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人類ガバガバ保護記   作者: にっしー
札幌制圧編
36/207

外交官が着任したら

MD215年 5/8日 AM8:34


「はい、今後とも互いの為に尽力しましょう」


 目の前の白金の天使……ペスと名乗ったゴーレムはそう言うと握っていたアレーラの手を離す。


「あ、は、はい! よろしくお願いします!」

「えっと、私、アレーラ・クシスって言います!」


「アレーラ・クシス、ですね、認識しました」


 アレーラは自己紹介を済ませると、ペスの顔を見つめる。

 その白銀の光沢は見る者を魅了した。

 すると突然ペスが顔の無い口から機械的な女性の声を発する。


「……ではそろそろ市長の元へと案内していただけませんか」


 ペスの顔に見入っていたアレーラはその声に驚く。


「あ、そ、そうですね! それじゃあ行きましょう!」


 と言ってアレーラは歩き始めるが数歩歩いた後で立ち止まり、青ざめた顔でペスへと振り返る。


「そういえば、何処に連れて行けばいいのか聞いてませんでした……」


「正気ですか?」

「それは………………困りましたね」


「すみません、すみません!」


 アレーラはペスの言葉に謝罪する。


「大切なのは今私に謝罪する事よりも、目的地を探す事だと思いますが」

「市長、またはその地位に近しい者との連絡は取れないのですか?」


「あの、多分無理です……私も最近この街に来たばかりだから、誰が偉い人なのかとかもよく分からないんです」

「ど、どうしましょう!」

「やっぱり狼煙とか上げて助けを呼んだ方が!?」


 とアレーラがうろたえていると、突然馬の蹄の音が響く。

 その音は次第にアレーラ達へ近づいていく。


「とぅっ!」


 その掛け声と共に野次馬達を馬が飛び越えていき、アレーラ達の前に着地する。


「おーっほっほっほ! 東区衛兵士長、ベル・バスティーユ参上ッ! ですわ!」


 その女性は高笑いを響かせ、現れた。



──────────────────────────────


「なるほど、つまり貴女はこの女性の代理あるいは補助をするために市長から派遣されたのですね?」


 ペスが相変わらずの抑揚の無い、機械的な女性の声で喋る。


「えぇ、その通りですわ」

「この私、ベル・バスティーユが貴女を市長の元へと案内して差し上げますわ!」


 ベルは乗っていた馬から降りるとペスとアレーラの前に立ち、自分が市長からアレーラを補助する為に任務を請け負った事を説明した。


「では……これからよろしくお願いしますわね?」


 ベルはそう言うと自らの右手をベルへと差し出す。

 意図を察したペスはベルの右手を自身の右手で握り返し、握手を行う。

 ペスの手を握ったはひんやりとしていたがしかし硬すぎず、むしろ人間の手に近い感触だった。


「あら……貴女、結構柔らかいんですのね」

「見た目が金属チックだからもっと硬い手かと思っていましたわ」


 ベルはその感触に驚きの声を上げる。


「お褒め戴きありがとうございます、製作者も喜ぶ事でしょう」


「えぇ、貴女の製作者というのはきっと美というものを分かっていらっしゃるのでしょうね」

「美しいですわぁ……その艶やかな白銀とフォルム……」


 ベルの言葉に対してペスは困惑し、思わずアレーラへ小声で話しかける。


「彼女はいつもこのような調子なのですか?」


