戦う理由を見つけたら
MD215年 5/5日 AM15:41
「へいへーい!永村さんよぉ!結構時間掛かってるがまーだ時間かかりそうですかねぇ~?」
素振りをする仕草をしながら、山坂はソーレンに指示を送る永村を煽る。
永村は振り返らず面倒そうな声で答える。
「山坂君は人を煽るのが好きだねぇー、もう少し掛かるよ、後30分くらい」
「今、敵の司令塔が分かった所」
「ほー……流石は情報収集特化用ロボのソーレン君だ」
「触れた物体の情報を音波、光波、その他諸々のあらゆる機能でスキャンして情報を伝える…おまけに自分が破壊されてもそのデータはこのエクィローのメインコンピューターへ送られフィードバックされたソーレンが再び調査を行う……」
「いやあこれを作った技師は大変良い仕事してますなぁ!」
と山坂は自身には存在しない豊かな顎鬚を撫でる様な仕草と、何かの審査員の様なポーズを取る。
「大分古いネタだねぇ……いや僕も好きだけど。」
「中島 誠之助だっけ? 2000年代に活躍した古美術鑑定家だったよね、確か」
「そうじゃなかったか? 興味ないから調べてないな、そういうネタの人って印象しかねえや。」
「そう……、そういえば田崎君は? ちょっと前から声が聞こえないけど」
「あぁ……あいつなら野球場の整備に行かせた。」
「何か野球がやりたくなってなー! 今回は魔族を殺せないし殺さないって言うから代わりに飛んでくる球を魔族の頭代わりとして殴ろうかと」
その発言を聞いた永村は、渋い顔をする。
「山坂君が魔族嫌いな理由は知ってるけど、そんなに恨みって持続するものなの?」
「私も魔族嫌いだけどそんなに恨みが続いてないんだよね」
「まあ性格の違いって奴だろ、僕は僕にやられたことは絶対に忘れない」
「根に持つ方なんでな」
「……その恨みでこの計画に志願して通過するってんだから大したもんだね」
「うむ、褒め言葉として受け取っておこう」
山坂はそう言うと、再び素振りの真似を始める。
「まあ一応褒め言葉になるのかな? んじゃ私も仕事に戻るとするかな」
「そろそろ大詰めだ」
永村はそう言うと、少し伸びをした後再びモニターに向き合い、微かに笑みを浮かべるのだった。
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先ほど会議をしてから一時間後……札幌テレビ塔内部では、芽衣子による女王覚醒の儀が執り行われようとしていた。
芽衣子はテレビ塔内部の開けた広場にて周囲を数人の巫女達に囲まれながら、神楽鈴と呼ばれる楽器を左手に持ち右手には扇子を持った状態で立っていた。
芽衣子の周囲を囲む巫女達は一人一人琴や小鼓、尺八等の和楽器を持ち芽衣子の指示を正座した状態で待っていた。
「……では、これより儀式を始める。」
「皆準備は良いか?」
芽衣子が周囲の巫女へ声を掛けると巫女は同時に頷き、それを確認した芽衣子は目を閉じると広げられた扇子をゆっくりと水平に体の正面へと持っていく。
その動作の最中ゆっくりと姿勢を低くしていき、体の目の前でゆっくりと扇子を閉じる。
そして芽衣子は扇子を床に置くと、巫女達が和楽器を奏で始める。
演奏が始まると芽衣子は左手に持つ神楽鈴を、頭上に掲げると神楽鈴を鳴らす。
シャンという音がテレビ塔内に響き渡ると芽衣子の肉体は舞いを続けながら、しかし意識は徐々に暗闇に飲まれていくの。
暫くして意識が暗闇に包まれて芽衣子は、ギチギチという音に気づき目を開く。
目を開いた芽衣子の先には芽衣子の3倍程、およそ5メートルはある巨大な蟻に気づく。
しかしその蟻は普段衛兵達が乗っているような蟻とは違い、玉座に腰掛けるような形で存在しており、大きさだけではない威圧感を放っていた。
また通常の蟻よりも、下半身の部分が肥大化しており時折脈打っていた。
「いつ見てもでかいのう、しかしこいつを起こすのは何年ぶりじゃったか」
「のう、蟻の女王よ」
しかし芽衣子の言葉に女王と言われた蟻は反応せず、眠っているかのように時折体の節々を鳴らすだけであった。
「では、起こすとするかの!」
「お主の子供達とお主の力、借り受けるぞ」
芽衣子は右手を女王蟻へ伸ばすと、再び目を閉じた。
