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人類ガバガバ保護記   作者: にっしー
東京侵攻編
65/207

異変

https://www.youtube.com/watch?v=iYAaN9EMpE0

Requiem for a dream

MD215年 4/16日 


 この地に移り住んで、もう長い年月が経った気がする。

 中央からこの不毛の大地へと農耕──事実上の死刑宣告──の仕事を与えられて既に二年が経過している。

 たかが二年と人は言うだろうが、この地での二年は途方も無く長く感じた。

 不毛の地アーフ、中央に住む連中はここをそう呼ぶ。

 最終戦争以前、この地はアフリカと呼ばれていたらしいが今の呼び名はそれだ。


 理由は幾つかあるが、やはり最大の原因はあの生物……ワームのせいだろう。

 一体何時、どうやって生まれたのかははっきりとしていないが少なくとも連中がこの土地にとって害悪であるということは間違いない。

 地面の中を蠢き、移動するだけで土地の表層は使い物にならなくなる。

 更には金属で出来た表皮に人間や魔族、時には家や丘、土地そのものすら飲み込んでいく巨体。


 正直中央──あのクソ役人ども──からここへの農耕を指示された時はこれ程長く生きていられるとは思っていなかった。

 何せ最初に渡されたのは鍬や鋤、それに荷物運搬用の蟷螂一匹──こいつだけで俺達を殺せると思ってたんだろうが見込みが甘かったな──だけだからな。

 だが同じく中央から飛ばされてきた友人達と協力する事で、今日まで生きていく事が出来た。

 これからも彼等と手を取り合い生きていこう……俺達ならそれが出来るはずだ。

 さぁもう寝よう、明日もまた農地を荒らすグレムリン退治やワームへの対策で仕事が一杯だからな。


 ───アーフ農業地総督、アベ=チャン。


──────────────────────────────


MD215年 4/21日  


 厄介な事になった。

 まさか私の娘がここに飛ばされてくるとは……!

 中央の馬鹿どもはどうやら俺だけでなく俺の家族も殺したいらしい、利権主義に凝り固まった屑どもめ!

 だが一番の問題は娘が友人のミナ=チャンに一目惚れをした事だ、俺の目が黒い内は娘は嫁にはやらんぞ!


 いやそんな事は良い。

 だが中央から私の娘が送られてきた事は問題だ……今日も既に二人がワームに飲み込まれている。

 出来れば娘を中央へ送り返してやりたいが、ご丁寧に連中は総督とそのご家族用にと『従者』を送ってきた。

 要するに見張りだ、これでは娘を秘密裏に安全な場所に送る事も出来ない……。

 だが連中も完璧な訳ではない、何れ隙を見て娘を安全な場所に。


 それまではこの日記帳に日々の記録を残していこう


 ───アーフ農業地総督、アベ=チャン。 


──────────────────────────────


MD215年 5/23日


 一昨日、中央から農場──最近ここはそう呼ばれているらしい、悪い気分ではない──送りになった奴らがここへ向かっていた。

 向かっていた、と過去形なのは要するに連中を運んできた蟷螂が奴等を食ったからだ。

 数日前に娘のお目付け役が新しい農場送りが来ると伝えてきた。

 だが中央の連中が指定した場所には12人分の部位を食いながら巣を作ろうとしている蟷螂が一匹居るだけだった。

 ふざけた連中だ、俺達を中央から追放しておいて軌道に乗りそうになると妨害をしてきやがる。

 

 しかし一つ疑問がある、あのお目付け役の連中はどうやって中央の奴等と連絡を取り合っているんだ?

 今度それとなく聞いてみるか……?

 とりあえず、この事については調べてみる価値がありそうだ。

 そういえば娘だが、やはりミナ=チャンにべた惚れらしい。

 確かに蟷螂の乗りこなしや功夫は素晴らしいし、仕事もそれなりに出来るが……。


 それでも俺はまだ娘をやる気は無い!

 だが娘がそれで幸せならやはりやった方がいいのか……?


──────────────────────────────


MD215年 5/31日


 やったぞ! ついに村を悩ませていたワームの一匹を討伐する事に成功した!

 全長はおおよそ7メートル、全高はおよそ2.3メートルと言った所だろうか。

 こいつの皮膚に刃を通すのには苦労したが、こいつの皮膚を使えば村を覆う防壁として役に立つだろう。

 加工することが出来れば俺達が着る鎧や武器になる。

 それとワームは今まで食べられるとは思っていなかったが実際は美味である事が判明した。


 目の無い頭部、異臭を放つ全てを飲み込む口、終わりが無いように見える胴体。

 これら全てが加工、あるいは調理する事に使える! 素晴らしい!

 だがこの発見は中央の連中はまだ知らないが……何れあのお目付け役連中が報告するだろう。

 それだけは許すわけにはいかない、折角の発見や資源を中央に搾取されることだけは。

 この発見は農場送りになった俺達を救う発見かもしれない……となれば懐柔か、あるいはあの連中の始末を考えなければならない。


 明日折を見てミナ=チャンと話す事にしよう。

 最近気づいたのだが、あの男は顔がそれなりに良いだけではなく腕も立ち知恵も働く。

 今では村の中核に居る存在となっている。

 俺は総督としてこの地に居るが、こんな地位は所詮中央の連中が俺に与えたお飾りの名に過ぎない。

 そろそろ代替わりの時期ということか。


 今晩娘にミナ=チャンとの結婚を許可してみよう。

 きっと喜ぶだろう。

 アーフの僻地、飲み水に出来る川以外は何も無い痩せた土地だが……それでもあの二人には幸せになって欲しいものだ。

 

