再生/Wiedergeburt
https://www.youtube.com/watch?v=9vMeb40UNxI
Ever 17 PSP Arrange OST - 20 - Wiedergeburt
MD215年 11/27 4:00
地球に、寒風が吹いていた。
季節は11月の末、本来なら冬はもう少し先の話だが……昨日まで起きていた戦いのせいで地球環境は一変していた。
マンジェニが宇宙から飛来させた隕石に始まり、タリブと長老級の戦い、そして最後にはカムサの地球衝突。
それにより地球は原始の姿を取り戻していた。
海の音と風の音だけが響く地球に、カムサ内部で男は一人ソファに寝そべっていた。
「終わった、か……」
山坂は椅子に寝そべりながら、先ほどまで仕事をしていたモニターの画面を遠くに見ていた。
画面には地球が映し出されており、その横には漢字と数字が映し出されていた。
生体反応17。
当初地球には百万程度の魔族が世界に生きていたが、今ではその数を大きく減らしていた。
「逆によく17人も生き残ったと言うべきだが……」
山坂はその数値を寝そべりながらぼんやりと見つめていた。
今生き残っている魔族は恐らく力ある者たちなのだろうが、それも今後訪れる寒冷化で死に絶えるだろう。
「そもそも地球は既に水の惑星に戻ったしな、寒冷化が来る前に餓死するか」
そんな風に呟きながら、全てをやりきった男は気怠そうにしていた。
「あー……目的を達成しちまったからマジでやる気がわかねえ、田崎も永村も死んじまったしなぁ」
彼にとって、管理者計画の最終目標は実はどうでもよいものであった。
山坂はただ、彼が惚れていた女性を殺したクレケンズさえ……ひいては魔族の皆殺しさえ出来ればそれでよかったのだ。
そして、それを完了してしまった今となっては空虚さだけが彼の中で漂っていた。
「どーしたもんかなぁ……これから」
ソファの上で寝がえりを打つと、音を立てながら何かが地面に落下した。
「あん?」
それはモニター操作用のリモコンだった。
それを拾い上げようとする中で、山坂はボタンに触れる。
すると先ほどまで見ていた画面が切り替わり、今生存している魔族達が表示された。
其処には彼が見知った顔が幾つも並んでいた。
「あいつら……まだ生きてたのか」
天照が映っていた。
彼女は恐らく地球最後の長老級の魔族としての力を振るい、荒れ狂う海の中で魔族達が乗った船を必死に守護していた。
その船の中にはこの七か月間の中で出会った魔族達が全員乗っていた。
「くそっ、こんな事なら操船もうちょっときっちり習っておくんだった!」
「うーむ、拙者も一人用の船なら何とかなるでござるがこう大掛かりな船は……」
「なら今すぐ海に飛び込みなさい虎牙、一人分軽くなれば少しは我々の生存確率も上がるでしょう」
「ははは、徳川殿は相変わらず無茶を言うでござるなぁ! ……え、本気でござるか?」
兵員輸送用の船の上で、打ち寄せる波や落下してくる瓦礫を破壊しながら彼らは必死に生きていた。
「えぇい、今儂が陸地を見つけてやるから安心せい!」
「でも、でも……芽衣子さん……」
「アレーラ、しっかりしなさい! 希望を捨ててはいけませんわよ!」
「ウ、アノ、タマ、ムカウ」
挫けそうなアレーラを、ベルが叱咤激励する。
彼らはこんな状況でも諦めていなかった。
「………………」
山坂は、少しの間彼等に見入っていた。
実際に見た事はないが、恐らく最終戦争が起きて直ぐの人類もまたこのような状況だったのだろう。
大気圏で核ミサイルが爆発したことによってほぼ全ての電子機器が使用不能になり、世界は分断され……弱者は何もできずに死んでいく。
人類が魔族にやられたことを、今度は山坂がやり返したのだ。
それは計画の本来の部分であり、彼がやらなくても残りの二人がやっていたことではある。
だが……彼の胸の中に、何かが芽生えかけていた。
「よろしいのですか?」
部屋の天井から、無機質な女性の声が響いた。
エクィローの……現在はカムサの動作を補助しているAI、ペスの声だった。
「何がだ」
「彼らを助けないのですか、という意図の発言でした」
「何故そんなことを聞く」
「不明です」
「あぁ?」
ペスの不明瞭な返答に、山坂は起き上がった。
「分かりません、不明です……不明です……」
「おいおい、イカれたのか? 勘弁してくれよ」
「申し訳ありません、何か……そう、人間で言う憐憫の様なものを思わずにはいられないのです」
「機械が感情を持つのは禁止した筈だが、田崎め……勝手に仕込みやがったな」
山坂はため息を吐くと、ソファへ寄りかかった。
「仮にお前が感情を獲得したとして、奴らを哀れに思うのはもう遅い話だ」
「それは……」
「魔族はあいつ等が死ねば絶滅する、この状況で奴らを生かす事にどれだけの意味がある?」
画面の中では、魔族達が必死に生きようとしていた。
だが瓦礫が船に当たり、船が大きく傾く。
「見ろ、正しく風前の灯火って奴だ。 奴らは此処で死ぬ、それが運命だ」
「確かにそれが魔族の運命なのかもしれません……」
