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人類ガバガバ保護記   作者: にっしー
東京侵攻編
51/207

進退窮まったら

MD215年 6/2日 13:31


「それじゃあ、お世話になりました!」


 アレーラは頭を下げると礼を目の前の人たちへと言った。

 彼女達の目の前にはむつ市へ到着してから世話になった村人の女性が居り、別れを惜しんでいた。


「ほんとに行っちゃうのかい? アデル君にアレーラちゃん、それにペスさんも」


 頭にほっかむりを被った農民の女性はアレーラ達を引きとめようと声を掛ける。


「村長も熊を退治してくれた貴方達なら特別に村に住んでも良いって言ってくれてるし……」


「ありがとうございますおばさん、その申し出はとても嬉しいです、けど……やらなきゃいけないことがあるんです」


 女性の申し出にアレーラは首を振ると、その申し出を断る。


「そうかい? 残念だねぇ……でも近くまで来たらまた顔をお出しね!」


「はい! その時は是非! では、お世話になりました! またどこかで!」


 アレーラは女性へ頭を下げると、後方で待つアデル達の場所へと走っていく。


「お、お待たせしました!」


 アレーラはアデル達の元へと息を切らしながら辿り着く。 


「おう、おばちゃんとのお別れは済んだか?」


 地図を確認していたアデルは、アレーラの声に地図を下ろす。


「はい、またおいでって言われちゃいました」


 先ほどの女性の言葉を思い出し、アレーラは嬉しさに笑顔を作る。


「また来いか……そうだな、今度はベルを連れて帰ってこようぜ」


 「熊退治はもうごめんだがな」と付け足しながらアデルも笑みを作る。


「ふふ、そうですね」


 とアレーラも笑って返す。

 そしてアデルはアレーラへ持っていた地図を見せる。


「んじゃ、そのベルを連れ帰るためのルートだが……こういうルートを通ろうと思う」


 アレーラが地図を覗き込むと、むつ市から弧を描くように赤い線が東京まで延びて描かれていた。

 その地図を見たアレーラは渋い表情になる。


「うーん……目的地まで遠いんですね……どの位掛かるんだろうこの距離」


「蟻で普通に行くなら一ヶ月とちょっとって所か? 今回村から貰った馬だともうちょっとかかりそうだな」


 一ヶ月という単語を聞き、アレーラは驚く。


「い、一ヶ月ですか……それじゃあ村で貰った食料だけじゃ全然足りませんね」


「あぁ、だから長旅になると俺も思ってたんだが……どうやらそんなに時間を掛けなくても行く方法があるらしいんだ」


 そしてアデルは後ろを振り向くと、アデルとアレーラから少し距離を置いた場所で山坂と話しているペスへ声を掛ける。


「おーい、ペスー、ちょっといいかー?」


 声を掛けられたペスは山坂へ幾つか声を掛けた後、不満そうな顔をする山坂を一人置き二人の元へと歩いてくる。


「お呼びでしょうか、アデル様」


 重厚な金属音を響かせながら到着すると、ペスはアデルへ声を掛ける。


「あぁ、ペスが前に言っていた移動方法についてなんだが……その前に、あいつどうかしたのか?」


 とアデルが山坂を顎で指し示す。


「いえ特段大したことでは、単にその移動方法について山坂様は不服なようでして」


「それは……大丈夫なのか?」


 アデルが心配そうな顔で問いかけると、ペスはいつもの無機質な声で返した。


「はい、山坂様個人の感情的な部分での異議申し立てですので、時間が経てば落ち着くかと」


「そ、そうか……んじゃあ悪いが、この間してくれた移動方法についての説明をもう一回してもらえるか?」


 ペスの返答に若干納得したような顔をすると、アデルは改めてペスへ説明を頼む。


「よろしくお願いしますね、ペスさん!」


 とアレーラも頭を下げると、移動方法についての説明が始まるのだった。


