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人類ガバガバ保護記   作者: にっしー
東京侵攻編
64/207

本当に空間管理鍵を使ったら

https://www.youtube.com/watch?v=WYXXmjL-u5s

鬼が島

2418年 4月22日


「それじゃ、かんぱーい!」


 広い室内にグラスを打ち付ける音が響き渡る。

 その室内に集まっていた3人は皆、思い思いにグラスに口をつけるとそれを飲み干し、笑いあう。


「ガハハハハハ! これで地上はワシ等魔族のもんじゃ、目出度いのぉ!」


「皆さん、今回はお疲れ様でした」


 彼等は巨大な長机に距離を置いて座りながら、一人の白髪の男が立ち上がった。


「本日はこの宴へお越しいただきありがとうございます、と言っても半分以下の参加ですが」


 と言って、その男は残りの空席を一瞥する。

 席は合計で7つ用意されており、その内4つが空席であった。

 机に用意された豪華な食事も、どことなく寂しさを漂わせていた。


「ガハハ、しょうがあるまい? 黄龍の奴はそもそもでかすぎて入れんし、アリスに至ってはこういう催しには興味ないからのぉ!」


 白髪の男の発言に、身の丈3メートルは超えるであろう牛の姿をした魔族が笑って答えた。


「ワシ等だけで楽しむしかあるまいて! なぁクレケンズに天照!」


「うんうん、そーしよそーしよ! 残りの面子は個人的に嫌いだし~、あ、グラーバその揚げ物ちょうだい!」


「おう、好きなだけ取っていいぞ!」


 グラーバと呼ばれたその牛の男は、近くにあった皿を手に取るとそれを天照へと放り投げる。

 皿は空中でゆっくりと移動すると天照の手元へ着地し、天照はそれを箸で食し始める。


「う~ん、グッドグッド~! やっぱり揚げ物はドラゴンのから揚げに限るわよねぇ、この太股の部分がジュースィー……」


「ガハハハハ! そんなに食うとまた太るのではないか? この間もやれ体重がと……うごぉ!?」


 天照にとっては図星なのか、そんな発言をしてきたグラーバの頭部へ天照の指先から光弾が飛ぶ。

 

「んも~、女の子にそんな事言うなんてプンプンだぞ!」


「女の子という年齢でも……ぐわぁ!」


 再び光弾が飛ぶと、グラーバもそれ以上は食らいたくないのか黙ってしまう。

 天照はそれに気を良くしたのか、再びドラゴンのから揚げを頬張りながら追加の飲み物を脇に控えるメイドへ注文する。


「ハハハ、いやーお二人は仲が宜しいですね」


 クレケンズは天照の注文を受けていたメイドに更に追加の注文をすると、席へと座る。


「え~、そんなに仲良くないし~」


「む、そうだったのか? ワシはてっきり親友かと」


「流石に毎日野生動物と戯れてる牛と親友はちょっとねぇ……」


「むぅ、動物の何が悪い!」


 動物を馬鹿にされたと思ったのか、グラーバの顔が見る見るうちに真っ赤に染まっていく。

 その勢いは頭部から雄雄しくそり立つ二本の角すら紅く染め、湯気でも出るのではないかというような速さである。


「まぁまぁ二人とも……ともあれ今回は終戦記念にお集まりいただきありがとうございます」


「ぬぅ……まあオヌシがそう言うなら、しかし改まってどうした?」


 クレケンズが諌めると、グラーバは直ぐに落ち着きを取り戻し手元の食事を食べ始める。


「えぇ、実は皆さんにお知らせしておきたい事がありまして」


 お知らせと告げるクレケンズの顔を見た天照はげんなりした顔をする。

 そんな天照の心境も露知らず、グラーバは興味津々と言った顔でクレケンズを見る。


「嵌められた……残りの連中、これ知ってて来なかったのね……」


「お知らせと? オヌシの教えはいつも為になるからな、是非聞こう!」


「えぇ、実は……」


──────────────────────────────


MD215年 6/16日 18:47


「エクィロー(時の果て)……ね……」


 そこで私は意識を取り戻した。

 どうやらまだ私は生きているらしい、酷い吐き気や倦怠感を感じるが直ぐにここが戦場であった事を思い出すと自分の体について確認を始める。

 五体……良し、霊力……著しく低下、十全の力が使えると言う訳じゃないわね。

 確認を済ませた私は立ち上がり、改めて周囲を見渡してみる事にした。

 けれど直ぐにそうしたことを後悔することになった。


「……酷いわね」


 私の周囲には白骨の死体や、自ら喉を掻き毟り自殺した死体があった。

 だがそんな物はまだ序の口であり……更に遠方の周囲には肉体の一部が溶け、内部が見え、人の形を保てていないが尚生きている兵士。

 他にも先ほどまで戦っていた化け物と溶け合い、最早口頭で説明する事すらし難い存在となっている者まで居た。


「これが奴等のやり方ってわけね……ほんっと、最低」


 そこで私の意識は澱み、暗くなっていった。

 

