表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人類ガバガバ保護記   作者: にっしー
札幌制圧編
39/207

会合が始まったら

MD215年 5/10日 PM15:01


「ふー……やれやれ、疲れたのう……」


 芽衣子が椅子に座りながら両腕を真上に伸ばし、首を鳴らす。


「お疲れ様でした、市長」

「随分と苦戦なさったようですね」


 秘書であるエンリコは彼女の隣に立ち、湯飲みを彼女の前に置く。

 

「お、すまんのう」


 芽衣子は礼を言うと、姿勢を戻しエンリコが置いた湯飲みへ手を伸ばし、口をつける。

 

「うむ、相変わらず良い温度と味じゃな」

「褒めてつかわす」


 と湯飲みを置き、芽衣子は大仰に言い放つ。


「ありがとうございます、それで首尾の程は?」

 

 エンリコは恭しく頭を下げると、先ほど行われた会議の内容を聞く。

 すると芽衣子はげんなりした顔でエンリコを見る。


「一緒に会議に居たくせに改めて聞くとか嫌味な奴じゃのう……」


「私は市長の所感を伺いたいだけですよ」


「物は言い様じゃな?」

「ま、良かろう……少々考えを纏めたいと思っていたところじゃしな」


 芽衣子はそう言うと、腕組をし目を閉じ先ほどまでの会議を思い出し始める。




──────────────────────────────



「……なるほど、つまり我々を負かした相手と手を組み南方制圧へ乗り出すと」

「正気ですか?」


 札幌市庁舎の8階にある会議室にてリザードマンの中央区衛兵士長であるヴィーアが声を上げる。

 ヴィーアは配布された紙を机に置くと芽衣子へ顔を向ける。

 それに追随するように各地区の士長達もまた芽衣子へと顔を向ける。


「賛同できません」

「まず第一に、連中は我々の事を使い捨ての駒にする気にしか思えません」

「一方的に攻めてきて、その上自分達に協力しろ等と傲慢すぎます」


 ヴィーアが声を上げると、他の士長たちからも次々と声が上がる。


「……私も反対だ」

「そもそも奴等に従ってやる道理は無い」


 北区士長であるテランが、その体の重みで椅子を軋ませながら発言する。


「では従わないでどうするんです?」

「またあのゴーレム達と戦うと?」


 西区士長ニーリィがテランへ向け発言する。


「何も戦うと言っているわけではない……」


「では他にどうすると?」

「事実上武力制圧された訳ですし、正直申し上げて相手の言い分に従う以外に道は無いのではなくって?」


 其処へ東区士長ベルがテランの言葉に割ってはいる。

 彼女は相変わらずの格好だが、表情は至って真面目である。 

 ベルの言葉にヴィーアとテランが反応する。


「では、お前は連中に従う事に賛成だと?」


「感情的になっても仕方ありませんもの、むしろ衛兵の皆も怪我はあれど死者は出ていない」

「あの戦い、その気になれば相手は私達を殲滅する事も可能だったかもしれませんのよ?」

「生かされていると言うのなら、私達はその価値を発揮するべきですわ」


「物は言い様だな、ベル士長」

「確かに富豪の娘にとっては南方制圧は旨みが大きい、領地が増えれば儲けも増える」


 ヴィーアの発言にベルがヴィーアを睨み付ける。


「その発言、教育の程が知れましてよ?」


「それは申し訳ない、何分下賎な身の出身故な」

「ベル士長の様に生まれ付いての高貴な身分では無いゆえ」


「……聞き捨てなりませんわね」


 ベルが椅子から立ち上がる。


「ならどうする? 決闘でもするか?」


 とヴィーアも立ち上がり、腰の剣へ手を伸ばそうとする。


「やめんか二人とも、芽衣子様の前でみっともない!」

「それでもサツホロの区を束ねる士長か!」


 其処へ今まで黙っていた南区士長のギトが二人を制止する。

 ギトの制止に二人は何か言いたげな顔をしながらも言い争いを止め、席に着く。


「…お見苦しい所をお見せしました、芽衣子様」


 とギトが頭を下げると、ベルとヴィーアも芽衣子へ向かって頭を下げる。


「良い良い、敗戦の後じゃからな……気が立っておるのも分かる」

「とはいえ士長同士で争いごとはいかんの、気をつけぃ」


 芽衣子は扇子で自身を仰ぎながらヴィーア、ベルへと注意を促す。

 注意された二人は芽衣子へ頭を下げる。


「して……ヴィーア、テラン、ベルの考えは聞いたが残りの二人はどうなんじゃ?」

「まあ全員が反対してても結局の所従うことにはなるわけじゃが、お主達の意見を汲んだ方針位は決められるしの?」


 芽衣子の言葉にギトとニーリィは視線を交錯させると頷き、ニーリィが発言を始める。


「私としては、南方制圧へは賛成です」

「オシマンベの村以南の場所が開けるのならばサツホロ自体が大きくなれます」

「それに連中の意見を飲まないとあれば、奴等が何をしてくるか分かったものではありませんし」


「……私もニーリィやベルの意見に賛成です、結果的に市民達が繁栄を享受できるのならば受けるべきかと」


 ギトの言葉にテランとヴィーアが驚きの表情を浮かべる。


「なんと……」


「ギト士長、貴方まで何を……」


「感情的に受け入れがたい気持ちは良く分かる、しかし全体の事を考えた上でならこの提案を蹴ると言う事がどれ程愚かしいかは分からないわけではあるまい?」

「奴等からの提案は我々に選ぶ権利があるように見えるだけの押し付けに過ぎん、それが気に食わんのだろう?」

「だが我々はそれを利用してやる位の気概でなければいかんのではないだろうか」

「……どうだろう、私の言っている事は間違っているかね」


 ギトの言葉に二人は押し黙る。

 それを見たギトは芽衣子へ顔を向け、笑顔を作る。


「これが、私の答えです芽衣子様」


 その笑顔に芽衣子もまた笑顔で応える。

 小気味良く扇子を閉じる。


「うむ、皆の考えしかと聞いた!」

「ではこの意見を反映した案を考えておくとしよう」

「では次に南方制圧へ赴く部隊について考えたいのじゃが……先発隊に名乗り出る者は居るかえ?」

「居ないのならば……」


 言葉の途中でベルが立ち上がり、割ってはいる。


「市長様、その役目私がお受けいたしますわ」


「ふむ、良かろう」

「では先発隊はベルに頼むとしようかの」


「はい! 必ずやご期待に添って見せますわ!」


 芽衣子からの言葉にベルは笑顔で返し、着席する。


「うむ、期待しておるぞ」

「では後は連絡事項だけ伝えて会議は終わりにするかの」

「エンリコ、例の紙を」


 芽衣子の呼びかけに隣で控えていたエンリコが各士長へ別の紙を配っていく。

 それを渡された士長達は用紙へ目を通していく。


「市民……説明会?」


「芽衣子様、これは……?」

  

