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人類ガバガバ保護記   作者: にっしー
東京侵攻編
45/207

ペスが死んだら

MD215年 5/27日 18:40


 何かが破裂するような音が周囲に響く。

 ベイロスが右前足を上げると、肉球の部分に白銀の色の金属が刺さっており。

 地面には、焦げたような後と顔の無い頭部が転がっていた。


「ゴアアアアアア!」


 ベイロスは吼え、その咆哮はビル郡の窓を振動で割っていく。

 その振動と咆哮は遠くはなれた場所で、負傷者を回収していたアデルとベルの二人にも届く。

 アデルは思わずベイロスとペスが戦っていたであろう場所へと振り返り、そして後悔した。


「……あー、くそ、見るんじゃなかった」


 先ほどまで空中を飛び回り戦っていたはずのペスの姿が見えないのだ。

 悪い予想が頭を過る。

 あのゴーレムが敗北したのではないか、と。


「だがよ……もし仮にそうだったとして、俺に何が出来るってんだ」

「今は、俺に出来る事をやるだけだ!」


 アデルはそう言うと、騎乗していた蟻へ指示を出し、まだ生きている兵士達を蟻の背に載せていく。

 蟻という生物は、自分の体重の五倍の重量を運ぶ事を可能としている。

 今回先発隊が騎乗している蟻の体重はおよそ80キロ、つまり400キロまでの重量なら運ぶ事が可能なのである。

 そして、今アデルは四人目の兵士を蟻へと乗せ終えた。


「これで4人目……、そろそろこいつが運べる重さも限界か」

「せめて後一匹位蟻が生きててくれりゃあ……!」


 愚痴をこぼしながらアデルは周囲を見渡す。

 周囲には瓦礫、血糊、蟻の死体等が転がっていたが他に負傷者の姿は見当たらない。


「……よし、回収は済んだ」

「後は他の連中の回収を済ませたベルと、町の出口で落ち合うだけだが」

「無事に街から逃げれる事を祈るとするか!」

「後ろの連中の為にもな!」


 アデルは蟻の手綱を掴み、足で蟻の腹を蹴ると町の出口へ向かって蟻を走らせていく。

 

───────────────────────────── 


「よし、こちらもあらかた載せ終わりましたわね」


 ベルもまた、アデルとは違う場所で負傷者の回収を行っていた。

 五人目の負傷者を蟻へと載せると、その負傷者と入れ替わるように蟻から降りる。


「私、体重の軽さには自信がありますのよ? えぇ、それはもう」


 と、蟻の顔を撫でながら呟く。


「……えぇ、この重量ならぎりぎりではありますが私が乗って逃げても大丈夫」

「ですが、ここで私が逃げるわけにはまいりませんわ」


 そう呟くと、ペスは蟻へ自身の意志を伝える。

 蟻はベルの意志を汲み取り、町の出口へと負傷者を乗せて動き出すが。

 時折ベルへと振り返り、そしてまた走っていくのだった。


「心配性な蟻さんですわね、個体としての特性が出難い蟻にしては珍しく」

「……と、物思いに耽っている場合ではありませんわね」


 ベルは髪をかき上げるとまだベイロスには破壊されていないビルへと入り、屋上目掛けて駆け上がっていく。

 階段を上りながら、ベルはこの先発隊の隊長へ名乗り出た時の事を思い出していた。

 自分は富豪の娘として生まれ、何不自由なく暮らしてはいたが……誰も自分個人を見てくれた事は無かった。


 物心ついた時からそうだった、どんな結果を出しても富豪の娘だから──

 無論両親を恨んでなどいない、自分を育て、愛してくれている。

 だが、それでもこんな危険な任務に就いたのは、両親以外の誰かに認めて欲しかったからだ

 富豪の娘としてではなく、ベル・バスティーユという個人が、南部開拓という偉業を達成したのだと。

 階段の切れ目が見え、屋上へ続くドアを蹴り破ると一瞬突風がベルの顔を掠めた。


「さて……、この任務に就いてからの大一番ですわね」


 だからこそ、こんな形でこの仕事を終わりにするわけにはいかなかった。

 突如現れたベイロスに部隊が全滅させられて終わりなどと、認めるわけにはいかなかった。


「そう、この先発隊は私の挺身によって生きながらえる!」

「そういう筋書きですのよ! おーっほっほっほっほ!」


 ベルは小剣を引き抜くと、高笑いを上げながらベイロスを屋上から探す。

 高笑いでベイロスの注意が引けるのなら良し、そうでないのなら上からの奇襲で目を潰す。

 それが彼女の考えた策だった。

 自身の身を囮にすることで、自分は犠牲になるかもしれないが、最大の利益を得る方法。


「それに、一応生き残れる策でもありますしね」

「一瞬しか見えませんでしたが奴は片目だった、であるのなら私の最大の一撃でもう一つの目を潰す事が出来れば」

「あるいは……」


 そう考えているベルの瞳に、ベイロスの姿が映る。

 ベイロスはペスとの戦闘で破壊された町の中を、ベル達が陣を築いた場所へ向かってゆったりと歩いてきていた。


「あの速度ならここに着くまではおよそ2分程度、呪文を織り上げる時間は多少は残っていそうですわね」


 ベイロスが到着する時間を計算し、ベルは呪文を織り上げ始める。


「My faith is stronger than fang, claw, or mindless hunger」

( 我が信仰は、牙や爪や意思無き飢えよりも強い)


