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人類ガバガバ保護記   作者: にっしー
東京侵攻編
48/207

情報収集へ出かけたら

MD215年 5/29日 10:00


 エクィロー内部、工廠と呼ばれている部屋で田崎はペスの第二ボディを調整していた。


「……よろしかったのですか?」


 複数のケーブルに繋がれた状態のペスが、田崎へ声を掛ける。

 

「あん?」


 田崎は向き合っていたパソコンから顔を上げると、目線をペスへと移す。

 その間にも田崎の指は止まらず、正確に調整をこなしていく。


「先ほどの会議です、私の提案をあのようにして通して本当に良かったのですか?」


 ペスは固定されていない首を田崎の方へ向ける。

 その声色は田崎を心配しているように感じられた。


「あぁ、あれか? 別に良いんだよ、人員遊ばせるのは確かだしな」


 田崎はタイピングを続けながら、「それに……」と言葉を続けた。


「ベイロスを殺したって奴にも興味あるしな。 ま、だからその調査にはお前も同行して……」


「ほうほう、そう言う事だったのか」


 田崎がペスへ言葉を投げかけている途中、工廠の扉が開く。

 その先には、壁に寄りかかる山坂が立っていた。


「山坂、お前」


「話は聞かせてもらったぞ、田崎君」


 山坂はにやにや笑いながら田崎へと近づくと、パソコンを弄っている田崎の左肩へ手を置く。


「みずくさぁいじゃないか、そんな理由ならちゃんと話せばいいのに田崎くぅん」


 山坂は田崎の顔を覗き込む。

 田崎はそんな山坂を左手で押しやると、不機嫌そうな顔になる。


「立ち聞きはあまり良い趣味とは言えんぞ、山坂」


「あんな風に露骨な態度取るお前が悪い、あれじゃあ疑ってくれって言ってる様なもんだろ」


 左手で押しやられた山坂は、姿勢を正すとペスの方を眺めながら言う。


「むしろ盗聴や監視をされなかっただけ有り難いと思ってもらわないと困る、僕達はこのエクィローにて対等な立場ではあるが……」


「分かってるよ、疑わしい行動を取った人間はその素行を調査され結果によっては管理者資格を剥奪される……だろ?」


 田崎の返しに、山坂は振り向くと頷く。


「ああ! しかしそういう事情だったんなら何で素直に言わなかったんだ?」


「何となくだよ」


「恥ずかしかったとか?」


「違うわ! まあ何となくだよ、他に意図はねーよ」


 そう言うと、田崎はそっぽを向いてしまう。


「やれやれ……タっちゃんは相変わらずすぐ感情的になる。 それはお前の良い所ではあるな、悪い所でもあるが」


 そして山坂は、机に腰掛けると天井を見上げるとほっとした顔をする。


「しかし安心したぜ、僕や永村はてっきりお前が現地の連中に情を移したのかと……」


「…………」


「魔族を絶滅させるのが俺達の仕事なのに、そんな連中に情を移すとか有り得ないからよぉ」

「いやー安心したぜ」


 山坂が一人で言葉を繋げて行くが、田崎はその言葉に一向に言葉を返さない。

 ふと不安になり、山坂は目線を田崎へと向ける。


「何とか言えよ……流石に僕も不安になってくる」


 しかし、田崎は何も答えずパソコンのキーボードを操作し続ける。


「おい、もしかしてお前ほんとに」


「ちげーよ、単純に作業に集中してただけだ」


 そして、キーボードを操作する手を止めると田崎は立ち上がりペスの方へと歩いていく。


「分かってる、魔族の連中は敵だ」

 

