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人類ガバガバ保護記   作者: にっしー
東京侵攻編
42/207

足跡を見つけたら

MD215年 5/22日 06:14


 天幕に水が当たる音でアデルは目を覚ます。


「ん……、なんだ?」


 まだ外は薄暗く、目が慣れるのには多少の時間を要した。

 目が慣れるとアデルは、寝ぼけた上体で四つんばいになり天幕の入り口まで移動していく。

 そして入り口を開け、外を見てみると小雨が降っていた。

 思わずアデルの顔が歪む。


「げっ……マジかよ」


 何せ雨の中の行軍は寒い、服が水を吸って重くなる、滑りやすい……等などデメリットが多いからだ。

 アデルは一言呟くと天幕の入り口を閉め、四つんばいの体勢のまま、先ほど眠っていた場所まで戻ろうとした。

 戻る途中、ふと右手に何か柔らかい物の感触が伝わる。


「ん? 何だ?」


 それは手に程よく収まる程度の球体で、こねたてのパン生地程度の柔らかさだった。

 アデルは右手を動かしてその物体が何かを確かめようとすると、どこかで聞いたことのある声が聞こえてきた。


「ん……、あん」


 そのくぐもった声は右手を動かすたびに聞こえる。

 アデルは音の発生源を探す為に更に右手で球体を揉みしだく。

 すると再び声が聞こえ、その声はその球体の少し上から聞こえてきた。


「この声、どっかで聞いた事があるような……」


 アデルはその声の発生源へ視線を移動させる。

 其処には、顔は村で上から4番目、体つきはそこそこ、頭の中身はそれほどでもないアレーラ・クシスが眠っていた。

 

