表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人類ガバガバ保護記   作者: にっしー
札幌制圧編
38/207

部隊編成を始めたら


 燃えている──、彼女を拘束、あるいは実験する為に使われていたであろう機材が燃えている。

 僕は右手で貫いた悪魔を壁へと放り投げる。

 壁に叩きつけられた悪魔から、鈍い頭蓋骨が潰れるような音が響く。


「………………」


 悪魔を放り投げると、そんなことはまるで無かったかのように僕は磔にされた彼女へと走る。

 僕の着ているパワードスーツが、部屋に硬質な金属音を響かせる。

 黒曜霊鉄ブラックスティールと呼ばれる金属で出来た十字架に磔にされた彼女は、ぐったりとしていたがまだ呼吸をしていた。


「良かった……! まだ息がある!」


 僕は磔にされた彼女の拘束を解くと、彼女を抱き寄せる。

 彼女の体温は低く、直ぐにでも地上へ出て治療が必要だった。

 彼女を担ぎ上げようとした僕へ、彼女の声が聞こえた。


「…………ドク?」


 彼女の声に、今の状況を忘れ胸が高鳴った。

 やはり彼女は素敵だ……。

 そんな気持ちを抑えながら、僕は彼女の声に答えた。


「あぁ……、僕だよノイチェ」

「助けに来るまでにこんなに時間が掛かってしまって……本当にすまない」


 僕の答えに彼女はうっすらと目を開ける。

 そしてその柔らかい手をパワードスーツの顔の部分に添える。


「ううん……、いいの」

「貴方が来てくれたということが、何より嬉しいから」

「ね……、顔、見せて?」


 僕は彼女の問いに────やめろ!────顔の部分の装甲を開く。

 装甲を開くと、熱気が僕の顔を包んだ。


「ふふ……相変わらず、変な顔ね」


 僕の顔を見ると、彼女は目じりに涙を浮かべながら────やめてくれ!!────微笑んだ。

 

