聞きたいことを聞いたら
MD215年 5/6日 AM9:12
「えー、それでは第三十二回一体誰のせいでこうなったでSHOW!を始めます」
「僕は田崎君が悪いとおもいまーす」
「ざっけんな! てめーがこっちだと思うって言うからこっち来たんだろうが!」
「えー、拙僧記憶にございませぬー」
とソーレンに警護されている白衣を着た男二人……田崎と山坂はサツホロ北区で迷子となり言い争いを繰り広げていた。
そしてそれを遠巻きから眺める一組の男女が居た、アデルとアレーラである。
アデルは胸元からメモ用紙を取り出し内容を確認する。
・身長174センチ、黒髪で短めの髪型、体重84キロの男
・身長174センチ、黒髪で爆発してるような髪型、体重45キロの男
そして言い争いをする男達を改めて確認する。
周囲には昨日戦ったソーレン達が男達を護衛するように立っていた。
「身長はまあそれ位か、しかし体重とか髪型だけ書かれてもなぁ……何だよこの爆発してるような髪型って」
「いや目の前の一人は爆発してるけど」
アデルはメモの内容に愚痴を言いながら改めて山坂達を見る。
山坂の髪型は寝る前に髪を乾かさないまま起きたような…要するに寝癖ばりばりヘアーであり確かに爆発しているようにも見える。
アデルはメモ用紙を胸元に仕舞いなおすとアレーラへと顔を向けた。
「とりあえず俺が昨日メモった内容と合致する連中は見つけたが……どうする?話しかけるか?」
「え?どうしてですか?」
とアレーラはきょとんとした顔でアデルへ問いかけた。
「どうしてですかって……」
「そういえば何で連れて来たのか言ってなかったか……」
アデルは顔に手を当て、しまったという表情をする。
「実はな、昨日知り合いが盗み聞……いや偶然! そう偶然聞いたんだ」
「俺たちが戦ってたゴーレムを操ってた連中が今日来るってな」
アデルはアレーラから顔を管理者達へ向けなおすと指を指し。
「それがあいつ等だ」
「ゴーレムを操ってた人達、ですか?」
「えっと……つまりそれって私の村を襲った人達……かもしれない?」
「そういうことだ、つーかあれはほぼ間違いないだろ」
「昨日戦ったゴーレムを周囲に置いてるなんて自分でそうだって言ってるようなもんだろ」
「あれで間違いだったら俺は逆立ちで蟻と徒競走してもいい」
「で改めて聞くが、どうする?」
そう言うとアデルは再びアレーラへ問いかけた。
アレーラは少し顔を俯け少しの間逡巡したが、顔を上げ真っ直ぐに管理者達を向ける。
「はい、私行きます」
「どうして私の村を襲ったのか……ご神木様を、村の皆を殺したのか……私には聞く義務があると思います」
「村の皆の為にも」
「そうか……なら込み入った話になるだろうし俺は此処で待っ──」
「いえ、あの……出来ればアデルさんにも付いてきて貰えませんか?」
「その、ちょっと心細いので……駄目ですか?」
アデルが言い終わる前にアレーラはアデルへと同行を依頼する。
アレーラのその言葉に何故か照れを感じたアデルは頭を書きながら言う。
「しょうがねえな、でも俺は後ろで聞いてるだけだぞ?」
「はい! 宜しくお願いしますね、アデルさん!」
アレーラはそう言うと歩き出し、アデルはアレーラの2歩分後方を歩き出した。
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「ほう、言い逃れですか」
「たいしたものですね……言い逃れは古来より使いやすいらしく政治家等が愛用したそうです」
「なんでもいいけどよォ、会合の時間とっくに過ぎちまってるぜ?」
「それに会合に大遅刻、これも永村に怒られる要因ですよ」
「それにしても会合に出ずに街中でぶらぶらと二人で言い争い等と超人的な無駄としか言うほかは無い」
山坂はそう言うと眼鏡を指で持ち上げ、眼鏡の位置を直す。
「一大事ですよこれは」
「流石に大事な会合を初日からすっぽかしたと言うのは不味いですよ!」
「確かに不味いな、管理者内での立場は平等という建前はあるが会合に参加しなかった事で永村への負い目が出来るからな」
「うーむ、さてどうしたもんか」
と二人が同時に頭を捻り腕組をして考え始める。
すると二人を警護していたソーレンの一体が、顔の無い頭部とその捩れた体を二人とは反対の方向へ向ける。