「私も会うのは初めてなので……」


 ベルの問いかけにアレーラも小声で応じる。


「ちょっと、貴方達何をひそひそ話していますの?」


 そう言うとベルはアレーラへと近づいていき、手を差し出す。


「そういえば……まだ貴女とは初対面でしたわね?」

「私、東区衛兵士長を務めているベル・バスティーユと申しますわ」

「今回市長から貴女を手伝うように言われて此処に来ましたの」

「良ければお名前を伺っても?」


「あ、はい! 私、アレーラ・クシスと言います!」


 アレーラはベルの手をしっかりと握り、握手を交わす。


「良いお名前ですわね、これからよろしくお願いしますわ、アレーラさん」


「宜しくお願いしますね、ベルさん!」


 握手をしながらお互いに微笑みあう。

 そこでふとアレーラは疑問が浮かぶ。


「……そういえば手伝う様にって言ってましたけど、具体的に何て言われたんですか?」


 ベルは握手を解くと右手をそのまま顎へやり、市長の言葉を思い出す。


「そうですわね、まずは何処に案内すればいいか教えるの忘れたので市庁舎まで案内して欲しいと言われましたわ」

「それと貴女の特徴ですわね、身長とか見た目とかそう言う事」

「後は市庁舎まで送る間、彼女とあな……ごほん! 彼女へ街の案内をして欲しいと」


「え?」


「おーっほっほ! 何でもありませんわ!」


 ベルは発言を誤魔化すように高笑いをすると、二人のやり取りを見ていたペスへと振り返る。


「という訳で、お待たせいたしましたわ」

「此処からは私、ベル・バスティーユが案内いたしますわ!」


「はい、宜しくお願いいたします」


「おーっほっほっほ! では参りますわよ!」


 ペスの冷静な返しを物ともせず、ベルは南口へ向かって歩き始める。

 その背後にはペスが続き、ペスの少し後ろにアレーラが続く。


「……あのー、ところでさっきから気になっていたんですけど」


 と後ろを歩いてたベルへアレーラが声を掛ける。


「あら、何かありまして?」


「いや、どうしてそんな格好をしてるのかな~……って」


 とアレーラはベルの格好を見て言う。

 実はベルは現れた時から以前付けていた下半身ほぼ丸出しの鎧を着用しているのだ。


「え? どうしてっておかしなことを聞きますわね……」

「良いです事? この鎧は大体バスティーユ家に受け継がれてきた由緒正しき鎧なのです!」

「故にこれを着る事はつまり家を背負っているということ! 私は常にそういった覚悟で生きているのですわ!」


 と怒涛の勢いでベルが答える。


「な、なるほど……」


 その勢いに押され、アレーラは納得する。

 そんな会話をしている間に三人は南口の正門を抜け、南区の中へと入っていく。

 正門を抜けると小型のビルが点々と立ち、その入り口付近では魔族や人間達が呼び込みをしていた。


「さ、ペスさん、此処が南区ですわ」

「此処は所謂商業区ですの、主にダンジョンから発掘した物や近くの村から仕入れた食物…後は鍛冶屋や酒場等がありますわね」


 ベルが振り返り、ペスへと説明する。

 ペスはベルの言葉を聞き、エクィロー内部のデータベースへ検索を掛ける。 


「ダンジョン、遺跡の事でしょうか」


「えぇ、まあそういう言い方も出来ますわね」

「百聞は一見に如かずと言いますし、ちょっと寄ってみません事?」


 ベルはそう言うと通りにある店へとペスとアレーラを連れて行く。

 

