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人類ガバガバ保護記   作者: にっしー
札幌制圧編
35/207

街の復興を始めたら

MD215年 5/8日 AM8:12


「あいらーぶ、ぞーず、でぃあーはーつ~」


 サツホロ市庁舎執務室にて、芽衣子が上機嫌に鼻歌を歌いながらタブレットを机の上の本へ翳す。

 するとタブレットのスキャナ機能が起動し、本の内容を読み取りタブレットへ保存していく。


「うーむ、良いぞ良いぞ! これは実に素晴らしいのう!」


「…………」


 芽衣子のその楽しそうな所作を見ながら、エンリコはある考えが脳内に渦巻いていた。

 エクィローとの戦いを終えた後、正式に同盟関係を結びはしたがやはり不平等な同盟には変わりなく……果たして本当にこのままでよいのかと。

 そんなエンリコの視線に本のスキャンを終えた芽衣子が気づく。


「なんじゃエンリコ、そんなぶすっとした顔をして」


「……いえ、何も」


「そんな顔して何も無いってことは無いじゃろ~」

「秘書なら秘書らしく進言せぬか、儂が選んだ秘書じゃぞ?お主は」


 芽衣子はタブレットを机に置くと市長用の椅子へ座る。


「……では進言させていただきます、市長は本当にあの同盟にご納得をなされているのですか?」

「同盟とは言っていますがこれは一方的過ぎます、恐らく市井の者達も納得はしないでしょう」


 エンリコは右手に握った本を強く抱きかかえると芽衣子へと発言した。

 