 その紙には5/17日、今後のサツホロの動向についての市民説明会を大々的に行う! と書かれており、その下には更に細かく様々な予定表が載っていた。


「まあ書いてある通りじゃ、南方制圧へ乗り出すのは決定事項じゃがそれに付き合わされる各地区の衛兵達や市民達にも色々と説明は必要じゃからな」

「それと一応はあのゴーレムを操っていた連中……今はエクィローと名乗っておる奴等とは同盟関係じゃからな」

「その連中の顔見せもある、市民感情的にいきなり知らない奴等の手先になった、みたいに思われるのは今後の市政を行う上でも問題じゃからな」


「顔見せ? つまり……連中が此処へ訪れると?」


 とヴィーアが問いかける。

 その問いかけに、芽衣子は扇子で用紙の上から五番目を指す。


「うむ、用紙の上から五番目の項目に書いてあるじゃろ?」

「エクィローから来る同盟者三名の警護、と」

「あぁその警護はヴィーア、テラン、お主達に担当して貰うぞ?」


「私ですか!?」


「何故私が……」


 ヴィーアとテランは芽衣子の言葉に驚き、思わず椅子から立ち上がる。


「単純に強さの観点からじゃ、このサツホロにお主達以上に戦いや護衛が上手い連中は居らんからの」

「それにそのエクィローの連中を嫌っておるのも理由じゃ、少しは他所の文化に触れて融和っちゅーもんを学んで来い」


「しかし……!」


 ヴィーアが反論しようとした所で、芽衣子が一喝する。


「かーつ!」

「しかしも案山子もお菓子も無いわ!」

「これは市長命令じゃ、ええな!」


「……畏まりました」


「市長命令とあらば、致し方あるまい……」


 市長命令、という言葉を出され二人は引き下がるしかなく。

 不服そうな顔ではあったが椅子へと着席したのだった。


「うむ、では当日はよろしく頼むぞ」

「打ち合わせ等に関しては後日別個に行うので、全員予定は空けておくようにな」

「では本日は解散じゃ! ベルは後で先発隊の部隊編制等について話し合う事があるから30分休憩したらまた此処まで来るように」


 芽衣子が扇子を広げ、席を立つと残りの士長もまた席を立つ。


「皆、サツホロの為に!」


「「「「「サツホロの為に!」」」」」 



──────────────────────────────


「う~む……今思い返すとそんなに苦戦してなかった気がしてきたのう」

「ちゅうか殆どギトが纏めてないか?」


 芽衣子は目を閉じ、腕組をしたまま発言する。


「……まあ確かに、芽衣子様は殆ど眺めているだけでしたが」


「む、その言い方じゃと儂が仕事してないみたいに見えるではないか」

「あれじゃ、じしゅせーをそんちょーって奴じゃよ」

「しかしベルとヴィーアの仲が悪いのは知らんかったのう……」


 芽衣子は渋い顔をしながら、湯飲みへ手を伸ばす。


「ご存じなかったのですか?」

「あのお二方は生まれについてお互いに悩みを抱えておいでのようで……」

「恐らく其処から来る反発ではないかと」


「なるほどのう……、何とかしてやりたいが個人の問題に儂が口出すのも違うしのー」

「まあ全体の不和とならんのならある程度は目を瞑るとしよう」


 芽衣子がお茶を啜っていると、部屋にノックの音が響く。


「芽衣子様、私ですわ」


 扉の向こうから聞こえてきたのはベルの声だった、芽衣子は入室許可を出すと扉が開かれる。


「失礼いたしますわ」

「30分ぶりですわね、芽衣子様」


「うむ、30分ぶり」

「では早速じゃが、先発隊の編制と動きについての話に入りたいのじゃが良いかの?」


「えぇ、お願い致しますわ」


 芽衣子は机にサツホロ周辺の地図を広げると、駒を取り出す。


「うむ、ではまず部隊編制についてじゃがお主達は基本的にはある場所を目指して貰う事になる」

