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人類ガバガバ保護記   作者: にっしー
東京侵攻編
54/207

シノビに出会ったら

MD215年 6/8日 00:28


 深夜、青函トンネルよりも少し南下した海岸沿いに彼等は居た。

 蟻を模して作られた子機ドローンと呼ばれるそれに跨った彼等は、青函トンネルを抜けた先にて待ち構える東京の軍隊へ向け進軍しようとしていた。


「全隊整列! これより我々は海上を進軍し、ナカドマリと呼ばれる町を制圧しに掛かる!」


 部隊を指揮するのは、札幌南区にて衛兵隊長をしていたギト・ダール士長である。

 このオークの士長はベルが指揮していた開拓先発隊を救援する為に函館へと到着した後、直ぐに芽衣子からの手紙により中泊まり町制圧へと軍を連れて向かう事になったのだった。

 そして、その部隊の中に開拓先発隊から強く南方進軍へ参加したいと希望する者が居た。


「待ってろよ、ベル!」


 一人は赤毛の剣士、アデル・レスディン二等兵。

 彼は東京から来た侍、虎牙伊織に二度敗北を喫した事で重症を負っていたが怪我が治るとすぐさまギト士長へと参加の要望を出したのだった。

 アデルはギトの演説を聴きながら、管理者の一人、山坂から送られてきた剣を改めて確認していた。


「大丈夫かなアデルさん、あんな怪我の後だし……」


 そしてそれを見守るのは栗毛の女性、アレーラ・クシスである。

 彼女は六日前、アデルを伊織との戦闘から助けると必死の治療でアデルを死の淵から救った。

 だがその後救援に来たギトへアデルが進軍に参加したいと言う話を聞き、居ても立ってもいられず彼女も進軍へ参加する事にしたのだった。

 理由としてはアデルは危なっかしいから、だそうだ。


「ん? 何だアレーラ、どうかしたのか?」


 そんな不安そうな視線にアデルは気づくと、アレーラへ声を掛ける。

 アレーラは少し言いづらそうにして黙っていたが、少しすると口を開いた。


「いえ、その……アデルさんが心配で、ベルさんを助けられなかった事とかあの侍さんに負けたこととかでムキになってるんじゃないかな……って」


 アレーラは不安そうな顔で、アデルを見つめる。

 アデルは右頬を掻くと俯き、申し訳なさそうな顔をする。


「そうか……悪いなそんな風に心配掛けて、けど安心して欲しい」


 そして顔を上げると、アデルは言った。


「確かにあいつに負けた事はショックだ、俺自身が許せないと思うこともある……けどな、決して俺は自暴自棄やムキになっているわけじゃない」


 アデルの言葉にアレーラは疑問を抱く。


「じゃあ、どうして今回の戦いに参加するんですか? 何も無理して参加する必要なんて……」


「う~ん、別に無理して参加してる訳じゃないんだが……何ていうのかな、やりたいからやってるんだよ」


 アレーラはその言葉に首を傾げる。


「あぁ、やりたいからだ。 ベルを助けてやりたいという気持ちで、俺はこの進軍に参加してる。 そりゃあの侍を見たときはついカッとなって切りかかったりもしたが……」


 其処まで言うと、アデルは照れくさそうにして。


「それでも俺は助けたいと言う気持ちで動いてる、決して怒りや憎しみとかじゃない。 でも感情が優先するときもあるっちゃある、だからだ、アレーラ」


 そして笑って。