──────────────────────────────


「エクィロー?」


 天照は、その聞きなれない名前についてクレケンズに問い返した。


「えぇ、それが人類保護を謳う彼等の名前だとか、もしかしたら本拠地の名前かもしれませんがね」


「人類保護ねぇ……別に放置でいいんじゃないの? 現状の地球の総人口で未だに人類で在り続けてるのって3%も無いんでしょ?」


「そうですね、現状地球の人口のほぼ全てが我々変異種──いえ魔族と言って差し支えないでしょう」


「だったら……」


「軽視は出来ません、彼等は霊力と我々魔族の根絶を掲げていますからね」


「ふ~ん……それで?」


 クレケンズの発言に、天照は興味無さそうに机に頬杖を付きながら問い返す。


「それで? とは?」


「天ちゃん達を集めた理由、態々そんな警告しに来た訳じゃないんでしょ?」


「貴方のそういった聡明さは実に好ましいですね」


 クレケンズは微笑み、頷く。


「天ちゃんはあんたのそういう人を巻き込まなきゃ生きていけないタイプ嫌いだけどね~」


「手厳しい、では本題に入りましょう、そのエクィローが行動を始めた、もしくは始める兆候を感じ取ったら私に連絡して欲しいのです」


 連絡、と言う言葉に天照の顔が更にうんざりした顔になる。


「嫌、そもそも連絡手段が無いし」


「えぇ、そう言うと思って実は貴方達の住居に連絡用の耳を送っておきました」


「は?」


「それと僭越ながら、天照さんはもう少し寝所の片づけをなさった方が……」


「信っじられないんだけど! 何勝手にそんな事してるわけ!?」


 天照は食事の乗った机を両手で叩くと立ち上がり、クレケンズを睨み付けた。


「申し訳ありません、ですが言っても断られると思いまして……」


「当たり前じゃないの! だから嫌なのよあんたに会うのは!」


 そう言うと、天照は怒りの形相を保ったまま出口へと歩いていく。


「おや、どちらへ?」


「帰るのよ!! 帰ってその耳とか言うの引きちぎって、その後はあんたの耳を引きちぎってやる!」


「そうですか、では天照様がお帰りだ、ご案内を──」


 クレケンズがメイドへ案内を言おうとするが、クレケンズの眼前を光弾が通り過ぎる。

 その光弾は室内の壁を貫き、室内に冷たい風が入ってくる。


「いらないわよ!!」


 そしてそのまま天照は宴の席から立ち去り、残るのはグラーバとクレケンズだけとなってしまう。


「やれやれ……まああの耳は外れないようになっていますし、大丈夫でしょう」


 クレケンズは天照の発言について少し思案すると、一人合点し、グラーバへ顔を向ける。


「ではグラーバさん、貴方はこの件について──グラーバさん?」


「zzz……う~ん、ビヒモスの背中は最高の……」


「やれやれ……」


 クレケンズは溜息を付くと、一人食事に手を付け始めるのだった。


──────────────────────────────


 私はそこでまた意識を取り戻した。

 どうやらまた意識を飛ばしていたらしい……私は太陽を見て、先ほど意識を失った時からそれほど時間が経過していない事を知る。

 周囲の状況は……相変わらずの地獄絵図。


「嫌になるわ、この状況と私に」


 未だ力は戻っておらず、自らを信仰する者達が激減した戦場において私は無力だった。

 今の私は、壊れない一人の女でしかない。

 自身の惨めさに腹が立つ、だがそれ以上にこの様な地獄を作り出した連中に腹が立った。


「エクィロー……、この借りはかなら──」


 刹那、鷹の鳴き声が聞こえた。