「ねぇ、ドク───」


 其処から先の言葉は、よく聞こえなかった。



──────────────────────────────


MD215年 5/9日 AM10:13


「で、何で君はそんなに不機嫌な訳?」


 メインモニター室、いつもの机を中心に三人で座りながら永村が苦虫を噛み潰したような顔の山坂へと問いかけた。

 質問されると山坂は永村から顔を背け、質問には答えない。


「山坂にもそういう時はあるんだろ、別にいいじゃねえか」


 と田崎が山坂のフォローに入る。


「……まあいいけどさ、それじゃペスからの報告が来たから情報共有しようか」


 永村はそう言うとメインモニターへペスからの報告書を表示させる。


「皆さん、おはようございます」

「それでは報告を行わせていただきます」


 と報告書が映ると共に、ペスの機械的な音声が部屋に響く。


「まずサツホロ側との同盟交渉ですが、締結しました」

「以後我々エクィローとサツホロは同盟関係となります」


 ペスのその言葉に管理者達はまばらな小さい拍手をする。


「次に我々の要求についてですが、こちらも全て呑んでいただきました」

「蟻の生態に関しての調査も可能となります」


「お、いいねぇ」


 と今まで不機嫌だった山坂が蟻の生態と言う言葉を聞き、顔を輝かせる。


「また村での虐殺やソーレンを用いた白化現象に関しても建前のみの説明ではありますが、納得していただきました」


「いやぁ流石に田崎君が調整したAIだ、そつなくこなしてくれるね」


「任せてくださいよ」


 ペスの報告を聞き終わった永村は田崎を褒める。


「ミスター田崎をお褒め戴き、ありがとうございます」

「では次の報告へ入ってもよろしいでしょうか」


「あぁ、ごめんごめん、どうぞ」


「ありがとうございます、では次はサツホロ側からの要求についてです」

「兵士の補填案に関してはこちらからソーレンを建造物の修理、または兵士として500体提供」

「その内訳はサツホロ側にして戴くということになりました」


「ふーん、いいんじゃねえか?」

「俺等の仕事は減るし」


 と田崎が腕組をしながら頷く。


「次に二つほど要求された事柄については私の判断レベルの度合いを超えているので、管理者の皆様にご判断していただきたいと思っております」

「まず一つ目、サツホロ側からは進軍用部隊編成に2週間程を要求しています」

「次に二つ目ですが……」


 とペスが珍しく言いよどむが、少々間を置いて切り出す。


「管理者の皆様に地上へ再び降りていただき、サツホロ住民達の前に姿を見せて欲しいと」


「は?(威圧)」


「おいおい、またか?」


「いいんじゃない?」


 とペスの発言に三者三様の答えを返す。


「はい、実は戦闘に敗北した後サツホロに住む市民や軍部への説明がまだ済んでいないようで」

「その為新たに手を結ぶ者達の顔見せ……という形で皆様に出ていただく必要があるようです」

「恐らくある程度の演説等も行っていただくものかと」


 初めに口を開いたのは山坂だった。


「却下だ却下、魔族どもの前に立つなんてお断りだぜ」

「例えあの体だったとしてもな」


 山坂は再び不機嫌な顔に戻る。


「また地上に降りるのかー…面倒だな」

「とはいえ必要な事ならしょうがないんじゃねえか? 俺等の顔が割れるってのはあるが」


 田崎がめんどくさそうな顔をしながらコーヒーカップを手に取り、コーヒーを飲む。


「はは、もしかして田崎君暗殺が心配?」

「あのボディなら殺されても問題ないとはいえ、主観的に殺される瞬間を味わうってのは気分悪いかもね」


「別に暗殺とかはどうでもいいが……、まあ殺される瞬間を味わわされるかもしれないってのは嫌だな」


 田崎は肩を竦める。


「因みに私は行ってもいいよ」


「なるほど」


「「となると……」」


 と二人は声を合わせて山坂を見つめた。


「おい、やめろ、そんな目で俺を見るな」

「いいか? 俺は絶対に行かんぞ、絶対……」

「だからそういう目はやめろ、やめろって!」


 二人の冷ややかな視線に山坂は身をよじる。


「えー、山坂君私達が行くのに来ないのー?」


「この間普通に地上に出てた癖に何言ってるのー?」


「前のはあれ一回だけだからって話だっただろうが!」


 と永村、田崎の言葉に山坂が反論する。

 すると二人は山坂の両隣へ移動し、囁き掛ける。


「山坂君、大人になろうよ」


「そうだよ山坂、さきっちょだけ、さきっちょだけでいいから!」


「いやぁー! その台詞はそのままずぶずぶいっちゃうパターンよぉー!」

「ちっ……、しょーがねえなぁ」

「どうせ蟻の生態に関しては僕が直で調べるつもりだったしな、ついでに出てやるよ」


 山坂のその返答に両隣の二人は笑顔となる。


「んで後は部隊編成についてだが…ここはどうする?」

「正直部隊編成なんて一週間もあれば出来る気がするんだが」


「戦前なら兎も角、今の時代だと色々連絡とか手続きに時間掛かるんじゃねえの?」


「いやー、それでも二週間は掛けすぎじゃないかな…」

「というわけで二人の間を取って10日って言うのはどう?」


 と永村が提案すると二人は声を合わせる。


「「異議なーし」」


「あいよ、それじゃあペス、市長には10日で済ませるように伝えておいて」

 

「畏まりました、では私は以上の二件を市長へ連絡してまいります」

「本日は管理者の皆様、ありがとうございました」


 ペスがそう言うとメインモニターに今までの経緯を纏めた書類が映し出される。


「……顔見せに演説か、めんどくせえなぁ」

「そういうのは戦前だけで良かったんだが」


 と山坂が呟く。


「そういえば山坂君は霊力兵器の開発のトップだったんだっけ」

「それならよく説明会とかしてたんでしょ?」


「説明会と演説はまた別だろ……、あんなのこういう凄い武器が出来ました皆買ってね! するだけなんだよ」

「つーか演説なんてそれこそ永村の得意分野だろ」

「えぇ? 元経済界を主導で導こうとしていた永村さんよ」


 山坂はそう言うと湯飲みを掴み、にやにや笑いを浮かべながら口をつける。


「まあ失敗したんだけどね」

「田崎君は演説とかはどうだったの?」


 山坂の嫌味な顔を受け流しながら、田崎へ話題を振る。


「俺か? 俺はAIとかロボの設計とかで毎日忙しかったからなぁ……」

「此処に来る前は離職して色々設計してたりしたし、そういうのとは無縁だったな」


「へー……」


「田崎に演説なんて無理に決まってるだろ、すぐ感情的になるのに」


「あぁ?」


「ほらな?」

「ってわけでつまり、今回の演説を受け持つ担当は……?」


「「お前だ!!」」


 と山坂と田崎が同時に永村へ指を指す。


「また私かぁ、(胃が)壊れるなぁ」

「とはいえ了解、私達のモットーは得意分野は得意な人間が受け持つだからね」


 永村は諦めの漂う顔をしてから頷く。


「うーん、それじゃあ今日はこれ以外特に話すことは無いね」

「じゃ、解散!」


「「「お疲れ様でしたー」」」


 三人は同時にそう言うと立ち上がり、各々のやるべきことをやるために行動を始めるのだった。


──────────────────────────────


「うーむ……」


 と芽衣子は執務室で唸っていた。

 と言うのも部屋の片隅で彫刻のように固まったままのペスが、仕事をしていると常に目に映るからだ。


「なぁエンリコ……、儂あれ怖いんじゃが」

「何か見張られてるみたいで……」


 芽衣子は書類を書きながら顔を上げ、エンリコへと話しかける。


「……それで市長がきちんと仕事をしてくださるのなら、私は構いませんよ」


 とエンリコは笑みを芽衣子へと浮かべる。

 その笑みは、芽衣子にとってとても冷ややかに感じられた。


「ぐむー……、お主最近儂に冷たくない?」


「いえいえ、そんな事はありませんよ」

「さ、私の事は気にせず続きをなさってください」

「各地区の士長への召集や市民達への説明の為の場所の確保、並びに遠見の水晶のレンタル……他にもやる事は沢山あるんですからね」


「ぐむむー……、ふ、冬になったら覚えておれよぉ!」


 芽衣子はエンリコに押され、負け台詞を言いながら演説用の草案を再び書き始めるのだった。


暇つぶし以下略

次:会合が始まったら投稿します

繰り返す似た景色、掴めない幻を追いかけていたので初投稿です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