皆で話し合ったら
MD215年 5/5日 AM14:38
蟻の目を、体を通して感じた事が頭の中に入り込んでくる。
ある蟻は首を捻じ切られる最後の瞬間、ある蟻は目にゴーレムの腕を突きいれられる瞬間…。
芽衣子はこみ上げる嗚咽を堪えながら、蟻へ自らの意思を送り込み街中へ入り込んだゴーレムの掃討や、羽蟻から見えた情報を元に戦略を汲み上げていた。
芽衣子は札幌テレビ塔の1Fにて陣を構え、舞を踊っていた。
彼女の周囲には同じく巫女と思わしき女性達が和楽器を演奏しながら、霊力を高め芽衣子を補助していた。
ふと、芽衣子の舞の動きが徐々に遅くなっていき動きが止まる。
それと同時に和楽器の演奏も終わり、芽衣子は床に座り込む。
「芽衣子様!」
と複数の巫女が芽衣子へ駆け寄るが左手を前に出し、右手でこめかみを押さえながら立ち上がる。
「大丈夫じゃ……少々長く蟻と同調しすぎたわ」
「それよりもエンリコ、悪い知らせじゃ」
芽衣子は立ち上がると、各部署への連絡を行っていたエンリコへ声を掛けた。
エンリコは振り返り、手に持ったボードとペンを手に芽衣子へと近寄った。
「ゴーレムどもが増えた、今のところ総数としては南区に集めた衛兵達よりは少ないようじゃが…南区のゴーレムどもはあくまでも足止めが目的じゃろうな」
「敵の狙いは恐らく儂じゃろう、現状はその為の情報収集と行ったところかえ?」
「まあどうやって儂の事を突き止めるつもりなのかは聊か疑問じゃが……開戦時には儂は姿は見せておらんかったからの」
「それに関してですが少々お耳に入れたい事が」
エンリコは更に芽衣子へ近寄り、耳打ちした。
「実はゴーレムとの戦闘なのですが未だに死亡者が出ていません、負傷者は増えていますが……」
「衛兵達の大半がゴーレムに頭部に光を当てられた後に武器を破壊され逃走してきたというのです」
「恐らくですが、その頭部に当てた光か何かを利用して情報を得ようとしているのでは?」
「ふむ…光、か」
「確かに儂が先ほど助けたアレーラも頭部に光を当てられていたのう……ってそういえばアレーラは無事かえ?」
右手の指先を顎に当て考え込むように下を向いていた芽衣子は、思い出したかの様にエンリコにアレーラの安否を尋ねる。
「アレーラ…えぇ、先ほど蟻が運んできた女性ですね?」
「無事です、恐らく魔術の行使による精神的疲労と肉体的に与えられた負担で気絶しただけでしょう」
「それと一緒に居た少年も避難所へと送っておきました」
「うむ、ならば良かった、あの子にもし死なれたら儂はグロウラに顔向け出来んからのう」
「しかし参ったのー、ゴーレム連中が態々頭部に光を当てているということを物凄く都合の悪く解釈すると記憶か何かを盗み取っていると考えるのが妥当かの?」
「確か……黒の魔術にそういった呪文があったの? エンリコ」
「黒……そうですね、確かに記憶を盗むといった手法は黒や青が得意とするところです」
「しかし……」
と今度はエンリコが考え込む様に顔を俯ける。
「相手はゴーレムです、果たしてゴーレムに色が扱えるのでしょうか」
「色を使うゴーレム等は見たことも聞いた事もありません」
「とはいえ相手の言葉を信じるなら相手は最終戦争前の連中じゃ、儂等の知らぬ技術を持っていてもおかしくはあるまい?」
「…とりあえず今後について話し合わねばならぬな」
「この場所が割れるのは最早時間の問題と仮定して儂等の勝利条件をどう設定するかが問題じゃな」
芽衣子はそう言うと、エンリコの肩に手を置き近場の椅子へと歩み寄り座り込む。
「じゃが……まずは少し休むとするか……3分ほど休ませてくれんか。」
「……そうですね」
「すまない、あぁ君、芽衣子様にお茶と暖めた布を……うむ、頼むぞ」
「では私は各部署との連絡を行ってきますので、何かお決めになりましたら声をおかけください」
エンリコは芽衣子の疲れた顔を見て休憩を承諾し、近場に居た巫女へ指示を出すと再び。