「ん?」
と田崎が視線を向けると、その目線の先には整った顔と緑色の髪、そして多少汚れた感じの服を着た10代後半位の少女が立っていた。
その後ろには女性よりも背の高い赤毛の男性──その見た目と装備からして兵士だろうか?──が立っていた。
少女はそのまま田崎達へと近づき、ソーレン達が一斉に振り向き田崎達の前に集まり壁を作る。
「あ、あの……!すみません!」
少女はソーレン達が作った壁の向こうから田崎達へ声を掛け、その声に山坂も気がつき目線を向ける。
「ん~?今呼ばれたか?」
「呼ばれたな」
「おい、ソーレン達邪魔だ、どけ」
田崎が指示を出すと壁になっていたソーレン達が一斉に退き、道を開く。
ソーレン達が道を開くと「うわわっ」という声と共にアレーラが前に飛び出る。
「おいおい、大丈夫か?」
「げぇっ!女ぁっ!?」
と田崎がアレーラへ心配する声を掛け、山坂はアレーラを見て悲鳴をあげ高速で後退る。
「……まだそれ治ってないのかお前」
「うるせぇ!一生治るかクソが!」
後退りの音を聞き田崎が呆れた顔をしながら山坂へ言い、山坂は切れながら苦虫を噛み潰したような顔をする。
「あぁ悪い、こいつの事は無視してていいぞ」
「俺等に何か用か?お嬢さんと後ろの兄ちゃん」
と田崎は山坂を右手を後ろ向きに肩にのせ親指で指し示しながらアレーラへ声を掛ける。
山坂の高速後退りに驚いていたアレーラだったが、田崎の声でハッとした顔をする。
アデルは顔の前でイヤイヤと手を振り田崎に答える。
「いや、俺はあんたらには用事は無いんだが……其処の子があんた等に聞きたいことがあるってんでな」
とアレーラを指差す。
「あ、その、はい……ちょっとお尋ねしたい事があって」
アレーラは畏まりながら田崎へ返した。
「尋ねたい事ぉ?答えられる範囲なら答えてもいいが、俺たちも今日初めて此処に来たからなぁ」
「まあとりあえず答えられる事なら答えるぞ」
「あ、ありがとうございます、それであの、いきなりな質問になるんですけど」
「大きなゴーレム……機械でしたか?それを使って私の村を襲ったのは、……貴方達ですか?」
アレーラのその質問に田崎と山坂は顔を向かい合わせ真面目な顔になる。
「私の村? あぁ……そういやツリーフォークをぶち殺す前に逃げていった奴が一人居たっけか」
「そうかそうか、お前だったのか」
山坂は成る程と手を打つとアレーラの問いに答えた。
「あぁそうだ、俺たちが襲った」
そして山坂は答え、及び腰だった姿勢を正すとアレーラへ答える。
「……! もし、もしそうなら……何故そんな事をしたのか知りたかった」
山坂のその答えに、アレーラは右手で胸の辺りの服をぎゅっと掴む。
「私の、私の村の皆を……! どうして殺したんですか!!」
「ご神木様も、皆も……! 何も、何もしていないのに! ただ普通に生きていただけなのに!!」
アレーラは二人へ言葉を投げかけながら泣いた。
今まで溜まっていた気持ちを、突然起きた事件への気持ちを吐き出すように。
アレーラのその姿を見て田崎とアデルはどう言葉を掛けるか逡巡した所に山坂がこう答えた。
「そりゃ仕事だからだ」
「山坂……! お前!」
「じゃあ何て答えるんだ? 不慮の事故ですとかか?」
「こういうのはさっさと素直に答えたほうが後腐れなくていいんだよ」
山坂の発言に田崎が思わず肩を掴むが、山坂は悪びれた様子も見せず答えると田崎の手を払いのける。
「つーわけでお嬢ちゃん、これが答えだ」
「業務上已む無く処理した」
「…………そんな、そんなのって酷すぎます」
「うっ、くぅ…うっうっ……」
とアレーラはそのまま泣き崩れてしまう。
「お、おいアレーラ!?」
泣き崩れるアレーラにアデルが駆け寄ると、肩に手を当て山坂を睨み付けると声を上げる。
「おいあんた! 幾らなんでもそういう言い方は無いだろ!」
「人としての良識とかそういうもんはねーのかよ!」
アデルの怒声に山坂は眉をピクッと吊り上げる。
「人? あー、失礼……質問に質問で返すようだがその人っていう部分はもしかして君と俺等を一緒の意味合いで言ってる?」
「はぁ?」
「要するにだ、お前は自分の事を人間だと思ってるのか? と聞いているんだが」
