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人類ガバガバ保護記   作者: にっしー
ロシア編
178/207

瓶詰めの回廊/Bottled Cloister

https://www.youtube.com/watch?v=NJgctGH4-Ng

青の洞窟 作業BGM

MD215年 11/22 11:36


「ん……んん? ここは……儂はどうしてここに」


 芽衣子の目が覚めた時、彼女は木製の家の中だった。

 布団の上で寝ぼけ眼を両手で擦りながら、彼女はゆっくりと上体を起こす。


「それにこの場所、何処となく……覚えが」


 視界に入る何処となく見覚えのある光景に、胸の鼓動が早くなる。

 毛布をはぐると、芽衣子は地面に下半身を下ろし自らの体をチェックした。


「うむ、体も服にも異常は無さそうじゃな。 何も問題は……あっ!」


 体の調子を確かめ、服の細部を確認していた所で芽衣子はあるものが無い事に気づいた。


「イボンコ!? それにターモは!?」


 芽衣子は周囲を探すが日本風の室内には、彼女が眠っていた布団と小さいテーブル以外には何も存在していなかった。

 彼女は部屋の探索を終えると、襖の前に立ち息を飲むと両開きの襖に両手を掛け一気に開いた。


「うっ、まぶしっ!」


 勢いよく襖が開くと、光が芽衣子の目を射した。

 咄嗟に右腕で顔を覆うと、少しの時間が経つと目が慣れてきた。

 その先に光景に、彼女は思わず声を漏らした。


「儂の村──」


 襖を開けた先には、かつて彼女がロシアの地で暮らしていた村が存在していた。

 水の上に木で組まれた家がそこかしこに存在し、住人は皆水上を船で移動する……そんな村だった。


「馬鹿な、儂の村はもう二百年も前に消えたはずじゃ! な、なんじゃ、これは!」


 存在しない筈の村に自分が立っている事が、芽衣子を酷く動揺させた。


「どうしてこんなことに……儂は、つい先ほどまで地上に居て……それで凶鳥に飲み込まれて……?」


 必死に今まで起きた事を思い出し、整理する芽衣子。

 だがどうしても、飲み込まれた後の事が思い出せなかった。


「む、む……いかん、記憶が無い」


 額に手を当て考えるが、やはり思い出せない芽衣子は仕方が無いと考えるのをやめ、村の探索を行うことにした。


「ま、少し探索してみるかの」


 芽衣子は気怠そうに家の前にある階段を下った。

 階段を下った先には家ごとに付属している船着き場があり、小さな船が一隻繋がっていた。


「おぉ、懐かしいのう、昔はよくこれに乗ってリンディスの所へ……」


 船に乗り込み、オールを手に取りながら昔を懐かしむ芽衣子はそこで少し言葉に詰まった。

 リンディス、かつて彼女の親友であった女性。

 彼女は芽衣子の予知を信じず、結果として芽衣子は彼女を見捨てて逃げ出していた。


「…………先を急ぐとするかの」


 大きく溜息を吐くと、彼女は船を船着き場から離した。

 オールを手に船を漕ぎ、川沿いにある家々の間をゆっくりと抜けていく。

 その間芽衣子は家の中を覗き込んで見るが、中には誰も居らず、また生活の跡もなかった。


「うーむ、誰も居らんのう、やはり幻術を見せられているのを疑うべきかの」


 自らが住んでいた頃とまったく同じ村の中をゆっくりと進みながら、芽衣子はそう呟かずには居られなかった。

 それ程誰も居ないのだ。


「手当たり次第に破壊して、何かが起きても困るしのう……どうしたものか──ん?」


 何処かの家に降りて少し家探しでもしてみようかと思った時、芽衣子は川の流れが速くなったことに気づいた。

 オールを用いて脇に小舟を止めようとするが、船はまるで凍り付いたかのように彼女の命令を聞かなかった。


「む、む、な、なんじゃぁ!? 舵が利かん!」


