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人類ガバガバ保護記   作者: にっしー
ロシア編
189/207

間に合ったら

MD215年 11/22 17:15


 メキメキと凶鳥の皮膚を覆っていた金属が剥がれていく。

 彼の燃えカスの様だった骨子が、へし折れながらロシアの大地へと墜落していく。

 燃えがらが地面に落下するたびに、大地の下では火災が巻き起こった。


「おーおー、すげえなこりゃ」


 田崎は満足そうに、低速で飛行するドラゴンの上で下界を見下ろしていた。

 彼にとって今の時間は大いなる破壊の余韻を楽しむ時間である。


「まさか本当に凶鳥を墜とす日が来るとはな……約定を違えなかったとは、人間にしてはよくやった」


「どうよ、田崎様は凄いだろう」


「さあな……」


 ドラゴンは頭部に備わった巨大な半円のレンズを光らせながら、堕ち行く凶鳥を眺めていた。


「斬ったのは拙者でござるけどね!」


 ドラゴンと田崎の会話を聞いていた虎牙が割り込み、自らの功績をアピールする。

 

「そうだな、実際すげぇよお前は」


「ふっ、またつまらぬものを斬ってしまったでござるな……」


「「ワハハハハハ!!」


 男二人は大声で笑いあうと、互いに肩を組む。

 そんな二人の後ろでターモに抱き着きながら芽衣子は呆れと恐ろしさが入り混じった顔で呟く。


「え、なんであやつらはドラゴンの上でおくびもなく笑えるんじゃが…………?」


「ウ、ターモ、モ、ワラウ?」


「いかんいかん、馬鹿が移るからターモは笑わなくても良いんじゃ」


 口の両端を指で吊り上げるターモを制止すると、芽衣子は再び凶鳥へと目を向けた。


「しかしこれからどうするんじゃ? あの大きさの燃える鳥が丸ごと大地に落下したら大惨事じゃが」


「確かに、斬れと言われたから斬ったがその後の事は考えてござらんかった」


 虎牙と芽衣子、二人の視線が田崎へ向かった。


「地上のことなど知らん、元から下の連中は殺すつもりだったしな」


「おぬし、それは……!」


「今更文句は無しだ、お前らも地上に居た時に天使とやりあってただろ! それにな、すぐに文句も言ってられなくなる」


「どういうことでござるか?」


「汝、まさか──!」


 首を傾げる虎牙。

 そんな中で彼らを乗せているヴァラだけが何かを察したように鋭い声色を発した。


「そういうことだ、あれはまだ死んでない。 というよりさっきぶった切ったせいでまず間違いなく目覚める」


「この大馬鹿者め、余との約定を違えるつもりか」


 竜の女王、ヴァラは口から火を噴きだしながら怒気を籠めた言葉を発した。

 その怒気に空気が震え、芽衣子はより一層身を縮こまらせた。


「忘れてなんかいねぇ、ただターモを助けるにはこうするしかなかったんだ」


 田崎は腕を組みながら、芽衣子に抱き着かれているターモを一瞥した。


「ふん、ではこの後はどうするつもりだ? あれが完全に地上に墜落すれば、復活の爆発が起き余達諸共この大地を吹き飛ばすだろう」


「目覚める事に関してはもう防ぎようがない、だが復活した後に関してはきっちり始末は付けてやる」


 田崎は若干目を細め、墜落していく凶鳥を見た。

 その後、彼は南西を右手でヴァラへ指し示す。


「まずは南西に向かいながら凶鳥の爆発圏外まで出てくれ、そのあとは俺がやる」


「戯言を」


「俺はやると言った事はやり遂げてきた、今回もそうする」


 それに、と田崎は付け加えた。


「このままここでゆっくりしていて死ぬのはお前も本望じゃないだろう」


「生意気な────振り落とされても余は関知せぬぞ」


 ヴァラは翼をはためかせると、自らと繋がっているエンジンを吹かした。

 紅の女王はロシアの大地を夕日を背に、淡麗と飛翔した。

 南西に居る巨人に向かって。


「し、死ぬかと思った……いや、儂は何回か死んでおったか…………?」


 彼らが再び口を開いたのはヴァラが速度を落とし、ロシアとモンゴルの境目を作る巨大な山脈の上空に差し掛かった頃だった。

 

