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人類ガバガバ保護記   作者: にっしー
東京侵攻編
61/207

迎撃準備を終えたら

MD215年 6/16日 16:02


「そっち放るでー、気ぃつけー!」


 マン=モンは片手で持ち上げていた車を地面へと放り投げる。

 車は放物線を描き、重量音を響かせ地面へと落下し、周囲には廃車で出来た即席のバリケードが完成した。


「力を見せるってそういうことかー……」


 その光景を眺めていたアデルは、冷や汗と共にマン=モンを見ていた。

 マン=モンは車を放り投げた手を払うと、伸びをしながらアデルの方へ振り返る。


「なんや大の男がそんな呆けた顔して……」


「そりゃお前みたいな小柄の女が片手であんなもん持ち上げてたら誰だってそうなる、俺だってこうなる」


 そういわれてマン=モンが周囲で車を押していた兵士達を見てみると、確かに兵士達の顔も若干引き気味だった。

 車を押していた兵士達は山坂が抜擢した、力仕事にはうってつけの魔族達──オークやリザードマンが集まっていたが、それでも車を数人がかりで押すのが限度だった。

 そんな車を片手で女性が持ち上げるのだ、彼等の心も大層傷ついた事だろう。


「あの女化け物かよ……」


「あいつオギナワから来た商人って話じゃなかったか? 商人って皆ああなのか……?」


「ショウニン、聞いたことがある」


「知っているのかライデン!?」


 そして周囲からはざわざわと声が聞こえてくる。

 周囲の反応にマン=モンは鼻を鳴らす。


「ふん、男っちゅうんはいっつもこれやな」


「お、おぉ……何かすまん?」


「別にええわ、それより他に仕事は無いんか?」


 アデルが何故か申し訳無さそうに軽く頭を下げると、マン=モンはそれを軽く流すと退屈そうに下半身を納めている土鍋の様な物体を弄り始める。


「なぁ、前から気になってたんだが……そのふわふわ浮いてる鍋みたいのはなんなんだ?」


 マン=モンが弄っている土鍋の様な物体が前から気になっていたのか、アデルは質問を行う。

 その質問にマン=モンは顔をアデルへ向ける。


「あ、これか? そういや説明しとらんかったなぁ、いや説明する義理もあらへんのやけど」


「義理が無くても気になるので説明をお願いします」


 アデルが頭を下げて頼むと、マン=モンも気を良くしたのか説明を始める。


「そない頼まれたら説明せんとあかんなぁ……実はこれが何かはウチにも分かっとらん!」


「は?」


「そないな声上げられてもなぁ……以前ある宝物を探してた時に荒れた海に放り出されてなぁ」


 そうしてマン=モンは身振り手振りを駆使して海へと投げ出されるモーションを再現する。


「ダメやー、溺れて死んでまうー! 思うとった時に偶然こいつが近くに浮かんどって乗り込んだんや、んで適当に中身弄ったら浮かび上がりよってな」


「ふーん……宝物追うとか何か遺跡潜りの連中みたいなことしてんだな」


 マン=モンの説明に適当な返事を返すと、アデルは遺跡潜りと呼ばれる存在の事を思い出す。

 遺跡潜り──最終戦争後、土砂の中へと埋もれた地下鉄や地下デパート……他にも文明の名残を残しながら危険がある為入れない施設。

 そんな中へと潜りこみ、戦前の貴重な品を入手する事を生業としている者達の総称である。


「まあな、商人言うても横から仕入れてそれを唯流すだけやと赤字になることもある、それにウチは動いとる方が楽しいからな」


「そんなもんなのか? まあ俺も体を動かすのは嫌いじゃないが……」


 マン=モンの言葉にアデルは再び適当な返事を返すと、アデルの胸元から声が響く。


「あ、あー、テステス、マイクのテスト中、聞こえますか愚民の皆さん」


 その声の主はアデルが作業をする前に聞いた男、山坂の声だった。


「あぁ?」


「なんや? 声?」


 声の発信源を探ろうと、両手で胸元の辺りを探ると作業の前に山坂に貰った凧形二十四面体──トラペジウムが手に当たる。

 それを取り出すと、山坂の声はそのトラペジウムから発せられていた。

 アデルはトラペジウムへ耳を欹てる。

 欹てる際に周りを見てみると、周りの兵士達もトラペジウムを持ち、耳を欹てているのが見えた。


「まあ多分聞こえてんだろ、後小一時間もすれば敵の先陣が到着する、その前に作業が終了した順に食事を取って休息するように、尚この通信は一方通行なので聞こえていない場合の責任は自己責任だ!」