山坂の問いにアデルは呆れた顔をして答える。
「そんなん当たり前だろ、俺もアレーラもあんた等も人間だろうが!」
その答えに山坂は笑い始め、田崎は山坂へ向けて呆れた顔をする。
「ハハハハハ! まーじか! お前等そういう認識だったのか! あっはははは!」
「オイオイオイ、こいつはお笑いだわ!」
「てめぇ……何がおかしい!」
「ふん、これが笑わずに居られるか。 なぁ田崎?」
と山坂は田崎へ顔を向けるが田崎はふんっと怒った表情で返す。
「おっと……田崎君の感情的な所を刺激しちまったか」
「ではこの大天才が教えてやろう! 馬鹿にも分かるどころかミジンコ! いや、鼻行類ですら分かるような感じに!」
「何が人間で何が人間で無いのかを!」
と山坂は大仰な素振りをしながら歩き始める。
「学術的なアプローチは置いておいて、至極簡単に言えばだ」
「人間であるとは、霊力に適合していない二足歩行を行うホモサピエンス種であること!」
「人間でないとは、霊力に僅かでも適合した生物の事よ!」
そう説明すると山坂は立ち止まりアレーラ達を指差す。
「つぅまり! 我々の定義的に言うならばお前達は 否! この世界に生きる連中はすぅべて! 人間ではない!」
「よってそれらを殺す事に関しては、僕は何の疑問も良心の呵責も! 一切! なんら! 感じないのだ!」
「蟲を踏み潰す際に罪の意識に苛まれる事が無いように!」
其処まで言い切ると、山坂は学会で発表が終わり礼賛される人間のようなアピールを取り始める。
田崎は呆れて右手をこめかみに当て、頭を横にやれやれと振る。
そしてアデルは良く分からんといった表情で山坂を眺めていた。
「むっ、何だぁその顔は もしかして今の説明で分からなかったというのか!?」
「あぁ、全然わかんねぇ」
「なんとぉ!」
その言葉に山坂はショックで地面に崩れ落ちる。
「けど……少なくともあんたがクソ野郎だってことは理解したぜ。」
「俺がもう少し短気だったら、昨日負けた腹いせも含めて今すぐ此処であんたをぶっ飛ばしてるところだった」
そう言うと、アデルは未だ泣いているアレーラへと肩を貸し立たせる。
「アレーラ……もう行こう、こんなクソ野郎どもとこれ以上一緒に居たらこっちまでクソ野郎になっちまう」
アデルの問いにアレーラは無言で、ただすすり泣く声だけが聞こえてくる。
「ふん、クソ野郎扱いとは心外だな」
「単純に正しい物の見方をしているだけだというのに、大体俺だけがクソみたいな言い方をするが残りの二人だって対外屑だぞ!」
「よく覚えておけ!」
とアデルへ指を指す山坂。
「お前それは何のフォローにもなってねぇしむしろ俺の品位を下げてるんだが?」
山坂の発言に思わず返す田崎。
「まあ事実やし…多少はね?」
「死ね」
「とはいえ……俺たちが村を襲って虐殺をしたのは事実だ、それは消えない」
「その上でお嬢ちゃんと兄ちゃんが感じたようにするのが俺は一番だと思うぞ」
「……感じたように振舞われた結果殺されたとしてもか?」
アデルはそう言うとアレーラと共に後ろを向き歩いていく。
「そうなるな」
田崎はそう答えると、山坂と共にその後姿を見送る。
「ま、僕等を殺せる奴なんてそうは居ないと思うけどね」
「……ふん」
山坂の言葉に、田崎はやはりプイッと顔を横に向けると歩き出す。
「おいおい、まだご機嫌ななめか?」
「全くこれだから感情的な奴は困るんだよ……」
「おーい、分かった分かった悪かったって、俺が悪かったー」
山坂は一人呟くと立ち上がり、田崎の所へ小走りで駆け寄っていくのだった。
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「というわけなんですよ」
「なるほど! こりゃすごいのう、たぶれっととやらは!」
「儂の持ってる本全部がこの中に納まるのか!」
「ええのええのー! 儂これ欲しい!!」
「分かっていただけましたか…!」
「いやぁそんなに喜んで貰えると嬉しいですね、いいですよ一つ差し上げましょう!」
その頃、永村は芽衣子とタブレットについての話で盛り上がっていた。
この会話が終わるのは日が暮れる頃になるのはまた別の話。
暇つぶしで以下略
次:名前を決めたら投稿します
玄奘三蔵法師ちゃんが当たらなかったので初投稿です