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人類ガバガバ保護記   作者: にっしー
中国編
198/207

五分と五分になったら

https://www.youtube.com/watch?v=7U-uWLDRT7c

Ys Seven OST - Vacant Interference

MD215年 11/26 08:21


「さて、これでイーブンだね」


 にっこりと笑みを浮かべたクレケンズが、相対する巨人達へと問いかけを放った。

 彼が立つ万里の長城の下には自らが呼び出した中国の魔族達が大挙している。

 皆一様に不思議そうなどよめきを上げているがクレケンズはそんなことはお構いなしと言った態度であった。


「ガハハハ! 何も相手の出方を待たずとも一気呵成に殴り飛ばしてしまえばよい!」


「おや、我慢できないかいグラーバ?」


「おうさ、久しぶりに殴り甲斐のありそうな獲物も居るしのう!」


 グラーバは首を鳴らしながら、先ほど自らの頭部を不意打ちでかみ砕いた相手──マンジェニを見ながら楽しそうに言った。


「千年前の巨兵ハルク共よりも楽しめそうだのう! 滾ってきたわ!」


「それはそれは……では、今度は油断しないでくださいね?」


「おうさぁ!」


 グラーバは叫ぶと、そのまま地面を蹴って宙へと跳ね上がった。

 大きく飛び上がるとそのまま数百メートル先の地上へと着地し、地上の兵士達を跳ね飛ばしながら勢い良く走ってゆく。


「退け退けぇぇ! ワシの前進を阻む相手は怪我ではすまんぞぉ!」


 管理者達との間に居る魔族の兵士達を蹴散らしながら、鋼鉄の肉体で構成された弾丸列車が走ってゆく。

 その光景を田崎が見たのか、マンジェニの足を構成する触手が反応した。


「むぅっ!」


 一本が数十メートルを超えるであろう巨大な触手が地下の岩盤を貫きながらグラーバへ向け襲い掛かった。

 地下から突如出現したその触手をグラーバは……。


「ふん!」


 殴り飛ばした。

 マンジェニの触手が、大きく真上へ跳ね上がった。

 グラーバの移動は尚も止まらず、中国の大地を突き進んでゆく。


「ほう……やるじゃねえかあの牛野郎!」


 触手を殴られた反動で少し揺れたコックピットの中で、田崎が口角を上げた。


「それじゃあこっちも派手に行くかぁ!」


 マンジェニが咆哮を上げ、再び数本の触手をグラーバへ差し向けた。


「ガハハ、何本来ても同じじゃあ!」


 今度は左右の地面から一本ずつ触手がグラーバへ迫った。

 触手が大地を通るたびにその上や下にあった生命が塵へと還ってゆく。


「どっせい!」


 巨大な針の様に尖った触手が同時にグラーバに迫る。

 だが彼は掛け声と共にその左右から来た触手を片手で一本ずつ掴むと、それを地面に叩きつけた。


「やるな」


「ガハハハ、ゆくぞぉ人類!」


 霊力の籠った万物を塵へと還す触手を掴み、両腕から煙を噴き出しながらグラーバは尚も笑いながら触手を叩きつけた反動で真上へ上昇していく。


「へっ、そうは問屋が卸さねえ、雑魚ども!」


 飛び上がったグラーバへ、触手の影からマンジェニの眷属達が無数に襲い掛かった。

 つい先日、ロシアを飛んでいた凶鳥と戦った時の様に空を埋め尽くさんとする数がグラーバへ飛び掛かっていく。

  

