」


「総理? まあ何だか知らんが、これで王手だ! その女を殺されたくなけりゃ今すぐ武器を手放して投降しろ!」


 山坂はふらふらと左足だけで立ちながら、徳川へ向けて銃口を向ける。

 その顔は完全に勝ち誇った顔をしており、相手を見下すような顔である。


「伊織、私に構わず暴れなさい! その男を許してはいけません!!」


「さぁ、さっさと武器を捨てろ! この女の綺麗な顔が炭になる所を見たいわけでもあるまい!」


「えぇ……いきなりそんな一気に言われても拙者困るでござる」


 徳川と山坂の両方に同時に違う言葉を言われ、伊織は困惑する。

 伊織にとって見れば、突然呼び止められたかと思うと上司は人質となっており、その人質となった上司は自分を見捨てろと言う。

 だがそこで伊織は気づく、石元が居ないと。


「う~む……む? そういえば、石元はどうしたのでござるか? それに天照様も」


 伊織は未だ剣を構えたまま、徳川へと問いかける。

 その問いに徳川は顔を俯け、言葉に詰まりながら答える。


「石元は……石元は……! その男に消さ、れました……」


「何?」


 徳川の言葉を聞き、伊織の目が鋭くなる。

 その目は猛禽類を思わせる目であり、見られる物に等しく恐怖を与えた。


「うおっ!? そ、そんな目で見るなよこえーだろ! まあ戦争に犠牲はつきものだ、これ以上の犠牲を出したくないんなら──」


「虎牙伊織!! やりなさい! これは総理としての命令です!!」


 山坂の言葉を遮り、徳川が叫ぶ。

 その声には悲痛な叫びも混じっているように周囲の者達には感じられた。


「……御意」


 徳川の命令に、伊織は刀を握る両手に力を込め、構える。


「え、え? 嘘!? 何なのこの連中!? 信念とか絆とか恨みとかそんな感情で足掻くの!?」


 徳川の叫びと伊織のその構えを見た山坂は、一瞬その行動が理解できず慌てる。

 確かに伊織が暴れればこの戦場に居る72名の兵士は一瞬にして切り殺されるだろう、だがこれ以上の戦いは無駄でしかないというのは相手も理解している筈。

 伊織が動けば確実に徳川の首は飛び、この後伊織がこの地の兵士を皆殺しにしてもその後東京は治世の問題で荒れるだろう。

 だがそれすら覚悟の上なのか、伊織は腰を深く落とし、今正に地面を蹴ろうとしていた。


「くそ! 貴様等、その女を──」


 山坂は伊織が動く前に徳川を始末させようと振り返り、言葉を切った。

 彼の目線の先には、金髪の髪を靡かせながら所々土で汚れた、およそ戦場には似つかわしくないピンク色の甲冑と下半身ほぼ丸出しの格好の痴女が立っていたのだ。


「そこまで!!」


 その痴女が叫ぶと、兵士達、そして徳川や伊織の視線もその痴女へ集まり、静寂に包まれた。

 

