先発隊が出発したら
MD215年 5/20日 07:32
演説より三日後、この日南口には兵士達の他に多数のソーレンが集まっており、市外や門の修復作業に勤しんでいた。
またそれとは他にサツホロ南口には、30名ほどの武装した兵士や荷物を積んだ蟻達が集合していた。
その先頭には書類を眺めているベル・バスティーユの姿があった。
ベルの隣にはベルよりも60センチは大きい機械仕掛けの白金の天使……ペスの姿もあり、二人は今日の行動予定について話し合っていた。
「……ですから、今日中にこの辺りまでは進んでおきたいですわね」
ベルは地図に映るオシマンベの村とサツホロ、その中間地点を指し示した。
「なるほど、では予定地点へソーレンを転送しておきます」
「我々が到着する頃までに野営地を完成させておきましょう」
ペスが頷くような動作をすると、ベルがじっとペスを見詰める
「以前から思っていましたけど、最終戦争前の技術と言うのはやはり便利ですわね」
「たまに遺跡から発掘される遺物もそうですけれど、貴女の様な天使を模したゴーレムを作ったり」
「その、転送? とやらも話を聞く限りかなり便利ですし……幾らかこちらに技術を提供してくれたりはしてくれませんの?」
ペスの発言にベルは感心したように頷くと、技術収受の提案を行う。
「申し訳ありません、その提案に関しては断るようにとの命令が行われておりますので」
ベルの提案に、ペスは申し訳無さそうに断る。
「結構ケチな方達ですのね、貴女のマスターさんは」
「今後私達が手に入れる遺物に関しても貴方達引取りですものね? ちょっと徹底しすぎているのではなくって?」
「……申し訳ありません、ですが──」
ペスのその態度に、ベルはつい顔を背ける。
「分かっていますわ、そういう契約ですものね」
「少々言い過ぎましたわ、ごめんなさい」
そして少し時間を置いてからペスへ向き直ると、謝罪の言葉を掛ける。
「いえ、問題ありません」
「お気に掛けてくださりありがとうございます、貴女はお優しいのですね」
ベルの謝罪に、ペスは謝罪をしてくれた事への感謝を示す。
それに思わず、ベルは赤面する。
「ど、どうして貴女がお礼を言うんですの……もう!」
「わ、私は少し部下の様子を見てきますわ!」
照れくさくなったのか、ベルは顔を赤面させたままペスから離れていく。
「……怒らせてしまったでしょうか」
ベルのその態度に、ペスは疑問を浮かべる。
其処へ、兵士が通りがかりベルへと声を掛ける。
「士長、物資の準備が……」
「ん? 士長、顔が赤いですが大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫ですわよ!!」
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「だ、大丈夫ですわよ!!」
辺りにベルの声が響き、アデルは荷物の整理を止め、顔を上げた。
「……? アレーラ、今何か言ったか?」
アデルの呼びかけに、アレーラは手を止めずに顔を上げ。
不思議そうな顔をアデルへ向ける。
「いえ? 何も言ってませんけど……どうかしたんですか?」
「いや、今何か聞こえた気がしてな」
「気のせいか」
アデルはそう言うと、再び荷物の整理と確認を始める。
剣、盾、隊とはぐれた時の為の非常食、水、ランタン、ナイフ、糸と針……。
その他沢山の荷物を確認していくが、途中でアレーラへと声を掛ける。
「なぁ、アレーラ」
「何ですか? アデルさん」
「声なら私はあげてませんよ?」
と、今度は荷物を確認する作業を終えたのか手を止め、アデルへ近寄ってくる。
「いや、空耳の話じゃなくてだな……」
「お前、良かったのか? この先発隊に参加して」
「別に衛兵……っと、兵士か、まあ兵士じゃないんだから参加しなくても良かっただろ」
アデルはアレーラへ声を掛けながら荷物の確認を済ませると、それを自身が騎乗する蟻へと括り付けていく。
「……確かにそうですけど」
「でも、私にはもう帰る所もありませんし」
「それならいっその事、アデルさんやベルさん、芽衣子さんの様な知ってる方のお手伝いが出来ればなって」
「それにベルさんが誘ってきてくれたってことは、私にも何か出来る事があるんだと思いますから」
アレーラはアデルの言葉に少し言葉を詰まらせたが、しっかりと自分の意見をアデルへと伝える。
アデルは作業の手を止めると、右手で頬を描き、笑う。
「そっか、ちゃんと考えてるんだな」
「そうやってお前が考えた上での結論ならいいんだ」
アデルはそう言うと立ち上がり、アレーラへと向き直った。
「んじゃこれから宜しくな、仲間として」
アデルは右手を差し出し、笑う。
その燃えるような赤い髪は日光に照らされ、とても眩しく見えた。
「はい!」
そうして二人は手を取り合った。
最初の頃の様にお守りとしてではなく、仲間として。
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その後、荷物の最終確認が終わり整列した兵士達は開拓先発隊の門出を祝うという名目で現れた市長の演説を聞いていた。
うんざりした顔で。
「えー、であるからして我々サツホロの可能性はじゃな……」
かれこれ30分は喋っているが、未だ会話が止まる様子が見えずエンリコが咳払いをする。
「ごほん! ……市長、そろそろお時間の方が」
「ぬっ、もうそんな時間かえ?」
「うむ、では諸君! 長々と話したが結局言いたいことはこれじゃ!」
「無事青函トンネルを発見し、そして無事にサツホロへ帰ってくるようにの!」
