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人類ガバガバ保護記   作者: にっしー
東京侵攻編
60/207

迎撃準備を始めたら

https://www.youtube.com/watch?v=KNiHaQiifBk

カジノ

MD215年 6/16日 14:11


 数日前、マン=モンを連れたアデル一行は妖精の輪により札幌へと飛ばされていた、ギト隊長の軍隊と合流を果たす事に成功する。

 そして現在、青森県にある中泊まり町へと再び帰還していた。

 帰還した彼等はギト隊長の命令で中泊まり町の調査を行い、今後の予定を立てていたところだった。 


「ふぅ……妖精にぶっ飛ばされてここに帰ってきて、そんで商人に付き合って北上したと思ったらまたここに戻ってくる事になるとは……」


 アデルはそう呟くと溜息を吐き、単眼鏡を降ろし空を見上げる。

 時刻は14時、この世界を照らす6つの太陽は中天を下り始めていた。


「しっかしあれだな、サツホロからここまでの道中もそうだったが……サツホロ以外の場所ってのはこんなに荒れてるもんなのか」


 空を見上げていたアデルは、再び視線を戻す。

 視線の先には崩れかけたビルや住宅が乱立し、かつては車が走っていた道も所々に残骸が散らばり、更にその先には平野部が見える。

 道の端々には廃車になった色取り取りの車が溢れ、かつてこの場所に人間が生きていたと言う事をアデルへ感じさせた。


「千年前の戦争か……当時一体何があったのかね」


 そんな風にアデルが過去へと思いを馳せていると、後方の扉が勢い良く開かれる。

 アデルが振り返ると、そこには肩で息をするアレーラの姿があった。

 恐らく物凄い勢いで階段を駆けてきたのだろう。


「はぁ……はぁ……、あ、アデルさん!」


 膝に手を付きながら、アレーラは顔を上げる。


「き、緊急招集です!」


「はい?」


──────────────────────────────


 中泊まり町の中央付近にある、戦前は区役所だった建物の中、二階の一室に二人の人物が居た。

 一人は軍を率いるギト士長、そしてもう一人は……。


「まあそういうわけだ、後5時間もすればここに東京の連中が3000人の兵士を引き連れて攻めてくる」


 山坂はぼろぼろになった椅子の上にふんぞり返りながら、ギトへと事情を伝える。

 その顔はふてぶてしさすら感じさせる。

 一方のギトは、困ったような顔をしながら山坂と向かい合う形で椅子に座っていた。

 大柄のギトには人間用の椅子は耐えられないのか、はたまた年月のせいか、椅子がギシギシと音を立てていた。


「ふむ、では早急に撤退の準備をせねばなりませんな」


 山坂の言葉にギトは多少驚いた様子を見せるが、直ぐに冷静な顔に戻ると撤退の判断を下す。

 その撤退という言葉に、山坂は目の前にある机に前のめりになる。


「オイオイオイ、誰が逃げろなんて言ったよ」


「……ではどうしろと?」


「戦うんだよ、折角手に入れた場所だ、みすみす手放すなんざ僕が許さん」


 山坂の言葉に、一瞬間を置いてギトが反論する。


「馬鹿な! 我々は100名にも満たない小規模です、我々に死ねと仰るおつもりか!?」


「だから態々僕が出張ってきたんだよ」


 ギトは怒りからか、机に手を叩き付け立ち上がると山坂を睨みつける。

 そんな視線を飄々と受け流すように、再び椅子の背もたれへと山坂は持たれかかる。


「いいか? 僕は何も勝てって言ってるんじゃないんだよ、逃げるなって言ってんの」


「それは死ねと言っているのと同義ではありませんか?」


「そう捉えたいならそう捉えればいい、どっちにしろ今は細かい説明をしてる時間が惜しい」


「……策が有ると?」


「そうだ、だがお前等がここで逃げたら色々と困るんだよ」


 そしてギトは暫く山坂の瞳を真っ直ぐに見つめると溜息を吐き、再び椅子へと座り直す。


「良いでしょう、時間稼ぎの件承りましょう」


「そうだよ(便乗)」


「但し貴方の策が成功しなかった場合は我々は即座に降伏します、宜しいですな?」


「好きにしろ、相手が降伏を認めるかは知らんがな」


「……では、私は皆を集めてくるとしましょう、集め終わり次第貴方に指示を仰ぐとします」


 山坂の返事を聞くとギトは立ち上がり、部屋を退出していく。

 扉が閉まると、山坂は仰け反らせていた体を戻し、窓へと目を向ける。


「おい、さっきから盗み聞きしてたのは知ってんだぞ、入って来いよ」


 窓の方へと声を掛けると、誰も映っていない窓が独りでに開く。

 そして浮遊音だけが部屋へと入ってくる。


「いやー、ウチが見えるなんて流石お目が高い」


 部屋に関西弁の声が響く。

 山坂は鼻を鳴らすと、虚空へ向かって声を掛ける。


「ふん、潜伏ステルスか、こっちも完全に見えてるわけじゃないんだ、さっさと解除しろ」


「おっと、そらえろうすんませんなぁ、今解除しますさかい」


 そして再び関西弁が聞こえたかと思うと、山坂の視線の先。

 空中が歪み始め、ノイズの様な物が走ると空中に浮かぶマン=モンの姿が現れる。

 マン=モンは姿を現すと地面に下半身を入れた土鍋の様な物体ごと着地し、頭を下げる。


「ほな改めて、ウチは商人のマン=モン言います、お見知りおきを」


「あ、これはどうもご丁寧に、管理者の山坂と──って何でやねん!」


 丁寧に挨拶をするマン=モンに絆されたのか、似非関西弁に乗ったのか、山坂はつい一人ツッコミをしてしまう。


「おっ、中々のノリツッコミ! ええで旦那!」


「そう? ってそうじゃねーよ! おまけに女じゃねーか!」


 マン=モンの煽てに山坂は更にツッコミで返すとマン=モンから距離を取る。


「やはり生身の女に会うのは若干の抵抗があるな……、いやそれはどうでもいい、単なる商人が覗き見なんてしやがって、何が狙いだ」


「いやー……外を飛んでたら丁度話が聞こえてきて──」


「普段から潜伏使って飛んでたのか?」


「あははは、ウチ恥ずかしがり屋でなぁ」


「商人やってるのに?」


「……」


 マン=モンが適当な言い訳をすると、山坂が即座に反論しマン=モンは間の悪そうな顔をする。


「良いからさっさと目的を言えって言ってるの! こっちは時間がねえんだよ!」


「せやな、いや実はウチはサツホロから来るっちゅう軍隊の一番偉い人に会いに来てとってな? あのオークのおっちゃんが一番偉いんかと思ったらちゃうらしいやないか」


「んで、僕に目をつけてここまで盗み聞きしに来たと?」


 山坂の問いかけにマン=モンは首を縦に振る。

 