「これ以上無益な戦いを繰り広げる必要はありません! 双方武器を降ろしなさい! さもなくば……このベル・バスティーユが許しませんわよ!」


 突如現れ、そして正気とは思えない格好をしている女に皆考える事を止めていたが。


「ベル!?」


 一番最初に正気に戻り、静寂を破ったのはアデルだった。


「えぇ、お久しぶりですわねアデルさん、しかし再開の挨拶は後で致しましょう」


 ベルは笑顔を作り、軽く右手を挙げアデルへ挨拶をすると再び真顔へ戻り山坂達を見る。


「お、おぉー……目のやり場に困るご婦人が……すまぬがご婦人、春を売るのは後にしていただきたいのでござるが」


 伊織はベルの格好を見て目のやり場に困りつつ、いつでも戦闘に入れるように武器を構えていた。


「は、春!? んもう、人が真面目に話をしに来たのに何を言っているんですの!?」


「いやぁ、でもその格好は正直そういう風に見えてもおかしくないよなぁ?」


 ベルの格好を見た山坂も、伊織の言葉に同意して伊織の顔を見る。

 伊織は頷き、二人は満面の笑みを作る。


「全く……これだから殿方というものは、って私の格好は良いんですのよ! まずは武器を降ろしなさい!」


「えー、しかしなー、上司の命令でござるしー」


「ではその命令を撤回させれば宜しいんですのね?」      


「まあ……そう言う事になるのでござろうか?」


 伊織は構えを解くと、右手で頬を書きながら頷く。

 その返事にベルは真っ直ぐ徳川の場所まで歩いていくと、彼女の上に乗っていたリザードマン達へ降りるように命令する。


「さ、貴方達……その女性から降りなさい、元より勝敗は付いています、その女性も今更逃げるような事はしませんわ」


「え、いや、しかし……敵の大将首……」


「い い か ら !」


「は、はい!」


 反論してくるリザードマン達へ、ベルは語気を強めるとそれに気圧されたのか身の丈2メートルを超えるトカゲの大男達は一斉に徳川の上から飛び退く。

 そしてベルは屈み込むと、徳川へと手を差し伸べる。


「見事な戦いぶりでしたわ、徳川戦さん」


「……敵の手を借りるつもりはありません」


 徳川は差し伸べられた手を無視すると、自らの力で立ち上がる。


「お、おいこらぁ!? 何勝手に敵の大将解き放ってんだ!」


 その一連の流れを見ていた山坂は、ベルへと叫ぶがベルはそれを無視する。


「えぇ、確かに今は私達は敵ですわ、しかし分かり合えるはずです、少なくとも……私と石元さんはそうでした」


「意味が分かりませんね、少なくとも私は石元を殺した貴方達を許すつもりはありません」


 立ち上がった徳川に、ベルはしっかりと向き合う。

 ベルの身長よりも10センチほどは高い徳川は、冷めた目でベルを見下ろすがベルはしっかりとした顔で見つめ返す。


「では誤解を一つお解きしますわ、石元さんは死んではいません」


「……!? 戯言を、私を騙そうと言うのですか?」


 ベルの言葉に徳川は怒ったのか、眉を吊り上げ拳を握り締める。


「嘘ではありませんわ、あの方が使った鍵は狙った範囲の人間や品物をあの鍵の中に仕舞うというものです、そうですわよね? マン=モン様」


 ベルが顔を左へ向けると、何も無い空中に徐々に土鍋の様な物のシルエットが浮かび上がる。

 その土鍋の蓋を開けると、中からマン=モンが疲れた顔をして飛び出す。


「そこでウチに振るんかい……」


「えぇ、助けていただいたついでに貴方の商品の説明もしていただこうかと思いまして」


「マン=モン? 貴方……何故この地に」


 突然のマン=モンの出現に徳川は驚いた表情を見せる。

 徳川にとってマン=モンはがめつい商人という印象しか無く、こういった場所に現れるのも今見た突然現れると言った事も想定外なのだ。


「色々ありまして……それはともかく、ウチがあの旦那に貸した鍵は今そこの金髪のお嬢さんが言うた通りやで」


「では……本当に石元は生きているのですか?」


「と思う、いやウチあの鍵拾っただけやからな……あの旦那の方が詳しいと思うで?」


 マン=モンはそう言って山坂を指差すと、徳川とベルは同時に山坂の顔を見る。

 その視線に、山坂は少し腰が引ける。


「うおお! 女にそんなに視線を集められると心が辛い! つーか貴様何やってんの!? 敵の親玉折角捕まえたのに離すとか!」


「無意味な戦いになりそうだったので止めようと思っただけですわ、お礼は要りませんわよ?」


「しねーよ! 礼を言う必要すら感じてないわ!」


 ベルの言葉に山坂は怒鳴り返すと、舌打ちをしながら地面へ腰を下ろした。


「ちっ……まあそうだ、そこの商人が言うようにさっきの女どもは生きてるよ」


 山坂はそう言って手に持っていた鍵を左手で軽く叩く。


「そう、か……そうか」


 徳川はその言葉を聞き安堵したのか、腰をストンと地面に落とし座り込む。

 