少しして雪女の巫女……ガリアがお茶と暖められた布を持って現れた。
芽衣子はガリアから布を貰うと、目を瞑り頭を仰向けにすると布を目の部分に置く。
「あ”~……癒されるのう」
「……おぬしはどうじゃ? 斥候に出してから随分日が経ったが心の整理は出来たかの?」
顔に布を置いたまま、芽衣子はガリアへと話しかける。
「……!」
「お主とガラールの関係については、まあ奴の家族へ報告に行った部下から聞いた。」
芽衣子の言葉を聞き、ガリアは顔を俯け唇をかみ締める。
「……そうですか」
「あの人は、私達を助ける為に一人残りました」
「そして私達が持ち帰った情報が今助けになっているのも知っています」
「けれど……私のこの気持ちはどうすればよいのか、それがまだ分からないんです」
「ふむ…そうか、まだ気持ちの整理はつかぬか」
「いや、よいよい、大切な者の死と向き合うのはとても大変な事じゃからな」
芽衣子はそう言うと顔を元の位置に戻し、両腕を伸ばし椅子から立ち上がるとガリアが持っていたお茶を受け取り飲み干す。
「うむ、下がってよいぞ」
「お主が今後どう気持ちに折り合いを付けるかは分からぬが……まずはそれが出来るようにこの街を守らねばならんの!」
「もう一頑張りと行くか!」
そして湯飲みを椅子へ置くと、巨大な会議机へと向かっていくのだった。
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MD215年 5/5日 AM14:58
20分後、札幌テレビ塔下部の陣地には中央区衛兵士長であるリザードマンのヴィーアと西区衛兵副士長である猫の魔族、レオニンのニーリィ、北区衛兵副士長のサイの魔族であるロウクスのテラン。
更に東区副士長である人間のサッフィー、そして芽衣子の秘書であるエンリコの5名が芽衣子と共に居た。
五人は巨大な会議机に座っており、芽衣子の説明を聞き終わったところだった。
「と、言うわけで以上が儂等の最終目標じゃ。各々何か質問は?」
と芽衣子が全員に質問があるかと問うと、ヴィーアが手を上げた。
「お、何か質問かえ? よいよい言うてみぃ。」
芽衣子がそう言うとヴィーアは立ち上がり、芽衣子に発言した。
「……芽衣子様、本当に正気ですか?勝てないからせめてあの巨大なワームに挑んで負けよう等と!」
ヴィーアの口調は穏やかだったが、確かな怒気が含まれており、芽衣子の作戦に不服であることは明白だった。
「……うむ、現状打てる手がこれしかない以上仕方あるまい?」
「儂等は恐らく負ける」
「敵は何時何処にでもゴーレムを転送させる事が可能で疲れを知らぬ」
「おまけに規模も不明じゃ、見せ掛けの数は儂等より少ないが倒せば倒すだけ増援が増えておる」
「それに街の中にも既に結構な数のゴーレムが進入してきておる」
「この状況を覆す一手が正直思いつかなくての」
「……蟻の休眠を解いたと聞きましたが、それでは兵数が足りないのですか?」
「そりゃあ蟻の休眠は解いたがの……さっきも言ったじゃろ?倒せば倒すだけ増援が増える。」
「それとも相手のゴーレムの数がこちらの蟻や兵士の合計よりも少ない事を祈って戦い続けると?」
「市長としてそんな判断は下せぬ、そもそも相手はこっちを殺す気が無いんじゃ」
「完全に勝てると踏んだ上でこっちを舐めて掛かってきとるんじゃよ」
芽衣子はやれやれと言った表情で、机に置かれたお茶を飲み干す。
「しかしじゃ、奴等が儂等を舐めているという点に関してのみ勝機がある」
「勝機というよりは隙じゃが」
「これは儂の予想じゃが奴等の目的は儂の身柄の確保、そして儂による戦闘の終了を告げさせることじゃ」
「つまり言い換えると、儂が捕まるまでは儂等は儂等の誇りの為に戦う事が出来る」
「あのワームを倒すというのはな、何も負けが確定したからやる自棄ではない」
「仮に負けるとしても儂等はただ負けたのではない、一矢報いたのだという証が欲しいんじゃよ」
