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人類ガバガバ保護記   作者: にっしー
ロシア編
192/207

満足したら

https://www.youtube.com/watch?v=98Qz_KA7E30

夢想曲(Traumerei) - 「ペルソナ4」オリジナル・サウンドトラック

MD215年 11/22 17:58


 荒涼とした風が吹いていた。

 ロシアの大地からは先ほどまで燃え盛っていた炎は姿を消し、燃えがらすら残らぬ塵の砂漠となっていた。


「ぶはっ! み、皆無事か!?」


 そんなロシアの国境から数キロ離れた丘の上で、芽衣子は地面の中から顔を出した。

 砂まみれの顔で周囲の地面を手で掘り起こしながら、自らを助けた仲間達へ呼びかける。


「ターモ、虎牙! 何処じゃ二人とも!」


 彼女の呼びかけに答えは無く、沈黙のみが答えを返した。

 芽衣子は続けて、周囲の霊力反応を探るがそれもまた沈黙を返すのみだった。


「そんな馬鹿な……い、一体何が起こったんじゃ」


 掘り起こす手を止め、芽衣子は周囲を見渡し……先ほど彼女達が逃げてきた地点の更に向こう側。

 本来なら山があった筈の、その更に向こう側にそれを見つけた。


「あれは…………さっきの化け物か」


 芽衣子の視線の先には、砂漠と化した大地の上で佇む飢餓の神の姿があった。

 その隣には、先ほどまで世界を焼き尽くそうとしていた巨大な炎の鳥は存在しなかった。

 ただ、神の足元に転がる小さな山脈の様な死体に神の眷属が群がっているのだけが芽衣子には見えた。

 眷属は蟲が死肉に集る様に凶鳥の死体へ集い、それを徐々に白化させていった。

 更に一部の眷属は四方八方に散り、ロシアの大地を蹂躙せんとしていた。


「……儂らは、あれに勝てるのか?」


 圧巻だった。

 一時は正しく世界を燃やさんとし、山すら溶かした凶鳥ですら田崎が連れてきた怪物によって葬られてしまった。

 そして怪物から遠く離れた場所にすら被害を及ぼせる存在に対して、芽衣子からぽつりとそんな言葉が零れた。

 田崎はかつて、彼女に対してこう言った。

 強い奴が正しいと。


「奴の言い分を認めたくは無いが、これは……」


 その言い分を、彼女は認めかけていた。

 それ程に今の景色は圧倒的であり、圧巻だった。

 巨大な山脈よりも大きい死なない怪物と、死んだ者が敵となるシステム。

 戦えば戦うだけ味方は減り、敵は増え、生活の基礎となる土地が死んでゆく。

 今の芽衣子に、マンジェニをどうにかする手立ては何も思いつかなかった。

 

「むっ! ま、また揺れが……!」


 絶望に覆われつつあった彼女を、再び地震が襲った。

 マンジェニと凶鳥の戦いが始まってから起きていた小規模な地震は徐々に大きさを増し、今では立っていられないほどの揺れを引き起こす程となっていた。

 地震で塵が積み重なっただけの丘は崩れ始め、芽衣子もまた地面に腰を打ち付けた。


「あいったぁ! お、おのれ……ってこ、これはまずい!」


 地震によって発生した地割れに、彼女はそのまま飲み込まれていった


────────────────────────────────────────


「はっ、勝負あったな!」


 地面に仰向けに倒れた状態で、田崎は叫んだ。

 彼の隣には同じく、倒れた状態のイボンコが居た。

 黒色のボディは見た目の上では損傷は見えなかったが、その内部に格納されているイボンコ本体は死にかけていた。


「まさか……リング外からの乱入があるとは思いませんでしたよ」


 オレンジ色の溶液に使った円筒ケースの中で、脳みそはごぽりと大きな泡を出した。


「一人で戦うと言ったつもりは無いんでね」


「全く、なんと度し難い、生き物なのデスか……人類とは」


「そうだな、人類は度し難い生き物だ。 同族で殺しあうし、騙しあうし、奪い合う……魔族の様に互いの事を慮れない浅はかな生き物なんだよ」


「それを理解していながら……何故人類を守護しようと言うのデス?」


「そいつぁ簡単なこった」


 田崎は鈍色の空を見ながら言った。


「人類が魔族に負けっぱなしってのが気に入らねえのさ」


「それはまた何とも……度し難い理由デス」


「気に入ったか?」


「いいえ、全然」


「そりゃ残念だ」


 カカカと、田崎は乾いた声で笑った。


「デスが……認めましょう、このミーの願いを打ち砕いたその……度し難い、下らぬ理由を」


「そうかい」


「あぁ……何と悔しく……そして、心地、良い……き、ぶ、ん────」


 再び、イボンコの本体である脳みそが収まっているケースの中で一際大きな泡が生まれ、弾けた。

 それ以降、彼が動くことは二度と無かった。


「やっと、終わったか」


 田崎もそう呟くと、ゆっくりと立ち上がろうとする。

 だがマンジェニの広域浄化兵器によって、殆ど全ての機能を浄化された義体が動くことは無かった。


「発声機能とモニターだけで限界か、よく耐えたと言うべきなんだろうがよ」


 再び、隣で機能を停止しているイボンコの体を見る。

 元々は銀色の塗装をされていたが、凶鳥の熱量によって塗装が剥げ落ち真っ黒なボディを地面に横たえていた。


「レイジ、すまなかったな」


 かつて田崎が作成した自我を持ったロボット。

 人間を助け、また自らの意思で思考し、試行する新たな人類の友達となる筈だったロボットを見ながら、田崎は悲しげに謝罪した。


「お前は最終戦争後も一人で頑張っていたんだな……後で労ってやらねえとな」


 戦前の残滓を見ながら、田崎は次にマンジェニの方へと目を向けた。

 飢餓の神は次の命令を待つように地平線の方を向きながら佇んでいた。


「とりあえずロシアは終わったし、また中国に送り返すか……」


 田崎は面倒くさそうにそう呟くと、一度瞬きをし……目を疑った。


「あ?」


 彼の視界からマンジェニの姿が消えていた。


「あぁ!? 何処いった? なんだ、なんだぁ!?」


 珍しく狼狽える田崎は、マンジェニが消えた事と同時に再び地震が起きている事に気が付いた。


「だぁ、くそっ! 体が動かないってのに……!」


 更にマンジェニが土地の霊力を吸い取った影響で、地震によって地割れが発生し始めた。


「くそ、レイジと俺の回収が間に合わない……なんだってんだ!」


 ゆっくりと地割れがレイジに迫り、地の底へと飲み込まれていく。

 田崎もまた、ゆっくりと地割れに飲み込まれていった。

 その最中で……田崎は龍の咆哮を聞くのだった。


久しぶりに連続で更新したので初投稿です

いや毎回やれよって話ではあるが!来週は仕事の関係で無理でござる


ちょっと月曜から色々ありすぎたのでもうあとがきを書く気力がないから、また再来週!頑張れれば今週!

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