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「太陽の槍/Sun Lance!」
ベルが放った輝く槍、白の魔術がゴーレムを貫き球体を破壊する。
「お見事…っとぉ!」
俺も負けじと、ゴーレムへ剣を突き立てる。
切っ先はゴーレムの球体へ流れるように突き刺さり、ゴーレムの機能が停止する。
先ほどは魔術が付与されていなかった俺の剣だが、ベルによって魔術を付与された今は格段に切れ味があがっていた。
俺はゴーレムへ突き刺した剣を引き抜くと、倒れていくゴーレムから離れベルと背中合わせの形を取り剣を構えた。
俺たちの周囲には破壊したゴーレムが3体、そして未だ動いているゴーレムが5体立っていた。
「くそ、いい加減心が折れそうだ」
「ベル士長、あんたは大丈夫か?」
俺は剣を構えたまま、後ろのベルに声を掛ける。
「だらしないですわよ! 私なら後20体位は倒せますわ!」
と気丈な声が聞こえてくる。
流石は東区の衛兵隊士長、一兵卒の俺なんかとは鍛え方が違うな……と少し自己嫌悪に陥る。
「アデルさん!」
そんな事を考えていた俺は、ベルの声で現実に引き戻される。
どうやら俺が考え事をしていた間にゴーレムが一体走りかかってきていたのだ。
俺はそれに気づくと逆袈裟に剣を振るいゴーレムへ切りかかる、剣はそのままゴーレムの体ごと球体を切り裂く。
「すまん、助かった!」
「全く、戦闘中に油断はいけませんわよ!」
「しかしそれにしても……一向に敵の数が減りませんわね。」
「おまけに味方とも出会えないと来た、いや近くには居るんだが合流させてくれないって言った方が正しいか?」
「ついでに俺へ常に魔術を掛けてくれてるあんたの負担も大分やばい」
「厳しい状況だなおい」
「そうですわね、せめて味方と合流すれば余裕も出来るのですけれど。」
そんな会話をしていると、残っていたゴーレムが同時に前へ踏み出す。
それを見た俺とベルは、会話を中断し剣を構える。
走りかかる、または飛び掛ってくるゴーレムどもにどう対処するか考えていた所…ゴーレム達の動きが止まる。
その言い方は正確ではない、どちらかというと動こうとしているが動けないように見える。
例えるならそう、泥沼に脚が嵌った人間の様に。
「……なんだぁ?」
俺がそう呟くと、バキン!という音が響き5体の内3体が前のめりに倒れる。
俺とベルは同時に驚き、ゴーレムを凝視した。
倒れたゴーレムは地面に埋め込んでいた足首から先が無くなっており、その後脚が埋め込まれていた部分から50センチ程の大きさの黒い物体がわらわらと沸き始める。
その黒い物体の群れは地面に倒れこんだゴーレムを包み込み、その群れが通り過ぎるとゴーレムは機能を停止していた。
群れはそのまま止まらず倒れこんでいない残りの二体へと向かっていき、そのゴーレムもまた機能を停止した。
未だ動き続ける黒い群れを凝視していた俺とベルは、同時に気づいた。
「……蟻だ。」
「……蟻ですわ。」
そう、黒い蟻の群れが突然地面から湧き出しゴーレム達を襲い始めたのだ。
周囲を見渡してみた所、どうやら他の地点でも同様に蟻が湧き出しているようで所々に黒い群れが見えた。
「あー……何だか知らんが兎に角助かったのか?」
俺はふー、と息を吐き剣を収める。
しかしベルは剣を収めず、蟻の群れを見つめていた。
「……おい、ベル士長?」
「……えぇ、そうですわね」
「恐らく助かったのでしょう、私達は」
と、ベルは何か含みを持たせるような言い方で俺に答える。
「……? まあとりあえず今のうちに南区でも東区のどっちでもいいから仲間と合流しようぜ」
「そうですわね、では行きましょうか」
俺はベルの言葉に少し疑問を持ちつつも、まずは仲間と合流することを優先しベルと共に仲間が大勢集まっている場所へ走り出した。
「……市長、女王を目覚めさせたのですね」
「そう……私達は、それほど追い込まれているということですのね」
ベルのその呟きは、俺には聞こえてこなかった。
暇つぶしで更新しているので投稿ペースは不定期で(ry
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