「まあ確かに僕がお前の読み通りの人物ではあるが……何を売りつけるって?」


 そして山坂が肯定するとマン=モンは笑みを浮かべると浮かび上がり、机の上に飛び乗る。

 机の上に飛び乗るとマン=モンは土鍋の中に入っている鞄から、一つの銀色の鍵の様な物を取り出す。

 それは30センチほどの鍵であり、持ち手の部分は剣に近い形をしていた。


「お? 商品に興味ある? ほな、早速」


「いや別に俺はそんなもんに興味は……おい、お前、それは──」


 その鍵を見た山坂は顔色を変え、マン=モンに何かを言おうとするが。

 既に鍵を『起動』していた。

 マン=モンは鍵を山坂と自身の間へと放り投げると、鍵から突風が巻き起こり山坂は思わず左腕で顔を覆う。

 突風が収まり、山坂が腕を下ろすと机の上には鍵を中心に様々な装飾品や食料などが並べられていた。


「やっぱりトウキョウ攻めよ思うとる野心家ならほれ、こういう高級な装飾品とかで身なりを着飾ってやな?」


 そしてマン=モンは何事も無かったかのように机の上に並べられた装飾品を手に取り、山坂へと説明を始める。

 だが山坂は装飾品の説明よりも、先ほどマン=モンが取り出した鍵へと目が向いていた。

 それに気づいたのか、マン=モンは鍵を取ると山坂へと見せる。


「ん? あぁもしかしてこれが気になっとるんか? 悪いけどこれは売り物と──」


「空間管理鍵……だと?」


「え、何やて?」


──────────────────────────────


「というわけだ諸君、今の我々には一刻の猶予も無い! 持てる力の全てを使い、管理者殿の指示に従ってくれ!」


 ギトは山坂との話し合いを終えた後、兵士達を招集していた。

 そしてギトが高台から降りると、ギトと入れ替わりに山坂が高台へと登る。

 その高台は以前町長か誰かが挨拶をする為に使っていたであろう物で、およそ100名の兵士達全員の顔が一望できた。


「あー、まあ細かい事情はそこの魔族が話してくれた通りだ、勝てる策はあるがその為にはお前等の時間稼ぎが必要だ」


 山坂はそこで言葉に詰まり、頭を掻く。

 参った、こういうとき永村なら上手い事言うんだろうが……等と考えながら。


「死にたくないなら精一杯働け」


 そんな台詞を吐き出すと、山坂を見る兵士達の顔はあからさまに不満げになるのだった。


「んじゃあ指示を出す、まずは──」


 兵士達の不満げな顔に少しだけ傷つくが、山坂はそのまま指示を出していく。

 ・まず兵士達を3つの班に分ける、内訳は工作班、設置班、肉体労働班だ。

 ・肉体労働班は、道路脇などに放置されている車両を敵の侵攻経路を塞ぐバリケードとして設置する。

 ・工作班は山坂から与えられたレシピ表を元に、廃屋の中に残る材料を用いて爆薬を作成する。

 ・設置班は、工作班が作成した爆薬を所定の位置へと設置する。

 大まかにこの様な役割である。


「あー……俺肉体労働班か」


 山坂から具体的な班分けの説明と指示が下されると、アデルは項垂れる。


「しょうがないですよ、アデルさん力強いですし」


「とは言ってもなぁ……あのクソ重たい、クルマ……だったか? あれを押して障害物にするなんて今から考えただけで気が滅入るぜ」


 アレーラがアデルを慰めるが、アデルはあまり気乗りしないらしい。

 そんなアデルにどう言おうかと考えていると、アレーラの背後から呼び声が響く。


「アレーラー! 早く来なさい!」


「あ、はーい! すみませんアデルさん! それじゃあまた後で!」


 アレーラは女性の兵士の呼びかけに答えると、アデルへと軽く右手を振って走り去っていく。


「行ったか……工作班って楽そうでいいよなぁ」


