久しぶりの出番があったら
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Law Theme Compilation - Shin Megami Tensei Series
MD215年 11/26 08:25
遠くで、地鳴りがあった。
その数秒後、私達が居る場所まで大きな揺れが起きた。
「くっ……テイノス、報告を!」
揺れの中で体勢を崩し、地面に手と膝をついた状態で少し高い位置で監視を行っていたエイヴンのテイノスに声を上げた。
「巨人が何者かの攻撃で地面に転倒した様です!」
「転倒!? あの大きさの怪物を倒す様な相手が居るというんですの……?」
「不明です、巨大な腕の様なものが殴り倒しているのは見えましたが──ベル隊長、左!」
「しまっ──」
テイノスの言葉に気を取られて、眼前に居た敵の事を一瞬忘れていた。
その報いの刃が逸らしていた視線の逆方向から降りかかった。
「あぐっ!」
棒か何かで視界の外から殴られ、私は固い地面の上に倒れこんだ。
顔を上げ、そちらを見た時に私の目に移りこんだのは銀色に輝く刃の切っ先だった。
「死ね!」
その刃を突き付けていた兵士がそう言うと、私へそれを振り下ろそうとした。
「させるものか!」
だが上空から光の鞭が兵士へ絡みついた。
先ほど話していたテイノスの魔術だった。
「────1つ借りが出来ましたわね! てやぁ!」
動きが封じられた兵士の心臓へレイピアを深く突き刺し、相手の腹部を蹴って引き抜いた。
心臓へ突き入れられた瞬間兵士は驚いたような顔をし、そして直ぐに苦悶の表情を浮かべながら地面へ倒れた。
「助かりましたわテイノス!」
「礼にはおよびません、しかし……」
テイノスは地上へ降り立つと私へ手を伸ばしながら周囲を見回した。
「えぇ、大分進んできたとは思いましたけれどかなり被害が出ていますわね……」
彼の手を取り立ち上がると、私も周囲を見た。
惨憺たる状況になりつつあった。
当初、闇夜に紛れて巨人達よりも早くこの国に潜入していた私達はその当初の人数から大幅に減り現在は15名ほどしか残っていなかった。
「マロー衛生兵、負傷者の容体はどうですの?」
先ほど倒した兵士が襲い掛かってきた最後だったのか、戦闘が終わり負傷者の治療に入っていた癒し手のマローに声を掛けた。
マローは芳しくなさそうな表情を浮かべながら顔を横に振った。
「良くありません、ひっきりなしに敵が襲ってくるような状況では落ち着いて治療も出来ませんよ!」
「……そうですわね、何か考えますわ。 あなたは引き続き治療の継続をお願いいたしますわ」
珍しくマローの声が怒気を含んでいた。
いや、それも当然だとは思う。
当初は50人で編成されていた部隊もその半数以上が居なくなってしまったのだから当然だろう。
「ベル隊長、大丈夫ですか?」
これからの事を考えていた私を心配して、テイノスが声を掛けてきてくれた。
その気遣いにこんな状況でも嬉しくなり、彼に笑顔を向けた。
「えぇ、大丈夫ですわ、ありがとうテイノス」
「なら良かったです、しかしこれからどうしますか? 撤退も視野に……」
「その選択肢を選ぶならもっと前にしておくべきですわね、それに戻ったところで私達の命はありませんわよ」
「それは……」
テイノスの顔が歪んだ。
そう、私達は退く訳にはいかない。
道中で亡くなった仲間達の為にも、何より目的を達成できなかった場合の事を考えると。
この国にはかなりの数の部隊が投入されているが……その投入前に言われた言葉を思い出す。
「爆弾を内蔵したこいつ等を目的地まで連れて行くのがお前たちの役割だが、もしそれが達成できずに撤退してきた場合はお前達の命は無い」
「全く、今思い出しても腹立たしいですわね!」
その言葉を思い出し、思わず苛立ちで足元の小枝を踏み負った。
それにテイノスは驚き、少し後ずさった。
「た、隊長?」
「…………言ってもしょうがないことしたわ、忘れてちょうだいテイノス」
「は……はっ!」
「一度休憩にしますわ、見張りを立てながら各自休憩を取ってちょうだい、私は荷物を見てきます」
「了解!」
手と一体化した翼をはためかせ、テイノスは飛び上がると生き残りの兵士達の元へ飛んで行った。
私は負傷した兵士たちの間を縫い、目的の場所まで進んだ。
「掠り傷の一つ位はあるかと思いましたが……思いの外頑丈ですわね?」
「──────」
顔のない怪物は左右に二本ずつ生えた触手を動かしながら、胸に埋め込まれた球体を光らせた。
その得体の知れなさと生理的に嫌悪感を催す姿に、私は少し目を逸らした。
今私の目の前に立つ怪物こそ、私達が目的地まで運ぶ荷物であり爆弾である。
