太陽を見つけたら
https://www.youtube.com/watch?v=GbrGY1P_xrU
箱舟
MD215年 11/22 16:30
「SYAAAA……」
田崎がイボンコに協力を求められる少し前……。
金属で覆われた通路の中を、蛇特有の低い唸るような声が響いた。
武装したナーガ兵達は舌を口から出してチロチロと動かしながら周囲を探り、何も居ないことを確認すると通路の奥へと消えていった。
「ほっ、何とかなったの」
ナーガ兵達が通り過ぎていくのを確認すると、金属の壁と同化していた和服のナーガが現れた。
札幌の市長を務め、今回田崎によって無理やりロシアに連れてこられたアルビノナーガ、芽衣子である。
芽衣子はゆっくりと壁の中から液体の様に現れると、周囲を注意深く伺った。
「……技術や技量は同じでも知識や知能レベルはそれ程でもないか、寂しい話じゃ」
芽衣子はそう悲しげに呟くと、兵士たちが去っていった逆方向の壁に向けて右手を鳴らした。
彼女が指を鳴らすと、壁面からもう一人の男が液体の様に壁からするりと現れた。
「うーむ、強化の魔術なら兎も角こういう小細工みたいな術はやはり拙者は好きではないでござるな」
壁と同化していた自らの体を触りながら、その侍は不平を漏らした。
「儂の話聞いおったか虎牙、無策で暴れてもターモの居場所を探るのが遅れるだけじゃ」
「うむ、うむ……いやそうでござるけども」
「全く……お主からも何とか言ってやらんか」
と言うと、芽衣子は自らの肩に乗っていた小型の蟻型ロボットを指先で小突く。
「悪いが上の戦闘で忙しくて手一杯だ、だからターモ救出をお前等に頼んでるんだろう」
「引き受けないと連れて帰らないという点さえ無ければ儂等も気持ちよく引き受けるんじゃがなぁ」
「折角捕まってたのを助けてやったんだ、いいからやる事やってくれ。 俺は戦いながらジャミングを掛けてあいつにバレない様にするのは結構手間なんだよ」
「じゃとさ」
「仕方ない、暴れるのはもう少し我慢するでござるか」
田崎の言葉に二人は顔を見合わせると頷き合った。
「しかし救出と言ってもこの広い鳥の内部をどうやって探すのでござるか?」
「其処に関しては問題ない、田崎が見取り図を手に入れておる。 こ奴の案内に従っていけばたどり着けるじゃろう」
「成程、では早速先ほどの魔術で壁をすり抜けてゆくとしようではないか芽衣子殿」
「うむ、エンリコから逃げるために覚えておいた透過の魔術が役に立つときが来て儂ラッキー」
札幌に残してきた自身の秘書の事を思い出しながら、芽衣子は指を鳴らし自身と虎牙に透過の魔術を行使する。
二人の体は徐々に透明になり、芽衣子は完全に体が透明になるのを確認すると目の前の壁に手を触れた。
手は壁に水に溶け込むかのようにズブリと入り、芽衣子はそのままゆっくりと体を前に進めていく。
「さ、行くぞい虎牙。 透過も時間で掛けなおしが必要じゃからな、さっさと終わらせるとしよう」
「承知!」
先に進んでいく芽衣子に続き、虎牙も壁の中へと侵入していく。
泥の中を進むようなゆっくりとした動きで、先の様子を確認しながら二人は進み……目的の場所へと辿り着いた。
「むっ」
壁の先に敵が居ないか顔を出した芽衣子は、その先の光景を見て声を出した。
広大な室内が広がっていた。
室内の最奥には巨大な炉の様なものがあり、炉から壁面や天井、地面を伝ってケーブルが至る所に伸びていた。
「ふぅむ、此処が目的地というかの?」
その問いに頷く様に芽衣子の肩に乗っていた蟻型ロボットが飛び上がり、室内の奥へと進んでいく。
「返事をしてる暇も無い、か。 やれやれじゃのう」
我先にと進んでいく蟻を眺めながら、芽衣子は壁から抜け出すと今通ってきた壁を左手で軽く数回叩き呼び出す。