「アホか貴様は、爆弾作るのに楽そうもクソもあるかよ」


 走り去っていくアレーラを恨めしそうに見ながら、アデルが愚痴る。

 すると背後から山坂の声が響く。

 山坂の方へと振り向いたアデルは、即座に嫌そうな顔になる。


「あんたか……、何だよ、俺に何か用事かよ」


「あんたじゃなくて管理者様だろうが! 全くこの赤毛は学習しねえな……」


 山坂はアデルへ勢い良く指を指し、その後自らの頭を突付く。


「別に良いだろ、その方が親近感沸くし」


「僕は良くないの! はぁ……まあ良い、貴様に渡す物があるので支給しておこう」


 そして山坂は胸ポケットから透明な凧形二十四面体と呼ばれる特殊な形をした鉱石を取り出し、アデルへと放り投げる。

 アデルはそれを右手で掴むと、まじまじと見つめる。


「何だこりゃ、これが渡す物か?」


「そうだ、そいつはトラペジウム、所有者の周囲に特殊な力場を発生させて……」


「悪い、掻い摘んで話してくれないか」


 山坂がアデルへとトラペジウムについて説明しようとすると、アデルは朗らかな笑顔で分かりやすく説明してくれと頼む。

 久しぶりに知識を披露できると思っていた山坂だったが、その台詞に溜息を吐く。


「はぁ……要するにお守りだ」


「お守りぃ? お前が、俺にぃ?」


 トラペジウムを受け取ったアデルは懐疑的な表情で山坂を見る。


「管理者様だっつってんだろーが! ったく……餌付け甲斐の無い虫けらめ、返して貰っても構わんのだが?」


「悪い悪い、すみませんでした管理者様」


「全く……先日起きたこの街での戦いは見せてもらった、あの忍者ともう一度戦う時に必要になるかもしれんから渡しておいてやる」


「忍者? あぁ、あのシノビとかいう連中か?」


「詳しい名前は知らん、まああの忍者に居られると今後の計画に支障が出るんでな、戦闘に参加する連中には渡しておいてやろうと思っただけよ」


「何だ、じゃあ俺だけの特製品って訳じゃないのかよ」


 山坂の物言いに、アデルは少しだけ不貞腐れた表情をする。

 その表情に山坂は、何言ってんだこいつ? と言った顔をする。


「てめーには盾をやっただろうが! 強欲が過ぎるぞ赤毛め」


「いやぁ、盾もくれたから今回も俺用に特別に何かくれるのかと思ってよ……」


「誰が貴様なんかに目を掛けるか、この戦いを生き延びたら考えてやらん事も無いが」


 山坂の迂闊な言葉を、アデルは逃がさなかった。


「ほんとか?」


「生き延びれたらな、おら、分かったらさっさと生存確率上げる為のバリケードを設置してこい!」


 アデルは顔を輝かせて山坂へと問いかけ、山坂はめんどくさそうな顔をしながらアデルのケツを蹴り上げる。


「いってぇ! ったく、約束だからな! 絶対生き延びてやる!」


 そしてアデルはそのまま肉体労働班へと走り去っていくのだった。


「いやぁ、部下とも仲が良いんやなぁ管理者様は」


 アデルを見送る山坂の隣からマン=モンの声が響く。

 相変わらず潜伏機能を使って盗み見していたようだ。


「誰があんな赤毛と仲が良いか、それより貴様も仕事だぞ、払った金銭分はしっかり働いてもらう」


「はいはいっと、ほんならウチの力見せたろか!」 


 そう言うと、マン=モンは潜伏を解除しふわふわと浮きながらアデルの後を追っていくのだった。

 徳川戦が率いる東京の部隊到着まで、残り4時間。



二週間も更新を止めてすまない…許してください!P5二週目やりますから!許してください!

前書き部分を聞きながら書いたので聞きながら読むとテンションがあがるかも、あがらないかも



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