「なるほど」


 アデルはそう言うと、一頻り胸を揉む。

 そしてそれに満足すると再び最初の位置に戻り、眠りに就くのだった。


─────────────────────────────


 数時間後、朝日が昇ると朝食の時間となった。

 先発隊の隊長であるベル、ペスの二名は天幕で食事を取りながら、今日の行動について話し合っていた。


「天候が崩れてきましたわね……、とはいえ小雨程度なら行軍の妨げにはなりませんけれど」

「と言うわけで本日も予定通り、このまま海沿いを南下して此処を目指しますわ」

「……しかし、相変わらず硬いですわねこのパンは」


 ベルは岩パンと呼ばれる携行保存食を咥えながら、地図に指を指す。


「満腹感とは咬合する事により得られるものです、そのパンが固いのは咬合回数を増し少ない量で満腹感を得られるように」

「という発想からでしょう、実に合理的な食べ物であると推測できます」

「そして行動予定についても了解いたしました、この地点にはヤークモという名の戦前の村が残っているはずです」


 ペスはパンについての解説を終えると、今日の行軍予定地についての解説を行う。


「合理的でも何でもいいですけれど、私はもっと優雅な食事が良いですわ……」

「しかし、戦前の村がまだ残っているんですの?」

「私はてっきりベイロス辺りに荒らされているか盗賊の隠れ家として利用されていると思っていましたけれど」


 パキッという岩パンが折れる音を響かせながら、ベルが今回の目的地点について尋ねる。


「その地点に何が居るのかは不明ですが、少なくとも村の形を保っているということは我々の調査で確認できています」

「あなた方が恐れるベイロスと言う存在についても今のところ確認はしていません」


 ペスのその言葉に、ベルの顔に笑顔が灯る。


「それは明るい情報ですわね、この間ベイロスの足跡を見つけたときはどうなるかと思いましたけれど」

「出来ればベイロスには今後も出会わず進みたいですわね」

「では、本日はその村に日没前に到着、その後村内を探索、何も無ければ其処で野営という形にしましょうか」


「了解しました、それでは今までの進軍速度から計算すると……」

「後一時間以内に出発すれば、予定通りに行くと進言します」


「えぇ、ではその様にしておきますわ」

「いつも助かりますわ、ペスさん」


 ベルはそう言うと、岩パンを齧りながら天幕を後にする。

 その後先発隊は朝食を摂ると野営地を後にした。

 因みに何故かベルのご飯は多めに用意されていた。


─────────────────────────────


5/22日 18:41



「んで……なんでこうなるんだよ!」


 アデルは飛び掛ってくる小型の緑色の獣を前転して避け、怒声を上げた。

 その緑色の獣は筋肉質な四肢と鋭い牙、全身に鋭い刃物のような棘の突起を持ちとある生物の特徴と完全に一致していた。

 ベイロス……北海道における生物の中で最も恐ろしい生命体である。


「グルルルル……」


 その小型のベイロス──恐らくはベイロスの幼生であろう──は唸り声を上げ、アデルへ振り返る。

 アデルはその幼生が着地した地面を見て戦慄する、地面には砕かれたアスファルトが散乱しており、もし自分に当たっていたら……。

 アデルは自分の中に生まれた怯えを消すように剣を構え、呪文を織り上げ始める。


「舐めんなよ……! ベルとの特訓を見せてやるぜ! 獣野郎が!」


 ベイロスは低い声で唸りを上げると、再びアデルへ飛び掛る。

 アデルは飛び掛りを見ると、剣を右側へ水平に振り、左腕を自らの前に翳す。

 

「儚き盾/Ephemeral Shields!」


 アデルが呪文を織り上げると、半透明な白い盾がアデルの前後左右に複数浮いて表れる。

 そしてベイロスが飛び掛っていく、右腕を振りかぶりアデルへ振り下ろす。

 しかし半透明の盾がそれを弾くように自ら移動し、攻撃を防ぐ。

 弾かれた衝撃で幼生は地面に転げ落ちる。

 

「うおおおらぁぁぁ!」


 幼生は起き上がろうとするが、間髪入れずにアデルは剣を突き立てる。

 剣を頭部に付き立てられた幼生は、そのまま動きを止め死亡する。


「やっと仕留めたか……」


 アデルは剣を幼生から引き抜くと、血を払い鞘に剣を収める。

 目線を横へやると、頭部を鎧ごと潰された兵士の死体が一つ転がっていた。

 先発隊は日没前にヤークモへ到着していた、ベルは到着後陣を造ると共に、探索部隊を結成し村の内部を探索させていた。

 しかし村の内部にはベイロスの幼生が巣食っており、アデルと組んでいた兵士はその幼生の不意打ちにやられてしまったのだ。


「……俺が助かったのは運が良かったな」


 アデルは兵士へ手を合わせると、周囲を見渡した。

 蔓や草に覆われた戦前の建物、何かの動物の骨や食べ残し、幼生の死体、そして砕かれた地面……。

 恐らく此処は幼生へ狩りを教える場所なのだろう、とアデルは推測した。


「となると、他にもベイロスの子が居る可能性があるってことか」


 アデルはベルが居る村の入り口近くの陣まで戻ろうとした時、それを感じた。

 肌に見えない針が刺すような感覚を。

 そしてアデルは思い出した。


 ベイロスの微かな唸り声の感覚を。

 その小さな唸り声は、耳で聞くと言うよりも肌で感じるものだが……。


「グオオオオオオオオオオオオオ!!」


「襲い掛かるときの叫び声は何キロも先まで響く……」


 その巨大な咆哮は辺りを揺らし、草生したビルからパラパラと塵が舞い落ちる。

 アデルは咆哮に驚き、咆哮が聞こえた方を見る。


「……くそ、陣を構えた方か!?」


 そうして、アデルは走り出す。

 襲われているであろう仲間達を助ける為に。


─────────────────────────────



「グオオオオオオオオオオオオオ!!」


 咆哮を聞き、怯まなかったと言えば嘘になる。

 その咆哮は発するだけで鎧をビリビリと振動させ、私の心を萎縮させた。

 ベイロス──、この地において最も強大で、巨大で、そして飢えた生き物。

 それが今、私の目の前に居る。


「……総員! 抜剣なさい! 戦いますわよ!!」


 私は陣に残っていた兵士達へ声を掛けると、抜剣した。

 

「やれやれですわね、会いたくないと思っていましたのに」

「あちらはそう思っていてくれなかったとは」


 自嘲気味に笑い、恐れを誤魔化す。

 今この陣に居るのは15名……、その内5名は癒し手であり戦力外。

 残りは10名だが……その内の3人は魔術師である、更に1人は外交官であるペス、それを除くと近接が出来る人間は6名。

 上手く連携を取ったとして、その人数の何人が生き残れるのかは分からなかった。

 下手をすれば全滅も有り得る、それだけは避けなければいけなかった。


「ベル様、助力が必要でしょうか」


 そんな風に考えていると、ペスが声を掛けてきた。

 助力? 申し出はありがたいが、私は彼女の実力を把握していない。

 果たして……彼女は戦えるのだろうか。


「……えぇ、申し訳ないけれど貴方の助力が必要ですわ」

「でも、大丈夫ですの?」


「グルルル……」


 その時、ベイロスが右足を前に踏み出し、私達を値踏みするように横に歩き始めた。

 ベイロスの巨体が横に動き始めると、その後ろには5体ほどのベイロスの幼生が居た。

 