 呪文を織り上げると、ベルの体へ白の霊力が吸い込まれていく。

 ベルは体の調子を確かめるように体を動かすと、再び呪文を織り上げ始める。


「さぁ……、行きますわよ!」


───────────────────────────── 


 ベイロスは鼻を鳴らすと、左右を見回した。

 肉の匂いがベイロスの鼻を突いた。

 そのベイロスは飢えていた。

 基本的にベイロスという生物は飢えている状態で居る事が多く、飢えていないベイロスは大体が死んでいるか眠っているかだった。

 

 ベイロスは肉の匂いの大元を探す為にあちこちを歩き回った。

 大体の肉はベイロス自身が擂り潰したのだが、それでもまだ動いている肉をベイロスは発見した。

 蟻に乗った、5人の鎧を着た兵士達


 それはベイロスの目には、動く小皿の上に載った貝類に見えたかもしれない。

 ベイロスはその動く小皿へ向け、ビルの谷間を抜け、走り出した。

 だが走り始めた時、ビルの真上からベイロスへ向け光が降り注いだ。


 その光をベイロスは肩で防ぐと、立ち止まり真上を見上げた。

 瞬間──、音がベイロスの真横から響いた。


「はあああああっ!!」


 ベルがビルの中ほどの階のガラスを破り、ベイロスの残った目へと小剣を振るいながら飛び込んでいく。


「貰いましたわ!!」


 ありったけの霊力を小剣へと注ぎ込み、ベイロスの目へと小剣を突きたてようとしたその時。

 ベイロスは左手で地面を叩く。

 そして、その反動で前方へと宙返りをしながら飛んでいく。


「くっ! 外された!?」


 狙いを外されたベルは、ビルの壁面を蹴り上げ、再び背を見せているベイロスへと飛び掛っていく。


「今度こそ!」


 しかし、ベルの視界を緑色一色が多い尽くす。

 それはベイロスの尾であり、それを理解した時には既にベルは地面に叩き落されていた。


「ガハッ、ゴホ……そ、そんな……」


 地面に叩きつけられたベルはかろうじて生きてはいたが、生きているのが不思議な状態でもあった。

 鎧は砕け、常に晒されていた両足はアスファルトの破片等が食い込み、左腕も折れているような状態であった。

 そんな状態でも、ベルは体を動かそうとする。


「負け……られませんわ」

「私は……、白薔薇の、ベル」

「この部隊の、隊長ですのよ……!」


 ベルはまだ手に握られていた小剣を杖の様に使い、弱弱しく立ち上がる。


「まだ、兵士の皆が逃げ切る、までは……」


 立ち上がったベルに対して、ベイロスはベルの目の前に脚を振り下ろす。


「きゃあっ!!」


 その衝撃で、ベルは後方へと吹き飛ばされ、小剣も手放してしまう。

 ベイロスはその様子を面白がるように眺めながら、涎を垂らす。


「はっ、う、くぅ……ま、まだ!」


 ベルはうつ伏せの状態から、右手だけで起き上がろうとするが、力が抜けて地面に倒れてしまう。


「こんな、こんな形で終わりだなんて」

「私は……私は!」


 そんなベルに、ベイロスは近づいていき、口を開く。

 ベイロスがベルを飲み込もうとした瞬間、声が響く。

 


─────────────────────────────


「おーおー、久しぶりにこっちへ来てみたら派手にドンパチしとるじゃあないの」

「それに以前仕留め損ねた獲物も居るたぁ、拙者ぁツイてるでござるなぁ」


 その軽薄な声は、ベルの後方から聞こえてきた。

 ベルには最早振り返る余力は無かったが、少なくとも声からして男性であるということは汲み取れた。


「ガハハハ、それにしても威勢の良い姉ちゃんだな」

「ベイロスへ単身挑むなど拙者以来の大馬鹿よ!」

「だがその意気込みは買おう! こんな大馬鹿、今時居らぬわ!」


 そう言うと、男はベルへと近づいていく。

 男が近づくたびに、ベイロスは大きく後退し、警戒するように大きく唸り始めた。


「相変わらず五月蝿い奴じゃのぉ、これだから獣っちゅうんは」

「じゃがお前の相手は少し後じゃ、其処でじっくり待っておれ」


 そして、男はベルを抱き起こす。


「無事、なわけはないな」

「まだ暫く息は続きそうか? 姉ちゃんよ」

 

「あ、貴方は……?」

 

 その問いに、ベルは徐々に白濁していく意識の中問いかける。


「拙者か? 拙者は───」


 男が答える寸前、二人を暗闇が覆い、爆音と衝撃が辺りに響く。

 ベイロスの尾が二人を押しつぶしていた。

 否、押しつぶしてはいるが、それは押しとどめられていた。

 ベルを解放する男の手で。


「拙者は、虎牙こが 伊織いおり

「まあしがない雇われよ」


 伊織はそう言うと、ベイロスの尾を片手で跳ね上げ、ベルを抱いてビルの一階へ移動する。

 

「こんな地面で悪いのう、ちょいとあれを片付けて……それから今後の話をするとしようかのぉ!」


 ベルを地面へ下ろすと、男は背中に背負っていた刀を二本抜き放つ。

 刀は二本とも前方へ突き出されるように構えられていた。


「二天一流、お相手仕る!」



暇つぶしで投稿していくスタイルなので投稿ペースは不定期ですが、暫くは安定して一日おきか一日事に投稿が可能な気がしていますが気のせいかもしれません

次:侍に出会ったら


蟻  緑②


装備品 装備コスト②


装備しているクリーチャーは警戒を得る

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