「虎牙~出てきて大丈夫じゃぞ~」
「やっとでござるかぁ? っておぉ……此処までにも色々な場所をすり抜けてきたでござるがこれまた異様な光景にござるな」
虎牙は壁から出て直ぐ足元にあるケーブルを足で突く。
ゴムで出来ているのか、柔らかい弾力が彼の足を突き返した。
「これ、中に何入ってるのでござろうか」
「さあのう? そいつはきっと奥まで行けば分かるじゃろ」
そう言うと、芽衣子は大量に足元を埋め尽くすケーブルの上を進んでいく。
「うぅむ」
足元のケーブルを見下ろしていた虎牙も、少し唸ると彼女に続いた。
蟻が飛んで行った方向に向かって進む度に、彼女達の進行を遮るケーブルの数は増えていった。
また近づいていく度に部屋全体の熱量も上がっていき、終着点に着いた時二人の体は自らの汗でびしょぬれだった。
「あ、あ、暑くて死ぬかもしれん……まだ到着せんのかぁ?」
「異様な暑さでござるな……いや、しかしどうやら到着した様でござるぞ」
暑さで脱水症状を起こし、ぐったりする芽衣子を背負いながら虎牙はケーブルの森を抜けた先にあった巨大な炉を見上げた。
壁面の中央下部に巨大な扉の様なものが備え付けられており、内部からはゴウゴウと炎の燃える音が聞こえていた。
扉の側面からは巨大なケーブルが何本も飛び出しており、それらは部屋の外へと幾重に分岐しながら繋がっていた。
「随分でかい炉にござるな、暖を取るのが目的ではないとは思うでござるが……」
「この炉は兎も角、此処の何処にターモが居るんじゃ? さ、さっさと外に出ないと乾燥して儂は死ぬ……」
しわがれた声で話す芽衣子の眼前に、蟻型ロボットが彼女の眼前に再び現れた。
蟻はそのまま炉の入り口へ何度も体当たりをし、内部へ入ろうとする。
「…………え、あの中なんじゃが? いやいや無理無理無理儂死ぬんじゃが」
「しかしこの先をあれは示しているでござるが?」
「炉の扉が空いていないのにこの暑さで死にかけてるんじゃが? 儂に死ねと言うんじゃが?」
「なあに心頭滅却すれば火もまた涼しというではござらんか!」
そう言って、虎牙は腰にある二刀を鞘から抜き放った。
「よ、よさんか虎牙……!」
「大丈夫でござる! 何とかなる気がする!」
芽衣子を背負った状態で、虎牙は器用に炉の入り口を切り刻み……二人は炎に包まれ────なかった。
「よ、よせ………! ってあれ?」
「おぉ、炎を切るのは習得していたでござるがその必要は無かったみたいでござるな」
「び、びびらせよって……とりあえず先に進むぞ」
「うむうむ、ではいざ行かん!」
人一人分が通れるように丸く開かれた炉の中へ二人は進んでいく。
炉の内部は外部に比べて思いの外涼しく、芽衣子はほっと息を吐いたが次の瞬間に大きく息を止めることとなった。
「ふぅ……さっきよりは涼しくなっ──!?」
「ほう、これは──」
炉の中心部には、巨大な心臓が脈打っていた。
その燃える星の様な輝きを見せる心臓が燃えるたびに炎が上がり、それは心臓の下に吸い込まれていった。
心臓を見た時、二人は巨大さに気圧されて……数分の間二人は言葉を忘れていた。
「……美しいのう」
「太陽というのは、間近で見るとこういった物なのかもしれんでござるな」
「うむ……っていかんいかん、ターモを探すのが儂等の役目じゃった」
「ターモにござるか? それなら……」
と虎牙は心臓の真下を指差した。
芽衣子はゆっくり顔を心臓の下へ向け、それを見た。
其処には心臓から燃え立つ炎を一生懸命吸い込み、美味そうに食べるターモが居た。
二週間は風邪を引いて二週間はP5Rをやっていたので事実上初投稿です。
すまない…でもP5R超楽しかったぜ!




