境界を越えて/Beyond the Bounds
https://www.youtube.com/watch?v=Niruwh4UwS8
Beyond the Bounds
MD215年 11/22 14:17
「昔話、じゃと?」
「イェス、あなたの疑問もこれを聞いている間に解決するでしょう」
「…………ふん、ならば少しの間聞いてやるかの」
小舟の上で、波に揺られながら芽衣子は腕を組んだ。
その視線は真横に配置されている同族が入った円筒を順番に見つめている。
そんな景色を塗り替えるように、彼女の視界全てが変わった。
「魔族が生まれるずっと前……この世界には魔族の前身である人類が満ち溢れていました」
芽衣子を中心に世界が変わっていく、水面は草となり、壁面には木々が生い茂った。
「むっ、これは──」
「人類は地球に居る他の生命よりも賢くなり、あらゆるエネルギーに導かれその文明を発達させ……そして最後にとあるエネルギーを発見したのです」
場面が切り替わり、木々の中を掻き分けた先に一人の女性が立っていた。
女性は体の周囲に五色の気体の様な物を漂わせていた。
「そう、後に霊力と呼ばれるエネルギーを人類は発見しました」
「……霊力」
「ほぼ永久的に使えるエネルギーを発見した人類はあらゆる禁忌を犯しました、社会情勢が不安定だった事もありますが、何より霊力の使い道の多さが彼らに道を誤らせました」
「誤らせた? なんじゃ、もしかして変なことに使って自滅でもしたのかの?」
「当たらずとも遠からず、と言ったところです」
再び場面が切り替わる。
今度は発電所で働いていた作業員が、体を抑えて蹲っている所だ。
「あ奴は?」
「人類で初めて魔族になった男ですよ」
「魔族に、なった?」
「はい、人類は霊力をエネルギー源として使用していましたがある副作用に気づきませんでした」
蹲っていた男は体を掻きむしると地面に倒れ込み、悶え苦しみながら絶叫を上げた。
「お、おい! あ奴は大丈夫なのか!?」
「落ち着いてください、単なる再現映像でーす、それに……彼にとってはむしろ喜ばしい痛みなのですよこれは」
「喜ばしい、痛み?」
疑問の表情を浮かべる芽衣子に対して、答えはすぐさま現れた。
絶叫を上げた男はそのままうつ伏せに倒れ込んだが、次の瞬間に変化が始まっていた。
男の背中部分が盛り上がると、服を突き破って黄金色の蛇の胴体が現れた。
「そう、彼は長い事霊力の近くで働きすぎて魔族になったのです、これはその瞬間ですよ」
「魔族へと変ずる……? しかし、儂の近くに居る連中はそんなことは一切無いんじゃが?」
「ハハハ、それは今の時代の人類と昔の人類が違うからでーす、今の時代の人類は既に魔族の様な物なのですよ、だから変じない」
ですが、とイボンコは其処で付け加えた。
「昔の彼らは違う、彼の変成を切欠に世界中で魔族になっていく人類が増えていきました」
映像が変わり、世界中に誕生したあらゆる魔族のシルエットが映し出された。
日本は妖怪の様な姿になった魔族、海外では伝承や神話にあるような悪魔や天使の姿へと変じた者たちが現れていた。
「彼らは当初人類として変わらぬ生活を送ろうとしましたが、その姿や魔族になった事によって得た能力によって迫害されていき、そして……」
「人類と敵対した」
「イェス、色々と紆余曲折がありましたが、彼らは最終的に独立を図りました。 結果的にそれは成功しましたが……団結した魔族を恐れた人類はそれを良しとしませんでした」
「そして、結果として人類は滅び、儂等が生き残ったんじゃろ? 古い伝説を教えなおしてくれてありがとうと言うべきかの?」
船の上で、芽衣子は欠伸を噛み殺しながらそう言った。
「そんなお主以外誰でも聞いたことのある様な話を儂に聞かせるために時間を割いたのかの?」
「ノンノン、ここまでは前段、むしろここからが本段なのです」
「む? なんじゃ、まだ続くのか」
「はい、それは当然、終点までまだ半分程度ですよぉ~」
芽衣子はうんざりした顔をしながら、体の凝りをほぐした。