「儂等は最終戦争前の兵器にも勝てるのだ、と」
「その証があれば、負けた後に奴等に言い様に使われるとしても儂等は何時か反撃する事が出来るかもしれん」
芽衣子は其処まで言うと、控えていた巫女にお茶を注がせる。
「……とはいえ負け前提の玉砕攻撃であることに違いは無い」
「正直犠牲が出るとも思うておるしこのまま降伏して講和した方がマシかな~と思うのも事実じゃ」
「よって決を取りたい」
「南区の士長級が居ないので若干しこりが残るかもしれぬが有事故仕方のないこと」
「あ、それとヴィーア、お主もう座ってよいぞ?」
「…はっ」
巫女がお茶を注ぎ終えると、湯飲みからお茶をゆっくりと飲み、芽衣子が言う。
芽衣子の言葉に、立ったままだったヴィーアは着席し芽衣子の次の言葉を待つ。
「ではまず一つ目の選択肢について説明するぞ。これは今すぐ此処で降伏し講和を行う事」
「これの利点はこれ以上物的被害が出ないことじゃな。金銭的にとても助かる」
「欠点としては儂等の誇りとかは残らない上に今持って現地で戦ってる者達にも示しが付かぬがな」
「二つ目、降伏を行わず敵の鼻っ柱をへし折ってやる事」
「これの物的利点は特に無い、まあ強いて言うなら負けても儂等は誇り高く負けられるということじゃ」
「後はまあ南区の者達もこの負け方なら納得して負けられるじゃろう、戦って負けたというのであればな」
「そしてこれの欠点じゃが……」
芽衣子は会議机に座る全員の顔を見る。
「恐らく死者が出る、戦闘してるんだから何をと言うやもしれぬが冗談ではなく本気の話じゃ」
「相手は確実に勝てると踏んでこの戦いを挑んできている、それがもし自分達に少しでも届きうると感じればどの様な手段を取るか皆目検討も付かん」
「下手をすればこの街に住む全員が殺される可能性もある」
「……少なくとも相手には好戦的な者も居るようだしの?」
と芽衣子は開戦前に聞いた、山坂の声を思い出す。
「と、ここまで説明した上で決を採ろうかの」
「出来れば考える時間が欲しいじゃろうがもう時間が無い、1番目の案を取るにしろ何にしろこれ以上の時間の浪費は良くないことしか起こすまい」
「……では決を採る、案に賛成の者は挙手を頼むぞ」
「一番目の案に賛成の者」
芽衣子の問いかけに手を上げたのは、東区副士長のサッフィーと秘書のエンリコだった。
「ふむ、なるほどの」
「因みに此処の選択は今後の査定等には響かぬ故安心するがよい」
「まあ全員殺されたら査定も何もあったもんじゃないんじゃがな!」
と芽衣子が笑えない冗談を飛ばし、場が沈黙に包まれた所で二つ目の案を提案する。
「……ごほん、では二つ目の案に賛成の者は?」
この芽衣子の問いかけに手を上げたのは中央区衛兵士長のヴィーアと西区副市長のニーリィ、そして北区副士長のテラン。
そして市長の芽衣子だった。
「うーむ、見事に武闘派が手を上げたもんじゃな」
「とかいう市長も手上げてるじゃないですか」
「ぬふふふ、まあのー、負けるにしてもただ負けるというのはな」
「儂等が正しいかは分からぬが、少なくともこんなやり方に何もせずに屈するのは腹の虫が収まらんわ」
ニーリィが言い、芽衣子が笑う。
「……では、答えは決まった!」
「これより女王覚醒の儀を執り行い、千年前の連中の鼻っ柱をへし折る!」
「北区、東区、西区の守備隊は守備を放棄し中央区に集合じゃ! 中央区守備隊は守備範囲を徐々に縮小しこのテレビ塔…もとい儂を守るのじゃ!」
「守備範囲を縮小する際は敵に気取られぬ様にな!」
「……では、一時解散! 準備が出来次第再び此処に集合せよ!」
市長が立ち上がり右手を振り前に突き出すと会議に集まっていた全員が立ち上がり答える。
「「「「「了解!」」」」」
かくして、サツホロ防衛戦は一転して攻撃戦になる。
彼等の誇りを賭けて。
暇つぶしに書いているので更新ペースは不定期で(ry
次:戦う理由を見つけたら投稿します