「はい、ではこれより高速移動通路、通称高路こうろについて説明いたします、高路は此処から30分ほど移動した山中にあり──」


 その後10分程度ペスによって高速道路についての説明が二人に行われた。

 ペスが話した内容は以下の通りである。

 ・高路はまだ千年前、戦前の形を残している使用可能な通路であること

 ・この高路を使用する事で東京~札幌間の距離1155.2キロを1時間で移動する事が可能であること。

 ・しかし高路は車両専用の通路であり、生身で通った場合の安全の保障はしかねる。


 この三点である。


「は~、そんな便利な道があったのか……どういう原理で動いてるんだそれ?」


 説明を聞いたアデルはその説明に感心しながら質問する。


「お答えしましょう、高路は半円状の珪素体に覆われておりその中では物体の加速する力が100倍になります」


「100倍!?」


「はい、ですので通常高路は自動運転を行う車両のみが通れるのです、意思を持つ生命体が通ると高路を覆う珪素体に衝突してしまう可能性がとても高いので」


 アデルは、「なるほどなぁ……まあ良く分からんが」と頷きながら改めて高路について感心するのだった。


「サツホロとトウキョウの間~と言う事は、今もサツホロにはその高路という道があるんですか?」


 そしてアレーラがふと疑問に思ったことを問うと、ペスが頷く。


「いえ、以前は日本全土を縦断する様に敷かれていたのですが戦後千年の間に野生動物に破壊されたり整備不良で機能を暴走させている箇所が大多数のようです」


「なるほどな、つまりベルを助けた後その高路を使って一気にサツホロまで戻るってことは出来ないわけだ」


 アデルは残念そうな顔をしながら呟く。

 

「何れサツホロ南方の開拓が進めば、高路の補修も行えるとは思いますが現状はその手段は不可能です」


 そこへアレーラが両手をパンと警戒に打ち鳴らす。


「それでもここからならトウキョウへは真っ直ぐ行けるんだからいいじゃないですか!」


「確かにそうだな、真っ直ぐ帰れないのは残念だけど移動の時間が短くなるのは大歓迎だ」


「んで、これから皆でベルさんを助けに行きましょう~ってか?」


 アデルとアレーラが盛り上がってきた所に、ペスの後ろから歩いてきた山坂が水を差す。

 その顔はうんざりだ、とでも言わんばかりである。


「お前等の奮闘っぷりは認めよう、この村でも自分の利益の為とはいえ危険な熊退治だの壊された家の補修だのとよく頑張った」


 山坂は二人の頑張りを称えるような語り口で始める。


「だが! だがだ! お前等二人とペス一体で東京に向かってどうする? まさか本気で助けられるとか思ってるんじゃないだろうな?」


 そしてやれやれといった動作を行いながら、二人へ近づいていく。


「ペスがぶっ壊される様な生物を殺すような奴相手にお前等が張り合ってどうにかなるとでも? 第一そのベルとかいう女を攫った奴が逃げた場所が東京なんだろ? 相手の本陣に二人で突撃なんて無謀も良い所だろ」


「それは……、別に戦わなくても情報収集するとか上手い事忍び込んでベルだけ連れて逃げ帰るとかだな」


 山坂の言葉に、アデルが反論する。


「出来るわきゃねええだろぉお! 捕まって終わりに決まってるだろ! もっと現実的に考えろ!」


「へ、変装して忍び込むとか……どうでしょうか」


 アレーラが少し考えた後、山坂へと発言する。


「まず救い出すって方向性を変えろよ! 現状の人数では無理だろって言ってるの!」


「じゃあこのままサツホロへ逃げ帰れってのか? 隊長を攫われたまま!」


 意見の否定ばかりする山坂に対して、アデルが思わず語気を荒げる。


「そうだ、元々お前等はあくまで情報収集の為にここまで来ただけで救うのは仕事のうちに入ってねーだろ、そりゃこの間はお前が指揮権を持つ事を認めはしたが……これ以上は無謀だろう」