「さて、最終戦争後、人類はあなたと一緒に居た三名と他に千名を残し滅亡しました、魔族の勝利です、やりましたね」
「…………随分と嫌味な言い方じゃな」
「一応ミーは人類に作られた側ですから、多少は嫌味も混ざるでしょう」
「つまり、お主もあの田崎や他の二人と同類ということかの」
「ノンノン、それはありません、彼らの目的と私の目的は違うのです」
イボンコの笑い声と共に景色が変わった。
先ほどまでの文明が映っていた景色から、今度は戦争直後、魔族同士が争う世界へと。
「これは……戦場か?」
「イェス、人類との戦争が終わった直後、魔族は世界に顕在する大陸を支配する為に互いに戦い合いました」
「戦い合った? そんな馬鹿な、儂の知っとる歴史では……」
「手を互いに取りあった、と教わりましたか? しかし実際、暫くの間彼らは長老級と呼ばれる存在に従って互いに人口を減らし合いました」
「長老級……まさか、トウキョウに向かっていた時に出たあの……」
「天照」
最終戦争が終わった後、日本を治めていた長老級の魔族を芽衣子は思い出していた。
「彼女もその一人です」
「やはりあ奴もか!」
「もっとも積極的に参加しようとはしませんでしたがね、長老級の戦いはおよそ百年続きました、それも最終的には二者の戦いが五十年近く続いたのです」
「は? 五十年? 五十年もタイマンで戦い続けたんじゃが?」
「イェス、それも世界の環境を狂わせ続けながらです、このロシアがこんな土地になったのもその二者のせいなのデス」
映像が切り替わり、五色の球を周囲に浮かせた黄金の龍と山の様な大きさの火の鳥が壮絶な戦いを繰り広げていた。
両者は互いの肉を潰し合い、燃やし合う戦いの果てに強大な魔法を互いにぶつけあうと最後には龍は中国、鳥はロシアの大地へと落下していった。
「両者の激しい戦いの後、長老級は一人による世界の支配を諦め、長老一人一人による統治へと切り替わったわけです」
「…………そんな、ことがあったのか。 じゃが、その話が今とどう繋がるんじゃ」
「それが大いに繋がるのデスよ」
「?」
「ミーは限られたリソースで今に至るまで世界のあらゆる出来事を記録し、反芻してきました、自己の存在や魔族、人類についてをずっと思考してきたのデス」
荒廃し、燃え盛る世界が映し出される。
その中で魔族達は手を取り合い、互いに復興を行っていく。
「有史以来人類は様々なエネルギーを手に入れ、文明はその力に導かれ歩んできました」
魔族達は霊力を操り、木々や水、あるいは火、時には時間を操った。
「では、霊力程のエネルギーが導く文明とはなんでしょう?」
「何?」
「私はある結論を出しました、霊力とは進化を促すエネルギーなのだと、人類が魔族に進化したように、魔族は更に高位の存在へと変わるべきなのです」
「お主、何を──」
「しかし世界は不完全であり、蘇るまでには膨大な時間を要します、なので私はこのロシアでまず実験を行うことにしました」
映像がゆっくりと、元の水路へと戻りつつあった。
「失われた技術を再建させ長老級の死骸を凶鳥へと作り替えた後、この国に生まれた部族同士を戦わせることで進化を促す」
「…………」
「進化した部族以外は全て凶鳥で焼き払い、進化した部族は技術で複製し再びロシアの地に放ち、進化を促す、そうやってこの土地は既に四度目のやり直しを行っているのデス!」
芽衣子は、口早に話すイボンコの話を唖然とした顔で聞いていた。
何を言っているのかまるで分らないという表情だ。
「そして……今回が五度目の滅亡の刻なのデス」
水路を抜け、光が差した。
光を右手で遮る芽衣子の目に、銀色の人が見えた。
「ようこそ、凶鳥の司令室、ミーの部屋に」
銀色の体をしたロボットが、そう恭しく頭を下げた。
ヘルニアになったので初投稿です
やべぇよやべぇよ
境界を越えて/Beyond the Bounds 青②
ソーサリー
あなたはカードを三枚引き、その後クリーチャーカードを一枚捨てない場合カードを二枚捨てる
「古い知識は新しい知識に塗り替えられるものである、それは世界も同じ事だ」
────最後のロボット、レイジ