 その返答に山坂は満面の笑みを返すと、腰掛けていた机から地面へと降りる。


「それを聞きたかった」


 田崎は呆れた顔をしながら、ようやく山坂の方へと振り返る。


「お前、もしかしてそんなくだらない事聞きに来たのか?」


「くだらないとは何だ、管理者としての使命を忘れているかもしれない友人を心配して来てやったというのに」


「はいはい、そいつはありがとうございます」


 田崎は呆れた顔からうんざりした顔へ、そして山坂は満面の笑みを浮かべたまま部屋を退出していく。


「ふっふっふ、だが一度芽生えた疑惑は消えないと言う事を忘れないようにな田崎君!」



─────────────────────────────


 地下鉄内部には、三人の靴音と一体の金属音が響いていた。


「なるほど……、それで田崎様の疑惑を晴らすために山坂様自らがお出でになられたと」


 肩に設置したライトが前方を照らしながらペスが先頭を歩き、その後方を歩く山坂へ言葉を掛ける。

 山坂はペスの言葉に頷きながら頭にはライト付きヘルメット、そして白衣をたなびかせ、歩いていく。


「そう言う事だ、情報収集にお前が同行するって言うから其れの監視ついでだ。 それにしても地下道って言うからどんなもんかと思ったが地下鉄じゃねーか、道には変わりないが」


 そう言うと、山坂は地下鉄の線路上に転がっている小さな小石を蹴り飛ばす。

 その小石はペスの前方へと飛んでいくと、壁に当たり周囲に反響音だけを響かせる。


「しっかし、情報収集に向かわせる面子がよりによってこいつらとはなぁ」


 山坂は頭の後ろに両手を組みながら振り返り、後ろ歩きをしながら山坂の後方を歩いていた二人。

 アデルとアレーラをじろじろと眺める。

 アデルの顔には明確な嫌悪感が、アレーラは山坂とは目をあわそうともしなかった。


「ハッハッハ、だいぶ嫌われてるな」


 山坂は嫌みったらしく笑うと、再び前方へと向き直る。


「ま、お前等が俺の事をどう思ってるかはどうでもいい。 精々活躍するが良い、この僕の為に!」


 その言葉に、アデルは溜息を吐く。


「ったく、何で俺がこんな奴のお守りをしながらベルの捜索任務をしなきゃならないんだ……」


「何か言ったか、現地魔族A」


「何にも言ってませんよ管理者様。 ところで、これからの行動方針はどーすんだ?」


 アデルは溜息を吐き終わると山坂の方へ顔を向け、質問を行う。

 

