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人類ガバガバ保護記   作者: にっしー
東京侵攻編
59/207

目覚め/Rise

MD215年 6/16日 10:45


「うおおお!」


 兵士の男が叫び、鋼鉄で出来た獅子マスティコアの体へと槍を突き出す。

 突き出された槍は、霊力を注ぎ込み鍛えられた鋼鉄の体に傷跡を残す。

 兵士が付けた傷跡は、獅子が持つ再生能力によって即座に癒えていく。


「くたばれぇぇ!」


 しかし、傷を完全に再生する前に他の兵士が飛び掛り槍を胴体へと突き立てる。

 それは獅子の胴体に内蔵されている霊力炉心へと確かに傷を付けると、炉心内部からは霊力が溢れ始める。


「グルオオオ!」


 獅子は唸り、燃え盛る溶鉄の尾を振るい胴体へと纏わり付く兵士へ尾を振るう。

 燃え盛る溶鉄の尾は兵士を溶かしつくすかに思われたが。

 尾が直撃した瞬間、兵士の体を黄金色の光が覆い、兵士は地面へと叩きつけられる。

 叩きつけられた兵士には外傷は見受けられず、安価そうな鎧にも傷一つ見受けられなかった。

 

「大丈夫か!?」


「あぁ!」


 最初に槍を突き立ててきた兵士が、地面へ叩きつけられた兵士へと声を掛ける。

 すると叩きつけられたはすぐさま立ち上がり、胴体に刺したままになった槍の元へと駆け寄り、更に深く槍を突き刺す。

 槍は更に深深と炉心へ突き刺さり、獅子の機能が一時的に停止する。

 獅子が止まったのを『死』と判断したのか、槍の先端から白の霊力が迸り、獅子を光が包み……獅子は完全に戦場から消滅してしまう。


「よし、次の奴を仕留めにかかるぞ!」


 獅子を仕留めた兵士達は、近場に居た予見者を見つけると槍を構え、襲い掛かる。

 予見者は触腕と呼ばれる右腕に当たる太い触手を地面にだらりと垂らす。

 その触腕は垂れた瞬間、ボールが跳ねるように、しかし物凄い速度で跳ね上がると兵士の一人を一気に触腕で縛り上げる。


「がっ──」


 貫かれた兵士は血を吐き、空気を吸おうとするがそれは兵士に巻きついた職腕が許さない。

 他の兵士達が捕まった兵士を助けようとするが、左腕の触腕が兵士達を寄せ付けない。

 そして捕まえた兵士を予見者はどんどん締め上げていく、まるで兵士の頑丈さを確かめるような動作で。


「ふん、なるほど……マンジェニと同じく概念を弄ってあるな?」


 予見者を操る山坂は、モニターの向こうから一人呟いた。

 捕まえた兵士を良く見ると、体からは黄金色の光が放出されており、この光が兵士達を守っている事が見て取れた。


「破壊するという行為に対しては完全なる防護を行う……全く白ってのはこれだから嫌なんだ、平等にとか言いつつ自分にしか恩恵の無い能力を使いやがる」


 山坂は吐き捨てるように言うと、手元のコントローラーを操作する。

 その操作にあわせるように、山坂が操作していた予見者の目がオレンジ色の涙を流し始める。

 それにあわせるように兵士を捕まえた触腕の色がオレンジ色に輝く。


「とはいえ……空気を奪い取ったり」


「あ……がっ、ぁっ!」


「そもそも肉体に入っている霊力を吸い取れば……」


 触腕がオレンジ色に輝くと、捕まえられていた兵士の体が徐々に白色になっていく。

 肌色の皮膚は徐々に白に、その白色の侵食は捕まっている胴体から頭部へと……。

 

「あ、かっかっか……」

 

 兵士を捕まえていた触腕が完全に兵士を握りつぶすと、その隙間から地面に大量の塵が零れ落ちる。


「死ぬ事に変わりは無い、とはいえこの戦い……こっちの負けだな」


 山坂はそう言うと、コントローラーを放り投げ、席を立つ。

 席を立ち、飲み物を取りにいく山坂の背後に映るモニター。

 そこには槍を構え、予見者へと槍を突き立てようとする兵士の姿が映っていた。


──────────────────────────────


 戦いはあっという間に終わった。

 否、戦いというほどのものですらなかった。

 一方的な虐殺に近い、それ位圧倒的なものだった。


 3000人の兵士達、それが死を厭わず、また死なない兵士として襲い掛かるのだ。

 その光景を、私は戦場の上空、天照の真横で見ていた。

 もし、これがサツホロの兵士達に振るわれるとしたら?