 山坂はそう一方的に告げると通信を切ったのか、トラペジウムからは声が聞こえなくなった。


「お、飯かー、飯はええなぁ、これから戦いやし」


「お前あれだよな、随分戦いとかそういうに積極的だよな……え、怖い」


「さぁ! もりもり飯食ってバリバリ戦うでー!」


 アデルは戦いに乗り気のマン=モンを見て引くが、そんな事は一切気にせずマン=モンはアデルの肩を強く叩くと共に食事をしに移動していくのだった。


──────────────────────────────


「粗方配置も終わったか……」


 そう呟くと、山坂は中泊まり町を見下ろせるビルの屋上に立っていた。

 山坂はタブレットを操作し、中泊まり町全体を見下ろす形の地図を映し出す。

 地図には街が円形に映し出されており、その下半分の円弧に廃車によるバリケードが設置されていた。

 

「とりあえずバリケードはこれで良いだろう、流石に裏に回りこんでくるってのは無いと思いたいが……まあ回りこまれる前に勝負を決めなきゃいけねえな」


 山坂は更にタブレットを操作する、すると中泊まり町のあらゆる地点に赤い点が示され始める。


「地雷の設置もOKと、連中にはこの地点を頭に叩き込ませないといけねえな」


 確認を終えたのか、山坂はタブレットを左手に持つと右手を背嚢へと伸ばす。

 そして背嚢から別の物体、マン=モンが持っていた銀色の鍵を取り出す。


「うーむ……まさか千年後のこんな荒れ果てた時代に再びこいつを見る事になるとはなぁ」


 懐かしむようにその鍵を眺めると、山坂は鍵の持ち手を掴む。

 持ち手の部分は剣の柄のようになっているが、一部に拳銃の引き金のような出っ張りが存在していた。

 山坂は鍵の持ち手を掴みながら、鍵の先端を床へ向ける。


「各太陽から空間管理鍵へ霊力を注入開始……『空間収縮』の範囲を指定」


 そして山坂は左手で持つタブレットを器用に操作していく。

 少しすると山坂はタブレットを操作する手を止め、鍵の持ち手についている引き金を引く。


「収縮開始」


 山坂が言葉を放つと同時に、地面に向けられていた鍵の先に赤、青、白、黒、緑の五色が集まり始める。

 その五色は徐々に回転を始めると混ざり始め、完全に混ざり合い一つの灰色の珠となり、床へと放たれる。

 放たれた珠が床に触れ合うと一瞬の閃光が放たれ、山坂は目を逸らす。

 そして山坂が視線を戻すと、珠が触れた床は円形に抉れていた。


「テストはまずまずか、流石に引き金引いて直ぐ発射とはいかんが……それ以外は問題ないな」


 山坂はテストの結果に満足したのか、一人で頷くと右手に持っていた鍵を地面へ置く。


「しかし重たいな……もうちょい収縮する範囲を狭めておくんだった、空間を収縮出来ても質量が変わるわけじゃないのがこの鍵の問題点だな」


 そして再びタブレットを使い鍵を操作すると、再び閃光が走り鍵によって削られていた床が鍵の周囲に音を立てて現れる。

 しっかりと鍵の機能のテストが出来た事が嬉しいのか、山坂は笑顔を作ると鍵を背嚢へ仕舞い、ビルの端から平野部を眺める事にした。


「にしても千年後の日本がこんな有様とはな、日本人としてこれほど悲しいことは無い……訳でもないが何ていうか哀愁みたいなものを感じるな」


 山坂はさび付いた手すりに寄りかかり、足元にあった小さな瓦礫を蹴り落とす。

 瓦礫は音を立てず落下していき、数秒後に何かを潰したような音が山坂へと聞こえてくる。


「ん……? 今何か音変じゃなかったか?」


 異音に気づき、手すりから身を乗り出して下を見る山坂。

 その視線の先には、小さな瓦礫と小さな血痕だけが残っているのだった。



──────────────────────────────


「うわー……いたそう」


「あはは、はんぞーだいじょーぶー?」


「はんぞーさま、おけがはありませんか?」


