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人類ガバガバ保護記   作者: にっしー
札幌制圧編
30/207

ワームがテレビ塔へ到達したら

MD215年 5/5日 AM16:42


 あぁ……頭が割れるようだ。

 蟻がワームに襲い掛かりそして死んでいく、命が消える瞬間を確かに感じる。

 感覚の喪失、熱の喪失、魂の喪失を。

 蟻に自らの意思を送り込み操るのはこれが始めてではないが、何度も命が消える瞬間を体験する事が芽衣子は嫌いだった。

 この喪失感を感じているうちに、何時か自分も喪われていくのではないかと恐怖していた。

 テレパス──他人の心の中を覗き支配する力、それによって芽衣子はあらゆる情報を得る事が出来た。

 同時に敵対者の心を破壊ないしは操る事でサツホロの安定を得、更にはサツホロに蔓延っていた蟻を支配する事に成功した。

 しかし、今はその蟻の支配を持って尚勝てぬ相手が此処サツホロに居た。


 絡みつく頭痛を無理やり振りほどくと、羽蟻へ意識を飛ばし地上の状況を観察する。

 地上ではワームが体をうねらせる度に建物が崩れ、蟻達が磨り潰されていく。

 足止めに向かう衛兵達も、物陰や建物を崩しながら突撃してくるゴーレムに阻まれ、思うように攻撃を与えらず羽蟻達は以前として蟻酸を振り掛けてはいるが其処に繋がる攻撃を芽衣子は与えられないでいた。


「さぁて……どうしたもんかの」


 そう呟くと、意識を同調させている女王の体を眺める。

 蟻の複眼は人間の目とは違い、その目が映す全方位を捉える事が可能である、そのため今の芽衣子には女王の居場所のあらゆる物が把握できた。

 肥大した女王の下半身は白く自らの体重を支えるにはあまりに心細い細い腕が六本見える、やはりこの女王の体は戦うにはあまりにも不向きであると確認する。

 では体の周りはどうだろうか?

 周囲には蟻の卵が無数にあり、また生まれたばかりの蟻が仲間達が掘削した道を通り地上へと出て行く。


「うーむ……顔を一々其処に向けなくても見えるってのは蟻の目の便利さよのぉ」

「とはいえ、それで状況が変わるわけでもないんじゃが」


 芽衣子は周囲を見るのを止め、再び考え始める。

 彼女が考える限り状況は良くなかった、触れると死ぬ人や魔族が立ち向かうにはあまりに巨大すぎるワーム。

 また装甲も厚く、蟻酸による攻撃や魔術による攻撃もあまり効果的ではないように見える。

 いや効いているのかもしれない、効いているのかもしれないが巨大過ぎて魔術が一点に当たらず結果ダメージが分散してしまっているのだ。


 ではこのまま降伏の意を相手に示すというのはどうか?


