ティミーになったら
「一機、やらせてもらってよかですかぁ!?」
そう声が響くと、空から舞い降りた鋼鉄の巨人は先ほど自爆した戦車の破片を踏み潰し、両腕をぶつけあい打ち鳴らした。
何という巨体か…ワシが生まれてより千年、ワシと同等の大きさとは。
先ほどの戦車よりも数段大きさを増しておる。
そして今の言葉…先ほどの男とは違う声、しかし同じ言語…相手は複数人居るのか?
「さあ選手交代だ、さっきのジョニーと違って俺は強いぜ」
ズオォォンという地響きと共に巨人が右足を踏み出す、地面はその巨体の重みに耐え切れず砕かれていく。
「だがお主たちの様な蛮族にこの地を荒らさせはせぬぞ!」
ワシは地面から根を伸ばし、巨人の四肢へと掴みかかる。
一時的に動きを封じたかに思えたが──
「ふん!貧弱貧弱ゥ!」
巨人は根の拘束を意にも介せず、ワシへと直進を始める。
直進する毎に地面の中から、根が無理やり引きずり出されていく。
「ぬ、くっ!動きを封じ込めきれぬか!ならば──!」
拘束しきれぬと感じたワシは、未だ巨人を捕らえている四肢へと霊力を送り込む。
大地の地下深くから緑の霊力をくみ上げ呪文を織り上げ、流し込む。
「The idols of old are rich in minerals and magic. They are torn apart when nature aims to eat well. 」(古き偶像は素材と魔法に満ちている。自然が食を求めれば、それは引き裂かれる定めだ。)
呪文を唱え終えると根から呪文が伝わり、巨人の四肢へと流れ込んでいく。
その呪文は命無き創造物へ命を与える呪文、巨人の四肢が徐々に錆び内部回路には植物が生まれ、その機能を低下させていく。
「んん?! 緑の呪文…生命帰化か! なるほど樹木の化け物なら当然使えるってわけだ! だがなぁ! ばっちり対策済みなんだよ! お前らの使う呪文に対しては!」
そのまま巨人の四肢を完全に樹木に変え機能を停止させるはずが──逆の展開になっていく。
錆びていた部位は徐々に元に戻り始め、生まれた植物は即座に枯れてゆく。
そして、巨人に流し込んでいた霊力が徐々に「吸い取られ」はじめていく。
「しっかり再生機能も持たせておいたってわけよ!単なる破壊効果じゃあこいつは止められないんだよ! そしてぇ! お前のこの根のお陰で出力マシマシだぁ!」
「霊力炉心へ霊力の抽出を開始、全システムオールクリア、再生機能問題ありません」
巨人は更に、四肢に絡みつく根から霊力を吸い上げ始める。
地面を歩く巨人の力強さもまた増し、ワシは慌てて根を四肢から緩めるが…ガシッ!と逆に両方の腕で根を掴まれてしまう。
「都合が悪くなったらさよならってそりゃあねえよなぁ!」
巨人が根を掴みながら徐々に近づき、ワシと目と鼻の先の距離まで近づく。
「さあてお爺ちゃん! 世代交代の時間ですよっとぉ!」
巨人が右手で掴んでいた根を離し、右腕を振りかぶる。
離された根を即座に胴体への防御へ向け、巨人の腕を防ぐ為の根を絡み合わせ壁を作る。
「ロケット、パァァァンチ!!」
巨人の豪腕が振るわれる。
バキバキバキィ!という音と共に絡み合わせた根の壁がへし折れていく、そしてドゴォォン!という轟音と共にワシの胴体へ巨人の腕がめり込んでいく。
「ぬ…ぐぅっ…! こ、この程度…!」
胴体へと巨人の右腕が突き刺さるが…ワシは樹木、人間と違い急所など無くその生命を刈り取るには自然そのものを破壊しなければならぬ。
だが呪文を吸い取るこやつをどう対処するか…。
「敵生体内部へ腕部進入、これより楔を射出します」
その時ワシに突き刺さっている右腕からワシの中へ何かが打ち込まれるのを感じた。
「これは……?」
体内からそれを排出しようと試みるが、それは外へ出るどころか徐々に内部へ侵入してくる。