「ぬぅぐぉっ……!」


 飛び上がった先に突然現れた灰色の群れに突っ込んでしまい、群れを突っ切りマンジェニの腰の当たりまで飛び上がった頃には灰色の球の様なものに変わっていた。


「うわ、きもちわる」


 眷属達に包まれた事によって出来た球体を見て、思わず田崎は嫌悪感を示した。

 だが次の瞬間にはその嫌悪感を上回る驚愕の表情を見せる事となった。


「ん……?」


 内部に居るグラーバを押しつぶそうと、徐々に小さくなっていた球体がある一定を境に再び膨らみ始めていた。

 それどころか、球体の所々が膨れ上がっていく。


「おっと、こりゃもしかしてやべえやつかぁ?」


 田崎は追加の眷属を球体に取り付かせ、抑え込もうとするが膨れ上がる勢いは止まらない。

 そして……最終的には球体の頂点部分を巨大な拳が突き破った。


「無駄無駄無駄無駄無駄無駄ぁぁぁ! ガーッハッハッハッハッハ!」


 拳は天井部分を突き破るや否や、即座に腕を引っ込めると球体の各所に無数に拳を突き出し球体を破壊した。


「あ~……めんどくせ、やっぱ霊力の供給源を断たないとダメか」


「そういうこと……だっ!」


 球体から出たグラーバは右腕だけが異常に肥大化していた。

 彼は落下し始めていた体を、空気を蹴ることによって再び上昇させながらマンジェニの顔面まで迫った。


「よぉ、牛野郎……元気か?」


「ガハハハ、貧弱な人間め! 今すぐその殻を引き剥がしてくれる!」


「そりゃどうも!」


 グラーバは腕を振りかぶり、遅れながらマンジェニも拳を振りかぶった。

 振りかぶっている最中、グラーバの腕は更に肥大化を続け……拳を放つ頃にはマンジェニの頭部とほぼ同じサイズになっていた。


「ちっ、はええ!」


 マンジェニの拳が届くよりも早く、グラーバの異常肥大した右腕がマンジェニの顔面を直撃した。

 その天を貫くほどの巨体が後ろへ大きく倒れていく。

 途中、振りかぶっていたマンジェニの腕が先に地面へ落下し巨大な土煙を上げた。


「くそったれ、やるじゃねえか!」


 壊れるという概念が存在しないマンジェニとは言え、一定の振動や衝撃はコックピットまで到達する。

 田崎はマンジェニが初めて殴り倒されるという事態に多少の狼狽と、大きな愉悦を感じながら神の体勢を立て直そうとしていた。

 だがそれよりも早く、上空から巨大な拳が再び振り下ろされた。


「先ほどの虫どものお返しを食らえぃ!」


 今度は右腕だけでなく、左腕も巨大になっていた。

 その剛腕がリズミカルに倒れたマンジェニの腹部へ振り下ろされ続け、コックピットの中をかなりの衝撃と絶え間ない振動が襲った。

 

「うぉおぉおおおお!?」


「このまま磨り潰してくれるわ!」


 激しい連打にマンジェニは打ち付けられながらもその巨大な四本の腕でグラーバを無理やり叩き潰そうとする。

 四つの手が完全に包み込んだかに思えたが、直ぐにそれらは暴力の嵐によって吹き飛ばされた。


「さぁ、仕舞いじゃ!」


 起き上がろうとしていた頭部を再び両手で殴りつけると、グラーバは肥大化していた腕を元に戻しマンジェニの胸部へと降り立った。

 白亜の陶磁器の様に澄んだ白の平原の上で、赤い筋肉を持ったミノタウロスは元から存在していた神の隙間に腕を突き入れた。

 グラーバはマンジェニの装甲を引き剥がそうと両手に力を入れ、筋肉を隆起させる。


「ほぉ……中々固いのう……だが!」


 マンジェニの白亜の装甲が徐々に持ち上がり、軋んだ音を立てる。

 そうして、ゆっくりと装甲が持ち上がり内部に格納されていたコックピットらしき球体が姿を現した。


「おっ、やべ」


「ガハハ、これで決まりじゃ!」


「と思うじゃん?」


 コックピットへ狙いを定めていたグラーバが、突然膝を地面に付いた。


「むぅ……!? ち、力が抜ける……!」


「ワハハハハ、掛かったなアホが!」


「おのれ人間、何をしたぁ!」


「さっき言っただろ、お前の力の源を潰させてもらった」


 そう言って、田崎はマンジェニの巨大な腕でグラーバを摘まみ上げると天高く掲げた。


「お前の視力なら見えるんじゃねえか? お前の居たオーストラリアがどうなってるか」


 最早腕を払いのける力すら残っていないほど急速に失われていく霊力を感じながら、グラーバはマンジェニの手の先でオーストラリアを見た。

 其処には無数の巨大な触手が生え……生命が一つも残らないオーストラリアであった土地が存在していた。


「な、なん……だ……と……人間、貴様ぁ!」


「正面で勝てない相手なら搦め手で潰すのは当然だろうが、千年間戦う相手が居なくてボケちまったか?」


「今すぐ殺してや────」


 その先の言葉をグラーバは紡げなかった。

 激昂した彼を内包したまま、神の手は閉じられ──手が開かれたときには少量の塵が風の中に舞った。


「さて、これでまたイーブンだな」


 田崎とマンジェニは、口角を上げて笑った。




GW目前なので初投稿です

GW中に全部書き上げて投稿しちゃおうかなーとか思ってるが本当にできるのかわからんがやってみる価値ありますぜ!!



Devastation / 壊滅 (5)(赤)(赤)

ソーサリー

すべてのクリーチャーとすべての土地を破壊する。


「マンジェニが正面から勝てない相手は居ないが絶対はない、そういう時はこれだ」

────山坂作成の非常用マニュアルにある一文

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― 新着の感想 ―
[一言] 牛は一瞬で消えてしまいましたね。もう少し活躍すると思ってたのですが…。残念
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