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人類ガバガバ保護記   作者: にっしー
札幌制圧編
40/207

町の皆へ挨拶したら

MD215年 5/17日 13:00


「約束の時刻一時間前です、皆さん準備はよろしいですか?」


 エクィロー、メインモニタールームにペスの声が響く。

 其の部屋には管理者達が機械で出来たゴーグルを掛け、これまた豪華な機械仕掛けのリラックスチェアへ寝転がっていた。


「あいよ、言われなくてもいつでもOKだ」

「しかしこれ重たくてあんま好きじゃねーんだよなぁ」


「まあそう文句言うな、それでも一番軽い奴なんだよ」


「はいはい、無駄口叩いてないで」

「ペス、こちらは全員OK、いつでもいいよ」


 山坂と田崎がいつもの軽口を交わしあうと、永村がそれを諌めペスへGOサインを出す。


「畏まりました、それでは皆様の意識を一時的に素体へと移します」

「その後転移門を通し──」


「いつもの御託はいいって、さっさと送ってくれ」


「……畏まりました、それではダイブ、開始します」


 ペスの言葉が管理者達に響くと、管理者達の肉体は糸が切れた人形の様に力なく横たわるのだった。

 

──────────────────────────────


 サツホロ近郊の森、其処にはロウクスと呼ばれるサイの魔族三名とリザードマンと呼ばれる蜥蜴の魔族三名。

 計六名の魔族とその先頭を白金の天使──ペスが森を歩いていた。

 魔族同士での口数は少なく、またペスを見る魔族の目は歓迎しているとは言いがたい目線だった。


「……外交官殿、一体何処まで歩くつもりだ?」


 そんな空気の中、中央区衛兵士長であるヴィーアが声を上げる。

 サツホロの西区から外へ出て十数分が経過しており、そろそろ我慢の限界だったのだろう。


「目的地までは後少しです、具体的な時間としましては後二分ほどの予定ですが」


 ペスはそんな空気を物ともせずヴィーアへ言い放つと、枝を払いながら先頭を歩いていく。

 ヴィーアはその様子に鼻を鳴らすと、枝を踏み折りながらペスへと追従していった。


「士長……、このまま大人しく付いて行ってもよろしいので?」

「もしかしたら連中の罠かも……」


 枝を踏み折りながら進んでいると部下の一人が駆け寄ってきて、ヴィーアへと耳打ちをする。


「ふん、罠だとしたらあの天使の首が飛ぶだけよ」

「お前達は護衛の任務の事だけ考えていれば良い、下がっていろ」


 と耳打ちしてきた部下をヴィーアは下がらせると、前方の天使を眺めた。 

 ヴィーアはその白金の天使を眺め、嫌味な成金趣味だと思い、再び木の枝を踏み折った。

 そうしてペスの言うとおり、二分ほど歩くと開けた場所へと出る。


「到着しました、此処で少々お待ちください」

「出来れば目を閉じていた方がよろしいかと」


 魔族達へ振り返らずに言葉を掛けると、ペスはそのまま直立不動の姿勢となる。


「到着した……? 何も居ないようだが、おい、貴様どういう──」


 その時、周囲にノイズが走るような音が響き、眩い閃光が放たれる。

 魔族達は目を覆い、暫くすると何かが着地する音が響く。


「到着されました、もう目を開けても大丈夫です」


 ヴィーアが目を開けると、其処には決めポーズを取った白衣の三人が立っていた。


「山坂憲章!」


「永村博太!」


「田崎龍次!」


「「「我等、三人揃って!!!」」」

「「「管理者!!!(ルーラーズ)」」」


 背後には爆発音を響かせ、いつの間に跪いていたのか、ペスがその三人の脇で拍手をしている。

 魔族達はその光景に呆然としていた。


「お疲れ様です、お体の調子はどうでしょうか」


 ペスが拍手を止め、立ち上がると管理者と名乗った三人へ話しかける。

