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人類ガバガバ保護記   作者: にっしー
東京侵攻編
44/207

改めて町を探索したら

MD215年 5/23日 

 

 ベイロスの襲撃から翌日、ベル達は負傷者の治療と再び村内の探索を行う事にした。

 幸い負傷者の治療中にはベイロスの襲撃は無く、村内の探索をスムーズに行う事が出来た。

 ヤークモの村内は、戦前の自動販売機等が残されている以外は殆どの建造物がベイロスによって破壊されており、ベイロスの獰猛さを窺わせた。


 ヤークモの町は中心部へ行けば行くほど破壊の爪あとが多く残っており、ビルや地面には大きな爪痕が残っているのだった。

 しかし、そんな破壊の後で一つだけ不自然な後があった。

 それは真横から切断されたビルである。


 通常、ベイロスが何かを破壊する場合はその力強い巨体と爪を利用する。

 そしてその攻撃を受けた対象は──攻撃を受ける相手がベイロスに見合う巨体であれば──爪痕や裂傷が見られるはずである。

 だがそのビルは違った。


 そのビルは綺麗に真横に切断されており、一切の不要な力加減が加わっていないものだった。

 豆腐へ包丁をスッと入れるような、そういう切断面だった。

 つまりその痕は、何者かが其処でビルを……あるいは攻撃の余波でビルを切断した事を表していた。

 それ以外は、此処がベイロスの繁殖地として利用されているという事が分かるだけだった。


─────────────────────────────

MD215年 5/24日 07:57 執筆者ニーリィ・アカデイア

 

 村の探索を終えた翌日、ベル達先発隊は朝食を取り終えるとヤークモを後にした。

 今回はヤークモから南東、モーリと言う戦前の町へ向けて移動を開始する。

 サツホロを出て今日で4日目、当初は30人居た部隊員も27名となってしまった。


 ベル隊長の話では、先日ヤークモで討伐したベイロスは雌であり、番いの雄と遭遇する危険があるという話である。

 今はこれ以上ベイロスと出会うことが無い様に、天照様に祈る他は無い。 


 ヤークモからモーリへ向け南下した我々は、海沿いを沿って南東へ進んでいく。

 当初は戦前の舗装された道が続いていたが、ヤークモを境に徐々に舗装された道が消えていった。

 破壊の痕からして、恐らくベイロスのものだろう。


 だが……時折見られるこの恐ろしいほどに美しい切断の痕は何なのだろうか。

 我々に付き添っている外交官殿によれば、これは鋭利な刃物による切断面であるとの話だった。

 もしその話が本当であれば、その刃を振るった存在はビルを一太刀で切断した事になる。

 ……本当にそんな事が出来る存在がこの世に居るのだろうか。


─────────────────────────────

MD215年 5/25日 16:21 執筆者マイオ・シーズ


 全く冗談じゃない、ヤークモとか言うベイロスの繁殖地になっていた町から南に行くほど碌な道が無いじゃないか。

 おまけに昨晩到着予定だったモーリとか言う町は跡形も無く消えているし、どうなってるんだ?

 何かに破壊されたとかじゃあなく、町が丸ごと消えてるなんて……。


 あのゴーレム曰く、何でも大量の熱量で蒸発させられた、とか言ってたが……。

 鋳造所で起こる火だってそんなに物凄い温度は出ないんだぜ?

 正直、この任務は無理なんじゃないかって思っている。


 あぁ、それにしても道が悪いな。

 モーリの町周辺の道も何でか消えてるせいで、態々迂回路を進まなきゃいけない。

 この辺りはファンガスやドライアド、それにツリーフォークが生息してるっぽい。


 連中は見知らぬ連中が森に入ってくる事を嫌う。

 おまけにここら一体はもう何年……もしかしたらもっと長い年月も人の手が入っていない。

 連中としては正に、自分達の領土なんだろうな。


 明日は森を迂回して、ナナーエと呼ばれていた町へ進む。

 無事に辿り着けるといいが……

 そういえば、昨日の日記にニーリィが天照とか何とか書いてたが、ありゃ何なんだ?