「故に機動力を重視した編制を行って貰いたい、必要なら他の部隊から人材を引き抜いても構わぬぞ」


「引き抜きもいいんですの?」


「うむ、必要ならな」

「とはいえ他の士長に恨みを買わない程度の引き抜きにするようにな」

「して、目指して欲しい場所は此処じゃ」


 そう言うと芽衣子は駒を地図のある一点、北海道の南端へ置く。


「随分と南方ですのね……、此処に何かあるんですの?」


「じゃな、此処には戦前に使われていた青函トンネルっちゅう地下道があるらしくての」

「まずは此処までの道をお主達に切り開いて貰う」


「地下道……サツホロの地下にあるような道でして?」


 地下道という言葉にベルは札幌地下大通りを想像する


「それに関しては分からん、どういう場所で状態なのかはな」

「まあそれをお主達に確認して貰うのも仕事の一つじゃ、補給線に関しては向こうが保持すると言っておる」

「故にサツホロから青函トンネルまで一直線に向かっていって欲しい、補給地点についてはエクィローの連中と後で交渉するとしよう」


 芽衣子はそう言うとペンを取り出し、地図にサツホロと青函トンネルを結ぶ一直線の線を描く。


「行軍にはおおよそ六日から一週間程度と見ておる、現地の調査に報告を踏まえるとその倍程度は掛かるじゃろうが……構わぬな?」


 その問いかけにベルは自信満々と言った顔で応える。


「勿論ですわ、私がパーフェクトにこなしてみせます!」

「ところで行軍中に出会う生物に関しては討伐してもよろしいんですの?」


「うむ、開拓も含めておるからな、むしろ積極的にせい」

「とはいえベイロスの様な大型生物に関しては撃退程度を視野に入れておくようにの、あれを倒せる人間は居らぬからの」


 ベイロス、その言葉に芽衣子もベルも浮かない顔をする。

 サツホロ周辺に存在する生命体の中で最も強靭な生き物である。

 そいつの餌は、果物、植物、森の小動物、森のデカい動物、森そのもの、果樹園、果樹園の農夫、小都市などだ。

 単体の個人が出会うことは死を意味する。


「……畏まりましたわ」


「うむ、では話はこれで終わりじゃ」

「一応編制に必要な期間は10日を設けておるが、無論それより速く編制しても良い」

「先ほども言うたが機動力重視の部隊で頼むぞ?」


「えぇ、勿論ですわ」


 ベルはそう言うと、席から立ち上がると退出しようとする。


「あっ、そうじゃ」


 其処へ芽衣子が思い出したかのように手を打ち鳴らすし、ベルが振り返る


「……? 何ですの?」


「いや、其の行軍にはこの間の外交官殿も同行することになっておるのでな」

「失礼の無いように頼むぞ」


 外交官と言われ、ベルはこの間の全身白銀の天使を思い出す。


「あぁ、あの方が……」

「大丈夫ですの? いざ戦いとなればあの方を守っていられる余裕は無いかもしれませんけれど」


「それに関しては大丈夫らしいぞ? 何でも儂等の二倍は強いとか言うておった」


「二倍とは、えらく現実的な数字ですわね……」

「ともあれ了解しましたわ、それでは私はこれで」


 そう言って言葉を切ると、ベルは退出していった。



──────────────────────────────



「ぬぐぐぐぐ……!!」

「あ、蟻とい、一心同体……!ぬおおお!!!」


「ま、魔術を鍛えるぅぅ~~!」


 其の頃アデル・レスディンとアレーラは必死に特訓していた

 アデルは蟻へ乗りこなす訓練、アレーラは只管に杖とにらめっこをしながら霊力を杖に込める訓練。

 彼等が南方遠征へ狩り出されるのはこれから少し後のお話。 


暇つぶし以下略

次:町の皆へ挨拶したら

シャドウバースがアプリ落ちしまくってイライラしたので初投稿です

不幸は連続するもんなんやな……って

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