「……なるほど、どうやら此処はベイロスの繁殖地のようですわね」

「ついでに狩り場も兼任していた、というところかしら?」


 溜息を付く、その溜息は白い、小雨のせいで周囲の気温が下がっているせいだろう。

 思わず、体が震えた。


「ベル様、私があの成体のベイロスを討伐します」

「皆様は残りの個体をお願いいたします」


「……私の聞き間違えでなければ、一人であれを倒すと聞こえたんですけれど」

「本気ですの?」


 彼女の言葉に私は思わず、そう返してしまう。

 当然だろう、人間であればベイロスには単独では敵わない……。

 そう思ったところでふと思った、そう、人間であれば。

 だが彼女は違う、戦前……古代の技術で作られたゴーレムなのだ。


「はい、問題ありません」

「戦力分析は完了しています、敗北する要素は一切ございません」


 私の問いに彼女は頷くと、その白銀の翼をはためかせ空中へと舞い上がる。


「ですが倒すまでに私とあのベイロスへ近づいた場合、安全は保障できません」

「ご了承ください」


 そして、彼女はベイロスへと向かっていく。

 ベイロスは彼女に興味を移したのか、じっとそれを見つめていた。


「隊長! 我々はどうすれば!?」


 兵士の一人が、私に指示を求める。


「総員! ベイロスの幼生全撃破を目標となさい!」

「ベイロスは彼女が抑えます!」

「全員、無事に生きて戻る事! 行きますわよ!!」


─────────────────────────────


「敵戦力分析開始…………解析完了」

「敵個体の戦力は4/4が一体、3/1が5体」

「当機の戦力、4/4」


「現状の戦闘能力では要求スペックを満たす事が出来ません」

「エクィローより、転移門から必要パーツを転送」


 エクィロー本部、ペス本体が納められているスーパーコンピューターから現地のペスへ向け装備が転送される。

 

「転送を確認、装備します」


 空が一瞬輝くと、ペスの左手には片刃からは火、もう片方からは冷気が出る剣が。

 右手にはペスの半身を覆うほどの白銀の盾が握られていた。


「要求スペックを満たしました、これより殲滅行動に入ります」


 眩い光を嫌ったのか、ベイロスが怒りの形相をしながらペスへと飛び掛る。

 ベイロスがとんだ衝撃で周囲の地面は揺れ、まだ僅かに残っていたアスファルトは完全に粉々に砕かれる。


「敵個体の行動を確認、障害となる確率、0%」


 ペスは右手で持った盾を、飛び掛ってくるベイロスへ軽く当てる。

 軽く押し付けられたはずの盾は、突如衝撃を発しベイロスを森へ弾き飛ばす。

 弾き飛ばされたベイロスは木々をへし折りながら飛んでいき、30メートルも進んだ辺りで止まる。


「ガアアアアアアアアア!」


 弾き飛ばされたベイロスは、怒りで咆哮を上げ、周囲を振動させる。

 だがペスは咆哮を意に介さず、まっすぐにベイロスへと飛んでいく。


「近所迷惑です、死んでいただきます」

「火と氷の剣/Sword of Fire and Ice 起動」


 ペスの言葉と同時に、左手に握った剣の刀身から炎と氷が噴出する。


「では、駆除します」


 ベイロスが起き上がり、飛び掛ろうとした瞬間、ペスは剣を振るった。

 剣を振るった瞬間、剣がその刀身を細く、長くしていく。

 それは段々と長くなっていき、ベイロスへ到達した瞬間にはその全長を超える長さとなる。

 振り切った後、剣は元の長さに戻り、風きり音と炎上と凍結した森。

 そしてベイロスだった肉塊が半分に切り裂かれ、倒れる音が後に続いた。


ひ以下略

次:被害を確かめたら

そろそろ感想が欲しいマン、それはそれとしてアンダーテイルいいよね

たまには出てくる人物の能力とサイズでも書くか…需要があるなら今後適当に書きます


白金の天使、ペス/Peth,Platinum Angel


アーティファクト・クリーチャー


このクリーチャーが戦場に存在する限り、貴方はこのゲームに敗北せず、貴方の対戦相手はこのゲームに勝利できない。


4/4

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