 永村はペスへの問いかけに、体を多少動かし調子を確かめる


「あぁ、前と同じで良好だ、ありがとうペス」


「俺も大丈夫だ、山坂はどうよ」


「……」


 田崎も自分の体の感触を確かめた後、山坂へ問いかけるが反応がない。


「おい、山坂?」


 田崎が山坂の事を注視すると、山坂は体を動かしながらその視線の先は6名の魔族へと注がれていた。


「ん? あぁ、悪い聞いてなかった、体の調子なら問題ない」

「だがしかし……こいつらが迎えか? サイに蜥蜴じゃねえか」


 管理者達の動きに呆然としていた魔族達が、その言葉に意識を取り戻す。


「蜥蜴だと……? 貴様!」


「我等を侮辱するか……!」


 とロウクス、リザードマンが武器に手を伸ばす。

 それを確認した瞬間、即座にペスが管理者達の前に立ちはだかる。

 その巨体は威圧感を放ち、武器に手を掛けようとしていた者達が怯む。


「ちょっと山坂君……、今回は喋らないで」

「いっつも余計な事しか言わないんだから」


 永村はそう言いながらペスの前へ出て行き、魔族へ丁寧に頭を下げる。


「うちの馬鹿がすみません、今の言葉は謝罪します」

「本日は護衛の方、宜しくお願いします」


 永村の丁寧な態度に衛兵達は困惑する。

 其処へヴィーアが永村の前へ出て、頭を下げる。


「こちらこそ、部下の非礼を詫びよう」

「……ようこそ、サツホロへ」


 そして、その二人の背後では山坂が田崎に殴られていた。


──────────────────────────────


 それから時間が過ぎ、時刻は13:55となっていた。

 かつてサツホロ大通り公園と呼ばれた場所には、大型の遠見の水晶が設置され住民がごった返していた。

 公園内にはある程度片付けられたとは言え、戦いの後がまだ生々しく残っていた。

 そんな中に、彼女──アレーラも居た。


「きゃっ、す、すみません……」


 遠見の水晶をもっと間近で見ようと移動している最中に、つい人とぶつかってしまう。

 アレーラは謝りながらも更に前へと進んでいき、見晴らしの良い場所を確保する。

 そして彼女が場所を確保すると、遠見の水晶に映像が映り始める。


「あー、あー、テストテスト、皆見えておるかの?」


 其処には綺麗な化粧を施し、壇上へと立っている芽衣子の姿が映し出されていた。


「ん? 何、問題なく見えておる? よしよし、あー……ゴホン!」

「これから大事な事を話すのでな、これを見ている皆には静聴を願うぞ」


 秘書であるエンリコの耳打ちを受け、水晶が問題なく見えている事を確認すると芽衣子は咳払いをする。


「皆の者、儂じゃ! まずは今日、この水晶を見てくれている事を嬉しく思う」

「そしてお主達に謝罪をしたい、先日の戦いではお主達に多大な恐怖と被害を与えてしまったの」

「すまなかった」


 謝罪の言葉を告げると芽衣子が頭を下げる。

 

「しかし! あの敗戦から儂等は進歩する!」

「今日、この日より儂等は先日戦った者達……エクィローと同盟を結ぶ事となった!」


 芽衣子は語気を強めると、同盟と言う事場を口にする。

 その単語に集まっていた市民からは動揺が広がる。


「今後我等はエクィローの者達と共にサツホロ南方の土地を開拓、領土としていく!」

「開拓予定地にはベイロス等の脅威も潜んでおり、困難なときもあるであろう!」

「しかしそれを乗り越えることでよりサツホロは、更なる繁栄を見せる事であろう!」


 しかしその同様も開拓、繁栄と言う聞こえのいい言葉により徐々にざわつき始める。


「それでは、我等が今後手を結ぶエクィローの皆を紹介しよう!」


 そして映像が切り替わると、白衣を着た3人の男達が映る。

 一人は顔面がボコボコになっており、もう一人は見たことがない顔をしていたがアレーラには直ぐに分かった。

 この間、アデルと共に話しかけた人だと。

 