 


 追記、本日の被害報告、ファンガスによる攻撃で2名が負傷。

 全く、あの茸どもめ!

 あぁでも、ファンガスの傘部分を焼いて食うのは美味しい。


─────────────────────────────

MD215年 5/26日 09:45 執筆者リーズ・ラーヒ


 今朝、急患でマイオさんが運ばれてきました。

 どうやら、昨晩倒したファンガスを個人的に焼いて食べていたようです。

 何故そんな事を……。


 ファンガスは食用になるものもありますが、その多くは毒性を持っており大変危険です。

 毒部分は大変美味である……という話も聞きますが、この日誌を読む人は絶対にファンガスの死体を焼いて食べる事はしないように。


 そういえば、昨日の日誌にマイオさんが天照について書かれていたので少し書かせていただきますね。

 天照は、南方のトウキョウと呼ばれる都市で崇められている神様です。

 太陽を司る神で、真摯に願えば助けに来てくれるという話らしいです。


 サツホロにも少数ですが、その神様を崇めている方が居るようですね。

 しかし、天照は性格に難があるとのことであまりいい評判は無いようです。

 私としても、芽衣子様の方が崇めるに値する方だと思っていますよ。


 まあトウキョウの方からすると、天照こそが我々にとっての芽衣子様の様な存在なのかもしれませんね。


 今日はナナーエと言う町へ向け、出発します。

 私達癒し手は戦闘ではお役に立てませんが、最大限の努力を行って任務の完遂に努めます。

 ですので、明日以降日誌を書く皆さんはマイオさんの様に諦めるような事を、この日誌に書いてはいけませんよ?

 