 カウ、カウという甲高い音だ。

 その音が聞こえた時、私の視界は宙を舞っていた。


「何!?」


 ゆっくりとした時間、恐らく実際に流れているであろう時間は数秒なのだろうが……今はその数秒がとても長く感じられた。

 そんな時間の中で私は、その鷹の鳴き声の方へ顔を向けた。

 そこに居たのは鷹ではなく、二挺の拳銃を構え、蟻の様な見た目の何かに乗った白衣姿の男の姿だった。


「見つけたぞ! 総員、僕があいつを捕まえるまで誰にも邪魔はさせるなよ!!」


 男は後ろへ振り向くと、後続に居た兵士達へ叫ぶ。

 そして男は再び正面を向くと、舌なめずりをしながら私を見る。

 怖気が走った、そして怖気と共に私は地面に放り出されていた。


「あうっ!」


 地面の硬さに朦朧としていた意識を再び手放しそうになる。

 だが私はその解けそうな糸をしっかりと手繰り寄せ、立ち上がろうとする。

 しかし再び鷹の鳴き声が響く。


「ちょっと、待って……てばぁ!」 

 

 鳴き声が聞こえた時には、私は既に今居た場所から真横へ飛んでいた。

 寝転がった状態から地面を殴りつけ、横に飛ぶ。

 その飛んでいる間にも、鷹の鳴き声は鳴り止まない。

 鷹の鳴き声を纏った紫電が私へと迫り、何発かは私の肌を焼く。


「待ってって、言ってるでしょ!」


 焼かれた肌は即座に修復され、元の美肌へと戻る。

 其れを確認した私は地面へ着地すると、前方へ白の霊力で作った障壁を作り上げる。

 障壁は畳一畳分の大きさでその障壁は紫電を何発か防ぎ、私に少しの休息時間を与えてくれる。


「ったく、稲妻飛ばしてくる拳銃なんて聞いてないんだけど!」


 呼吸を整えながら、今見た白衣の男について考える。

 この時代であんな旧時代の服を着てる奴、その上後続に指示を出す……となるとエクィローの連中と繋がりがあるのはほぼ確定ね。

 おまけに拳銃なんてものまで使って。


「指揮官が分かり易いのは良いけどね!」


 私は障壁に右手を触れると、その障壁は吸盤でもあるかのように手に吸い付く。

 そして障壁を前面に押し出したまま、私は右手を突き出し駆ける。

 白衣の男は何度も鷹を鳴かせるが、私の障壁はその紫電を物ともしない。

 

「後……50メートル!」


 目測でだが、白衣の男との距離はそれ位だろう。

 白衣の男は後続と距離を置いており、急接近する私に対して有効的な手を取れないでいる。

 あの男の首を獲れば……!


「貰ったぁ!」


 右手に吸い付いた障壁を地面に叩き付け、私は跳躍する。

 そのまま障壁を下に構えると、そのまま白衣の男へ向け落下していく。

 私は先ほどまでの射撃を見て、あの拳銃には僅かだが冷却時間が必要な事を見抜いていた。

 そしてあの男が乗っている蟻が後退するよりも速く、私はあの男へ障壁を叩きつけられる。

 

「ハァァァァァッ!」


 私は全体重を、そして霊力を乗せ落下していく。

 このまま……このまま行けばあの男を……!

 その時、男がふと笑みを浮かべた気がした。

 その笑みを見て、私は再び怖気を感じた。

 いけない──そんな考えが私の頭を過り、私は障壁から手を離す。


「掛かったなアホが!」


 障壁から手を離した瞬間、男が叫び、障壁を突き抜け私の右手の指先……その先端部分が抉られた。

 

「っ!!」


 私は突如襲ってきた痛みに気をやり、地面へ不恰好な形で男の真横へ着地する。

 

「今のは……!?」


「くそっ、外したか!」


 男は悔しそうな顔をし、私へ再度拳銃を──違う!? 拳銃じゃない!?