 そんな考えをしていると芽衣子の頭に、先ほどから何度も過っていた考えが浮かぶ。


「いかんいかん……降伏自体は構わぬが降伏した後に蟻達の後始末をどうするつもりじゃ儂は」


 その考えを振り払うように、芽衣子は頭を振る。


 蟻……当初北海道全土を覆っていたこの昆虫は、戦闘能力や数もさることながらその問題点は食性であった。

 芽衣子が女王蟻へと意識を繋ぎ支配するまで、この昆虫は人間、魔族問わず多くの生物を餌として繁殖を続けていたのだ。

 その食性は女王の意識を支配しても尚留まらず結局芽衣子は女王と大多数の蟻を休眠状態にしコントロール可能な数の蟻だけを残していたのだ。


「もし仮に此処で儂がこいつから意識を手放したりすれば……今居る蟻達とゴーレム、そして儂等の三つ巴の戦いになる」

「それだけは避けねばならん」


 では、蟻の女王を支配したまま降伏した場合はどうかと芽衣子は考えをめぐらせる。

 しかし、再び芽衣子は頭を振る。


「これもいかん……もし仮に蟻の食性や女王の支配、儂の力について話したとあれば何をされるか分からん」

「最悪蟻のコントロールだけを奪われて、儂等全員奴等の尖兵として使い潰される…とかも有りえる話じゃ」

「そもそも儂が無事で居られる自信が無いの、友好関係を築きに来たと言いながら武力を見せ付けてくるような輩じゃし」


 とすれば思いつく最良の手段は……。


「この戦いで降伏するまでに、蟻の数を儂がコントロールできる数までまで減らす……か」

「その際女王も始末しておかねばならぬな、こいつが生きておると際限なく増えるし」


 そう言うと芽衣子は、カラカラと笑い始める。


「厳しい戦いになるとは思っておったがまさか総力戦になるとはのう……」

「あのワームが触れると死ぬとかいう力を持ってなければ全て丸く収まったもの……を……?」


 其処まで言ってふともう一体のワームの存在を思い出す、地下で分離しそのまま先に進んでいったワームのことだ。

 芽衣子は急ぎサツホロ地下全域の蟻へと意識を飛ばし、地下を進むワームを探し始める。

、女王から近い距離に居る蟻から徐々に遠くへと意識を伸ばし……もう一匹のワームを見つける。


「……近いの、それにこの進み方」

「此処に近づいてきておるのか?」


 もう一匹のワームは女王蟻の居る位置へと直進しており、おおよそ700メートル付近まで接近している。

 その移動の後は迷いを感じられず、どう考えても女王蟻の居る場所へと向かってきていた。

 芽衣子は、何故ワームが女王蟻へと接近してきているのかは分からなかったが、こう考えた。


 好都合だと。


 恐らく、敵は女王蟻を直接押さえに来たのだろう。

 ならば、こちらはそれを逆にそれを利用して、地上のワームに全ての蟻をぶつけこちらに向かってきているワームに女王蟻をぶつければ……。


「うむ、風向きが少々こちらへ向いてきたかの?」


 芽衣子はパンッ!と手を叩くイメージをすると女王蟻の周囲で蟻が孵化し始める。

 続けて走るイメージを女王蟻に送ると、女王蟻の周囲や遠くに居る蟻が一斉に動き始める。

 半数は地上に居るワームへ、もう半数は地下…迫りつつあるワームへと。


「ぬふふふ……不思議じゃな、敗色濃厚じゃというのに楽しくなってきおった」

「儂もまだまだ……青いの」



──────────────────────────────


AM16:47


 ワームが地上へ出てから12分。

 地上は混戦の最中だった。

 ワームの正面を守っていた衛兵隊は、ワームの侵攻を止めるべく攻撃を加えたが装甲に多少の傷を付けただけに終わり、またワームと共に侵攻してくるソーレン達に妨害を受けていた。

