過去を暴露されたら
MD215年 11/26 08:34
あちこちで爆発音がしていた。
中国の各地で戦闘が発生し、魔術による破壊音であることを男は理解していた。
クレケンズ、魔族の長老級にして現在何故か動かない黄龍に代わって指揮をする男。
彼は現在目の前に立つ二体の神を前に思案していた。
「グラーバが死にましたか……」
神の一体を相手に善戦していた同じ長老級だったミノタウロスのグラーバ。
彼は防戦一方だった神に最終的に自らの力の源を蹂躙され、最後には塵にされた。
「まさしく勝負に勝って試合に負けた訳ですね」
神の掌から散っていく塵を遠巻きに見ながら、クレケンズはモノクルを上げた。
中国とオーストラリアの距離はおよそ7500キロ程離れている。
当初、マンジェニをクレケンズが見た時はそこまで足の触手が伸びるとは思ってもいなかった事を彼は反省した。
「見た目に惑わされてはいけないということですね……むっ?」
ゆっくりと起き上がるマンジェニを見ていたクレケンズへ無数の眷属が向かっていた。
それらは黒い波の様に地上や空中を埋め尽くし、無事な所が3割、眷属が7割と言った具合だった。
「雲霞の如くとはこのことですね」
やれやれと溜息を吐くと、クレケンズは右足で地面を軽く二度叩いた。
するとクレケンズの頭上の天気が一変し、一気に周囲は薄暗くなる。
雷雲が轟き、空は恐るべき力で彼に答えた。
「放射稲妻/Radiating Lightning」
一筋の巨大な稲妻が雷雲から放たれた。
稲妻はまず戦闘を飛んでいた一匹を焼き焦がすと、あっという間にそのまま後続の眷属達を全て焼き殺した。
「密集のし過ぎは感心しませんね」
そう言って、クレケンズは首を鳴らした。
「それとも私程度にはあれで十分だと見くびられているんですかね?」
クレケンズは言葉を続けた。
「だとしたら……少々不愉快ですね」
モノクルの奥の目つきが鋭くなり、今度はマンジェニに向かって稲妻を放った。
稲妻は直ぐに神に着弾し、一瞬だが神の装甲を赤熱させた。
「ぐわーっ! てめぇ、何しやがる!」
稲妻が落ちた直後に、マンジェニから若干痺れた感じの悲鳴が上がった。
「いやいやすまない、ちょっと君の硬さを確かめたくてね」
「ふざけやがって……ぶっ殺してやる!」
「はははは、中々良いリアクションだね田崎君」
「そりゃどうもクソ野郎」
「ふふっ、しかし君達も本当にしつこいねぇ……千年前に僕たちに負けたのがそんなに気に入らないのかい?」
クレケンズは笑いながら言うと、両腕を組んだ。
「一つの種族の中から進化する者としない者が現れ、結果として我々が勝利した……それが不服で今も争うなんて馬鹿らしいとは思わないのかい?」
「思わんな、お前のその台詞は勝者の側だから言えることだ。 敗者になった側から言える言葉じゃあない」
「ははは、確かにそうかもしれないね」
うんうんと頷くと、クレケンズは眼光鋭く言葉を続けた。
「だがそんなものはもう議論しても仕方がないことだ、結果を真摯に受け止めて欲しい」
「断る、お前たちが起こした事を俺は絶対に許さねぇ」
「あぁ……そういえば君の家族は魔族のテロで死んだんだったっけ、いや実にざんね────おや?」
テロという単語が出た瞬間、田崎は動いていた。
マンジェニが大地を蹴り、クレケンズとの間にあった数キロの距離を一瞬で詰めて飛び掛かっていた。
「てめぇーーー!!」
恐らく、その速度は音速を超えていただろう。
凄まじい速度のままマンジェニはクレケンズへ向け、拳を放った。
「まぁまぁ、落ち着いてほしいな田崎君」
確実に直撃し、クレケンズを粉微塵にすると思われていたその拳は……。
クレケンズは右手で止めていた。
「君のご家族に関しては本当に不幸な出来事だったと思う、心から謝罪しよう」
そして、笑顔で言った。
「だが今の時代を築くための必要な犠牲だったんだ、笑って許してくれないかい?」
プツンと、田崎の中で何かが切れた。
マンジェニはクレケンズに止められている腕を一度戻すと、直ぐに両手で彼を挟み込んだ。
だがクレケンズは潰れず、両手を使いマンジェニの腕を止めていた。
「人を怒らせるのが得意な様だが……怒らせた後はどうなるか分かってるんだろうなぁ!」
「そう言って僕に襲い掛かってきた相手を僕はもう何度も殺してきたんだよ」
「そうかい!」
マンジェニは更に力を籠め、徐々にクレケンズを押しつぶしていく。
「おっと、これは……」
「潰れて死にやがれ!」
最後には破裂音と共に、神は合掌の手をしていた。
だが田崎は手を開くと直ぐにマンジェニを後方へ飛び退かせた。
「ははっ、良い勘をしているじゃないか」
直後、先ほどまでマンジェニが居た位置に巨大な隕石が落下した。
それは万里の長城を根こそぎ薙ぎ払い、地形を一変させた。
「ワープか……これだから魔法は嫌いなんだ」
「自分が出来ないからって嫉妬するのはみっともないよ田崎君、この力こそ我々魔族が人類を超えた証なのだからね」
「超えた? 人間を辞めたの間違いだろう、それが人類と言えるのか?」
「それは君たちも同じことだろう、管理者の諸君? 不老の人間は人間と言えるのかい?」
「俺たちは人類の為に人間を辞めたんだ、お前達みたいに勝手に変化したわけじゃねえ」
隕石が落下した跡地で、クレケンズは空中に浮かんでいた。
先ほどと変わらぬ格好で、服の埃を手で払いながら。
「だが僕たちと同じ人外であることを否定できないだろう? 人間でない存在が人間を導くことの矛盾に気づいているのかい」
「人間であるかは精神性の話なんだよ、精神ごとねじくれたお前等には分からないだろうがな」
「なるほど、そうやって君たちは精神の安定を図っているという訳だ」
埃を払い終わると、クレケンズはところでと言葉を続けた。
「君以外の他の二人は何をしているんだい? 中国に来てから一人はずっと固まったままだけど」
クレケンズはそう言うと、マンジェニの奥に居るタリブを指さした。
その特性からか常に蜃気楼のように霞んで見えるそれは、中国に現れた時と同じ格好のまま立っているのみであった。
「それに山坂君も居ないようだけれど……何を企んでいるのかな?」
「答える必要は無いな」
「今口を割っておいた方が、辛い時間が減る事になる」
「ホモストーカーに、ストーカー相手の事教える訳ねえだろうボケが」
「…………中々の煽りだ、学習したじゃないか」
クレケンズはそう言うと、一度両手を合わせると直ぐにそれを開いた。
腕を広げていく最中、手と手の間には複雑な文様が浮かび上がっていた。
「君の殺し方は窒息死にすることに決めたよ」
「はっ、図星を突かれて切れるのはみっともないぜホモストーカー!」
マンジェニとクレケンズ。
長老級との第二ラウンドが今、始まった。
珍しく前書きに曲が無いので初投稿です
放射稲妻/Radiating Lightning ③R
インスタント
プレイヤー一人を対象とする、そのプレイヤーに三点のダメージを与える。
その後そのプレイヤーがコントロールするクリーチャー全てに1点のダメージを与える。
「クレケンズに襲い掛かった眷属達は、密集しすぎるとまずいという事を学習した。」