──────────────────────────────


MD215年 6/16日


 柄にも無く大泣きしてしまった。

 あの子が生まれた時に妻とは死に別れ、あの子だけは何があっても守ろうと決めていた。

 ここへ送られてきた時は中央の連中を心底憎んだが、今ではその気持ちも何処かへ吹っ飛んでしまった。

 あの二人の笑顔を見ていると、後世に何かを残すと言う事の意味を実感できる。

 きっとあの二人の子供──何とあの二人は結婚を許可する前に既にヤっていた、信じられん!──はこの地を豊かな物にしてくれるだろう。


 しかし結婚式が終わったあとだから良かったが、あの大きな地震は何だったのだろうか。

 北にある水源の湖……そちらの方からかなりの轟音──俺には轟音というよりも咆哮に聞こえた──も聞こえてきた。

 湖からは何十キロも離れているというのに……。

 明日、ミナ=チャンが蟷螂に乗って様子を見に行くとのことだ。

 俺は結婚したばかりのお前が行く事は無いと止めたのだが、娘に良い所を見せたいと言って聞かなかった。


 良い所も何も単なる調査なのだが……ともあれ本人のたっての希望であるなら許すほかは無い。

 恐らくワームが湖で水浴びをしているだけだとは思うが、彼が無事に帰ってくることを祈ろう。


──────────────────────────────


MD215年 6/23日


 調査に出た者達が帰ってこない、今日でもう一週間になる。

 調査にはミナ=チャンを含め五人と蟷螂を五匹送っていた、何れも功夫の手練である。

 道中気を抜いて騎乗していた蟷螂に食い殺されているということは無いだろう。

 となると……やはりワームだろうか?

 だが蟷螂の飛行速度でワームに追いつかれるというのは奇妙だ……もっと違う何かが彼等を?


 それにしても、泣いている娘を見るのは辛い。

 今は彼等の無事を祈りながら追加の調査隊を出すしかない。

 幸いな事にお目付け役だった連中は、今は俺の部下だ。

 彼等を連れて明日、俺も調査に出向く事にしよう。


──────────────────────────────


MD215年 6/24日 


 今も手の震えが止まらない。

 字を書く事を辞めると、私が私で無くなってしまう様な気すらしてくる。

 一体何だったんだ? 俺が先ほど村の外で見た一匹の化け物は。

 今日の昼頃、調査へ出ようと思っていた俺達はそれを見た。


 それは黒色の皮膚と弾力のある肌を持ち、頭部には顔がなく、代わりに目の位置には横線が入り、肘の部分から二又に分かれた腕、足の代わりに生えた無数の触手。

 そして動くたびに地面を灰色へと変えて、それに触られた者をそれと同じ存在へ変えてしまう。 

 正直、勝てた事は奇跡に近い、今でも何故勝てたのかが疑問だ。

 劣勢だった俺達は集会所まで押し込まれ、もう駄目かと諦めていたが……俺の娘を見た奴は動きを止めたのだ。

 俺達はその隙を突いて生き残れた。


 あれは、一体何だったのか。

 それに一つ気になる事がある、あの化け物のトドメを刺した時にあの化け物は確かにこう呼んでいたのだ。


「アベ=チャン」


 と、確かに俺の名を。

 恐ろしい想像が頭を過る、これ以上考えてしまいたくは無い。

 もしかしたら、私の娘を見て動きを止め、そして私の名を呼んだあの化け物はもしかしたら……ミナ=チャンだったのではないか、と。

 

 もう眠る事にしよう。

 明日は村の再建についての案と死んだ者達を弔う必要がある、また明日から頑張らねばな。

 

──────────────────────────────


 俺は日記帳にそこまで書き綴ると、ペンを置き日記帳を閉じた。

 時刻は既に12時を回っているだろうか、窓の外には星が煌き───


「!?」


 馬鹿な、馬鹿な馬鹿な馬鹿な!?

 何故、何故お前がまだ生きている!?


「お父様? 私ですが少しお話を───」


 背後の扉から、娘の声が聞こえる。

 いけない、とそう思っているが体は全く反応しない。

 私の心だけが自由だった、肉体は完全に恐怖に支配されていた。

 そして扉が開き、悲鳴が上がる。


「きゃあああああああああ!」


 娘も見てしまった。

 窓に! 窓に!! 

 ミナ=チャン、そして先週調査に向かわせた者達の顔が連なった化け物が張り付いている事を!!


「タダ……マ……イマ………マァァァァアアアアアア!」


──────────────────────────────


 『私』は何を思い悩んでいたのだろう。

 私はかつて中央の連中を憎み、環境を憎んでいた。

 だがそんなものは、全て消し去ってしまえばいい。

 今の私にはそれが出来る。

 何故ならば私は一人ではなく、『娘』も『ミナ=チャン』も『村の皆』も『一緒』だからだ。


 神よ……感謝します。

 そしてどうか我が身をお使いください。

 偉大なるマンジェニ、時の果てより来たりし者よ。

突然毛色の違うホラーなんて描いてどうしたのかとか思われるかもしれませんがこれは大事なお話です

次は日本での戦争のお話に戻ります。

明日くらいには投稿できるかな

次:原因


農業地総督、アベ=チャン 緑緑


貴方は農業地総督、アベ=チャンが居る限り貴方のターンに追加で土地を一つプレイしても良い。


伝説のクリーチャー:エルフ


3/3

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