追記 20:07 


 本日の死亡者、一名 マイオ・シーズ

 遺体はナナーエに埋葬、彼の冥福をお祈りいたします。


─────────────────────────────

MD215年 5/27日 14:45 


 蟻達の足音が、最早道と呼べるのかどうかも分からない道に響く。

 以前は舗装されていたであろう道路は、完全に破壊されており。

 今では人間の腰程度まで伸びた草が生え放題となっていた。


 そんな中をベル達の部隊が進んでいく。

 当初は30名だった部隊も26名と減っており、また兵士達にも多少の疲れが見えていた。

 各地でソーレンからの補給は受けられると言っても、開拓をするのは現地に居るベル達であり。

 その疲労は少しずつ溜まっていたのだった。


「うーん……熱いですねぇ」


 そんな兵士達の口数も少なくなっている所に、アレーラの独り言が響く。


「そうだなぁ……、熱いなぁ」


 アデルはそう言うと、蟻の手綱を握りながら額の汗を拭った。


「うーん、水源があれば水浴び出来るんですけどね」

「ほら、私最近青の魔術を覚えたから、それでこう、どばー! って水を皆にですね」


 アデルの後ろに乗るアレーラは、楽しそうに一人ではしゃいでいる。

 つい先日、ベルの教えで青の初歩魔術を会得したアレーラはその喜びをアデルへ伝えようとしていた。


「そうだなぁ……水浴び、したいなぁ」

「いやでも魔術での水浴びは威力が高すぎて死ぬかもしれないから却下だ」


「えー、大丈夫ですよ、私ちゃんと威力の調節とか出来ますから」


 と、不満そうな顔をするアレーラへ対応しているうちに先頭の兵士から声が上がる。


「見えたぞー! ハコタテだー!」


 その声に、暑さと疲れで項垂れていた兵士達の顔に活気が戻る。


「お、やっと到着か!」


「やりましたね! これで水浴びできますね!」


「お、おう……」


 アデルの顔は活気が戻った後、再び暗い顔になるのだった。


 数時間後、ハコタテの町へ陣を構えたベル達は休息へと入っていた。

 町全体を探索してみた結果、町は驚くほど綺麗な状態で残されており、また特別何かが生息していると言うような事も無く、青森県へと続く地下鉄も無事な状態で残されていた。

 そういった総合的な事から、今後この町を南方への活動拠点として利用する事が可能と判断するとペスは即座に管理者達へ報告を行うのだった。


 また、ベル達にとっても久しぶりの安全な町であり、兵士達は久方ぶりの休息を取る事が可能であった。


───────────────────────────── 

MD215年 5/27日 18:38 執筆者アデル・レスディン


 ようやく南端に到着する事が出来た。

 俺達の目的地はまだ南西にあるらしいが、とりあえずは一区切りだ。

 それに久しぶりに安全な町に到着できて、正直ホッとしている。


 これまでは街が消えてたり、ベイロスの繁殖地だったりと散々だったからな……。

 とりあえず、これで一安──


 そこまで書いたところで、アデルは遠くから地鳴りの様な音を聞く。

 音が聞こえた瞬間、アデルが居た天幕は風の衝撃で吹き飛び、アデルもまた地面に体を放り投げられる。

 アデルは地面を転がり、何が起きたのかと起き上がった所に其れは存在した。


「─────うそだろ」


 其れは、右前足の下に大量の血の痕を残しながら。


 其れは、巨大な尾を鞭のように撓らせ、まだ破壊されてはいなかったビルを破壊しながら。


 片目の潰れたベイロスが、其処に存在していた。


 アデルは周囲を見ると、同じような状態になった何人かの兵士達が居る事に気づいた。

 だが残りの兵士達は今の衝撃で、天幕ごとベイロスに引き摺られ……地面の紅い染みになっていた。

 アデルは立ち上がり、剣を抜こうとするが体が動かない事に気づく。


 あまりにも圧倒的過ぎる巨体に、体が言う事を聞かないのだ。

 しかしそれも当然かもしれない、ベイロスの巨体は大よそ13メートル近くであり、ビル4階分に相当する大きさであった。

 そんな巨体が高速で動き、襲ってくるのだ。

 それを想像しただけで、アデルの体は震えた。

  

「クソ……体がうごかねえ!」


 アデルは口や指を動かすのが精一杯で、何も出来なかった。

 其処へベイロスが巨大な脚を前へと進め、地面を踏み砕く。

 脚を一歩前に進めるごとに、地面は揺れ、舗装されていたアスファルトはクッキーの様に砕けていく。


 そんな時、アデルの視線の先、ベイロスの進行方向に倒れているアレーラが目に入る。

 助けなければ、とそう思う。

 その意志を汲んでか、震えていた体は少しではあるが動き始める。

 

 アデルはノロノロとした歩みをしながら、前へ進み始める。

 だがベイロスはアデルのそんな動きよりも速く前に進む。


「クソ! 動け! 動けってんだよ!!」

「今行かないと、あいつが死んじまうんだ!」


「ならば、お行きなさい!!」

「太陽の槍/Sunlance!!」


 突如、声が響き、ベイロスの左肩目掛けて光の槍が投擲される。

 アデルはそちらを振り向こうとするが、声により制止される。


「こちらを振り向いている余裕があるのなら、さっさと助けに行きなさい!」

「これは、隊長命令ですわよ!!」


 その声に後押しされるかのように、アデルの体は前に出る。

 先ほどとは打って変わって、まるで羽の様に、軽く。

 アレーラの元へと。

 

 投擲された槍はベイロスの肩に突き刺さり、ベイロスが歩みを止める。 

 ベイロスの視界には、金髪の女が一人、赤毛の男が一人映っていた。

 ベイロスは何かを探すように一瞬周囲を見渡したが、それが居ない事に気づくと地面を蹴った。


───────────────────────────── 


 ベルは死を覚悟した。

 突然巻き起こった突風により、天幕ごと地面に投げ捨てられたかと思えば、巨大なベイロスが其処には居り。

 部隊員の生き残りは殆ど居なかった。

 ならば……、少しでも誰かに生き残って欲しいと彼女は思った。

 

「これは、隊長命令ですわよ!!」


 ベルが言うと、アデルはアレーラへ向け走り始める。

 そして、ベイロスはアデルと同時に地面を蹴った。

 揺れを感じた時、既にベイロスはベルの前に迫っており。

 そして──ベルは死を覚悟した。


「申し訳ありません、遅れました」


 しかし、思っていた瞬間は訪れなかった。

 ベルが目を開けると、白金の天使が自身の目の前に立っており。

 その後強大な何かと何かがぶつかりあう、轟音が響いた後、ベイロスはベルの遥か後方に打ち上げられていた。

 