「ふむ……納得しているか、か」


 芽衣子はエンリコの意見を聞き、椅子にもたれかかる。


「儂はしておるよ、納得はしておる」

「開戦の理由はどうあれ負けた側じゃからな儂等は、皆殺しにされなかっただけまだマシというものよ」

「感情的に受け入れにくい、という部分はあるがな」

「じゃが同盟を受け入れた時にも言ったが、街の可能性を広げるという意味では大いに意味があるとも思っておる」


 芽衣子は椅子にもたれかかった姿勢を戻すと、タブレットを持ち上げエンリコへと見せる。


「例えばこれだってそうじゃ、有用な技術を手に入れることは街の発展にも繋がる」


「しかし、市井の者にそういった技術が普及するのには時間が掛かります」

「それに戦いに負けたという事と奴等の良い様に扱われるという事実は変わりません」

「果たして市民がそれに納得するでしょうか」


 エンリコのその発言に芽衣子はタブレットを置くと腕組をし、唸り始める。


「うーむ、そう、そこなのじゃよ」

「突然現れたよく分からない連中に顎で使われるわけじゃ」

「そんなことを矢面に立たされる者達が受け入れるかって言うと微妙じゃよなー……、連中の全世界制圧っちゅうのも儂等は別に興味ないしの」


「……え?」


 市長の発言にエンリコが思わず間の抜けた答えを返す。


「まあ儂には儂が選んだ優秀な秘書が居るからの! 何とかなるじゃろ!」

「連中との融和施策を考えるのが当面のお主の課題じゃ!」


 芽衣子はうんうんと首を立てに振ると、眩いばかりの笑顔をエンリコへと向ける。


「もしかして市長、最初からそのつもりで同盟をお受けになったんですか!?」

「私に全部丸投げするつもりで!」


 その笑顔を見たエンリコは机に駆け寄り、芽衣子へ発言する。


「全部とは人聞きが悪い、二割位は儂もやるわ」


「大して変わらないじゃないですか!」


 芽衣子はエンリコの発言に顔を背ける。


「ぬふふふ、そうかのう?」

「おっと! そういえば今日はあの連中からこちらとの連絡役が来る日じゃったのう!」

「儂は迎えに……」


 芽衣子は椅子から降りようとするが……。


「逃がしませんよ! いい機会ですから少し色々とお話をしましょう、市長!」


 エンリコが机に乗り上げ、芽衣子へ顔を近づける。


「おわ、ち、近い! 近いわ!」

「分かった、分かったから近いと!」


 エンリコの鬼気迫る迫力に負け、芽衣子は椅子へ座りなおしながらエンリコの顔を元の位置へと押しやる。


「しょうがないのう……、では迎えには別の者を送るとするか」


 芽衣子はそう言うと目を閉じる───



──────────────────────────────


「よーし、瓦礫を落とすぞー! 気をつけろー!」


 という声が響いた後、重量音が響く。

 その残骸をゴブリン達が運搬ゲームと言いながら、各所に暫定的に設けられた廃棄場へ運んでいく。

 そんな復興の現場にアレーラは居た。


 中央区札幌テレビ塔がある大通りから北側は、巨大戦車の侵攻によって多くのビルが被害を受けていた。

 アレーラはそんな作業風景を鬱屈とした気持ちで眺めていた。

 二日前……管理者の二人からの返答にアレーラの心は沈みこんでいた。

 アデルに「復興作業でも見てくれば心が晴れるんじゃないか?」と言われ、この場に送り出されたが……


「はぁ……」


 と溜息を付くとアデルの住む衛兵宿舎へ戻ろうとする。


「ぉーぃ……」


 と小さく芽衣子の声が響く。

 アレーラはその声に気づかずとぼとぼと歩き帰宅しようとする。


「おーい……!」

「アレーラやー……!」


 芽衣子の声に気づかないアレーラへ徐々に芽衣子の声が大きくなっていく。

 しかしそれでも気づかないアレーラに思わず芽衣子が怒鳴るような形になる。 


「くぉら! アレーラ!」


 突然の怒鳴り声に思わずビクッと体を震わせ、周囲を見渡すが誰も居ない。


「え!? し、市長さん!?」

「え、え!?」


「やっと気づきおったか……、しかし浮かない顔をしておるのう」

「何ぞ悩み事かえ?」


 芽衣子の声色がアレーラを心配する様な声になるが……。


「そんな時は労働じゃな! というわけで一つ頼まれごとを受けてくれぬか」


 といきなり明るい声になる。


「し、市長さん? ど、何処に居るんですか!?」


 アレーラは再び声をあげ、周囲をぐるっと見渡すが何処にも市長は見えない。

 そのアレーラの様子を訝しげに周囲の人間や魔族達が見つめる。


「ママー、あれ何ー?」


「しっ! 見ちゃいけません!」


 と子連れの母親がアレーラを見て走り去っていく。


「ぬ? もしかして儂を探しておるのか?」

「なら探すだけ無駄じゃぞ、今は声だけをお主の精神に送っておるからの」


 芽衣子を探すアレーラの姿に芽衣子は声を掛ける。

 

「声だけ……、え?」


「うむ、声だけじゃ」

「おっと、そろそろエンリコが怒り出しそうだから用件だけ言うておくぞ!」

「今日此処サツホロにとある連中からの外交官が来るんじゃが、出迎えに行ける状態じゃなくての」

「お主に出迎えを頼もうと思ってな!」


「ま、待ってください! そんな急に言われても私……」


「真に遺憾ながら、他に暇そう……もとい良さそうな奴が思いつかなかったのじゃ」

「恨むのなら儂を恨め……じゃが仕事は遂行してもらうぞ!」


「そんな…」


 アレーラは困惑するが芽衣子は立て続けに言葉を述べ続ける。


「でじゃな、今頃サツホロの南口付近で外交官が待ってるはずじゃ」

「見た目は見たら直ぐに気づくという話なので声を掛けてやって欲しい」

「では、頼んだぞ!」


「市長さん? 市長さん!?」


 一方的に用件を告げるとそれから市長からの声は聞こえてこなくなる。

 アレーラは暫く市長へと声を掛けていたが、周囲の目線に気づく。

 その冷ややかな視線にやっと気づいたアレーラは市長への呼びかけを止め、考え始める。


「うーん……どうしよう」


 と五分ほどアレーラは考え込んだが、一つの結論を出す。


「……うん、行こう」

「アデルさんの部屋でうじうじしていてもしょうがないし……ご神木様も悩んだ時は行動せよってよく言ってた」


 そう言うとアレーラは南口へ向けて歩き始める。


「でも外交官か……どんな人なんだろう、見れば分かるって市長さんは言ってたけど」


 アレーラの言葉には不安と、少々の期待が込められていた──


──────────────────────────────


 南口は交戦当時最も戦いが激しく、外壁や建物に幾つかの損傷が見られた。

 南口へと辿り着いたアレーラはそれを修理する者達の多さに驚いた。


「わっ、凄い人……」

「こんな人の中から見つけられるかな……」


 アレーラは早速周囲を探してみる。

 だが周りは人、人、機械、魔族、魔族と言った具合で……。


「え!?」


 アレーラは再び周囲を見渡してみる。

 人。

 人。


 顔の無い頭部、光沢のある人間と同じような腕や脚、背中には翼があり羽の一枚一枚、そして体全体が銀白色の金属出来ているゴーレム。


 妖狐族。

 ロウクス。


「いや今居ましたよね! あれですよねあれ!」


 と思わず自分で突っ込んでしまうほどの分かりやすさだった。

 そのゴーレムは身長が2.2mほどの大きさでロウクス程ではないがそれでも周囲からは浮いていた。

 周りの者達もひそひそと遠巻きに話をしながらそのゴーレムを眺めていたが、ゴーレムは微動だにせずまるで誰かを待っているようにも見えた。

 アレーラはそんな人込みの中を割って入っていく。


「た、多分あの人……、人? だよね……」

「す、しゅみませーん、通してくだ……さーい……」


 そして人込みを抜けると、そのゴーレムが目の無い顔をアレーラを向ける。

 目の無い、顔の無い顔に威圧されるアレーラがおどおどしながら声を掛ける。


「あ、あの……市長さんが言ってた、外交官の方……ですよね?」


 アレーラの言葉にゴーレムは反応し、アレーラへ声を掛ける。


「肯定します、私はエクィローから派遣された外交支援用ロボット、ペスです」

「初めまして、名も知らぬお方」


 そう言うとペスはアレーラの前に右手を差し出す。


「まずは交友の為の儀式を、人間は皆初対面の者と交友を結ぶために手を交わすと聞いています」


「へ? あの、えっと……?」 


 急に差し出された言葉と手に戸惑うアレーラだが。


「よ、よろしくお願いします」


 とペスの右手をアレーラの右手が掴み、握手を交わす。


 これがこの二人の始めての、この世界で始めての魔族とロボットとの友好の瞬間だった。


暇つぶしで以下略

次:外交官が着任したら投稿します

眠たいので初投稿です

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