「んで、結局戦うのか?」


 山坂はめんどくさそうに徳川へ話しかけると、徳川は首を横に振る。

 それを見た山坂は口角を吊り上げると、伊織へ目線を向ける。


「zzz……」


「寝てるのかよ」


 伊織は立ちながら眠っており、山坂は思わず突っ込みを入れる。


「あー……えっと、つまりどうなったんだ?」


 と今までの会話の流れについてこれなかったアデルが質問を投げかける。


「終わりだよ、終わり、僕達の勝ちだ」


「え、マジか!? やったぜ!!」


 その質問に山坂が答えると、アデルは右手を上げて喜び始め、回りの兵士達も歓声を上げる。


「どうやらこれ以上の無益な戦いは避けられたみたいですわね……良かったですわ」


「ふん……馬鹿馬鹿しい行為だったな、無駄じゃあなかったが」


 そんな兵士達を見ながら、胸元に手を置きベルは安堵した表情を見せる。

 それに山坂は溜息を吐きながら悪態を吐く。


「素直じゃありませんのね、管理者様は」


「素直な感想です~」


「では素直に受け取っておきますわ、ですが……私は今回貴方が取った戦術や戦略については認めませんわ、あんな非人道的な魔術を行うなど……」


 山坂を横目で見ながら、ベルは山坂の悪態へ返す。

 そして今回の山坂の行いを批難する。

 それに対して山坂は鼻を鳴らすと、地面へ寝転がる。


「好きに言え、とりあえず同僚どもが五月蝿いんで俺は一旦帰る」


「帰る? サツホロにですの?」


「説明する義理は無い、とりあえず敵の大将とそこで寝てるクソ侍は丁重に扱ってやれ、じゃあな」


 そう一方的に山坂は告げると、山坂は寝転がったまま動かなくなる。

 そして手元の空間管理鍵が閃光に包まれ、消失する。


「……じゃあなって、え? ちょっと! ちょっと!? 何なんですの!? あれ、息してないですわ!? い、癒し手の方! 急患ですわ~~!」


 言葉を告げたかと思うと、突然動かなくなった山坂へ駆け寄る。

 そして呼吸音が停止している事を確認すると、ベルは慌てながら癒し手を呼ぶのだった。


──────────────────────────────


「んん……ふぁぁ~あ……起きるのだり~」


 半透明なカプセル状のポッドから山坂は身を起こし、欠伸をした後自らが着けていたバイザーを外す。

 そして周囲を見渡すと、そこには山坂の同僚である田崎、永村が椅子に座っていた。


「やっと起きたかこの馬鹿は、やっぱり無理やりあっちとの接続を切るべきだったんじゃないか?」


 田崎は寝惚けた様な顔の山坂を見て呆れる。


「いやー無理に切るのはねー、一応今回は山坂君の番だったし、暫くは彼の番無いけど」


 永村は右手に持ったお茶を飲みながら、少し険しい目で山坂を見つめる。


「何だよお前等そんな顔して」


 そんな二人の様子を見た山坂は二人へ惚けた様子で尋ねると、二人は同時に溜息を吐く。


「「はぁ~……」」


「え、何、その反応は」


「永村、頼むわ、俺こいつ殴っちゃいそう」


 田崎はこめかみに右手を当てながら、永村へ説明を促す。


「はいはい、んじゃ山坂君落ち着いて聞いてね」


「ああ!」


「三神の内、タリブ、マンジェニがここから消えた」


「はいいいっぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」


 その日、エクィロー内部に山坂の本日一番の叫び声が反響し続ける事になる。



急に晩御飯が蒸発したので初投降です

次:三神が蒸発したら


サツホロの弓兵  赤


クリーチャー:兵士


(T):対象のクリーチャーかプレイヤーに1点のダメージを与える


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