 その後方に位置する魔術師隊もまた、側面の衛兵隊を突破してきたソーレン達に襲撃され……結果としてワームの侵攻速度を多少遅くするだけとなっていた。

 この時、ワームとテレビ塔の距離は200メートルをきった所だった。


 最早このワームを止められる存在は無いと諦め始めていた時、無数の蟻が地面から現れ、飛び掛っていく。

 そしてワームへ張り付いては死んでいく。

 だが蟻達に怯む様子は一切無く、再び無数の蟻達がワームへと飛び掛っていく。

 そしてその内一匹が死んだまま鱗に張り付くことに成功すると、他の蟻がその死体目掛けて飛び掛かっていく。

 飛び掛った蟻は、その蟻の死骸を足場に一匹ずつワームの装甲へ噛み付き死んでいく。


 装甲に蟻がしがみついている事に気づいたのか、ワームは肉体を回転させ始めるが途中で回転が鈍くなり始める。

 よく見るとワームのあちらこちらに霊力で出来た蔦が幾重にも張り巡らされ、その蔦を身長3メートルを超えるサイの魔族ロウクス達が手で蔦を掴み回転を抑えていた。

 ワームに徐々に引きずられながら、それでも脚を地面に打ち込むように踏ん張り続け回転を抑え続ける。


「総員……! 此処が正念場だ! 蟻が戦っていると言う事は市長は諦めてはいないということ……。」

「サツホロを治める者が諦めていない以上、その盾である我等もまた諦めてはならぬのだ!」


 ロウクスを率いるテランはそう言うと、より一層蔦を握る手に力を籠める。

 テランの声に他のロウクス達もまた蔦を握り締め、ついにワームの回転が止まる。


「よし……!いいぞ!」


 回転が止まった事で、衛兵達から歓声が上がる。

 そして回転が止まった事で、蟻達がより活発に群がり始める。

 ある程度蟻の死骸の足場が固まると、今度は装甲へ噛み付いた蟻を装甲ごと蟻が引き剥がし、剥がした場所へ再び噛み付くという行為を行う。

 それを繰り返していくうちについに装甲内部が露出し、蟻が内部へ侵入しようとする。


 だが内部へ侵入しようとする前に、ワームが大きくのたうち始め自らの体を地面へ叩きつけ始める。

 それにより回転を抑えていたロウクス達や、先ほどしがみついた蟻の死骸が空中へ放り投げられる。

 ロウクス達があわや地面へ激突かと言った時に、無数の羽蟻達が飛び出しロウクス達を回収する。

 ロウクス達は再び……今度は羽蟻達の上から蔦をワームへ絡みつかせる。


 しかしそれでも暴れ続けるワームへ、今度は空からレオニン達が光の網でワームを押さえ込むように落下していく。

 光の網が覆いかぶさると、ワームの荒々しい抵抗の動きが如実に弱まる。


「……ニーリィか、随分時間が掛かったな。」

「拘束はお前達の得意分野だったと思ったが?」


 テランはロウクス特有の無愛想な言葉を、レオニン達を率いる西区副士長ニーリィへ投げかける。


「いやー……羽蟻達を捕まえるのと網を編むのに時間が掛かっちゃって……ともかく、これで二重の拘束にはなる!」

「そして!」


「我々の出番というわけだ」


 その声は中央区衛兵士長、ヴィーアのものだった

 ヴィーアと数人のリザードマン達一人一人の体の前には、溶岩で出来た斧が浮かんでおり、両手はそれを見えない糸で吊り上げているような姿勢だった。


「そらよっ!/Catch!」


 ヴィーアがそう声を上げると、溶岩の斧は一斉にワームへと飛翔する。

 斧が直撃すると、ワームの装甲はドロドロと溶け出しその穴へ向けて蟻が一斉に群がる。

 蟻が群がり始めると、ワームは網の中で激しく悶え始める。


 しかし、それでも蟻の群れは止まらず、次第にワームの全身は蟻に覆われ完全に黒色になる。

 その内ワームは暴れる力が徐々に弱くなっていき、次第に完全に動きを止める。

 ワームが完全に動きを止めると、戦闘を行っていた衛兵達全員から歓声が上がった。


「うおおおおおおおおおお!」

「勝ったか……」

「全体の勝利です!!」


 しかし歓声が上がった直後、ワームから放電が始まる。

 その電流はワームへ群がっていた蟻を焼き、尚激しく放電し続けその内に放電は蟻が覆うワームが見えるほどに発光させ続ける。


「……いかん!全員退避しろ!!」


 と嫌な予感を覚えたヴィーアは、近場に居た全員へ声を掛け撤退を始める。


「自爆……、ゴーレムどもが良く取る手だ」

「だがこの大きさ、何処まで逃げればいいのか!」


 そしてヴィーアが撤退を指示した十数秒後、ワームは自爆する。

 爆風はワームが居た中心地からテレビ塔を軋ませるほど強く吹きすさび、瓦礫は弾丸の様に周囲の衛兵達やソーレンを巻き込んでいく。


 爆風と爆炎がテレビ塔前やその周囲を焦がし……最終的に戦場に立っているのはソーレン達だけだった。

暇つぶしで書いているので以下略

次:敵の鼻っ柱をへし折ったら投稿します

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