 芽衣子はそのまま何度かオールを使い小舟の向きを変えようとしたが、結局はそのまま流れに身を任せるしかなくなってしまう。


「いきなりなんなんじゃぁ~……ってのわぁぁー!」


 流れに身を任せていると、川が突然途切れた。

 滝になっていたのだ。

 芽衣子は悲鳴を上げながら落下していき……そこでまた少し意識が途切れた。


────────────────────────────────────────


「うぅ~む……あたたた……」


 芽衣子が次に目覚めた時、彼女は小舟の上だった。

 ほの暗い灯りの中を小舟はゆっくりと進んでいく。


「さっきは村の中で、今度は……洞窟の中か何かかの?」


 小舟は天然の洞窟の様な場所をゆっくりと進んでおり、壁面には誰が括りつけたのかご丁寧に松明が等間隔に存在していた。


「ん? ありゃ、なんじゃ……?」


 小舟がゆっくりと進んでいく中、芽衣子は松明が照らす場所に光る何かを見つけた。

 幸いオールは折れておらず、彼女は好奇心が囁くままにその場所へと漕ぎ出し、それを見つけた。


「なんじゃなんじゃ~? 今見えたのは何の照り返しじゃー? 人かー? 魔族かー それと、も────」


 最初の村で目覚めてから恐らく二時間ほどが経過していた現在、芽衣子はすっかり人恋しくなっていた。

 それ故、炎の照り返しに何かの存在を見出していたのだが……そこに存在していた物を見て彼女は絶句した。

 

「何じゃ──これは──」


 それは透明な円筒の中に標本の様に浮かぶナーガ達だった。

 ナーガ達は見世物の様に、等間隔で並べられ円筒にはネームプレートの様な物が設置されていた。


「同族を見世物の様に……! こんなもの!」


 それを見た芽衣子は嫌悪感を露わにし、オールを持つ右手に霊力を集中させそれを浮かび上がらせる。

 掌と同じ角度で平行に浮かび上がったオールは、高速で独楽の様に横回転を始める。


「とぉりゃぁ!」


 芽衣子はそれをアンダースローで円筒に向け、放る。

 オールは高速で回転しながら円筒目掛けて飛んでいき……円筒に当たる直前で粉々に砕け散った。


「なんじゃと!」


「ん~、惜しかったですねぇ~、後ほんの少し威力が高ければデンジャーな所でした」


「だ、誰じゃ!!」


 突如、洞窟に声が響いた。

 驚く芽衣子に対して、その声は言葉をつづけた。


「誰とは悲しいですねぇ、先ほどはあんなに必死にミーを抱きしめていてくれたというのに」


「ミー……? まさか、その喋り方は……」


「イェース、ミーですよ、ミー、イボンコです」


「おぉ、無事じゃったかイボンコ! しかしデンジャーとは、どういうことじゃ?」


「言葉通りの意味ですよナーガレディ、その標本を納める箱をデストロイされるのはノーグッド」


「……標本、じゃと?」


 聞き捨てならない言葉に、芽衣子が拳を握った。


「イェス、彼らはネクストジェネレーションの為の礎なのです」


「言ってる意味が分からんのじゃが?」


「では……ミーの居る終点までの間、オールドテールでも語るとしましょう」


 洞窟の中を、小舟がゆっくりと進んでいく。

 芽衣子を乗せながら。

 標本となった同族の間を、ゆっくりと。

 イボンコの声が響く、洞窟の中を……。



丁度いい名前のカードがあったので初投稿です



Bottled Cloister / 瓶詰めの回廊 (4)

アーティファクト

各対戦相手のアップキープの開始時に、あなたの手札のカードをすべて裏向きで追放する。

あなたのアップキープの開始時に、瓶詰めの回廊によって追放された、あなたがオーナーであるすべてのカードをあなたの手札に戻し、その後カードを1枚引く。

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