そしてそれと同時に、虚脱感とでもいうべき物がワシの意識を襲い始める。
「おっし、お仕事終わり!」
胴体へ打ち込まれた腕を巨人が徐々に引き抜いていき、腕を引き抜くとそのまま後退を始め距離を取っていく。
距離を離していく巨人を疑問に思いながらも、ワシは再び大地から霊力を吸い上げ呪文を織り上げようとするが──
吸い上げた霊力が肉体の内部のある一点に吸い取られていくことに気づく、それは先ほど右腕を打ち込まれた箇所、その最奥。
「馬鹿な…なんじゃこれは…霊力を吸い取られて、いくのか……」
食い止めようとすればするほど、それは肉体の内側へと入り込みワシの脱力感は強くなっていく。
また脱力感だけでなく根を動かす力や意思、記憶すらもおぼろげにになってゆく。
「き、貴様ら…ワシに一体何をした…!」
距離を取り、完全に静観へと移った巨人へと言葉を投げかける。
しかしワシの言葉には反応を返さず、巨人はただ見ているだけだった。
「…これは…抜かったか……」
この地に生まれてより千年…あの最終戦争から此処までこの地に逃げ落ちた皆を見守ってきたが……ここまでとは。
「ご神木様ぁっ!」
最早ここまでと諦めかけていた時、その声に意識を取り戻した。
「ご神木様、大丈夫ですか! 返事をしてください! ご神木様!」
「そうか…そうか、お主が居ったな……アレーラ…よく聞きなさい」
「ご神木様! だ、大丈夫なんですか! ?わ、私はどうしたら…!」
小さな人間の娘…アレーラはワシの呼びかけを聞き、惑い、恐怖している…無理もあるまい…このような状況に突然立たされたのだからな。
残った力を振るい、小さな根をアレーラの傍へ生やすと彼女を宥める様に頭をゆっくりと撫でた。
「アレーラ、よく聞きなさい…今からお前はサツホロへ赴きこの村やワシに起きたことを市長へ伝えるのだ………ワシはこれからどうなるのかも分からぬ、徐々に意識が遠のいていくのだ…」
「そんな…そんな、そんな事いきなり言われても私…! ご神木様ぁ!一緒に…一緒に皆のお墓を作ってくれるって…私…!」
ワシの言葉にアレーラは取り乱し、泣き始める。
少々酷な事であったか…18の娘に対して。
「…では、せめて……せめて此処から逃げるのだ…アレーラ、そして何処か、平和な場所に行くのだ……今此処でお主まで死んでしまっては村の皆の墓も立てられまい…」
「さぁ…逃げなさいアレーラ…」
残った力でアレーラとアレーラが連れてきていた馬へ緑の霊力を流し込み、まだ操れる根を操り巨人の足へと絡み付けた。
絡みついた根から急速に霊力が吸い上げられ、ワシが消えていくのを感じる。
「さぁ…逃げなさい…ワシがまだこれを抑えていられる内に…」
小さな根でアレーラの頭を撫でながらその肉体を他の根で持ち上げ、馬へと乗せる。
「ご神木様…私、私…!」
「ワシはお前の無事を、祈っておるよ……さらばじゃ…アレーラ」
そう告げると馬へと根を通して何処か遠くへ逃げるように指示し、走らせる。
ヒヒーンという馬の嘶きと共に馬は駆け出し、元来た山道ではなく獣道を下っていく。
その一部始終を見ていた巨人は頭部、目だけを動かしそれを眺めているのだった。
そして徐々に巨人の足を拘束していた根も枯れ始め…。
「この地を守りき…れぬとは、無念じゃ……」
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「西暦3415年 4月20日 AM12:36 敵生体の完全沈黙を確認しました」
「お疲れ様でした」
千年の間村を守護していた樹木は、その生命を終えた。
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暇つぶしで書いてるので以下略
次:千年後になったら投稿します