「此処は私が引き受けます、生存者達の救出を」


 その天使──ペスは燃え盛り、氷結した剣を巨大な盾を構えながら浮かび上がると、ベイロスへと突撃していく。

 ベルは、ペスを見送ると、彼女とは逆の方向へ走り出し、未だ生存している者達の救出へと向かうのだった。


───────────────────────────── 


「此処は私が引き受けます、生存者達の救出を」


 ペスはベルへそう言うと、ベイロスへと飛んでいく。


「対象の戦力分析を開始」

「測定完了、8/7です」

「相対戦力比較……圧倒的不利と診断」

「エクィローへ追加装備の要請を──」


 ペスがエクィローへ連絡を取っている途中、ベイロスが駆け、左前足を振り下ろす。

 ペスは右手のカイトシールドで防ぐが、ベイロスの圧倒的な膂力の前に地面に叩き落されてしまう。

 ペスが地面に叩きつけられると、地面からは土煙が巻き起こる。


「……出力全開」

「同じ出力であるのならば……!」


 その言葉と同時に、白金の巨体が土煙の中から高速で飛び上がる。

 そしてペスは右手に装備した盾でベイロスへ突撃し、ベイロスの顔へ盾を押し当てる。

 

「場所を変えましょう」


 そして盾を押し当てたまま、陣からベイロスごと飛んで行く。

 20秒ほどした所で、ペスはベイロスをビルへ放り投げるようにして止まる。

  

「この辺りで良いでしょう」


 ペスが運んできたのは、函館の中心街付近であった。

 ビルに叩きつけられたベイロスは、ずり落ちるように地面に落下すると、咆哮を上げた。


「……敵性生物の更なる増強を確認」

「追加装備無し」

「本機での、この戦闘における勝利は不可能と判定します」


 ベイロスが咆哮を上げると、その怒りからか筋肉は硬質化し、全身に生えている棘がより巨大になる。

 ペスは其れを見て、剣を盾を構えると時間稼ぎに徹する事を決めた。

 ベルやアレーラ、そして他の兵士達がこの場所から逃げられる時間を稼ぐ事を。


「ゴアアア!」


 と言う、短い咆哮と同時にベイロスは大地を蹴り、ペスへと飛び掛る。

 ペスはその飛び掛りを右へと避けるが、すれ違い様に尾の追撃を受け、バランスを崩しビルへと叩きつけられる。

 だが即座にビルから飛び出し、ベイロスへ火と氷の剣を遠距離から振るう。

 剣は鞭のようにしなり、そして伸びながらベイロスへと向かうが。


「ガァッ!」


 ベイロスは、その剣を噛み付いて受け止めるとそのまま力を込めて折ってしまう。


「想定外のパターンです」


 ペスが困惑した言葉を発すると同時に、ベイロスは再び飛び掛り、ペスは盾を構える。

 盾により直撃は免れた形となるが、そのまま吹き飛ばされていき、幾つ物ビルを貫通して吹き飛んでいく。

 ペスが止まったのは、4つ目のビルを貫通した直後だった。


 ペスが立ち上がろうとすると、ペスの視界を暗闇が覆った。

 それは巨大なベイロスの前足であり、それはそのままペスを踏み潰した。

 踏みつけを盾で防いでいたペスだったが、二度、三度と繰り返される踏み付けに次第に盾が破壊され。

 ついには白金の体でそれを受け止めなければならなくなる。


「記録……タを、……ィローに……」


 連続の踏みつけで、徐々にペスの体は破壊されていき、そしてついに活動を停止する。

 それを見たベイロスは、口角を吊り上げると、ペスの体を完全に跡形も無くなるまで踏み潰すのだった。


H

次:ペスが死んだら

本当は昨日投稿しようと思っていましたがこちらではハワイ時間なので昨日の投稿なので初投稿です

すいません、許してください!何でも許してください!

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