「お、いらっしゃ……」


 ベルとアレーラの姿を見た店主は二人へ声を掛けようとするが、ペスの姿を見て声が止まる。

 表情も笑顔からぶすっとした顔になる。


「……あんた等、其処のゴーレムとどういう関係?」


「え? ペスさんとは……」

「もごぃ!?」


 アレーラがその問いに答えようとすると、ベルがアレーラの口を両手で封じる。


「お、おーっほっほっほ! こ、このゴーレムは私の従者ですの!」

「最近ダンジョンから発掘されたのを買い上げましたのよ!」


 店主はそれを見て訝しむが。


「ふーん……」

「まあ……何でもいいか、へいらっしゃい!」

「此処には荒くれどもがダンジョンに潜って取ってきた遺物があるよ!」


 すぐに営業モードへと戻る。 

 店主が営業モードへ戻るとペスは品物を見るために店主へ近づき、ベルはアレーラを引きずって店主から離れる。


「ふぅ……、何とか誤魔化せましたわね」


 その店主の態度を見てベルは安堵の息を吐く。


「も、もごごげぐががぎぃい!」


「あ、あら! ごめんなさい!」


 とベルに口を封じられていたアレーラが呻き、ベルが手を離す。


「ぷはぁっ! はぁ……はぁ……し、死ぬかと思いました」

「いきなり酷いですよ、ベルさん……!」


 ベルが手を離すとアレーラは息を整えながらベルへ文句を言う。


「おほほほ、すみませんでしたわアレーラさん」

「でも良いですこと? アレーラさん」

「私達がペスさんを市長の所へ連れて行くとか街中を案内してるとかは秘密ですわよ?」


 とベルがアレーラへ顔を近づけ、小声で話す。


「え? どうしてですか?」


「よく考えて御覧なさい? 街の人たちはついこの間ゴーレムに襲われた事もあってあまり良い印象を持っていません」

「普段からゴーレムは私達の敵となることも多いですし……」

「そんな中でゴーレムと仲良くしてるなんて話したら誰に目を付けられるか分かりませんわよ?」

「それに外交官として彼女が此処に来ていることは秘密ですもの……、むやみやたらに言いふらすのはよくありませんわ」


「なるほど……すみません、私何も考えてなかったです……」


 ベルの言葉にアレーラはシュンとした顔をするが、ベルは笑みを浮かべ。


「いいんですのよ、人は間違って当然ですもの」

「これから間違えなければ宜しいじゃありませんか!」


「ベルさん……」


「さ、説明がまだ途中でしたし私達も商品を見に行きましょう?」


 とベルはアレーラの手を取り、お店へ近づいていく。



──────────────────────────────


「中々興味深い場でした」


 その後店を後にした三人は他にも様々な場所へ顔を出しながら、市庁舎へと向け歩いていた。


「戦前にあった駅や地下デパート、そういった場所を遺跡と呼び発掘を行っているのですね」


 ペスはそう言うと先ほどの店でベルが買ったキーホルダーを眺める。

 そのキーホルダーは一つ目の青いホムンクルスを模った物で、戦前に大流行したブブルスブというキャラクターの物だった。


「しかしこのようなものが高値で取引されるというのは理解しがたい物があります」

「確か……24イェンでしたか?」

「宿への一泊の宿泊費が10イェンと先ほど聞きましたが……」


 ペスはそう言うと再び顔の無い顔でマジマジとブブルスブキーホルダーを眺める。


「嗜好品というのは総じて無価値なものですわ、大切なのはこれを買って本人がどう思うかですのよ?」

「つまりこれはとっても可愛いですわ! 24イェンで手に入れられたのはとても幸運ですの!」


 とベルはキーホルダーを顔に寄せると頬擦りを始める。


「うーん……か、可愛いのかなぁ……?」


 とアレーラが頬を掻く。


「一般的な観点から言わせて貰うのであれば、どちらかというと醜いかと」


「ですよねぇ……可愛くは無いと思います……」


「ブサ可愛いという理由から当時は流行ったようですが」


「ちょっと良く分からない感性ですね……、って当時、ですか?」


 ペスの言葉に同意していたアレーラは当時という言葉に反応する。


「はい、およそ1000年前……最終戦争前に大流行したと私のデータベースにはあります」


「で、でぇたべえす?」


「分かりやすく説明するならば、記憶です」


「へー……何か凄いですね、そんな昔の事を覚えてるなんて」


 その説明を聞いたアレーラはペスへ素直な感想を述べる。


「覚えている、というよりは知っているだけですが……お褒め戴きありがとうございます」


「あ、いえ、こちらこそありがとうございま……す?」


 と何故かペスへお礼を言うアレーラ。


「何故、お礼を言うのですか?」


「え、あれ? な、何ででしょう……」

「あははは……」


 ペスの問いかけに笑って誤魔化すアレーラ。


「…………ふふ」


 その顔を見てふと、そんな笑い声がアレーラに聞こえた気がした。


「あれ? ペスさん……今──」


 アレーラが次の言葉を紡ぐ前に、ベルの言葉がそれを遮る。


「二人ともー! そろそろ着きますわよー!」


「行きましょう、アレーラさん」


「あ、はい!」


 ペスがアレーラへと声を掛け、二人は共に進んでいく。

 先ほどの声は少し気になったが、今はそれよりも強い思いが胸にあった。


 この機械の友が、初めて名を呼んでくれたという嬉しさが。


暇つぶしで

次:不和を解く方法が思いついたら投稿します

シャドウバースを始めたので初投稿です、ウィッチ強すぎて笑う

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