 私は……恐怖を覚えた。


「どう、ベルちゃん! アマちゃん凄いでしょ~」


 そして、それを自慢げに語ってくる女性こそが、3000人の兵士に白の加護を与え続ける存在。


「え、えぇ……その、言葉になりませんわね」


 3000という数全てに等しく死を遠ざける『魔法』を用い、彼女は尚余力を残しているように見える。

 そして彼女から発せられる厳かな、そして畏怖を覚える程の圧倒的な白の霊力。

 彼女がその気になれば、恐らく私は一秒と持たずこの世界から消えてしまうのだろう。

 そんな存在との会話は、私の身を竦ませ、返事を曖昧にさせるには十分すぎた。


「でしょでしょ~? アマちゃん強いんだから!」


 彼女は私の様子に気づいていないのか、屈託の無い、まるで太陽のような笑顔を私に見せる。

  

「それにしてもあっけないなぁ、この程度なの? 北からの兵士っていうのは」


 そして彼女は太陽のような笑顔を見せたかと思うと、突然晴天が雲に覆われた様な顔をして笑う。

 彼女の顔には退屈さのような物が見て取れた。

 退屈、それもそうだろう。

 事実上彼女は手を下していない、ただ出てきて、兵士に加護を与え、見ていただけだ。


「う~ん……このまま終わるとつまらないよね~……、あっ、そうだ!」


 突然何を思いついたのか、彼女は右手を軽く振るうと私の周囲に光が走った。

 そして次の瞬間には、私は空の上ではなく地面の上に立っていた。


「え!?」


 私は思わず声をあげ驚く。

 だが私を地上へと降ろした本人である天照は、私のことはどうでも良いのか。

 目の前で今正に破壊されようとしている顔の無い──恐らくはエクィロー……管理者達が作った──化け物へと歩み寄っていく。


「あ、天照様!?」


 化け物へとトドメを刺そうとしていた兵士は、突如現れた天照へと驚きの声を上げると平伏する。

 そして、そんな隙を逃さないとでも言うかのように化け物は巨大な触手の腕を振るう。

 その腕は平伏していた兵士を巻き上げようとするが、天照が再び右手を振るうと触手の根元から切断される。


「貴方達は邪魔~、下がっててねん?」


「は、ハハァ~!」


 そして天照が兵士達へ指示を出すと、彼女は予見者へとしっかりと向かっていく。

 予見者は地面に横たわり、残っている一本の腕代わりの触手を力無く悶えさせていた。


「ふぅ~ん、何か気持ちわる~い」


 天照は予見者を眺めるとそう呟いた。

 それが聞こえているのか、予見者は胸の中央に設置された大型の目からオレンジ色の涙を流す。


「あっはは、泣いてる~面白いなぁこれ」


 微笑すると、天照は左手を振るい、予見者を空中へと浮かび上がらせる。

 浮かび上がらせると、天照は予見者を観察する為に空中で回転させ始める。

 そして予見者を回転させていると、不意に回転が止まり、天照が予見者のある一点を観察し始める。


「……ふぅん」


 天照は左手を振るい、空中に浮かんでいた予見者を地面に叩き落す。

 

「そっかそっか……あいつが言ってた連中かぁ」


 何かを思い出すように、天照は空を見上げる。

 空、爛々と輝く太陽を。

  