「そういう時は俺を諌めてくれ、そして助けてくれ、仲間として、友達としてな」


「はい、私で良ければ。 でもアデルさん……その、男性がそういう台詞を言うのはちょっと格好悪いです」


「マジか!?」


「それでは出陣する! 各分隊は決められたルートを通り進軍せよ! 海には抱かれるなよ!」


 アデルとアレーラがそんなやり取りをしていると、いつの間にかギトの進軍前の演説は終わったらしく進軍指示が全員に言い渡される。


「おっと、時間か! それじゃあアレーラ、行こうぜ」


「はい!」


 二人はそういったやり取りを交し合うと、事前に言い渡されていた分隊へと向かっていった。

 今回南方へ向かう人数は1000名、子機を含めればその数は実数で2000となる。

 彼等は子機の水上歩行能力を用いて地上から海を渡って三方から攻める事にしていた、アデルとアレーラはその内左側面から攻める分隊に所属する事となった。

 正面の分隊はギト士長、右側はギトの部下の副士長が、そして左側はベルの副士長をしていたニーリィというレオニン、猫の魔族がそれぞれ率いていた。


「よし、全員揃ったかな? それじゃあ全員、蟻……じゃなかった、子機へと霊力の紐を繋げて!」


 二人が所属する分隊へと到着すると、分隊を指揮するニーリィが分隊へと指示を出した。

 分隊員達は指示を受けると、自身の胴体と子機の胴体へ霊力を用いて青白い紐を作成しそれを括り付ける。

 その後自身の前に居る子機と自分の子機を同じく紐で連結する。


「よっし! 準備できた? それじゃあ……進軍、行くわよ!」


 各分隊員が紐を付けたことを確認すると、ニーリィは自分が乗る子機を操り海上へと降り立つ。

 最初は恐る恐る、しかし足が海水に触れるとしっかりとした大地の感触が伝わってくるのを確認すると勢いよく降りる。


「まさかほんとに水の上を歩けるなんて……でも私が落ちたら浮かび上がらないのよね?」


 そんな呟きをしつつ、ニーリィの後に続き残りの兵士達も海へと下りていく。

 そして、最後尾のアデルとアレーラもまた恐る恐る海へと子機を操り降りる。


「わ、わわわわ!? あ、アデルさん!? う、浮いてますよ!?」


「お、おぉ……確かにこりゃすげぇ、感触は地面を踏んでるように感じるけど確かにここは海の上なんだよな……」


 ゆっくりと降り、踏みしめる海の感触を確かめる、そして時折足に掛かる波飛沫でここが確かに海の上なのだと確信する。

 そんなことをしていると、アデルの子機に繋がった紐が引っ張られる。


「おーい後続! しっかりついてこいよー!」


 その紐を引っ張っているのはアデルよりも一つ階級が上の兵士であった。

 この兵士は牽引用の紐を引っ張るとアデルへと歩みを促した。


「す、すみません! 今行きます!」


 そしてアデルが後ろに居るアレーラへと顔を向ける。


「よし、行こうぜアレーラ!」


「はい!」


 その呼びかけに、アレーラは笑顔で応えるのだった。


─────────────────────────────


 アデル達が進軍する少し前、伊織が居るむつ市は火の手に包まれていた。

 むつ市にある家々には火の手が上がり、逃げ惑う人々の声や助けを求める人の声が響き渡っていた。


「だ、誰か! 誰か助けて!」


「オ、オラの嫁が! 火、火を消してくれぇ!」


 そんな叫びの中、一人の子供が泣きながら母親を探していた。