これを指定された場所まで護衛し、戻るまでが任務だ。
「……しかし、これだけ強い怪物を私達が護衛する意味なんてあるのかしら」
率直な疑問だった。
これまでに既に三度の襲撃を受けているが、この怪物は攻撃を受けても物ともせずに反撃し敵を消滅させていた。
恐らく一人で進ませても不慮の事故さえ無ければ問題なく目的地まで辿り着くであろうそれを護衛する意味を、私は見いだせずに居た。
「……もし、……えるか?」
「あら?」
何処からか男性の声が聞こえてきた。
「もしもし……えてるか」
「この声は……アデルさん?」
胸元にしまっていた通信用のヘイドロンを取り出し、呼びかけに返事をした。
「もしもし、こちら第九十九部隊のベルですわ」
「お、無事だったかベル!」
「無事、とは言い難いですわね……私はまだ無事ですが部隊はかなりの被害を受けていますわ」
「……そうか、だがベルが無事で良かったよ。 こっちは今荷物を送り届けたところなんだが、そっちの近くに居るから助けに行こうと思ってな」
「あら、単に私に会いたいだけではなくってアデルさん?」
「それもある」
「あ、あら……」
思わず赤面してしまった。
もう、どうしてこう人の心の中をかき乱すのかしらこの人は……。
「という訳でアレーラと一緒に助けに行こうと思うんだが、大丈夫か?」
「えぇ、正直助かりますわ……お願いしても?」
「されるまでもないさ、今向かうから待っててくれ」
アデルさんの声が途切れた途端に、私は安堵の息を吐いた。
張りつめていた緊張がほんの少しだけ和らいだ、そんな気がしていた。
「ベルさーん!」
「アレーラさん」
一時間後、敵の襲撃も無いまま私達は合流することが出来た。
アデルさんの部隊は殆ど負傷者も居らず、こちらの負傷者の治療を手伝ってくれた。
少しだけ彼の指揮官としての才能に嫉妬し、私の不甲斐なさを情けなく思った。
「無事で良かったです、ベルさん」
アデルさんの部隊が到着した後、最初に私の所へ来たのはアレーラさんだった。
栗色の淡い長髪を揺らしながら、所々に擦り傷を作って。
「貴女も無事で何よりですわアレーラさん、本当に良かったですわ」
「はい、アデルさんが守ってくれたので……」
そう言うアレーラの顔はほんのりと赤い。
あの人……また無自覚女たらしムーヴをしましたわね?
「そうですの、ふ~ん……」
「あの、ベルさん?」
「いえいえ私は全く気にしておりませんわよ?」
「こ、怖いです……」
怯えるアレーラを余所に、空気を読まずに燃えるような赤髪をした元凶が向かってきた。
「あらアデルさん、お久しぶりですわね」
「お、おう……え、なんで怒ってるんだ?」
「別に怒ってませんわよ? オホホホホホ」
「え、怖い……」
「と冗談はここまでにして、来てくれて助かりましたわ」
そう言ってアデルさんへ右手を差し出す。
彼もまたそれを見て直ぐに握り返してくれた。
正直本当にありがたかった、もし彼等が合流してくれなければ先ほどの人数であと数キロの行軍を余儀なくされるところだったのだから。
そうすれば恐らくは全滅していただろうことは想像に難くなかった。
「お安い御用だ、助けられる命があるなら見捨てられないからな」
「ありがとうございます、本当に……」
「あと少しだ、お互い頑張ろうぜ」
アデルさんが私の肩へ手を置きそう言った。
私はそれに頷くと休んでいる部隊へ向けて声を上げた。
「さぁ、あと少しですわ! 皆さん行きますわよ!」
「おぉ!!」
部隊の皆も援軍に力を貰ったのか、先ほどまで落ち込んでいた士気も回復し立ち上がった。
援軍の存在はやはり有難いものだ。
何より、出会った当初からは考えられない程の成長を見せたこの男性は正しく今の軍の支柱となりつつあった。
「ふふっ」
「どうかしたか?」
「いいえ、何でもありませんわ」
そんな最初の彼を知っている嬉しさからか、思わず笑みが零れた。
この時はまだ、笑っていられる余裕があったのだと思う。
この後……荷物を置いて戻った後に起きる出来事の事を考えれば。
カリオストロの城を見終わった後なので初投稿です
ABEMAはとんでもない物を奪っていきました。
私の執筆時間です。
いつものこと
㌧
連結用ヘイドロン ①
アーティファクト
これが場に出た時、あなたはあなたのライブラリーにある連結用ヘイドロンというカードを何枚でも手札に加えても良い。
その後あなたのライブラリーをシャッフルする。
「管理者たちが来たことであらゆる物事が変化したが、これはその最たるものだろう。 これによって伝令を用いることなく情報や位置のやり取りができるようになったのだ」
────サツホロの軍略家、サーゲイ




