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人類ガバガバ保護記   作者: にっしー
東京侵攻編
57/207

改めて制圧した街へ部隊を送ったら

MD215年 6/10日 10:27


「やっと戻ってこれたか……」


 アデルはそう悪態を吐くと、街を眺めた。

 そこが街と呼ばれていたのは遥か昔であり、今はその残骸のみが残る街。

 以前来た時は夜だった為よく分かっていなかったが、改めてその現状を見てアデルの胸には寂しさの様な気持ちが去来していた。


「ムツシとは打って変わって、こっちは何も無いんだな……あるのは残骸だけか」


 そう、中泊まり街には戦闘の余波で破壊された家屋や道路、武器の破片等の残骸が転がっているだけだった。

 先日の戦闘中、妖精達が作った妖精の輪はアデル達札幌側の軍隊や半蔵達東京側の軍隊の全てを別の場所へと飛ばしていたのだ。

 結果アデルが所属していた部隊は散り散りとなり、中泊まり街の近くに飛ばされていたアデルとアレーラは再びこの街へと戻ってきたのだった。


「アデルさーん、ご飯炊けましたよー」


 そんな風に街を見ていると、背後からアレーラの声が聞こえてくる。

 右手にお玉を持ちながら、アデルへと手を振っている。


「あぁ、今行く!」


 アデルはアレーラの方へと振り返ると、アレーラの元へと走っていく。

 アレーラはまだ鞄に残っていた岩パンと簡易的なスープ、それに焼き魚を作り、アデルを待っていた。


「さ、ご飯にしましょう! この辺りのお魚を捌いたのは初めてなので……その、上手く作れてないかもしれませんけど」


 アレーラはそう言うと、自慢の栗毛を揺らし少し俯きながら言う。


「ん、そうなのか? その割には割と普通に見えるが……まあ焼けば何でも食えるしな! 大丈夫だろ!」


 アデルは全くフォローできていないフォローをすると、両手を合わせる。


「んじゃいただきまーす!」


 そして焼き魚へとかぶりつく。

 焼き魚は程よく焼けており、その身の歯ごたえと、また絶妙な塩加減にアデルは舌鼓を打った。


「おぉ、美味いなこれ!」


 そんなアデルの言葉に、俯き気味だったアレーラの顔に笑顔が灯る。


「ほ、本当ですか? 良かった~……お塩の加減とか良く分からなくて大変だったんですよ?」


「あぁ、ありあわせで作ったとは思えないな、いやお前は良い奥さんになるよ」


「え、えへへ……」


 美味い食事を食べたからか、アデルはアレーラをべた褒めする。

 褒められたアレーラは思わず頬を染め、また俯く。

 そして、食事が落ち着いた頃に次の話題を切り出した。


「あの、それで街の様子はどうでしたか? やっぱりその……私達以外は誰も?」


 街の様子を聞くアレーラの顔は心配そうだ。


「あぁ……そうだな、俺が近場を見てきた感じだと誰も居なかったな、獣すら居やしない」


「じゃあ、暫くは安全……ってことですか?」


「どうだろうな、ペスが前に言ってた高路の話覚えてるか?」


 アレーラの言葉に、アデルはペスの話を思い出す。

 高路……千年も前、アデル達が生まれるよりも前の時代に作られた高速移動用の通路。

 ペスの言葉では本来その通路は、生物が通る様には設計されていないという話だった。


「そして連中はその通路を通ってきた」


 だがペスの話によれば、先日戦った半蔵達は東京からその高路を通りやってきた。

 