エンリコの言葉に芽衣子は片眉を上げると、話を打ち切ると脇へとどけていく。
芽衣子の言葉に、ベルはホッとした表情を浮かべると兵士達へ号令を掛ける。
「さぁ、行きますわよ!」
「第一次サツホロ南方開拓先発隊、出陣ですわ!!」
ベルが号令を掛けると、蟻に乗った兵士達が市長に見送られ南口から旅立っていく。
アレーラはすれ違う芽衣子へと手を振ると、そのまま通り過ぎていった。
「頑張ってくるんじゃぞ~」
と芽衣子は彼等の姿が見えなくなるまで右手を大きく振っていた。
「……うむ、行ったか」
「何事も無ければ良いのじゃがな」
先発隊の姿が見えなくなると、芽衣子は腕を振るのを止め彼等の無事を祈るように手を合わせた。
エンリコもそれに倣い、少しの時間手を組むと芽衣子へと次のスケジュールを告げる。
「では市長、そろそろ次の仕事のお時間です」
「うむ……市民からの開拓団の認可と視察じゃな」
「しかし開拓した土地をやるとは言ったがこれ程人が集まるとは思ってなかったのう……」
芽衣子は先日の演説の後に来た申請書類を思い出す、げんなりした顔をしながらとぼとぼとサツホロへと帰って行った。
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MD215年 5/20日
天候、晴れ 執筆者 ベル・バスティーユ
その日に起こった出来事を記録として残しておくように、と市長に厳命されたので日記と言う形を取りながら記していこうと思いますわ。
ついに、親元から離れることが出来ましたわ! これで私の力を示す事が出来ます。
思えば富豪の娘として生まれてからこれまで……富豪の娘という目でしか見られていませんでした。
しかし今日この日から、私は富豪の娘ではなく! ベル・バスティーユという個人として結果を残していくんですのよ!
頑張れ! 私!
あ、忘れる所でしたわ……本日は特に問題なく本来の進軍予定地まで到着しました。
現地に付いてみるとエクィローのゴーレム……ソーレン、だったかしら。
そのゴーレムが既に私達や蟻用の仮説宿舎を建設していましたの、やっぱり便利ですわねぇ……我が家にも一体欲しいですわ。
ペスさんの話によれば、彼等は私達が発った後も此処を防衛してくれると言う話ですので、一応の撤退路は確保済みですわね。
明日は一旦海沿いへ出て、其処から海を辿ってオシマンベの村までの道のりですわ。
森は避けていくつもりですが……ベイロスに出会わないことを祈っておきましょう。
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MD215年 5/21日
天候、曇り 執筆者 アデル・レスディン
参ったな……こういう日記とか記録をつける作業は苦手なんだよな。
ベル士長からの命令で日替わりで記録をつけることになった、何でもきちんとした情報を残すためには一人の記録だけではなく多角的な~とかなんとか。
正直よく分からないが、とりあえず書くとしよう。
今日は朝から更に南下し海沿いへ出た、俺は海のこの何ともいえない匂いは好きじゃない。
海沿いへ出てからは海に沿って西へと進んでいく、基本的には戦前に残っている道の残骸を通っていくだけでいいのは気楽なもんだ。
道中、オシマンベ近郊の森を通りがかると樹木や地面が白化している所へ出た。
周囲には連中のゴーレムの残骸や何かの血痕、それになぎ倒された樹木があった。
樹木の周囲には巨大な足跡が残っており、同行している癒し手が言うにはベイロスの成体のものらしい。
何か知らないかと俺達に同行している白銀のゴーレムに士長が問いただしていたが、守秘義務とやらで詳細は教えてくれなかったようだ。
正直、連中は好みじゃない。
その後、元オシマンベの村まで何事も無く到着した。
現地は酷い有様だった、先ほど見たベイロスよりも更に大きな何かの足跡や大量の血痕が残されていた。
野営地を村の外に構えるように士長に進言しておいて正解だった、アレーラにこれは見せられないな……。
因みにオシマンベの村についても聞いてみたが、当然奴は答えてくれなかった。
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MD215年 5/22日
天候、小雨 執筆者 アレーラ・クシス
えっと……ベルさんにこれを書くように、と言われて書いています。
本当は夜に纏めて書くらしいですが、今日の夜は忙しくなりそうなので先に書いちゃいますね。
それと、前のページに関しては絶対見るな! とアデルさんに言われているので見れません……何故見せてくれないんでしょうか。
とりあえず、今日の予定と今朝について書きますね。
昨晩、私が住んでいたオシマンベの村近郊へ到着しました。
私のことを気遣って村にではなく、あえて不便な外に野営地を作ってくれた皆さんには感謝してもし切れません。
今朝はシウの干し肉と、岩パンを朝食に食べました。
シウのお肉は干物にすると塩気が効いてとても美味しいんですが……岩パンは相変わらず食べなれません。
だってこれ、ナイフが刃毀れする位硬いんだもの。
あ、ご飯の事はいいんだった……。
今日はこのまま海沿いに南下して、ヤークモという町を目指すそうです。
町というよりは、戦前に町だった場所らしいです。
今日も無事に到着できますように……、ご神木様、私のことを見守っていてください。
暇以下略
次:足跡を発見したら
シャドバとリンドリとデレステとFGOに忙しいので初投稿です