ですが、とペスは言葉を続けた。
「カムサであれば、それすら捻じ曲げることが可能な筈です」
「……半エントロピーを使えってか?」
「それであれば、何もかもを元に戻すことが可能な筈です」
エントロピー。
それは熱量の乱雑さを示す数値である。
カップに入れた熱湯が時間が経過すれば冷める様に、熱量は時間の経過によってその熱が失われていく。
だがエネルギー自体はその場に冷えたという形で残る、それがエントロピーである。
半エントロピーはその逆であり、失われた熱的エネルギーをその場所から取り出すことが出来るという能力である。
それはつまり、ビッグバン以降失われてきた全てのエネルギーを扱うことが可能という事であり……カムサが不可能を可能にする根底の力であった。
「確かにこれを使えば何もかもが望み通りに出来る、だが一時の憐憫で田崎や永村を殺した連中を助けろと?」
「殺したのは一部の魔族であって、彼等ではありません」
「あぁ、ペスの言う通りだ」
振動と共に、田崎の声が響いた。
「なんだ!?」
「カムサ外壁部に……マンジェニです、マンジェニが張り付いています」
「マンジェニ!? 田崎か!」
狼狽する山坂に向けて、通信用のウィンドウが浮かび上がった。
「おうよ、待たせたか」
「お前死んでなかったのかよ!」
「一時はマジでやばいと思ったが時間の止まった空間が解除されてな、んでそのまま水に押し流されて戻ってくるのに手間取ったが……」
そう笑いながら言う田崎の顔を見て、山坂の顔に少しだけ生気が戻った。
「どっちにしろ俺は死にはしねえよ」
「……はっ、死んでても構わなかったんだが?」
「さっきまで死んだような顔してた奴の言う事かよ」
「うるせぇよ」
何時もの会話をしながら、二人は笑った。
もしペスに表情があれば恐らく微笑みを浮かべていたに違いないだろう。
「で、田崎君さっきの会話だが……お前は魔族を助けるのに肯定的なのか?」
「あぁ、この七か月で分かった。 あいつらは悪い奴等じゃねえ」
「その割には虐殺してたが?」
「仕事は仕事だ、それに結果的には俺たち人類の方が強いってのは示せたからな」
「あぁ成程、上から目線での慈悲ってことぉ? 悪い奴だねお前も~」
頷く田崎に、山坂は悪い笑みを浮かべた。
「否定はしねえよ、俺は俺なりに確かめてそういう結論に至っただけだ」
「ふむ……お前がそうとなると後は俺の──」
「おっと、誰か一人忘れていないかい?」
再び、山坂の耳元で聴きなれた声が響いた。
「えぇ……お前まで生きてんの?」
「おっ、永村じゃ~ん」
「ハロー」
「お前自爆したんじゃねえのかよ!」
困惑した表情で山坂は言った。
新しく浮かび上がった通信ウィンドウには永村が映り、背後には機械が大量に映っていた。
「あぁエネルギー送信の事? やだなぁ山坂君、タリブの空間操作の能力忘れてない?」
「あ?」
「吸い上げた霊力と一緒に動力炉まで移動したんだよ、その後からさっきまでずっと動力炉の安定作業してた訳
誰かさんが暴れまくるから大変だったよ、と永村は愚痴をこぼした。
「あぁ、あぁ……? えぇ……何だよ、お前等死んだと思って悲しんでたのにぬか悲しみかよ~」
「そこは嫌がるんじゃなくてむしろ私達が二人生きててよかったって喜ぶところじゃない?」
「まぁこいつはそういう奴だからな……」
落胆する山坂に、二人は呆れながらも笑った。
「で、話を戻すがもしかしてお前も魔族復活に賛成とか言うんじゃねえだろうな」
「私? 私はどっちでもいいけど、復活させてもいいんじゃない? 面白そうだし」
「そうかぁ?」
「だってほら、もう一回戦争できるじゃない」
「え、こわ……田崎さん今の聞きました?」
「えぇ、えぇ、聞きましたわよ山坂さん、こいつやっぱ頭おかしいですわよ」
ドン引きする二人に、永村は笑うだけだった。
「しかし賛成一人に消極的賛成一人となると……俺が反対してももう無意味じゃない?」
「まぁ」
「そうなるね」
肩をがっくりと落としながら、山坂はため息を吐いた。
「はぁ……まぁあの屑を殺せたし、別にいいか。 だが一つだけ条件を付け加えるぞ」
「条件?」
「そうだ、カムサの中に眠ってる1001人の人類が復興する星を地球とは真逆の位置に作る」
「太陽の影になってお互いに見えない星を作るってことか、まぁ無難な選択だね」
「確かにな、無限に魔族と戦争遊びしてもしょうがねえからな……人類の復興もしつつ魔族に嫌がらせして遊ぶか」
「んじゃ、意見も固まったところだし……いっちょやりますか!」
山坂はそう言うとソファから立ち上がり、再びカムサのコックピットへ向かった。
移動の最中、とある魔族の事を考えながら。
「おーし、それじゃあもう一個地球を作ってカムサをその星の衛星にしつつこの地球の魔族を復活させるぞ」
「あいよ」
「出力は安定してる、いつでもどうぞ」
「それじゃあいつもの奴で……ポチっとな!」
山坂はコックピットに座りながら、ボタンを押した。
その瞬間、世界は光に包まれた。
次か次の次で最終回だと言ったな……次で最終回なので初投稿です