「つまり、何時また連中がまたここを奪い返しに来てもおかしくない……ってことだ」


 その言葉に、アレーラは食べていた焼き魚を噴出しそうになる。

 そしてスープを口に含んで無理やり飲み込むと、慌てふためいた様子でアデルへと問いかける。


「そ、それじゃあ急いで逃げた方がいいんじゃ……!?」


「多分、まだ少しは大丈夫だと思う」


「ど、どうしてですか?」


「まあ正直確信はないんだが、妖精達にぶっ飛ばされた俺達が全員ばらばらでどこかに飛ばされているように……」


「相手の人達も、知らない場所に飛んでいってる可能性があるってことですか?」


 ふわ……ふわ……。


「ま、そういうことだ」


 そしてアデルは、余っていたパンへと手を伸ばす。


「とはいえ妖精はあっちが連れてきてたからなぁ……流石に飛ぶ場所を指定できないってのは無いと思うんだが、妖精については詳しくないんだよな俺」


 岩パンへ齧りつくと、相変わらずの堅さにアデルは辟易しながら愚痴をこぼす。


「それにしても……! 相変わらずこのパンはかてえな!」


 アデルは岩パンを噛み千切ろうとするが、岩パンは本物の岩の様に硬く、それでいて千切れる様子は一向に見えなかった。


「ま、まあ非常食ですから……でもすみません、ありあわせのご飯で」


「あっ、すまん……別に文句を言ったつもりじゃあないんだ、ただこう……たまには他の物も食べたいっていうか、何ていうかそういう気持ちがだな」


「あはは、分かります、何ていうかこう……お芋とか食べたくなりますよね」 


 ふわ……ふわ……ふわ……。


「あの……ところでアデルさん?」


 ふわ……ふわ……。


「あぁ……、分かってる」


 二人はアイコンタクトを取ると、脇に置いてあった互いの武器を手に取り、立ち上がる。

 そして先ほどから会話の途中で聞こえてきた、謎の浮遊音のする場所にゆっくりと近づき建物の影へと隠れる。


「俺から仕掛ける、援護してくれ」


「はい……!」


 そして、アデルは右手に剣を構えると隠れていた物陰から浮遊音がする方を見る。


「なんだあれ」


 それを見たアデルは、思わず間の抜けた声を出してしまう。


「?」


 不思議に思ったアレーラも、物陰から浮遊音がする方を眺める。

 そこには人間二人が中に入ってもまだ余裕のありそうな、土鍋の様な物体が浮いていた。

 

「な、何ですかあれ……?」


 アレーラは相変わらず呆けた顔をしているアデルへ問いかける。

 恐らく傍目から見ればアレーラもアデルと同じような顔をしていただろう。


「俺が知るかよ……とはいえトウキョウの奴らが置いていったゴーレムか何かかもしれんし、気を抜くなよアレーラ」


「はい! ……でも、どこかで見た事があるような?」


 アレーラは返事をすると、少し悩んだ後物陰の中を移動する。

 そして空飛ぶ土鍋を二人が丁度挟む位置取りへと移動すると、アレーラは杖を構えた。

 反対側のアデルを見ると、アレーラへと頷きを返し剣を抜く。


「行きます!」


 アレーラは叫ぶと杖を構え、赤の霊力を集中させ呪文を織り上げる。


「衝撃/Shock!」

 

 大気から赤の霊力を吸い上げると、杖の先端は火花を散らし始める。

 その先端を空飛ぶ土鍋へと向け、アレーラは稲光を放つ。

 アレーラが放った稲光が土鍋に命中すると、土鍋の中から悲鳴が響く。


「あびゃーーーー!」


 悲鳴の後、土鍋は地面へと墜落する。


「喋った!? まあいいか!」


 そしてアデルが飛び出すと、剣を振るって土鍋へと切りかかる。

 剣は土鍋へと命中すると、甲高い音が響く。


「かてぇ!」


 アデルは土鍋に切りつけた時の、その硬さに思わず声を上げる。


「な、なんやオドレ等! 盗賊か何かか!?」


 そして再び土鍋の中から声が響く。

 土鍋の中の存在は、怒りと困惑が綯い交ぜになったような声を上げる。


「誰が盗賊だ! お前こそトウキョウから来た軍の連中か何かじゃないのか!?」


「なんやとぉ!? ウチがあないな粗暴な連中と一緒に見えるっちゅうんか!」


「あぁ!? やんのかおらぁ!」


「やったろうやないかいボケェ! オギナワの女舐めたらあかんで!」


 と、アデルが反論すると売り言葉に買い言葉。


「オギナワ……? あっ!」


 そのまま戦いに発展しそうになる所に、アレーラが何かを思い出したように手を打ち鳴らす。


「思い出しました! アデルさん、その人は敵じゃないですよ!」


「え? じゃあ何なんだよこれ……」


 アレーラの呼びかけに、アデルがアレーラの方を振り向く。


「その人、前に私の村に行商に来た事あります! その人商人さんですよ!」


「何ぃ!?」


 その言葉に、アデルは盛大に驚く。


「隙ありやボケぇ!」 


 そしてその隙を逃さぬように土鍋は突然飛び上がり、アデルの顔面に直撃するのだった。

 