 山坂の居たビルの下で三人の妖精は口々に主を慮っていた。

 そして、慮られている主は頭部から血を流しながら倒れているのだった。  


「む、無念……」 


──────────────────────────────

MD215年 6/16日 17:51


 六つの太陽は下り始め、世界を赤く染め上げていく。

 そんな中で山坂はビルの上から平野部を眺めていた。

 視線の先には東京からここまで走り詰めてきた3000人の兵士達、そしてその頭上には赤い世界の中でも周囲を白く照らす神。

 

「ま、正確には自称が付くんだが?」


 山坂はその視線の先に居る神を鬱陶しそうに眺めながら、眼下へと視線を向ける。

 眼下には札幌から来た100名にも満たない小規模の軍が、ビルの前に整列していた。

 マン=モンが持ってきていた装備によって多少の戦闘には耐えられるだろうが、それでも3000人を相手にするのは酷だろう。

 しかしそれでも彼等は山坂の言う策とやらを信じ、そこに立っていた。


「んで下の連中は逃げてないと、いや予想外だな、普通逃げるだろ、俺でも逃げるわ」


 有り得ない、と言った顔で眼下の兵士達を見ながら、しかし何処と無く山坂は嬉しそうな表情になる。

 そんな時に山坂の手持ちのタブレットに通信が入る。


「おう山坂、まだ始まってねえよな?」


 通信先は田崎だった。

 田崎は顔に汚れた油を数箇所つけながら画面に映っていた。


「おう、まだ始まってないぞ……って随分汚い顔してんな、まさかお前自前であれ修理しに行ったのか?」


「まあな、機械弄りは俺の専売特許だからな」


「元気な奴だな」


「褒め言葉として受け取っておく、こっちはいつでも送り出せる、タイミングはそっちに任せるぞ」


 そう言うと、田崎は一方的に通信を切断する。


「おう、ありがと……って切りやがった、まあいいか、礼なんて僕の柄じゃねーし」


 山坂は礼を言う途中できられた事に愚痴をこぼしながら、胸元からトラペジウムを取り出す。


「あー……僕だ、君等にこの3000対93とかいう無謀な戦いを強いている管理者の山坂だ」


 トラペジウムへ山坂が声を掛けると、トラペジウムは青白く発光し眼下の兵士達一人一人が持つトラペジウムへ声を繋げていく。


「ま、事ここに来て今更逃げるのは無理なので潔く俺を信じて戦ってくれ、と言っても主に戦うのは敵の大将とその取り巻きだろうがな」


 そして山坂がトラペジウムを突付くと、兵士達が持つトラペジウムに画像が浮かび上がる。

 その画像は東京の軍を率いる徳川戦、そしてそれを守護しているであろう虎牙伊織の姿だった。


「んで再確認だ、女の方が総大将、男の方が恐らく女を守ってるだろう取り巻きだ、戦いが始まる前にさっき説明した事は再確認しておけよ魔族ども」


 山坂は相変わらずの言葉遣いで兵士達へと言葉を送ると、目線を上げ、東京の軍を見る。

 かろうじて見える先頭には、やはり徳川が立っており、彼女が旗を振り上げる様子が見えた。


「さて、それじゃあ敵も動き出した、作戦通りにやればお前等は必ず勝てる、作戦開始だ!」

 

 山坂の言葉と同時に、下から一斉に声が上がり、遠方から更にその声を打ち消す地鳴りと声が響き渡るのだった。


「さぁ、ショータイムだ!」


 口角を上げ、舌で唇を舐める山坂。

 その背後には、三つの小さな青い光がひらひらと舞っていた。



投稿ペースは不定期です

気がついたら会社が潰れる事になり路頭に迷う事になったので初投稿です。


次:黒の太陽の頂点/Black Sun's Zenith


トラペジウム ②


戦場に居る全てのクリーチャーの起動型能力は起動できない


──それを見つめ続ける物は何れその中に取り込まれる。

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