「拙者も皮膚が千切れるかと……」


「ウ、ターモ、ガンバッタ」


「うむ、ターモが居なかったら本当にロシアの大地へ真っ逆さまじゃった……」


 芽衣子はターモに抱き着きながら頭を何度も撫で、ターモは不思議そうな、だが心地よさそうな表情を浮かべながらそれを享受していた。


「それで?」


「あん?」


「汝の切り札とやらは何処にあるのだ?」


 ヴァラは頭部に付いた目の代わりのレンズを仕切りに輝かせながら、田崎へ訪ねた。


「あー……もうちょい南だな、ここから南に30キロも行けば見える筈だ」


「30キロ? まだ余を足に使うつもりか小僧、単に手が無く法螺を吹いているのではないだろうな」


「お前のセンサーは節穴かよってそうか、そういや霊力が高まりすぎてるとセンサーは殆ど使い物にならないんだったな、こりゃ悪かった、はっはっは」


「不遜だな」


「は?」


 突如、ヴァラは自らの体を反転させた。

 ヴァラの体の上に載っていた田崎達は、突然のことに何処かに捕まる間もなく地面に向けて落下していった。


「マジか!?」


「のわああああああ!?」


「なんとぉ!?」


「ウ……ツギハ、オチル?」


 四名は口々に叫びながら、地上へ落下していく。

 その様子を竜は冷ややかな視線を向けながら、ただ見ているだけだった。


「馬鹿者馬鹿者馬鹿者馬鹿者おおお! お主が不敬な態度を取るから怒って落とされたではないかあああ!」


「ちょっと煽っただけじゃねえかよ!」


「いやぁそれが余計だったのではないでござるかぁ?」


「「「ぎゃああああああーーー!」」」


 四人は勢いよく落下しながら、地上に高々と生えていた木の枝を何十本もへし折りながら地上へ落下した。


「きょ、今日だけで一体何回儂は死ぬような目にあっとるんじゃ……」


「ウ、タノシイ、モウイッカイ!」


「流石にもう一度は拙者でも死ぬかもしれんので、ご免被るでござるな……」


 虎牙をクッションにして芽衣子、ターモは幾つかの擦り傷を負いながらも無事落下した。

 その隣で田崎はどざえもん状態で地上に落下していた。


「ぶはははは、阿呆が一人埋まっておるわ!」


「流石に同情の余地がないでござるな……」


「ウ、タス、ケル」


 芽衣子はそれを笑い、虎牙は納得した表情で頷き、ターモだけが地面を掘り返そうとしていた。

 そんな折、彼らの後方で爆発が起きた。

 

「今度はなんじゃ!?」


 振り返った芽衣子は、その熱風と火球の大きさに言葉を失った。

 ロシアとモンゴルの国境は高い山が遮っており、彼らはモンゴル側にある山の麓へ落下した。

 その山を大きく超え、夜になろうとしていた空を煌々と巨大な火球が照らしていた。


「巨大な爆発……女王がさっき言っておったが、まさか本当に復活しおったのか!?」


 火球は周囲の物を吸い寄せるように一瞬強く吸い込み、後に更なる突風が大地を襲った。

 その余波は火球から遠く離れた場所に居る芽衣子達をも襲い、彼らを吹き飛ばした。


「今日は吹っ飛んだり吹っ飛ばされたり落ちたり最悪じゃーー!」


「ワハハハ! 拙者ももう笑うしかないでござるな!」


「なんでいきなり吹っ飛んでるんだ俺はー!?」


「タノシイ、タノシイ!」


 地面を何度も転がり、土に塗れた状態で彼らはゆっくりと体を起こし……それを見た。

 燦々と煌めく、燃え盛る炎の鳥を。


「KAAAAAAAAAAA!」


 かろうじて聞こえた、空を引き裂く声に大地が震えた。


「ど、どどどどどうすんじゃあんなもん!? こっから見ても巨大に見える火の鳥なんてど、どこに逃げたら良いんじゃ!?」


 腰を抜かしながら、芽衣子が叫んだ。


「流石にあれ相手には拙者も気障な台詞は吐けんでござるなぁ」


 虎牙が、息を呑んだ。


「ウ?」


 ターモがただ、不思議そうな目でそれを見つめていた。


「逃げる必要は無い」


 田崎が、そう答えた。


「急がせた甲斐があったらしい」


 そう言って、ターモが見つめるそれを見上げた。

 大地を震わせ。

 無数の触手を足とし。

 中国の大地を蹂躙した、無貌の神を。


「マンジェニ────!」




令和2年なので初初投稿です

すまない…PCが物理的に年末死んでいたんだ…一年でSSD死ぬとか早すぎない?

因みに今月末はグランプリ名古屋に行くので更新は無いゾ!

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