「ヒグ、ヒック……お、おがあざぁん……どこいったの?」


 子供は泣きながら人々が逃げ惑う道を、人々が逃げる方向とは逆の方向へと歩いていた。

 そんな子供を一人の大人が逃げる途中に突き飛ばしてしまう。


「うわっ!」


 子供は跳ね飛ばされ、地面に尻餅をつく。

 突き飛ばした大人はそれを見て助けようとするが。


「す、すまん……!」


 と言って、助ける事を躊躇して逃げ出してしまう。


「いだいよう……おかあさん、いたいよう……」


 そんな風に子供が痛みで泣きじゃくっていると、子供の前に一つの足音が響く。


「おかあさん?」


 子供がその足音に顔を上げると、そこには獅子が居た。

 その一つ一つが刃の様な鬣であり、本来生物には一つしかない口は三つあり、そして尾は常に燃え盛る鉄の獅子。

 機械仕掛けの捕食者の姿がそこにあった。


「あ、あ……!」


 子供はその姿に怯え、尻餅をついた状態でゆっくりと後退りをしていく。

 その子供の姿を見て楽しんでいるのか、獅子はゆっくりと歩を進めながら子供へと近寄っていく。

 獅子が近づくと子供が後退る、そういった行動をしている内に子供の背がまだ無事だった家の壁へと当たる。


「グルルルルル」


 獅子はその見た目に近しい、獰猛な獣のような低い唸り声を上げると燃え盛る尾を振るった。

 尾が振るわれると、獅子の近くの地面は煙を出し溶解する。

 そして獅子は威圧の様な行動を取った後、尾を高く上げ子供に見せ付けるとそれを子供に向けて一直線に動かした。


「うわあああ!!」


 子供は咄嗟に腕で顔を覆い隠し、死を覚悟して叫ぶ。

 だがいつまで経っても覚悟した死が来ない事に驚き、顔を覆っていた腕をどけた。

 其処には幾度も迫る獅子の尾を防ぎ続ける白い和服を着た侍、伊織が立っていた。

 

「よう坊、無事にござるかぁ?」


 伊織は獅子の攻撃を防ぎながら、子供へと話しかける。


「う、うん……」


「そいつは良かった、男とはいえ領民を殺されたとあってはせん様……もとい総理様からのお叱りを受けるでござるからな」


 そして伊織は面倒そうな顔をして呟くと、獅子へ渾身の突きを放つ。 

 その突きは刀が獅子へ触れるよりも早く衝撃波を発生させ、獅子を吹き飛ばす。

 獅子は民家三軒を貫いてようやく吹き飛び終わると、動かなくなる。


「さ、とりあえず一匹は始末した。 坊の母親ならきっとこの道をまっすぐ行くと居るでござろう、振り返らず急いで行くのだぞ?」


 伊織は刀を納めると、子供を立たせ服の埃を払い、大人達が走って逃げていった道を指差す。


「あ、ありがとう……!」


 そして子供はお礼を言うと、涙を拭って道を走っていく。


「うむうむ、無辜の民を救えたのは良い……だがそれでも結構な犠牲が出てしまっているようでござるな」


 伊織は辺りを見渡すと、燃え盛る家や白化した人間や魔族の死体、そして体の半分程度が溶けている死体等を見る。


「……拙者を倒す為に村ごと襲うとは、外道どもめ」


「ワハハ、お褒めに預かり恐悦至極!」


 その伊織の言葉を聴いていたのか、何処からか声と共にカチカチという音と、昆虫が動くようなカサカサという足音が背後から聞こえてくる。

 伊織が振り返ると、そこには顔の無い顔と胸に巨大な目を備え、その目の周囲には更に小さな無数の目が備わった、昆虫のような節を幾つも持つ機械とも生命とも言えない生き物が立っていた。