「どうするもこうするも、とりあえずは追う、まあ実際の所は特に何も考えていない。 とりあえず行き当たりばったりで行けば何とかなるだろ」


 山坂はそう言うと右手で尻をかき始める。


「おいおい、冗談だろ? 例えば集落を見つけてベルを攫っていった男について尋ねるとかそういうことするんじゃないのかよ?」


 アデルは山坂の答えに面食らった顔となる。

 そしてアデルの答えに山坂は両手を打つと、なるほどと言った顔をする。


「ではその線で行こう! まあ実際の所、この仕事は周囲の地形の把握や地図を作るのが目的であってお前等の隊長を助けるのはメインじゃないんでな」


「ぐっ、てめぇ……だったら何で着いてきてんだよ!」


 アデルは山坂の言葉に苛立ち、つい語気が荒くなる。


「ふん、さっきの僕の話を聞いてなかったのか? ペスに同行するのが僕の目的なんだよ。 お前達が果たすべき仕事だとか、そういうものは僕はどーでもいいの」


 山坂はアデルへ振り返りもせず、右手をゆらゆらと揺らしながら言い返す。


「ちっ!」


 アデルは、これ以上話しても不愉快になるだけだと思いそこで山坂との会話を打ち切る。

 そして暫く地下鉄には足音のみが響く事になる。


「……前方に動体反応を1検知、注意してください」


 そして不意にペスが立ち止まり、右手を横に突き出し後方の三人を牽制する。


「おっと、ようやく戦闘の時間か?」


 山坂は嬉しそうに言うと、右腰に付けたガンホルスターから銀色の大型の拳銃を引き抜く。

 それは銃口が開いていない以外はどこからどう見ても単なる拳銃であり、山坂はそれを構える。


「ふっ……エクィロー生活の暇つぶしに作った銃が早くも試し撃ち出来るとは……」


 そして山坂が銃を構えた少し後にアデルとアレーラも剣と杖を構える。


「動体反応1から3に上昇、来ます」


 ペスが言葉を放つと、ライトに黒い50センチほどの蟲が現れる。

 それは頭部に二本の触覚を持ち全身から光沢を放ち……。


「ゴキブリじゃねーか!!!」


 山坂が言うや否や、その手に構えられた銀色の拳銃の前面から鷹が鳴く様な音が響き紫電が放たれる。

 その紫電がゴキブリを掠めると、ゴキブリは瞬時に炭化する。


「駆除します」


 山坂が銃を撃つと、ペスも左手をゴキブリたちへと突き出す。

 すると左手の先から黄金色の光が連続で生き残ったゴキブリ達へと照射され、それに触れたゴキブリ達はペースト状にドロドロに溶けてしまう。

 それを見ていたアデルとアレーラは、呆けた顔でそれを眺めていた。


「はぁ……はぁ……く、くそう! まさか地上に降りてきて真っ先に出会う生物があれとは! 蟲は好きだがあれだけはどうしても生理的な嫌悪感がやばい!」


 山坂は肩で息をしながら、拳銃をホルスターへと納める。


「おいペス、今度からゴキブリは見つけたら問答無用で知らせずに処理しろ!」


 そしてペスへと向き直り、怒鳴る。


「承知いたしました」


 山坂はペスへと伝えると、肩を怒らせながら先へと歩いていく。

 その様子を見ていたアデルとアレーラは、何となく笑ってしまうのだった。


「ふんっ!」


 その笑い声を聞いたせいか、山坂は更に肩を怒らせながら歩いていく。


「では、我々も行きましょう」


 ペスの言葉で、笑っていた二人も笑いを止めるとペスと共に歩き出す。


「しかし……ようやく笑顔をお見せくださいましたね、アレーラ様」


「え?」


 ペスの言葉にアレーラは、きょとんとした顔をする。


「いえ、山坂様が同行すると言ってから暗い顔をしていらしたので心配しておりました」


 ペスは振り返らず、周囲への警戒をしながらアレーラへと言う。

 その声色はやはり、誰かを心配しているような声である。


「あ……、あはは、すみません、ご心配をお掛けして」


 アレーラは歩きながら、ペスへと軽く頭を下げる。


「いえ、貴女が頭を下げるような事ではございません。 山坂様はあの通り横暴で傲慢な部分もございますが、それも職務に忠実なだけなのです、どうかお気を悪くしないでください」


 そしてペスが「そしてどうか……」と繋げようとした時、前方から山坂の声が響く。


「聞こえてるぞおらぁん! 余計な気遣いしなくていいんだよ!」


 山坂の声の後、再び鷹の鳴き声の様な音が響き、前方が紫電に一瞬だけ染まる。

 そしてペスがアデルとアレーラの二人にだけ聞こえるような小声で言う。


「どうか、仲良くして差し上げていただけませんか」


 その問いかけにアレーラは直ぐに答えを返さなかったが、アデルは頷いた。


「あぁ、別に構わないぜ。 第一印象は屑って感じだったが、割と人間味がある所が気に入った」


 そして、くくくと薄ら笑いをする。


「ゴキブリが嫌いなんて、可愛い所もあるしな」


 アデルの反応に、ペスは礼を言う。


「……ありがとうございます、アレーラ様も無理にとは仰いません、ですが」


「あの、直ぐには無理かもしれませんけど……私、頑張ってみますね」


 アレーラの反応に、ペスは重ね重ね礼を言い……その日はそれ以降何事もなく3名と1体は地下鉄を抜けるのだった。

 


投稿ペースは不定期です

次:青森へ出たら


一日おきに更新すると言ったな、あれは嘘だ

アアアアアアアアアアアアア!

イースⅧ ラクリモサオブダーナを購入したので初投稿です

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