「人類保護プログラム……本当に起動してたんだ」


 天照は一人、呟く。

 そして右手を掲げると、予見者が光に包まれ消滅する。

 予見者が消滅した後、地面に予見者の部品が地面へと落ちる。

 部品にはこう書かれていた。


『我等、時の果てより来たりて、全ての浄化を為さん』


──────────────────────────────


「あーつまんね!」


 山坂は机の上に足を乗せながらジュースを飲み干す。

 忌々しげにモニターに映る天照を見ると、更に顔が憎しみで歪む。


「は~、やっぱりロボはいいなぁ」


 山坂が憎々しげな顔でモニターを眺めていると、背後の扉から田崎が入室してくる。

 その顔は晴れやかであり、恐らくはお気に入りの漫画かアニメでも見ていたのだろう。


「いやぁ私はあんまりわかんないなぁ……経済とか動かしてる方が楽しそうだけど」


 田崎と共に永村も入ってくる。

 永村は田崎の発言に良く分からないと言った感じで答えつつ、二人は山坂の方へと近づいていく。


「んで、山坂はどうしたんだ? 随分不機嫌だが」


「さぁ?」


 田崎は永村へと尋ね、永村は首を傾げる。


長老エルダー級」


 山坂は椅子の背もたれに寄りかかり、頭を倒して二人を見るとそう呟いた。


「あ?」


 上手く聞き取れなかったのか、田崎が山坂へと聞き返す。


「長老級が出てきて負けた」


「え? 何?」


 山坂は先ほどよりは大きな声で答えるが、それでも田崎には聞こえないのか田崎がより大きな声で聞き返す。

 それに苛立ったのか、山坂が立ち上がり、二人の方を向くと大きな声を上げる。


「だぁから! 負けたんだよ!! 長老級が出てきたせいでなぁ!!!」


 そして山坂は空中に浮かぶ半透明なコンソールを叩き、空中にウィンドウを浮かび上がらせる。


「長老級? 長老級ってあれか? 最終戦争前、初めて人類からの変異種──所謂魔族と認定された奴等……」


「そうだよ、その長老級だよ」


「嘘だろ、生きてたのかよ……最終戦争のときに死んだとばかり思ってたぜ」


 田崎の質問に山坂が返すと、田崎は信じられないと言った顔をする。


「山坂君、それ本当? ちょっとそのデータ詳しく見せて」


「んじゃ、俺も見てみるとするかね」


 そして山坂の言葉にいち早く永村が食いつくと、空中に浮かぶデータを見始める。

 その少し後に田崎も共にウィンドウのデータを見始める。

 ウィンドウには先ほどの戦闘の一部始終が動画として流され、また予見者を用いて解析した天照のデータが載っていた。


「お~お~、マスティに予見者シアーまでやられてんじゃん」


「この規模の兵士相手に『魔法』を掛けられる相手か……なるほど、確かに長老級かもしれないね」


 田崎が自らの軍勢がやられるのを眺める中、永村は冷静に天照についての評価を下していた。

 そんな永村の発言に、田崎は首を傾げる。


「ん? かも? かもってどういうことだ永村、こんだけつえーんだから長老級じゃないのか?」


「いや、そりゃ確かに魔法は凄いけど……私等が最初に襲った村に居た樹木、あれだって魔法使ってただろ?」


「「え、まじで?」」


 永村の発言に、山坂と田崎の二人は同時に反応し、永村は溜息を吐く。


「あ~……まああのツリーフォークが魔法を使ってたかどうかは今の話には関係ない、こいつは間違いなく長老級だ」


 山坂は驚いた顔から一転し、話題を元に戻す。


「ふーん……ってことは根拠はあるのか」


「あぁ、さっき戦闘中に負け確になって暇だったから解析ついでに過去の人類に適合するのが居ないか調べてみたんだが……」


「ヒットした?」


「ヒットした」


 永村の問いに山坂は頷く。

 そして手元のコンソールを叩き、二人が見ていたウィンドウに違うデータを映しだす。


「本名、天津零時あまつ れいじ 出身は日本、性別は男、今から1072年前初めて人類が観測した変異種──魔族として登録されてる」


「あ~……聞いたことあるかも、確かおクイズゲーに設問として出てきたような」


 山坂の説明に、永村は顎に手を当て思い出すような動作をすると、手を打ち鳴らす。


「ふーん……ん? ちょっと待てよ山坂、今性別男って言わなかったか?」


 今まで黙って説明を聞いていた田崎が質問を投げかける。


「言ったが?」


「でもよぉ、このモニターに映ってるの……どう見ても女じゃないか?」


「ああ!」


「つまりどういうことだってばよ?」


「良く分からんが、元は男だったが今は女になってる、因みに霊力の波形が同じだから99%こいつは天津零時で間違いない……はずだ」


「なるほどTS」


「そう、それ! TSいいよね……」


 そんな一連の会話の後に、ペスの無機質でありながらしかし何処と無く女性を感じさせる声が響く。


「お楽しみの最中、申し訳ありません」


 ペスの声に、山坂は舌打ちをする。


「ちっ……人が折角TSへの妄想に耽っていた所に、何の用事だ」


「はい、天津零時率いる東京の軍勢が北上を開始しました」


「まぁ、するだろうなぁ」


「はい、この移動速度で北上を続けると一両日には中泊まり町に滞在する札幌の軍勢と戦闘になります」


「はぁ!?」


 それまで不機嫌な態度でペスの言葉を聴いていた山坂は、突然声を張り上げる。


「オイオイオイ」


「移動速度が速すぎるわアイツ」


 それに突っ込みを入れるかのように永村と田崎がテンプレの動きを行う。


「おいおい、今戦ってたのは仙台だぞ? あぁあの長老級お得意の魔法か何かでも使ってんのか?


「いえ、魔法は使用されていません」


「んじゃ高路か? だったら──」


 ペスの否定に、山坂はすぐさま高速移動用通路について言及する。


「いえ……高路でもありません、東京の軍勢を率いる者の能力のようです」


「オイオイオイ」


「やべえわそいつ」



──────────────────────────────


 馬の蹄の音が管理者達が放った怪物によって霊力を失い、完全なる塵と化した大地に響く。

 雨が降った後のぬかるみによって兵士達の歩みは幾分かは遅くなっているが、それでも通常では考えられない速度で3000人の兵士達は走り続ける。

 その戦闘を行くのは、東京10代目総理、徳川戦。


「大儀は我等にある! 北より来る者どもをこれより殲滅する! 全員、続け!!」


 徳川は馬上で家紋の付いた旗を掲げながら、後続の兵士達を鼓舞し、仙台から青森県中泊まり町までの距離を駆け抜けていかんとしていた。




更新ペースは不定期ですがP5が出るから一週間はお休みです、許してください!

何でも許してください!


日本国10代目総理、徳川戦  赤赤白①


伝説のクリーチャー:人間


先制攻撃


日本国10代目総理、徳川戦が最初の戦闘フェイズに攻撃するたびあなたがコントロールするクリーチャーを全てアンタップし、追加の戦闘フェイズを加える。


あなたがコントロールするクリーチャーは全て速攻を得る。


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