 腕と呼ばれるような部位は最早腕の形を成しておらず、触手がうねり、そして触手には小さな何かが貫かれていた。


「おかぁ……さ……」


 それは徐々に霊力を吸われて白化していき、最後には塵も残さず消滅した。


「貴様……!」


 塵となって消えたそれを見て、伊織は静かに怒りを燃やす。


「ハハハ! 安心しろクソ侍! お前を殺した後はこのむつ市の連中を全員皆殺しにしてやるからよぉ!」


 子供だった塵を投げ捨てた生物から、聞き覚えのある声が伊織に聞こえる。

 それは先日、伊織と戦ったゴーレムの男の声だった。


「そうそう、自己紹介が遅れたな! 僕の名は山坂、そしてこの兵器の名前は予見者だ、そんでもって──」


 山坂が自己紹介と兵器の紹介をした直後、燃え盛り崩れ落ちそうな民家の中から先ほど吹き飛ばした獅子が伊織目掛け飛び掛る。


「そいつが獅子マスティコアだ」


 獅子が飛び掛ると、伊織は即座に刀を二本抜き、獅子を切り刻む。

 獅子は体から半分を切り裂かれ、地面へ真っ二つとなった胴体が着地する。


「ハハハ、お見事!」


「次はお主の番よ、腐れ外道め……この様な手を取るなど……!」


 伊織は山坂の言葉に振り返り、予見者へ即座に刀を向ける。


「男の風上にも置けぬってか? 知るかよクソ野郎が! てめえのせいで僕は片腕折られたんだ! この痛みはお前等全員を殺さないと収まらないんだよぉ!」


 山坂が叫ぶと、伊織の背後から唸り声と共に高速で何かが伊織目掛け突き出される。

 伊織は振り向き様にそれを切断すると、驚愕する。


「何と……!」


 そこには、つい先ほど胴体を真っ二つにされた獅子が立っていた。


「恐れ入ったかぁ!? では予見者と獅子による二重奏をお楽しみくだっさぁい!」


 そこでブツッという音と共に音声が途切れ、予見者の巨大な目が光り、伊織を映し出す。


「キュオォォォォ」


 という金切り声の様な声と共に、緋色の液体……涙の様な物が流れ落ち始める。

 伊織は良くない気配を感じ、予見者へ魔術を放とうとする。


「馬鹿な……呪文が織り上げられん!?」


 だが伊織が呪文を唱えようとすると、伊織の口は魔術的な言葉の一切を唱える事が出来なかった。

 そして、その隙を突く様に獅子が飛び掛る。

 伊織は再び獅子を切断するが、やはりそれは即座に再生し……そんな事を数十回繰り返すうち、やがて伊織は獅子数体と予見者数体に囲まれるのだった。


「はぁ……はぁ……! これは、万事休すというやつか!」


 伊織は多少疲れた様子を見せながら、今後について考えていた。

 そんな時に、再び予見者から山坂の声が響いてくる。


「おっと、まだ生きてたのか……化け物かお前は」


「期待に沿えなくてすまんでござるな、拙者これでもしぶとさには定評があってな」


「なるほど、ところで死ぬ覚悟は出来たか? まあ逃げても良いがその場合はこの村の住民を一切合財殺す、文字通り何も残さんぞ」


 山坂は冷淡、かつ楽しんでいるような声で伊織へ告げる。


「屑め……!」


「そんなに褒めるなよ~」


 伊織の侮蔑に山坂は笑いながら答える。


「それでは……いよいよもって死ぬが良い!」


 山坂が告げ、獅子達が攻撃準備に入ったとき、突如周囲に霧が立ち込める。


「何!? 何だ、何が起きた!? ペス、報告しろ!」


 山坂の動揺で、獅子達の攻撃が一瞬遅れると共に伊織には別の人間の声が聞こえる。


「伊織殿、こちらです!」


「おぉ、半蔵か!?」


「しまった! 行け、獅子ども!」


 その声は山坂にも聞こえていたらしく、声が聞こえたと同時に獅子へと攻撃命令を下すがその瞬間にはその場には何も残っていなかった。


「むぐぐぐ……逃がしたか! だがまあ良い、時間稼ぎは終わった! 中泊まり町とここむつ市は僕達が占拠させてもらうぞ!」


 山坂は一頻り悔しそうにした後、獅子と予見者達をむつ市全域へ向かわせ……むつ市は完全な塵だけが残る場所となるのだった。



アリーナばっかりやっているので初投稿です

次:二つの町を落としたら


予見者 ④


クリーチャー:エクィロー


予見者が戦場に出た時、お互いの手札を全て追放する。

予見者が戦場から離れた時、追放しているお互いの手札を全て戻す。


4/4


忍者に出会ってないじゃないか!いい加減にしろ!とお怒りの諸氏は次の話を見とけよ見とけよ~

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