「そっか……、あの人達と手を……」


 映像には芽衣子と永村が手を取り合う姿が映っており、それをアレーラは複雑な心境で眺めていた。

 そして二人は握手を終えると、永村だけが水晶へ映りこむ。


「皆さん初めまして、我々はエクィロー、そして僕達はその代表です」

「まずは先日の戦闘、市民並びにサツホロに居住している方々へは申し訳ありませんでした」

「こちらの不手際で交戦となってしまいましたが決して我々はそれを望んでいたわけではありません」


 映像に映る永村は、申し訳無さそうな顔をしながら謝罪を行う。


「我々はむしろ友好を望んでいるのです」

「其の為の第一歩として、こちらの所有する作業用ゴーレムを戦闘からの復興作業へ当てる事をお約束いたします」

「また開拓作業に付きましても、我々が支援を行います! 其の為安心、安全に領土を広げる事が可能でしょう!」


 永村は壇上で大仰に振る舞い、市民達へと友好的であるという意見をアピールしていく。


「さぁ、皆さん! これから共に良き関係を築き上げ、手を取り合い、共に歩んでいこうではありませんか!」

 

 永村はそう告げると、映像が再び芽衣子へと切り替わる。


「……と言う訳じゃ、簡単に言うとこの間の遺恨は忘れてお互いの利益の為に動き合おうと言う事じゃな」

「では堅苦しい話は終わりにして、これからお主達への得となる話を行おう」

「まず第一に、こちらへの手続きは必要となるが南方開拓の為の開拓団をお主達が独自に編制し、開拓に向かってよい」

「開拓し、其処に村が興るのなら其処は開拓した者の領土として開放しよう」


 領土として開放すると言う言葉に、市民達は一様に色めき立つ。


「第二に、開拓中に発見した遺物はサツホロ市で買い取ろう」

「物によっては高値を付けるので、どしどし持ってくるが良い! 闇市場へ流すよりも高額で買う事もある故な?」


「そして三つ目じゃ、オシマンベの村以南の正確な地図を描いてきた者には褒章を出そう!」

「その額、何と2万イェンじゃ!」


 二万イェン、と言う額に周囲から驚きの声が上がる。

 イェン……日本各地で戦前に使われていた硬貨、その価値は10イェンで宿屋に一食付一泊できる。

 二万と言えば……豪華な家を建てて使用人を一人か二人は雇える額である。


「……しかし、同時に増える法もある」

「まず先ほども話したが開拓団を出すためには手続きが必要となる、サツホロからの無許可での開拓等は単なる盗人と同じ扱いじゃ」

「また開拓団に対してじゃが、こちらから支援物資や救援隊等を出す事も殆どない、あくまでも独力で出来る者がやる事じゃな」

「更に、以後町でエクィローが用いるゴーレムを見かけても破壊したり、無闇に連れ去り解析を行う等の行為は処罰の対象となる」

「そして次に、これは市民の者達には関係ないが……」


 芽衣子は少々言葉を詰まらせるが、咳払いをすると話し始める。


「今後、各地区を守っている衛兵は一括で軍と呼ばれる所属に入って貰う」

「呼び名は衛兵ではなく、兵士と呼ぶようになるので一応注意するんじゃぞ」

「それでは、本日の話は此処まで!」

「開拓団の手続きに関しては明日の正午から受付じゃ、まずは皆で今後について話し合ってくれることを祈っておるぞ」

「では、皆の行動を待っておる!」


 芽衣子のその言葉で、遠見の水晶は灯りを失い何も映さなくなる。

 アレーラの周囲では早くも開拓の話や地図についての話等が溢れかえっており、活気に満ちていた。


「……地図か、私、これからどうしようかな」


 と、アレーラは今後の身の振り方を考えるのだった。


──────────────────────────────


「はー、疲れた」

「やっぱり久しぶりの演説は緊張するね」


 と、そんな素振りを全く見せずに永村がいつもの顔で言う。


「おう、お疲れさん」


「むぐぐ……この僕がこんなぼっこぼこに腫れた顔で映像に映るなどと……屈辱である」


 そんな永村を田崎が手を上げて迎え入れ、山坂は地団太を踏む。


「しかし、あんな話に乗ってくるかね?」

「綺麗な話しかしてなかったが、胡散臭すぎるだろこの話」


「まあ私もそう思うけど、其処はほら市長の手腕に頼るってことで」

「私等はあくまで友好の立場を示しただけだからさ」


 永村は肩を竦める。


「ま、ともあれ……」

「ようやく始まるんだな」


 山坂が顔を腫らしながら言う。


「あぁ、こっからだ」


「私達の……」


「「「人類管理計画は!」」」


 5月17日 14:21 此処から、彼らの計画が始まる。



暇以下略

次:先発隊が出発したら

突然地元の気温が29度を超えたので、初投稿です

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