 何時の間に持ち替えていたのか、あれは……鍵だ、銀色の鍵。

 大きさは30センチほどで、持ち手の部分には引き金のような物が付いており、男の指が掛けられている。

 またその持ち手の下の部分からケーブルのような物が引かれており、それは男が騎乗している蟻へと繋がれていた。


「ちょっと……何なの今のは! 危ないじゃない! 天ちゃんのこの美肌に何するのよ!」


 私は体力回復の為に、また少しでも情報を引き出すために男へ声を掛ける。

 男は私の声に面倒そうに顔を上げると、再び鍵を私へ向ける。

 怖気が走り、避ける。

 すると背後の地面が抉られる。


「ちっ、動くと当たらないだろ! 動くと当たらないだルルォ!?」


「そんなもんに誰が当たるかってのよ!」


 地面へ着地し、私は指先から霊力で編んだ光弾を放つ。

 その光弾は男の持っていた鍵を弾き飛ばす。


「ともあれ……王手かしら?」


 弾き飛ばされた鍵を後ろ目で見る男に、私は距離を保ちながら指先を向ける。


「王手か、そいつぁ僕に対して言ってるわけ? それともお前自身にか?」


 男は不敵な笑みを浮かべたまま、私に話しかける。

 気に入らない。

 何故、この男はこの状況で笑えるのか。


「当然あんたに向かってに決まってるでしょ、あんたが何か動作をするよりも速く、私はあんたをこの世から蒸発させられるんだけど?」


「そりゃ怖い、流石は長老級だな? 天津零時さんよ」


「……!! あんた、それを何処で……まさか!?」


「ふん、態々自身で出張ってきたからてっきり僕の事を知ってるのかと思ってたがどうやら知らなかったらしいな?」


 驚いた。

 自分の名を、変異する前……この姿になる前の名を呼ばれたのはそれこそ本当に久しぶりだからだ。


「そう、この僕こそがエクィローの管理者の一人! 山坂──」


 男が名乗りを上げる途中、私は指先から光弾を発射した。

 男の首は完全に蒸発し、ゆらゆらと揺れる体は間を置かず地面に崩れ落ちた。

 そうか、この男がエクィローから来た……。

 だが今その男は死んだ、少なくともこの場からは。

 ならば後はあの男の後続から来ている連中を……。


「?」


 そこでふと疑問が沸く。

 あの男との攻防が始まってから既に数分が経過していた。

 幾らあの男と距離が離れていたと言っても、これ程到着が遅れる事などあるのだろうか。

 おかしい……。


「投射!!」


 その思案が不味かった。

 私は直ぐにその場を離れるべきだったのだ、気づいた時、私の腕は白の霊力で編まれた網に両腕両足を捕らえられていた。


「放てぇぇ!!」


 続いて野太い、オークの声が響く。

 そして私の背中に盛大に火球が浴びせられる。

 

「手を休めるな、撃ち続けろ!」


 火球の轟音が響く中、かろうじてオークのその声だけが聞き取れた。

 体に当たる火球の数は少なくとも数十発、これだけの数を私が見落としたとは考えにくい。


「となると……」


 私は眼前に転がっているであろう男の死体へ再び目を向けた。

 だがやはりと言うべきか、男の死体は影も形も無く消え去っており。

 私の遥か彼方にその姿をかろうじて視認する事が出来た。


「鬱陶しいわね、ほんと」


 男は遠方で、先ほどの銀の鍵を構え私を見据えていた。

 恐らくあの男はあの鍵の引き金を引くだろう。

 本来の力であればこの程度の拘束を引き裂き、逃げる事は容易だが。


「負け、か」


 力の源となる信仰心すら今この場には無く、私は一人。

 そう思うと乾いた笑いが浮かんできた。


「いやねほんと……甘く見すぎたわ」


 男──山坂だったか、が引き金を引く。

 恐らく私はこの一撃でこの世から消えるのだろう。

 望まない形で人間を辞める事になり、蔑み、恐れられ、ようやく手に入れた私の安寧が消える。

 あぁ、最後の瞬間とは何と虚しいものなのか。

 そう思いながら私は瞼を瞑る。


「……?」


 だが、次に来ると思われていた瞬間は訪れず。

 代わりに静寂だけが私を包んでいた。


「やあやあ、遠からん者は音にも聞け!」


 それは女の声、恐らくは長身の女。


「近くば寄って目にも見よ!」


 これもまた女の声、だが先ほどの女ほど透き通った声ではない、恐らくは普通の体格。


「我こそは東京軍を束ねる総理、徳川戦様の筆頭侍、虎牙伊織なり! 見事この首、討ち取ってみよ!」


 男の声。

 私は目を開く。

 そこにあったのは、巨大な土塊の壁と私を守るように立つ三人の人間だった。



タイトル詐欺の次でやっとタイトル回収か壊れるなぁ

就職活動中なので初投稿です。


徳川の軍師、石元 愛 緑青①


伝説のクリーチャー:人間


続唱


2/2


「彼女を怒らせるのは得策ではありません、怒りに続いて何が飛び出すか分からないので」

──東京の総理、徳川戦

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