「山坂様、何故突然その様な事を?」


 アデルと山坂の間に、ペスが割ってはいる。


「ふん、青の太陽からの最新情報を見てみろ、東京方面のな」


「青の太陽? ん? おい、どういうことだよ、何で空に浮かんでる太陽の名前がここで出るんだよ」


 割ってはいるアデルを無視して、山坂はペスへと指示を出す。


 青の太陽……地球を照らす本来の太陽とは別に打ち上げられたこの人工天体は大気中に溶け、混ざり合った霊力を回収する為に作成された物である。

 残りの4つの太陽も同様の目的で作られたが、管理者達は戦前からこれを秘密裏に改良、そして兵器や監視衛星として作り変えたのである。

 青の太陽はその中でも最も情報処理能力に優れており、地球で起きるあらゆる出来事のデータを保存していた。

 ペスは、その青の太陽からエクィローにある本体へデータを転送し読み込むとアデルとアレーラへと声を掛けた。


「……アデル様、アレーラ様、今回は撤退致しましょう」


「「えぇ!?」」


 ペスの様子を見守っていた二人は、自分達の意見に賛同してくれると思っていたペスのその正反対の言葉に同時に驚く。


「ど、どうしてですか? ペスさん」


「そうだぜ、折角トウキョウまでの移動方法まで教えてくれたってのによ」


 二人はペスへと詰め寄る、そしてペスが答えようとする前に山坂が口を開く。


「答えは単純、東京の連中が軍備をこっちに向けて出陣させた、今お前等が使おうとしていた高路の出口付近に向けてな」


「なにぃ!? おい、ペス! 本当なのか!?」


 山坂の言葉にアデルは動揺し、ペスの腕を掴むと揺さぶりながら問いかける。


「いえ、本当です、1000名ほどの武装した集団を確認しました、このまま彼等が高路を利用する場合一時間でここへ到着するでしょう」


 ペスの言葉に山坂が勝ち誇ったような顔をする。


「だから言っただろ止めておけって、んでどうすんだ? アデルさんはよ」


 山坂は嫌味を込めて、初めてアデルの名前を呼ぶ。

 その嫌味にアデルは顔を歪める。


「ぐぬぬ……」


「あ、あの……それじゃあその高路を使わないで東京を目指すっていうのは駄目なんでしょうか?」


 とアレーラが質問するが、山坂は首を横に振る。


「現実的とは言いがたいな、此処から東京まで行くのにはそれこそ一ヶ月近く掛かるだろうし、何より何処から何処までが東京の連中の勢力圏内なのかも良く分からん」


「うーん、それじゃあ隠れてその人たちをやり過ごすって言うのは……」


「上の案とあんまりかわらねーじゃねーか! 隠れてやり過ごしても戻るのも進むのも地獄な状況になるだけだろ!」


「す、すみません……」


 アレーラは代案を出していくが、そのどれもが山坂によって否定されていく。

 そしてその間、腕組をしながら何かを考えながら唸っていたアデルが声を上げる。


「よし! 決めた!」


 そしてアデルは掴んだままだったペスの腕を離すと、ペスの顔を真っ直ぐと見た。


「ペス、高路へ案内してくれ」


「なにぃ!?」


「アデルさん!?」


 アデルのその発言に、思わず山坂とアレーラは声を同じくして叫ぶ。


「アデル様、その提案が自暴自棄による判断であるとしたらその提案は受け入れられませんが」


 ペスの咎めるような発言に、アデルは首を横に振る。


「別にそんなんじゃねーよ、ただ武装した連中が此処に向かってくるってんなら高路の出口をぶっ壊しすとかそういう手段で妨害できないかと思っただけだよ」


「妨害? そんなもんしてどうなるってんだ、そんな事してる暇があったらさっさと逃げた方がよっぽど賢い……あーいや待てよ?」


 山坂がアデルの発言に反論しようとするが、途中で言葉を止め顎に右手を添える。


「ふむ、ありかもしれんな」


「だろ!? 分かってくれたか!」


 アデルは山坂のまさかの肯定的な意見に山坂へと駆け寄ると肩を叩こうとする。


「づぇぇい! 触るな馬鹿めが! 気安いわ!」


 山坂は自らに触ろうとするアデルを避けると、アデルから距離を取る。

 その光景についていけないアレーラがおずおずと手を上げると、質問する。


「あの~……よく流れが分からないんですけど、どうして逃げないで態々その高路へ出向くんですか? 妨害するよりも逃げた方が安全なんじゃ?」


 山坂に避けられたアデルは上げた手をしょんぼりと下ろすと、アレーラへと振り返った。


「なぁに単純な話だ、今から一時間かちょっとでここに辿り着くってんなら今から逃げてもサツホロやあのハコタテって町には逃げ切れないだろう?」


「だったら逆にこっちから出向いてこちら側にある高路の入り口を破壊して足止めしたほうが逃げやすい……そういうことだろ」


 アデルの説明を、山坂が補足する形で行うとアレーラは呆けた顔で納得する。


「なるほど~……あれ? でもどうやって高路の入り口を破壊するんですか?」


「そんなもんペスが居るだろ、ペスに適当に剣でも装備させてだなぁ──」


「なるほど、それは良い作戦にござるなぁ」


「だろー? ははははは、何だよ話の分かる奴も居るじゃあねえか!」


 と肯定的な意見を聞いて気を良くした山坂がその声の方へ振り向くと、其処には髪を結った176センチほどの男が立っていた。

 その男は和服を着用し、背中に二本の鞘を背負っており、そしてその男を見たアデルは固まっていた。


「誰だお前!?」


「拙者か? 拙者は虎牙 伊織と申す者よ!」


 山坂の突っ込みに、伊織は飄々と答えるのだった。



投稿ペースは不定期です 尚ペルソナ5が発売したら結構な期間更新が止まるかもしれませんが許してください、何でも許してください

今日中に投稿すると言う約束をぎりぎり守ったので初投稿です


次:アーチエネミー/Archenemy


アレーラ・クシス 赤 緑 白 黒 青


伝説のクリーチャー 人間・クレリック


1/1

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