──────────────────────────────


「すまんかった!」


「すみませんでした!!」


 アデルとアレーラは、不貞腐れた態度を取る女性──マン=モンへと頭を下げる。

 謝るアデルの顔はぼこぼこになり、顔のあらゆる所が腫れている。

 結局あの後、アレーラがアデルとマン=モンの間を取り持ち、互いについて自己紹介をしたのだった。


「ふん、いきなり襲ってきおってからに……まあええ、一度くらいは人間間違うもんやからな」


 マン=モンは二人の顔を一人ずつ眺める。


「そ、それじゃあ……」


「許したる、ウチも鬼や悪魔やあらへんからな」


 そして溜息を吐くと、二人の先ほどの行いを許すのだった。


「しかしあんた等がなぁ……正直兵士には見えへんのやけど、それに他に兵士とか居らへんの?」


 マン=モンは土鍋の中に座りながら、腕組をして二人を見る。

 片や軽装の装備を付けた赤毛の剣士、片や田舎から出てきたような服装の素朴な少女……マン=モンから見ると、この二人は兵士というよりは旅人や冒険者という印象が正しいように思えた。


「そう見えなくても兵士なんだよ、んで他の兵士か……実はちょっと問題があってな」


 マン=モンの問いかけにアデルは暗い顔をする。


「何や、会うのに許可が要るとか秘密の行動中で実はトウキョウの人間に見られたらそいつを殺さなあかんとか、そういうあれか~?」


 冗談めかしてマン=モンが言うと、アデルは首を横に振る。


「いえ、その実は……」


 アレーラが口を開き、マン=モンに先日起こった事を話す。

 中泊まり街を攻めた事、妖精達が集まってその場で戦っていた全員がどこかに飛ばされてしまった事、そして偶然街の近くに二人だけが飛ばされた事を。


「なるほどなぁ、妖精の輪に巻き込まれたっちゅうわけか……そりゃ確かに会うのは難しいかもしれへんな」


 マン=モンが納得したような素振りで頷く。

 そんな様子を尻目に、アデルは聞き覚えの無い言葉に質問をする。


「妖精の輪? 何なんだそれ」


 アデルの質問に、マン=モンはハッとする。


「あー……せやな、知らんやろうなぁ妖精の輪は、ええで、説明したるわ」


 そしてマン=モンは妖精の輪について説明を始めた。


「ええか? 妖精の輪っちゅうんは……」


 ・妖精が複数集まると誘発する魔法である。

 ・妖精の輪は広範囲に及ぶ。

 ・妖精の輪が解決されると、その範囲内に居る生命体は全て居るべき場所へと帰る。


「っちゅうわけや、分かったか?」


「なるほど……大体分かったんだが、その居るべき場所に帰るってどういうことだ?」


 マン=モンの説明を聞いて、珍しく全てを理解できたアデルだったがそれでも分からない事があった。

 居るべき場所という言葉である。


「あ~……実はそれウチもよぉ知らんねん、知り合いの妖精の受け売りやからな、とりあえずめっちゃ遠くに飛ばされるっちゅうことだけ覚えておけばええねん」


「ほう、んじゃ俺達は珍しく近場に飛ばされたってことか」


 マン=モンの説明に納得したのか、アデルが頷く。


「せやろな、まあせやから恐らくあんた等の所属してた軍隊は元居た場所か、あるいはもっと別の場所にぶっ飛ばされたんやろな」


 そう言うと、マン=モンは足の埃を払うと土鍋の様な下半身が納まっている物体を空中へと浮かべる。


「さってそんじゃ頼むであんた等、しっかりあんた等の国まで案内してもらうからな」


「「はい?」」


 想定外の言葉に、アレーラとアデルは聞き返す。


「はい? じゃあらへんがな、ウチ襲ってきて迷惑掛けたんやしそれ位しても罰あたらへんやろ」


「まあ確かに襲ったけど、許してくれるって……」


「確かに許すっちゅうた、言うたけど謝礼も無しとは大人としてどうなんや、そこら辺恥ずかしい思わへんか? ん?」


「いや、あの……はい、恥ずかしい、です……」


 マン=モンの捲くし立てに、アレーラはタジタジになり、つい頷いてしまう。


「ほんなら決まりやな! ほら、そうと決まったらさっさと立ち! 行くで行くで!」


「うーん……まあここに留まってても何れ来るであろうトウキョウの連中とは戦えないだろうし、それが賢明、なのか……?」


 と、マン=モンに背中を押されながらアデルは考えるのだった。


──────────────────────────────


 後日、マン=モンとアデル達一行は札幌へ帰還途中に再度中泊まり町へと向かっていたギト達と遭遇し、マン=モンは無事商品を売りつけることに成功するのだった。


──────────────────────────────

MD215年 6/16日 10:27


 そして、アデル達が帰還している最中──仙台市にて、今後の日本の行方を決める戦いが行われようとしていた。



投稿ペースは不定期です、不定期です!


商人マン=モン 青青


各プレイヤーがカードを引く場合、その本来のドローする枚数に加えて追加に一枚多くカードを引く。


飛行


2/3

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